メスガキやめれないんだが   作:かみゃきち

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メスガキと生徒会長

 

 

「失礼します、会長」

 

 

 ガチャリとドアを開けると、ところどころ装飾が施された清潔感を感じさせる部屋に足を踏み入れた。先ほどまでいた資料室とは違い、無数の棚などの収納スペースは見られない。その代わりに、歴代の学監会メンバーの中で、学園内外問わず優秀な結果を残したものに与えられた旗や盾、賞杯などの記念品が寄贈され、飾られている。それらは窓からかすかに入り込む朝日に照らされて、キラキラと輝いているように見えた。

 

 それらに負けず、朝日に照らされてキラキラと輝いているものがあった。それはきれいな髪だった。目が覚めるような黄色の長髪が、光に晒されることで金色に輝いているように見えている。それには一種の神々しさすら感じさせる。

 

 学監会長室の奥の椅子に座っているその人物――会長――は、部屋に入ってきたメガネをかけた学監会メンバー、ヨウを見て、穏やかそうに微笑んだ。その額には大きな黒い角が1本、力強く生えている。

 

 

「おはようございます、ヨウさん。朝早くにご苦労さまです」

 

 

「会長こそ、ご苦労さまです。おはようございます」

 

 

「あらあら、わたくしは先ほど来たところです。皆さんの名前の出席札がもうあったのでびっくりしましたの」

 

 

「あぁ、ちょうどその件についてお話したくて来ました。朝早くに集まっているのは、近々催される学科交流会に関する業務を行っているからです」

 

 

「会長、学科交流会についてはどの程度ご存じでしょうか?」

 

 

 会長はふむ、と顎に手を当ててから答えた。

 

 

「各学科どうしがどういったことを学んでいるのか、互いに示し合う場であるということは聞いています。《各学科代表は学監会メンバー》という扱いになるので、やはり運営はこの学監会ということになりますよね」

 

 

「はい、そうです。近々各学科代表を招集して会議を開きますので、そこで細かいところを話し合う形になります」

 

 

「あと、学科をまたいだ入学式というものがないこの天華軍府立学園において、1年で初めて、全生徒が参加するイベントになります」

 

 

 会長は、その琥珀色の目をパチクリとさせて、そうだったの……?とこぼす。

 

 やはり詳しく把握していなかったようだ、無理もない。会長は1週間ほど前に急に入学してきたため、正式な入学式を体験していない。

 

 この学科交流会はかなり重要な意味をもつイベントであり、新生徒会、ひいては新しい学園そのもののお披露目会でもあるのだ。

 

 

「ふふ……、ふふふ」

 

「……会長?」

 

 

「いいじゃありませんの。とても大事で、大きなイベントだということはわかりましたわ。きっと学科ごとに色々な催しがあるんでしょうね……。楽しみですわ!」

 

 

 会長は瞳をキラキラさせながら、本当に楽しそうにしている。そこには一切、気負いや緊張のようなものは感じられない。

 

 

「会長……、お言葉ですが。怖くないのですか?会長はこの学園に来てまだ1週間も経っていません。そのような状態で、詳細のわからない大きなイベントの総責任者をするのですよ。他の学監会メンバーもできる限りのサポートを行いますが……」

 

 

 ヨウは同じ1年生の学監会のメンバーを思い浮かべていく。……途中ピンク色の女が頭の中でなにか騒ぎ始めたがそれを無視する。

 

 学監会は、前任の学監会メンバーが卒業し、空いた空席に成績や家柄を加味して、学年を問わず新メンバーが選出されると言われている。しかし、今年の学監会は中核となるメンバーに1年生がやたらと多い。前任に4年生が多かったため、空席が増えたということもあるが、なんらかの外圧によりねじ込まれたことが疑われているメンバーもいる。

 

 そもそも、会長自身がその特殊な立場によって、無理やり会長としての立場に収められた1人だ。

 

 そのようなこともあり、今年の生徒会は例年に比べて不安定であると言えるだろう。

 

 つまるところ、ヨウは不安を感じていたのだ。しかし、彼よりも重い立場に急に立たされているはずの彼女には不安のようなものは感じられない。

 

 少し時間をおいて、彼女は口を開いた。その声には先程までと異なる異質な覇気が宿っている。

 

 

 

「当然でしょう?わたくしは四霊大家、麒麟(チーリン)家長女、フィーシャ・ランファ・チーリンですわよ」

 

 

 ヨウの背筋を冷たい恐怖が撫でた。朗らかさすら感じさせる先ほどまでの彼女が今や別人に見える。感情の高ぶりにより一瞬だけ解放された魔力が、あまりの濃さゆえに視覚的に空間を歪ませているような錯覚さえ引き起こした。

 

 四霊大家。この天華連邦において最高の権威と実力をもつ、麒麟家、応龍家、鳳凰家、霊亀家からなる4つの門閥貴族家。他の門閥貴族たちとは一線を画す彼らは、1人の明確な指導者が存在しない()()()()()()()()()()()()()()であるといえるだろう。

 

 

 

「ヨウさん。あなたがおっしゃりたいことはわかります。他の有力門閥貴族からの視線を恐れているのですよね。大丈夫、そんなものは問題にはなりません」

 

「わたくしが、すべて捻り潰せます」

 

 

 

 ヨウは、先程まで輝いて見えた会長の目を見れなかった。何か自分とは根本的に違う存在、化け物をみているような気分で、完全に雰囲気に飲まれてしまっていたのだ。

 

 しかし、様子のおかしい彼を見て自分の振る舞いを理解した彼女は、はしたない。とすぐに先ほどまでの最高位の貴族としてのオーラをブンブンとかき消し、いつもの朗らかさを取り戻した。

 

 

「だから安心してくださいまし。こう見えても、いろんな意味でわたくしは強いのです。わたくしに任せてください。慣れない仕事でもやり遂げてみせますわ。もちろん、皆さんのサポートもありがたく思っています」

 

「それと、や、やっぱり立場上難しいかもしれないけど、同年代の貴方方とは仲良くしたいのです……。先ほどのように迷惑をかけることも多いと思いますが、これからもよろしくお願いしますね」

 

 

 さっきみたいになっていたらまた教えて欲しいですわ……。と恥ずかしそうに髪の毛をくるくると片手で弄りながら、もう片方の手でヨウの方に差し出した。

 

 

 ヨウは緊張を隠せずにいるものの、いまだ手汗の滲む手を差し出し、しっかりと握手をした。

 

 

 

 

 

 

「そ、そうだ忘れていた。会長、この後お時間ありますか……?会計のフェイが会いたがっていましたよ」

 

 

〜〜〜

 

 

「ということで!!来ましたわよ!!フェイさん!!リィンさん!!」

 

 

 うわぁ、キラキラ光ってる。

 この人いつも元気だよなぁ。

 

 どうも、会計の仕事を手伝っている最中のメスガキのリィンです。いやぁ会計の仕事ってややこしいんだねぇ。前任者の資料が残ってるとはいえ、細々してややこしいったらありゃしない。

 

 

「相変わらずオーラ出てるねぇフィーシャ会長〜。光って見えますよ〜」

 

 

「ありがとうございます、フェイさん。敬語もけっこうですよ。それで、お仕事のほうは順調ですか?」

 

 

「さすがに私でもそれは畏まっちゃいますねぇ。仕事の方は一段落ついたって感じですかねぇ。そろそろ午前の講義もあるし、一旦お開きにするかもです〜」

 

 

「でもその前に1つ。これは実は会計としてじゃなくて、私個人の会長への進言的なやつなんですけども〜」

 

 

「なんだか最近学園内がピリピリしてるんで……、もうどこに何が潜んでいるのやら。会長は特に貴きお方ですし、付き合う人たちを考えたほうがいいですよ」

 

 

 

 

 

「―――。ご忠告、感謝いたしますわ」

 

 

 

 

「やだなぁ、生徒会同期の仲じゃないですか。あっ!これで私と友達やめるとかやめてくださいね〜」

 

 

 はははっ、と笑っているフェイだが、目がちょっと怖い。俺はその会話を記憶しながら、資料を整理していた。

 

 

「あとはこれが予算案です〜。まぁ各学科代表と話し合う前なんで絶対に変化しますけど、後で確認しといてくれると助かる!って感じです」

 

 

「私はちょっと用事があるのでまた後で!あっ、リィンっちは一緒の講義が2限目だよね?サボるかもしんないから私の出席、代わりに書いといて!」

 

 

 え、えぇ〜?いっしょに受けようよ。というかフェイがいないとその講義俺ぼっちで受けることになるんだけど……。

 

 

「僕も席を外そう。そろそろ講義の準備をしなくては」

 

 

 えっお前も?会長と2人きりになるじゃん。ちょっと待ってよ。

 

 そんな脳内の困惑を言葉にする前に2人は部屋から出ていった。部屋に残されたのは会長と俺の2人だけ……。

 数秒の沈黙が流れる。き、気まずいんだけど。

 

 

「ワ、ワタシもちょっと用事が——」

 

 

「リィンさんって応龍家の関係者だったりするのですか?」

 

 

「——」

 

 

 リィンの動きがピタリと止まる。動きが止まったが、何も答えないリィンに対して疑問を抱きながらも、彼女は質問を続けた。

 

 

「あなたの髪の色や羽を見て、どこかで見たことがあるな〜と思っていたんですの。ようやく思い出しました。応龍家の特徴ですわね」

 

 

 桜色の髪や桃色の羽は、応龍の血を示す身体的特徴の一つだ。麒麟家であるフィーシャの黄色の髪や頭の角と同じように、古の血脈を色濃く残すものは、決まった身体的特徴を持つことがある。

 

 もしかすると立場の近い人間なのではないかと、話の種を見つけてつい嬉しくなった彼女は、扉の方を向いて一言も発しないリィンを省みずに話しかけ続けてしまった。

 

 

「分家の方でしょうか、それとも——。ふふふ、詳しくは聞きませんよ。分家であったとしても、四霊大家の関係者が今の軍府の元にいるというのは、あまり触れられたくないのでしょうから」

 

 門閥貴族と士族連盟の対立が激しくなっている中、門閥貴族の最高位である応龍家と士族連盟の牛耳る軍府が懇意にしていると捉えられかねないような状況は、どちらの勢力にとってもなるべく避けたいことだろう。

 

「あら、もしかしてわたくしに少し冷たいのはそれのせいですか?」

 

 

 それか、正当な分家ではなく妾の子など、望まれない子供であった可能性も考えられる。それで軍府に拾われたとか……。いろいろと考えを巡らせていた彼女は、先ほどからリィンがこちらを全く見ようとしていないことに気づいた。

 

 

「触れられたくないってわかってるなら、聞かないほうがいいよ?やっぱり大貴族ってコミュ障ばっかり。くだらないマナーとか学ぶ前に、どう人の気持ちを考えたらいいか〜なんて、絵本とかでも見て学べば?」

 

 

 リィンは結局フィーシャの方を一度も見ることなく、部屋から出ていってしまう。——彼女が嫌がっていることはなんとなくわかっていたのに、それでも話し続けてしまった。いけない。独りで家を離れたことで寂しくなっていたのだろうか、心の余裕がなく、軽率な行動をとってしまった。

 

 今度会ったらきちんと謝罪をしないといけませんわね。と彼女は心のなかで一人呟いた。

 

 

〜〜〜

 

 

 

 リィンは2限目の講義を受けながら、今朝の会長に対する態度を反省していた。

 

 

 さすがに大人気なかったかもしれない。四霊大家の人間とはいえまだ子供だ。前世含めたら自分のほうが圧倒的に年上だというのに、酷いことを言ってしまった。

 

 

 それにあの余裕がなさそうな態度はメスガキっぽくもなかった。いや、もうメスガキっぽくない方がいいんだ。あまり変なこと考えるな。

 

 

 何にせよ、後でどうにかして謝らないと……。

 

 

「すいません!ちょっといいですか?」

 

 

 いやでもどうやって謝ろう……。あんまり素直に謝るのもキャラ的にちょっと変だよな。贈り物でも買って押し付けながら勢いでなんとかしようか。ワタシが許してやるからみたいな感じで。

 

 

「すいませ〜ん!うぅん、聞こえてないのかな?」

「ちょっと、やっぱりやめとこうよおぉ」

 

 

 いやそれだと意味不明か?やっぱり多少変に思われても軽く謝っておこう。一歩踏み出すことは大切だ、うん。

 

 考え事を終え、周囲の音の遮断を解除する。すると、突然大きな音が鼓膜に直撃した。

 

 

「ちょっと!!!」

 

 

「うひゃぁっ!」

 

 

 うおっ、びっくりした!!変な声出ちゃったじゃん。

 

 きょろきょろと辺りを見ると、隣に女の子が2人いた。というよりも他の生徒の姿が見当たらない。慌ててもっと教室を広く見渡すと、端っこの方に大柄な男子生徒がいる以外に本当に一人も生徒がいなかった。

 

 困惑している俺をよそに、2人は男子生徒のほうを指さして言った。

 

 

「4人で組むわよ!すみっこにいるアイツも入れて!!」

「ら、落第したくなければ言うこと聞いてくださいぃ〜」

 

 

 え?どういうこと?やばいやばいずっと講義聞いてなかった。

 

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