小説書くのに慣れていないせいもあって、1章をまるまる巨大な人物紹介に消費してしまったの、結構痛いですね。最終話までの大まかなプロットはすでにあるので、コツコツ続けていきたいものです。
★前回のあらすじ
夜ごはん用の魔獣を各班で狩ろう!!
リィン、ユー、ヨウ、ジエの班はみんな特殊なせいでどうしたらいいかわからなくなっているぞ!
あと、Cパートでリリエがジワジワ病み始めているみたい。
現在、リィン、ユー、ヨウ、ジエの四人は魔獣を安全に仕留めるための作戦会議を続けていた。
「よし、とりあえず拘束はやめて、直接仕留めるにしても、だ。連携のためにも、各々ができることを共有しようじゃないか」
「まず僕、ヨウは、力学魔術が得意だ。あらかじめ自分の魔力を込めたものに力を与え、かなり精密に動かすことができる」
「我はあまり四大元素系の魔術は得意じゃない〜。代わりに、【重瞳】での観察、偵察は任せて」
ジエさんは、猪から一旦目線を外し、こちらを見た。相変わらず死んだような目だな……。と思っていたが、急に瞳が上下に分裂した。一つの目の中に、縦に二つの瞳が並ぶ形になっている。
うわっ! 怖っ!
なんじゃこりゃ。
「これがオフモード〜。よく気持ち悪がられるからあんまりしない。そして、今までしてきたこっちがオンモード〜」
分裂した瞳が重なり、一つになる。瞳が重なったことでハイライトが消え、目が死んだ。
あ〜〜……。理屈はわからないけど、二つの瞳が重なったせいで目から光が消えるのか。
というか、目が一つの方が「オン」なんだな。普通逆のイメージだけど。
「生憎様、ワタシ、見た目なんて些細なこと気にするような雑魚じゃないの。むしろ、今までの周りの奴らがレベル低すぎじゃない? ……それで? 結局その目はなんなの?」
「おぉ〜、傲岸不遜。ヨウに聞いてた通り。……この目は、魔力が見える。動きも、濃度もバッチリ。筒抜けだよ」
おぉ……。すごいな。
そこまでの精度で魔力が見えれば、相手の魔術発動の予兆から効果範囲、威力すら大まかに掴むことが可能だろう。
さらに言えば、魔獣のようなより本能的な相手だと、魔力の動きを見ることで、次の動作まで掴めそうだ。
「…………。」
「どうしたの? 急に黙っちゃって」
「……言うべきか迷ったけど、言うね。どうしてそんな高密度の魔力を常に纏ってるの? どう考えても、無意識に漏れてる魔力じゃない……。目がチカチカする〜……」
う。バレたか。
彼女の目には、俺は光り輝くヒトガタに見えるらしい。それも、曖昧なぼんやりしたものではなく、きっちり外界との境界線が決まっているような。
……あぁ、合点がいった。ジエさんの、眉を顰めてこちらを凝視する動作に既視感があったが。
あれだ、目が悪い人が頑張ってよく見えないモノを見ようとしているときの動作だ。
「高密度なのに、全く周囲に漏れてない。身体の外側数ミリで完全に止まってる。ピカピカツルツルテンの、ヒトガタに見えるよ。どんな魔力操作の精度? こんなの見たことない、ちょっと怖い」
「こ、これは……そ、そう。そうだっ! これは美容のための結界! ワタシの国宝級のかわい〜いビジュアルを保つための、もの! ……あっ! あとあと! 雑魚と同じ空気吸ってたら、ワタシまで弱〜くなっちゃいそうだからぁ、それが嫌で周りの空気を遮断してるって、ワケ♡」
わ、割と嘘では、ない。
ガス攻撃を防ぐために空気を遮断しているし、結果的に外界のストレスからお肌が守られているのも、事実。
メイン機能は魔力、物理のシャットダウンだけど。
「……常に? ……ずっと? ……わざわざ?」
ジエの死んだ魚のような目が、こちらをじっと見つめる無表情が、リィンに特大の圧を与え続ける。リィンの額には、すでに冷や汗が浮かんでいた。
……うん。
防御を度外視したとしても、これないと俺、糸切れた操り人形みたいになるからね。
自力で歩行できないから。
それはそうとあんまり詮索しないでお願いぃぃ~~!
ボロが、で、出ますよ。
「いやぁ〜↑↑?? ワタシ天才だから? こんなの大した苦労じゃないしぃ? むしろ皆こんなこともできないなんて、雑魚はタイヘンだなぁ〜〜」
「なるほど。これは確かに変な人。ヨウは間違ってなかった」
おい、今何つった。あのメガネがなんて?
「話が逸れてるぞ。次はリィン、君ができることを教えてくれ」
……俺の番か。
まぁ、仕方ないよな。
「ワタシの魔術は、物理的な破壊に特化した魔術よ。ただ何かを壊すだけならすごく得意。ちょっと真上に石か何かを、できるだけ高く飛ばしてくれない?」
「まぁ、いいが」
ヨウが力学魔術らしき魔術を使用すると、小石が天高く昇っていく。ある程度の高さで止まった。
だいたい50メートルくらいかな。ほとんど点みたいに見える。
「じゃあ、使うね」
上空の小石が、一瞬で粉々に砕けた。
「……凄まじいな。どんな魔術だ? 何も見えなかったぞ」
「…………。」
「ジエ。あなたにはちょっとは見えたんじゃない?」
先ほどの現象を見ていたジエは、自分が【重瞳】で捉えた光景を自分のなかで整理したあと、口を開いた。
「うん。何か筒状のものから……。一瞬すぎて自信ないけど、何かが飛び出した気がする。たぶん方向的に、それが石を砕いた」
ジエの魔力を見る瞳は、本来不可視のはずの銃身と弾丸を、光のシルエットの形で捉えていたのだ。
「当たり。けっこー単純な仕組みでね。詳しくは話さないけど、とにかくモノを素早くぶつけて相手をぶっ壊す魔術かな。でも力加減が上手くできないから、これを猪に使うなら、けっこうめんどくさいかも。……ミンチを運びたくはないでしょ」
「……なるほど。なんとなく理解した。モノを直接飛ばすというのは、力学魔術と発想が少し似ているな。しかし、力加減ができないのは、この状況では少々危険かもな。他の魔術とか使えないのか?」
他の魔術。他の魔術ねぇ……。
悩んでいると、久々にユーが口を開いた。
「……以前、人を気絶させる魔術を使っていただろう。アレを猪にも使えるんじゃないか?」
…………! あ〜、あれか! たしかに使えるかも。魔獣は生物が原型になってるし、呼吸もしてるか。
全員で袋叩きにするよりは早く、安全に済むかもしれん。それにどうせ食べるとはいえ、あんまりボコボコにするのも罪悪感があるし。
「作戦、決まった?」
先程からチラチラと、猪のほうを警戒してくれていたらしい。
ジエさん曰く、標的はまだ先程の場所からあまり動いていないようだ。
「よし、とりあえず囲んで、リィンの方まで追い立てよう。どうやって追い立てる?」
「魔猪獣は、意外と臆病な魔獣。それに、真っ直ぐ走りがち。魔術で後ろから脅かせば、そのまま向いている方向に逃げるはず~」
「あぁ。最近読んだ本によると、有名な魔族の眷属が野生化したものだと書かれていたな」
「そうだな。戦の魔王【蚩尤】の
おいジエさん以降の男子二人、これ幸いと知識をひけらかすんじゃない。
特にヨウ。それ最近借りた本の知識だろ。お前のせいで俺が借りられなかったやつ。
普通こういう解説役って、相場一チームに一人で十分だと思うんだけど。
なぜ我が班はこんなに偏っているのか。
「…………実はあの特徴的な甲殻はさっきの話通り『盾』がモチーフで、彼らを造った魔族の特徴を継いでいるとか~」
……ジエさん!?!?
あんたもそっち側!?
俺もなんか言った方がいいかなぁ……?
いやいや、俺がまとめた方がいいかも。
「じゃあ、ワタシは正面で待機。ジエは右、ユーは左、後ろからヨウが脅かす感じで。ワタシが手を挙げるのが合図で。解散」
「「「了解」」」
ーーー
四人は所定の位置につき、作戦が開始される。
まず背後のヨウがいつものロボットアームのようなものを射出した。
ロボットアームは魔猪獣に背後から近づき、突然内側から展開して宝玉のようなものを露出する。
それは風の霊晶である風元晶と、火の霊晶である火元晶の加工品。
宝玉が励起し、凄まじい音と光を発する。
魔猪獣は突然の異常事態に反応し、動き出す。
……ここまでは順調であった。
たしかにジエの言う通り、魔猪獣はその威圧的な外見と裏腹に、臆病かつ、逃走を是とする魔獣である。
しかし、興奮状態の場合は別だ。
生徒たちはあずかり知らぬことだが、
……魔猪獣はゆっくりと方向を変えて、背後に向き直った。
その目はギラつき、魔術を放ったヨウに向けられている。
蹄をその場でドンドンと踏み鳴らす。突進の合図。
「……! 危ない!!」
この距離、角度……! 下手に撃てば、対面にいるヨウに当たる……。
少し危険だけどなんとかするしかない。
発射後、着弾の瞬間に弾丸を消失させれば、貫通による周辺被害は大丈夫なはず。
《簡略化術式パッケージを展開……》
【術式パッケージ=弾種 / 小輪】
【カスタム=発射後0.0015秒後、弾頭固定解除】
《――簡略化応答、全点正常》《砲身を多重形成。弾頭、多段階燃焼室を形成。装薬充填。弾頭を形成中――照準――、固定解除待機完了。点火》
【穿て、魔弾の射手】
魔猪獣の足元を狙う。
三発、魔弾が放たれた。
それらは同時に着弾し、魔獣の右後ろ足を吹き飛ばした。
魔猪獣は転倒し、のたうち回る。
……無駄に傷を負わせて、すまん。
俺は暴れる魔獣に近づき、その呼吸器を覆うように魔術を展開する。
ここまでの興奮状態だと、気絶にとどめる方が難しい……やるか。
気絶させる魔術は対人拘束、捕縛用だけど、ちょっと時間設定を変えるだけで、簡単に殺すための魔術に変わる。
たしか、前世でこの魔術の
安らかに眠ってくれ。
ゆっくりと、魔獣の動きが鈍る。そのまま、眠るように死んでいった。
「…………みんな怪我はない?」
「あ、あぁ、君のおかげで助かった」
「こっちは特に何も~」「同じく」
左右に散っていたユーとジエが、俺たちのもとに合流する。
二人とも、特段問題なさそうだ。
ヨウも大丈夫そうだし、ひとまず安心した。
と思ったら、なんだかヨウが考え込むように地面を見ている。
驚いた拍子に怪我でもしたのかと思っていたら、顔を上げたヨウが口を開いた。
「助けてもらって申し訳ないが、少し疑問に思ったことがある」
「――なぜ、気絶させる魔術とやらを遠くから使わなかったんだ? さっきは流れで君に魔獣を近づけさせる作戦になっていたが……、よく考えれば、あの距離を魔術で攻撃できるなら、同じ距離から安全に気絶させられるんじゃないのか? その程度のことが思いつかない君ではないだろう」
「そ、それは……」
そうだ。その疑問は当然だ。
自分では当然できないとわかってるから疑問を抱かなかったが、他の人から見たらなぜわざわざ近づく必要があるのか意味不明だろう。
「付け加えるなら、リィンさんの魔力は『風』っぽい色に見える。そもそも、遠距離拘束は得意だと思うんだけど~」
「……?!」
ジエの魔眼は、『魔力傾向』をも捉える。色を見ることで、個人がどんな性質の魔力を持っているのかがわかるのだ。
そうか……、そんなこともわかるのか。
………………。
いや、大丈夫だ。『風』に関連する魔力傾向の貴族家は多い。
それだけで
そして、遠距離での拘束ができない理由。
…………どう思う? 俺。
《話して良いんじゃないか? この状況でごまかしても、雰囲気が悪くなるだけだ。それに情報が漏れたところでどうにかできるような魔術じゃない》
「……」
「おい、無理にそこまで話す必要はないんじゃないか? 今はできない理由がある、で十分だろう」
「……そうだな。変なことを聞いて悪かった。リィン、さっきはありがと――」
「――皆、特にジエ。見てて」
近くの葉が、フワリと浮かび上がる。
リィンの魔力が周囲の大気に纏わりつき、そこに術式が流れ込んでいる。特に何の変哲もない風魔術に見える。
三人は彼女が一体何を見せたいのかさっぱりわからなかったが、真剣そうなリィンの顔を見て、再度葉に視線を戻した。
葉はゆっくりと、リィンから離れていく。
一メートル、二メートル。
フワフワと揺らめきながら、しかし安定して、葉は前進する。
――変化は、リィンからおよそ三メートル離れた地点で起こった。
先程まで均衡を保っていた葉が、姿勢を乱し始める。
明らかにグラグラと姿勢を崩し、錐揉み回転をしながら制御を失っていく。
そしてその後数秒をかけて、葉は地面に落ちた。
ジエの目にはそれが、葉の周囲の魔力が徐々に不安定になり、歪んで霧散していく様子に映っていた。
「――三メートル。ワタシの魔術の射程限界は、たった三メートルなの」
リィンは、どこか暗い光を宿した瞳でそう告げた。
「三メートルを超えると、ワタシの魔力は急速にワタシの支配を失って、ニュートラルな現実子に還元される。魔術の起点をそれより遠くに直接作ることもできない」
「魔術学的に言えば、『干渉容量』が極端に少ないの、ワタシ。……魂魄による干渉の距離、範囲、持続時間どれもが極めて貧弱。医学的に言えば、『干渉容量不全症』の一種。つまり、病気ってワケ」
「馬鹿な……。じゃあ魔獣の足を砕いた魔術はなんだ」
「あれは、この『欠陥』を抱えたワタシが天っ才的発想で創った特別な魔術だから。代わりに発動後の制御が難しいんだけど」
……魔弾の「制御が難しい」というのは、ほとんど嘘だ。
正しくは、「原理的に制御不可能」が近い。
なぜなら、魔弾は発動すると同時に、射出された弾丸が俺の制御を離れるからだ。
基本的な魔弾の場合、魔術は弾丸本体と砲身の維持、そして射出時の推進力確保にのみ使われている。
弾丸が砲身を飛び出してから着弾するまでは純粋な物理法則に従って動いており、そこに俺の操作は介在しない。
先ほどのように「発射前に解除までの時間を設定しておく」というトリッキーな使い方はできるが、それも発射前に限られる。
……これは天華連邦の魔術観を真っ向から否定する魔術運用だ。
普通の魔術は、その始まりから終わりまで、すべてが術者の手中にある。
どの物質をどんな軌道で操作するのかは、すべて術者がイメージして実現している。
だからこそ、元素魔術はある意味で安全な魔術で、手加減がしやすい魔術だ。
なぜなら危険だと思った瞬間に弱めたり、自分で力や速度を常に微調整できるから。
……俺は、できない。
《原理的にできないが、ある意味よかったかもしれないな。可能だったとして、今の仕事で俺たちが人殺しに「普通の」魔術を使えていたか怪しい》
《人を燃やす時、この国の術士は『標的に火が届き、肉が焼け爛れる過程』を克明にイメージし、最後まで支配下に置く。それがこの国のスタンダードな魔術観だ。……だが、俺たちにはそんな芸当はできない。その手で人を壊す生々しいイメージになんて、耐えられるはずがない》
《撃ち出すまでの物理現象だけをイメージし、その後の破壊という『結果』は、すべて物理法則に丸投げする。……そんな魔術を作らざるを得ない病気だったからこそ、俺たちは人殺しをやれてしまっている。本当に、反吐が出るほど都合がいい》
たしかにそうかもな。皮肉なことだ。
「……リィン、リィン……!」
少し自分の世界に逃げてしまっていたらしい。周りの声が聞こえていなかった。
よくないな。本当に。
「……少し君のことを誤解していたかもしれない。君も君なりにいろいろと努力してるんだな」
違う。それは俺がロールプレイしてるせいだ。
事態をややこしくしてるのは、いつだって俺自身だ。
「正直、我はすごいと思う~。あとで我に遠距離魔術のことを教えてほしい。我も実は平民出身。結構共感できる。相談にのるよ」
本当にいい人たちだよ。みんな。俺と違って。
リィンの告白に対して、ヨウとジエが驚きや同情の声を上げる中。
独り、ユーだけは黙り込んでいた。
それは、彼自身が「魔力が極端に少ない」という欠陥を抱えているため、同じように魔術的なハンデを背負うリィンに特段深く同情したから――――ではなかった。
……普段なら、絶対にあり得ないことだった。
女性恐怖症を患うユーは、どれほど親しい相手であっても、女子の顔を直視することなど決してできない。
だが、リィンの口から漏れたあまりに静かで、自嘲に満ちた声に――ユーは無意識のうちに、長い前髪の奥から視線を上げてしまっていた。
……彼が、リィンの暗い表情を見るのは初めてだった。
彼の前でリィンは高慢なような、おどけたような笑みを見せる友人だった。
だから、彼はこれまで
あまりにも、
この森に来る前の説明会で、不意に距離が縮まり、至近距離で顔を見てしまった時ですら、胸の奥に何かが引っかかっただけだった。
ふざけた笑みを脱ぎ捨てた、その目と髪の色。
冷えた影を落とした、その横顔の輪郭。
……あの人に、そっくりだ。
――――リィンは、かつて自分を捨てた
★来週も同じように、週末に投稿予定です。
★設定捕捉
●リィン・カーネシア・■■
〇ステータス
魔力量 : EX
精密性 : S+(原典を用いない場合の、「個」での値)
干渉力 : A
干渉容量 : E-(星の呪い)
身体強化 : F
特殊 = 原典 /
(魔力傾向 : 大気 / ▼▼)
干渉容量は、魔力や魔術を扱える規模や、影響力が及ぶ時間を示すステータスです。
これが高いほど、より遠く、広くを魔術の起点にできたり、魔力や魔術の効果がずっと継続したりします。
リィンは、平民よりもさらに干渉容量が低いです。
若干ネタバレですが、彼女の基本魔術である魔弾は簡単に言うと『手元で馬鹿みたいに魔力を込めた弾丸を作り、それを魔術により引き起こした化学反応で意味不明な速度まで加速して、弾丸に込めた魔力が霧散する数秒までの間に相手にぶつける魔術』であり、数秒で魔力が霧散する干渉容量の低さを無理やり踏み倒しています。他にも彼女が創った魔術はたくさんあるので、また作中でも説明します。