結局妹(真)の体調が安定したので医務室からは退出して、学生が自由に使える小さめの部屋を借りることにした。今は講義時間が終わった後の昼休みにみんなで改めて集まって、借りた部屋にいるところだ。実技に関しては、今度の講義のときまでに練習して、披露してくれたらいいらしい。融通の利く講師で助かった〜。
あ、ちなみにあらためて簡単な自己紹介は済ませた。
まず、姉妹は双子だったらしい。姉はリリア・モンファン、妹はリリエ・モンファンという名前だ。女性恐怖症くんはユー・シージン・
しっかし、覚えられんぞ。正直人の名前を覚えるのはそこまで得意じゃないのだ。
まぁいいや、心の中でミミック姉、ミミック妹、恐怖症くんと呼んでおこう。リリアがミミック姉、リリエが妹、
今俺達たち4人は、机を挟んで向こう側に恐怖症くん、こちら側に俺、ミミック姉妹がいるという形になっている。ちなみに時間が経って慣れてきたのか、ある程度の距離さえ取っていれば声の震えもなくなったっぽい。
でもさっき何気なく机の同じ側に行こうとしたら……。
………
「まて、止まれ……」
「?どうしたの……?はっ!!ワタシにも講義してやろうってコト?ワタシには講義なんて必要ない。というかむしろ天才として、あなたよりもうま〜く教えてあげるつもりなんだけどぉ?」
「いや、そうではなく……」
「これ以上近づくな。俺が無事じゃすまんぞ」
(病気みたいなもんだから仕方ないけど)だ、ダセェーーー!!
なんだその「人質が無事じゃすまんぞ」みたいなセリフ!
………
みたいな一幕があったりした。どのみちベタベタはしてあげないほうが良さそうだ。
もうここまでくると、なんでこうなっちゃったのかが気になる段階にきてるな。不謹慎かもだけど。
ともあれ、恐怖症くんは持参した鞄から色々と道具を取り出してきた。かなり用意周到だ。というか平民のためにここまで行動してくれる大貴族とか稀だぞ。どういうやつなんだこいつは。
「まず、魔術についてどのようなものだと考えている?」
「え〜っと、魔力を操って、なんかその、あれ、色々できるやつ!」
「魔力から石とか水を作ったり動かしたりする技術、みたいな感じ、です?」
「残念だが、どちらも不十分・不正解だ」
「「えっ?」」
2人がぽかんとしたような表情を浮かべている。いや姉の方、それでいけると思ってたんかい。
「魔術とは、魂魄が現実子を介して現実に干渉し、その意思によって世界を改変する術のことだ」
「「……???」」
……、2人のぽかん度が上がったんだが。ほら、姉の方なんて見ろ、宇宙ネコみたいになってる。
「さきほど言ったように、魔力を岩や土などに直接変換して操っているというわけではない。そもそも、自らの魂魄によって空間に満ちるニュートラルな現実子を扱いやすいように個々人に適した形に変換したものが、人々が魔力と呼ぶものの正体だ。これもまぁ、学術的には自己現実子というのだが……。つまり、魔力は現実子の一種であり、多少無理をすれば魔力無しでも魔術は扱えるということになる」
お〜い、お〜〜い。こっち見てるか……?なぜだ、解説が止まらんぞ。
おい見ろよ、妹が溶け出した(?)ぞ。
「つまり魔力は魔術に必要だが、不可欠というわけではない。魔術を上手く扱うためには魔力をどう増やすだの、どう操るだのといった議論よりも先に、この現実をどのように改変するか、どんな結果を望み、そのためにどんな過程を辿るのかをどうイメージするのかを考えたほうが有益である場合が多い」
も、もしかして、こいつ本当にこっちを見てないんじゃないか??
早口とはまさにこのコトだ。魔術オタクくんさぁ……って言いたくなるぞ。
女性恐怖症に加えて早口オタクとは、かなり業の深い存在なのかもしれん。
………ん?
アッッ!わかった!!女性恐怖症だから、女が3人もいるこっちを直視できてないんだ!!
てめぇ!!前髪長すぎて目が見えてないんじゃないかとか思ってたけど、本当にこっち見えてないじゃん!
いや、そっか。こっちからも前髪のせいで視線がどこにあるのかわからない。実は前髪の奥で思いっきり目を逸らしてるだろ!!
……もしかしてそれ今日会ったときからずっとか!?
「はい、いったんすとーっぷ!オタクくんさぁ、講義っていう形にするのなら、たまには生徒の様子も見てあげないとぉ」
はっとしたように恐怖症くんはこっちを(たぶん)一瞬だけ見た。自分がやってしまったことについて、だいぶ気まずそうだ。
「でもすごい正確な知識だねぇ。魔術が好きなんだ?」
ずいっと机から身を乗り出して少し顔を近づける。
あっ、顔逸らした。やっぱり真正面からはまだ厳しいか。
「じゃあ今度はワタシが話そうかな〜。ハイハイ、2人とも
おっ、ミミック姉妹が復活した。じゃあさっきのまとめ兼おさらいといこう。
「さっきの話の中であなたたちが覚えておくべきことは、『魔術は魔力をモノに変えてるわけじゃない』ってことと、『魔術は結果と過程のイメージが大事』ってことだよ」
「たとえば、そう、その瓶。オタクくんがもってきてくれたやつ。中に土が入ってる。きっとこれからの説明に使いたかったんだと思うんだけどぉ」
「これを使って、【礫弾】の魔術、使ってみよっか♡」
〜〜〜(※リリア)
「まずはイメージだね。【礫弾】は土の塊を飛ばしてぶつける魔術だから〜、まず何を考えないといけないでしょ〜か?」
「?土をフワって浮かせて飛ばすんじゃないの?」
「ブーっ!!残念!まずは土を少し浮かせて固めるイメージからするの」
リリアは目の前の少女——リィン——の言葉と同時に、瓶の中の土が少しだけ浮き上がり、ぎゅっと圧縮されて固められていくのを見た。
「次に、固めて動かすイメージがしやすくなった土の塊をもっとちゃんと浮かせる」
土の塊が瓶の中から出て、リィンの目の前に浮いた状態で静止した。
「それから飛ばす」
土の塊がビュンビュンとさほど大きくない部屋を飛び回っている。この状態でこの塊がぶつかれば、たしかに痛みくらいは感じるだろう。
「うん、さすがワタシ、完璧〜」
飛んでいた土塊が元の瓶の中に吸い込まれるようにして入っていく。吸い込まれた土の塊は、いつの間にか元の柔らかな土のようになっていた。
「じゃあ、2人ともやってみて。さっき見せたように、1つの魔術を分割してイメージするんだよ」
「『魔力で何かを操作する』のではなく、魔力を介して現実を『もともとそうであった』ように作り変える、と考えるんだ」
あ、この人さっきよりちょっとわかりやすい言い方になってる。貴族ってやっぱりみんな賢いのかな。
ちょっと緊張しながら、魔術を発動する。まずは瓶の中の土を固めるイメージ……。いや、『瓶の中の土は固まる』というイメージで、合ってるのかな?
すると、瓶の中で土が蠢き、少し小さくなって固まった。でこぼこしていて、リィンほど綺麗ではないものの、ちゃんと教え通りになっている。
すごい……!!魔術が使えてる!!
「次はその塊を浮かせるんだ」
固まった土を浮かせる。いや、『固まった土が浮く』。そのとおりになった。ポロポロと土の一部が塊から剥離し、普通の土に戻っているが、それでも大部分は固まったまま浮いている。
よし……!!次は瓶の中から出して、飛び回らせる!
そう考えて土塊を高く浮かせ、自分の方まで移動させようとした瞬間、塊が崩れて土に戻った。そのまま土は少しの間バラバラで浮遊していたが、数秒で地面に落ちてしまった。
「あっ……。」
せっかくうまくいきそうだったのに。横を見ると、妹はその動きが不安定かつ不格好ではあるものの、自身の側まで塊を動かすことには成功していた。
めちゃくちゃショックだ……。
「落ち込んでるのわかりやすすぎでしょ〜。凡人なんて何回でもやり直せばいいんだって。ワタシからすればみんな等しく平々凡々なんだから。あなただってね」
「悪くなかったぞ。おそらく飛ばすことに意識が向きすぎていて、塊として維持するイメージを忘れていたのだろう。次は成功するはずだ」
正直、私は柄にもなく心を大きく動かされていた。
それに、
ユーは人と深く関わろうとしない。男の人とはまだ少しはまともにコミュニケーションを取っているようだが、女の人とは本気で関わろうとしない。拒絶に近い態度をとっていた。噂では、有力な門閥貴族の家で厄介者扱いされていたと囁かれていた。原因はわからないが、女の人に免疫がないせいだとか、なんであれきっとろくなやつじゃないだとか、面白おかしく勝手なことを言われていた。
リィンは、学園内でもかなり有名な
もしかしたら、情報通な貴族たちは何か知っていたのかもしれない。しかし、その情報を知っているはずの者たちから、全く情報が漏れなかった。つまり、それは外部に流布されること自体が危険な秘密であるということを意味する。こんなの怖くて当たり前だ。彼女に積極的に関わろうとするものはほとんどいない。
一部のものは、彼女はこの学園を創った軍府のお偉いさんの娘ではないかなどと騒いでいた。確証もなにもない噂だが、少し前、奔放な彼女を叱るために呼びつけた講師が退職させられたことで、不気味な説得力を持ち始めている。
だから、味方が誰かわからず、孤立していた私たちが組からあぶれた2人をみたときには正直「げっ」とか思っちゃった。
だからどうせなら利用しようと、
私たち姉妹は、私が【観測】を行い、妹が【再現】を行うことで、
妹が苦しみだしたときは、本当に怖かった。今まで色々な魔術を真似させられてきたけど、あんなことにはならなかった。行使できないことはあっても、苦しむことはなかったのだ。何かされたのかも、と思った。警戒を怠らないようにしよう、とも。
でも、今はうっすら信じてもいいのかもしれないと思っている。全く我ながら単純な思考回路だ。
「………!!できた!!」
上手く土塊を操作できるようになった。急な方向転換とかは難しいけど、一つの方向に動かして、ゆっくり止めることができる。
「お〜!凡人にしては習得早いんじゃないの?努力賞あげる」
「ふむ、この様子だと魂魄の魔術領域にはまだ余裕がありそうだな。もっと高度な魔術も使えるんじゃないか?」
2人も各々の言葉で祝福してくれた。少し先に習得していた妹もすごく喜んでいる。正直、すごくすごく喜んでいる自分がいる。
その後、私たちは解散した。ユーがその後も魔術の講釈をたれはじめたところ、リィンが生徒会の仕事があるとかなんとか、ワタシも暇じゃないだのなんとか言って止め、そのまま捨て台詞を吐きながら去っていった。
クスリと笑ってしまう。
「ねぇ、リリエ」
「なぁにぃ?姉さん」
日が傾きはじめた誰もいない廊下で、私は半身たる妹に話しかける。
「あの2人は、信じてもいいかもしれない」
〜〜〜(※リィン)
俺は3人と別れた後、ある個室に入った。そこには見知った顔の女子生徒がいた。うん、あの教師風アサシンのオーヂを引き渡したときの軍府の諜報員だね。
「お疲れ様です」
「あぁ、あなたもお仕事お疲れ様〜。で、さっそく本題の情報共有に移るよ」
仕事モードに切り替える。仕事仕事、仕事。首に紐でかけた黒く光る直方体が、今は少し煩わしい。普段は見えないようにしているが、見えていないだけでずっとつけている。ワタシの身分を証明する大事な大事なモノだ。
「やっぱり学監会会計、龍亀家のフェイは、すでに学内にかなりの規模の情報網を張り巡らせてる。なんらかの協力者がいると思う」
「次に会長、麒麟家のフィーシャだけど……。今のところ特に動きはないかな。むしろ、会長を狙ってるやつが一定数いる。勢力はたぶんマチマチ」
「あと最後、これは完全に偶然なんだけど……。
「双子とはいえ、姉妹そろって【先祖返り】っていうのはちょっと不自然だと思う。それに、たぶんなにかしらの事情を隠してそうだった。まだ全然わかんないけど、一応報告」
【先祖返り】というのはそうポンポン起こることじゃない。そりゃそうだ。そんな簡単に平民が【先祖返り】するのなら、古い血を継承し続ける貴族がそんなに力を持ち続けられるわけがない。
ましてや双子に【先祖返り】が起こるなんて、凄まじい確率だ。見たところそこまでの脅威は感じなかったが、それでも厄ネタには違いない。
「以上!!新しい情報はこのくらい。どうせ後は本職の人たちが裏取ったりしてくれるんでしょ〜?ワタシの仕事はこれで限界っ」
「了解です。上に伝えます」
少しいつもより口数の少ない、疲れた顔のワタシを見て何を思ったのか、扉を開けてどこかに去る前に彼女はワタシに言った。
「どうかお身体に気をつけて、あなたは軍府の大事な大事な英雄、《黒鍵》のお一人なのですから——学園の理事長も、他の黒鍵も、最高司令官も——あなたのことを見守っています」
日の傾きはじめた学園の中、リィンの胸では、首からかけた直方体がいつもどおり黒く輝いている。
なんかミニコーナー的なもの作りたくなったので作ってみました。
まだ本文には書いてない魔術的な能力もあるのでなんとなくで読んだり読まなかったりしてくれたら嬉しいです。まだ2人だけですが各話ごとに別のコーナーやったり、同じコーナーの他の設定ことを書いていきます。
多少は後から設定変更あるかも……。
★魔術に関するステータス的なもの★
●リリア・モンファン
魔力量 : C
精密性 : D
干渉力 : C
干渉容量 : D
身体強化 : C
特殊 = 擬魔(観測): A-
(魔力傾向 : なし)
●リィン・カーネシア・■■
魔力量 : EX
精密性 : S+
干渉力 : A
干渉容量 : ■(▲▲▲▲▲)
身体強化 : F(使用不可)
特殊 = ▼▼ : ?
(魔力傾向 : 風?)
追記 : 魔術と関係ない情報ミスって書いてたので消しました。
ミニコーナーは割と適当なので許して……。