★前回の簡単あらすじ
学園生活のついでに、森の奥にある霊脈(天然のインフラ)の調査に行けと命令された。
「そんなところまで、ついででは行けない」と反論したら、学園の講義で近くの森で林間合宿するからついでに行けると言われた。戦略級ショタジジイ【剪定侯】と一緒に、林間合宿中に任務を達成しよう!
猪の森。そこは天華軍府立学園から15km北東に進むと広がる森である。国境に比較的近いその森には猪型の魔獣が多く生息しており、個体数が増えすぎることのないよう、この森を狩場とする近隣の集落によって定期的に間引きされている。
森にはゆっくりと日が落ち始めており、夕日が枝葉の隙間から、あちこちの地面に差し込んでいた。
そんな森の中に、カーン! カーン! という小気味よい音がテンポよく響く。
その音の正体は、半裸のユーとメタリックなフルアーマーが槌を振るい、簡易テントの杭を地面に固定する音であった。
そしてそれら魑魅魍魎の側で、桜色の少女が体育座りをしながら『無』の表情でそれを眺めている。
俺は、役立たず……。
――時は半日前に遡る。
『では皆さん。先日配られた資料は確認しましたか?』
妙にテンションの高い教師が、学園内の広場、集会を行うための台に登壇している。
風系統の拡声魔術で増幅された声が、広場に響いていく。
彼女の前には百人以上の一年生が群がって話を聞いていた。
『それでは、これから1年生対象の特別集中講義、林間合宿を執り行いたいと思います!』
『資料にも記載のある通り、この講義を受けた方は、『校舎建て替えに伴う学園閉鎖期間』中、受けることのできない講義分の評価点を得ることができます!』
『その他、この講義単体での単位も得ることができます。お得なので是非参加しましょうね! そもそも「この時間」にここに集まっている時点で、参加するつもり満々でしょうけど』
現在早朝。
ようやく朝日が、地平線から昇る際のあの特徴的な橙色を失い始めた頃合いである。
そうでなくとも、学生などという生き物は常に眠いもの。
当然、集まった学生たちのうちの半数以上は欠伸、瞼を擦る、etc……。とにかく、銘々の眠そうな行動を取っている。
その中には桜色の少女、リィンの姿もあった。
眠い……。こんな時間に起きたのなんて久しぶりだ。初日の出を見に行くんじゃないんだぞ。
ただでさえ防護膜維持して寝てるせいで、睡眠時間に対して体力回復効果が低いのに……。いや、これは自業自得だな。やっぱなし。
ユーも少し眠そうだ。相変わらず目が髪に隠れて見えないが、いつもよりボーッとしてる気がする。
リリアとリリエは意外と平気らしく、むしろ今から行われることのほうが気になっている様子。話を真剣に聞いていた。
まぁ、事前に配布された資料には、大まかなことしか書いてなかったもんな。
実施場所の森の位置、期間、参加要件、単位などは明記されていたものの、肝心の中身の説明が「林間合宿をする。レクリエーションあり。移動しやすい格好で、二日分の服を持参すること」くらいしかなかった。舐めてる??
任務と関係してなかったら絶対行ってなかった自信があるぞ、この講義。
『それではこれから皆さんには、猪の森まで「歩いて」移動してもらいます!』
ザワザワ。ザワザワ。
「なんとなく予想してたけど」「嫌すぎる」「貴族イジメて楽しいか?」「未開を求め、遥かなる旅路……か(顔の半分を片手で隠しながら)」「脚ガクガクなるて」「身体強化ニガテなんだけどなぁ」
実施場所があらかじめ告知されていたためか、ある程度皆予想できていたらしい。それでも驚きが隠せず、どよめきが広がっていく。
うわぁ……。想像してたけどキッツぅ……。
ワタシの任務の場所よりはまだ学園に近いとはいえ、ここから合宿地まで距離にして15kmはある。
歩いて移動するんですか? この人数で? 今から? 荷物背負って?
軍隊の行軍かよ。
…………あっ。ここ一応軍府が設立した学園だった。たしかに軍隊式の教育が含まれていてもおかしくはないかぁ……。
『はい皆さん! お静かに! 今から、この特別講義に同伴していただく特別講師の方々を紹介します!』
はいはい。知ってる。剪定侯(あのショタジジイ)でしょ。のじゃショタのほうがいいかな?
喉乾いたな。水飲もう。
『ネイルさんです! どうぞ!』
『ウス……。』
「ぶふぅ!!」
台に登壇したのは、野性味漂う浅黒い肌に筋骨隆々の、すごく見覚えのある若い男。
戦友のネトリである。
ゲホッゲホッ。えっ? えっ?
聞いてない。
え〜なんで教えてくんなかったんだろ。……あ~、あれ、最近急遽伝えられた、とかな気がする。
なんかすごい緊張してない?
ネトリは目を彷徨わせたのち、目ざとくこちらを発見し、目を合わせてきた。
……………困ってるのはわかるが、今こっち見るな。
『彼には合宿中に行われる戦闘訓練、戦術学習の指導を補佐していただきます!』
『……よろしくっス』
『はい! 次にチェンシーさん! 林間合宿中の皆さんの安全を守ってくださいます!』
『……。(ペコリ)』
黒く大きな山羊のような双角を生やし、武骨な仮面で顔を隠した巨体が丁寧なお辞儀をしながら登壇した。
あ、【禁城綴壁】だ。
あの人喋れないのに講師役で呼んだの……? って思ったけど、安全のためか。まぁあの人の結界で守るなら安心だろう。
『そして最後に、こちらがジェンムさんです! フィールドワーク中の解説や拠点設営の補助をしてくださいます!』
『可愛いガキ共! 儂の話はしっかり聞くんじゃぞ!』
中性的な子供のような姿に、樹のような角。
【剪定侯】か。
名前を聞くのは久々な気がする。
皆基本、コードネームでしか呼びあわないもんなぁ。
あと口が悪い。
『学園外ゲストの方々の紹介は以上です。その他、教師、物資輸送班が複数名同行します! 皆さんは安心して講義を受けてくださいね!』
あとで三人には挨拶しに行こうかな。
それにしても、今から歩きかぁ。俺の場合正確には歩きはしないんだけど。どっちみち面倒なことには変わりない。
『あっ! 重要なことを皆さんにお伝えすることを忘れていました!』
『今回の合宿中、皆さんには四人一組で生活していただきます!』
『で・す・が!! いつもと同じ人たちとばかり絡んでいても面白くないでしょう!!』
……!? めちゃくちゃ嫌な予感がする。
『ですので!! 今回、班メンバー決めにはランダム要素を追加します! ですが。完全にランダムだとさすがに心細いでしょう。今この場で二人一組になってください! その組同士をランダムに組み合わせて、四人一組とします!!』
知らない人と強制共同生活!? 陰キャには荷が重いぞ。
しかも二人組を作ってとか、これまたグロいことを言う。
「おい、リィン。組むぞ」
「あれぇ? いつになく積極的じゃん。どしたの?」
ユーは俺の横から顔を近づけ、声を小さくしてひそひそと話し始めた。
「リリアとリリエは二人一緒の方がいいだろう。普段から、お互い一人だけになると不安そうにしている。数日間離れ離れはまずい気がする」
おおう……。やっぱりユーはいいやつ、というか人をよく見ている。
俺も賛成だ。ずっと姉妹二人で暮らしてきたらしいし、その方が絶対にいいだろう。
「ちゃんと見てるねぇ。おっけい、乗った」
振り返ると、ユーの顔が超至近距離であった。
いつもは髪に隠れている目が見えそうになるが、ぎりぎり見えない。
うおっ! そりゃひそひそ話してるとこに急に横向けばそうなるか。
こちらから見てユーの顔がどアップになったということは、逆もまたしかり。
突然俺の顔が至近距離に来たことで、ユーはアクションゲームのようなきれいなバックステップで
……俺が悪かった。けど何そのポーズ。
「じゃあワタシたちは二人で組むから、リリアとリリエはそっちで組んで。それでいい?」
「え、ええ。なんか、ありがと」「ありがとうございます」
『それでは、二人一組はできましたか~!? では、組ごとにこちらに並んでください!』
「あっ。もう始まるみたい。じゃあ二人とも、頑張ってね~」
二人に向けて手を振る。
せっかく集まったのに、ここでお別れかぁ。
まぁたかだか二日間だし、合宿中にもすぐ会えるだろう。
ーーー
ランダムな班決めは、それぞれの組がクジを引き、同じ番号が出た組同士を結合する形で執り行われた。
そして現在目の前にいる二人が、厳正なる班決めの結果、リィンと同じ班になった二人である。
「よりによって君かぁ……」「…………」
選ばれたのは、ロマン眼鏡のヨウと、知らない女子でした。
知らない女子は、死んだ魚のような目をしている。
なんというか、見ていると吸い込まれそうというか。ハイライトがないというか。
我ながら初対面相手にどんな感想なんだ。という感じだが、許してほしい。
そこまで怖がるのには理由がある。
……ずっと目が合うんだ。
なぜか、しきりにこちらを見てくる。怖い。
眉を顰められた。
何? 何? 俺何かした?? 怖い。
「リィン。この二人はお前の知り合いか……?」
それならお前が会話を主導してくれ、と言わんばかりのユーのパスである。
女性恐怖症以前に、普通に陰キャ側ではあるもんね君。だから俺とつるんでるんだけど。
「うん。片方はね。こっちのメガネ君は学監会の仲間だけど……。あっちの女の子は知らない」
二人だけでこそこそ話していると、対面のヨウがこほん、と咳ばらいをした。
「僕は技術開発科所属、一年のヨウだ。学監会の技術開発科長という役職についている」
「わr――私は魔術理論科のジエである~。以後お見知りおき~」
いぇい。というような感じで、ジエさんは両手ピースをしている。目はガン開きで死んだままだ。
思っているより愉快なコかもしれん。
と思っていたら、俺の方を見てまた顔をしかめた。瞼をぱちぱちとしている。
えぇぇ……。なんだかショック。
でも、この表情に見覚えというか、謎の既視感があるんだよな。
前世の記憶の欠片に、日常動作というか、あるあるみたいな動作があったような気がするというか……。
だめだ。思い出せない。なんとかコミュニケーションをとって理由を聞くしかないか。
……今すぐは心の準備ができないから、また後にしよう。
「……ふ、普通科のユーだ。よろ、しく」
「同じく普通科、リィン。学監会で書記やってま~す。よろしくぅ」
こちらもジエさんに負けないように、なんかそれっぽいポーズをとっておいた。
なんのポーズなのかは自分でもわからないが、とりあえず片方の腕を前に出して、もう片方の手は顔の近くにもっていき、ピースしといた。
ユーは先ほどのジエさんの自己紹介を経て女性恐怖症のスイッチが押されたのか、少ししどろもどろになりながらも自己紹介をやり切っていた。
『は~い!! それでは自己紹介は済みましたか!? それでは、これから移動を始めます! 親睦を深めつつ、しっかりついてきてくださいね!』
教師の声が響く。
移動中に、雑談でもして仲良くなってね。っていうことだろう。
なるほど学生らしい。エネルギーにあふれてて、若いし、きっとすぐに仲良くなるんだろうなぁ。
……俺たちじゃなければな!!
……歩き始めて、はや数十分。
リィンとユー、そしてヨウとジエのグループは、それぞれ二人ずつに分かれて歩いていた!!
※リィン、ユー
「いやそろそろマズイってこれ。変な空気なってるから」
「お前がまず話しかけてくれ。あのヨウとかいうやつとは知り合いなんだろう?」
「いやそうだけど! 下手に知ってる方が気まずいこともあるの! そんなこともわからないなんて、頭ヨワヨワ~(笑)……じゃ、なくて!! ほら、あのジエってコは知らないの。共通の友達って立場が一番態度難しいんだから! しかもあの子なんかワタシのことめちゃくちゃ睨んでくるし! というワケで、完全初対面のユー、お願い!」
「表情がコロコロ変わって面白いなぁ」
「のんきか!! ユーはなんでそんなに話しかけるのが嫌なの!?」
「あの女子の目が怖い。あの死んだ目、婚約者を思い出す……。正直ちょっと吐きそう」
「……お前の元婚約者ヤバくない?」
※ヨウ、ジエ
「二人を露骨に避けてるようだが、どうしたんだ……? 普段の君なら、すぐに話しかけに行きそうだと思ったのだが」
「ちょっとね~……。あのリィンって人、気持ち悪い~」
「……さすがにその言い方はどうかと思うぞ、ジエ。リィン――彼女はたしかに傲岸不遜な態度が目立つし、ぶっちゃけ若干めんどくさいし、どう考えても無理してるだろと思うが、それでも優秀なやつだ」
「その言い方こそ、どうかと思うよ~。あと、別にそういうことじゃない――――上手く見えなくて、気持ち悪い……。」
「……どういうことだ」
「我の
「なるほど、たしかに妙だな。それも後で話題に出してみるか。少し辛いかもしれないが、魔眼を切って話すぞ」
「えぇ~。それすごくだるいよ。魔眼切りたくない。しんどさ的にも、ロマン的にも」
「ロマンは用法用量を守ってこそだぞ。……はぁ。これは先が思いやられるな」
前途多難である。
ーーー
少し時は遡り、リリアとリリエ。
彼女たちもリィンやユーたちの裏で、同様に班決めを終えていた。
目の前には、落ち着いた風貌の女子生徒と、二対四本の黒い翼が背中から生えた男子生徒がいる。
「リリア、リリエ、ね。覚えたわ。私はスイシン。ちなみに、横のコイツの言うことは9割方無視してもらって構わないわ」
「我が名は【混沌の閃雷】
「よ、よろしく」
「カ、カオスさんですね。よろしくお願いします……」
「…………!!!!(笑顔)」
「ほら言わんこっちゃない。これからめちゃくちゃ話しかけてくるわよ」
「あ、それと。さっきの自己紹介が正しければ、あなたたちは平民よね?」
「……?」「…………?」
「――――なら、私の指示に従ってもらうわ。安心して、悪いようにはしないから」
――――彼らはリリアとリリエにとっては、生まれて初めて接する「普通の」貴族であった。
「そうだな! これほどの逸材が平民のまま埋もれるのはもったいない。……はっ!! 我が家の『
「コイツの指示は聞かないようにね。ろくなことにならないわよ」
……いや、少し「変」かもしれない。
二章開始です。
そういえばコメント欄で、ステータスの中の「干渉容量」に関する疑問をもってくださっている方がいましたね。ちょうどこの章で主人公の魔術について深堀りするついでに設定を開示するので、楽しみにお待ちください。
あんまりサブキャラクター増やしすぎてもわけわかんなくなるとは思うのですが、いかんせんある程度新キャラがいないとお話が成立させれない……。まだまだ未熟なので、勉強していきたいですね。まぁメインキャラは一章でだいたい出揃っているのでそこは大丈夫です。