結局、フェイが家に来てから時は流れ、ついに学科交流会当日になった。
朝。会長の威厳がありながらも柔らかい開会の演説(略)が終わり、正式に学科交流会が開催される。
一応演説の間は後ろから、会長に危害を加えるものがいる場合に備えて警戒していたが、それは杞憂に終わった。
……結局あれから会長と仲直りできていない。家のことについて触れられたときに大人げない態度をとってしまったことについて、謝ることが未だにできていないのだ。
どんな間柄であっても、感謝や謝罪はできる間に伝えるべきだ。どんな要因であれ、関係が終わってしまえばそれは叶わなくなる。これは俺が前世と今世で学んだことの1つである。
しかし、きっかけを見つけることができずに実行に移せていなかった。この優柔不断さがあるからこそ、前世で学んだことを今世でも学び直すハメになっているのかもしれない。
演説を終えた会長が演説台から降りてこちらを振り返る。一瞬目が合うと彼女は少し気まずそうに目を逸らした。
学科交流会の初日は、なんとも煮え切らないまま始まった。
〜〜〜
「さてさてさて、それで、ここが歴史博物館かぁ……。いやはやすっごいねぇ。いち学科がこんなものを用意できるなんて、軍府の力って偉大だ〜」
フェイの言う通り、文化研究科の歴史博物館は、一介の学園のいち学科にすぎないはずの出し物としては驚くほどの規模を誇っていた。
これにはさきほどフェイの言っていたとおり、学園の創立者である軍府の権力の大きさも要因の一つではある。しかしそもそもこれを主催する学生たちの親に有力な門閥貴族や士族が多いということも大きな要因といえるだろう。子の活動を通して一族の力を誇示する、いかにも貴族らしい行動だ。
「みてみて、こんなのもあるよ! 『聖剣の欠片』だって。大昔から白虎家に代々伝わる戦利品なんだって! 特別公開らしいよ。こっちには昔使われてた伝説の杖が!」
フェイは視覚的にすごさがわかりやすい、【歴史的な宝具】コーナーにさっさと行ってしまった。お〜い、こっちの早々にスルーされた【食糧の歴史】コーナーとかも面白いぞ〜。
ん?フェイが展示された数々の宝具を見て、う〜んと唸っている。
「こいつらの資産価値ってどのくらいだろ……?」
おい、金勘定しようとするな。水族館の魚を見て『美味そう』って考えてるやつと同レベルだぞ。
………
「おお!!これが前言ってた【原種魔族の遺骸】ってやつだね?」
目の前には、翼の生えた巨大な虎のミイラが鎮座していた。その体躯は4mほどの大きさで、先に虎とは述べたものの、その骨格をはじめとした身体の各所にヒトの面影を感じさせる造形をしていた。
「へ、へぇ〜。これが
どうみても化け物なこのミイラに、フェイは気圧されているようだ。それはこの巨大な怪物が自分たちの上に立つ、畏怖と敬愛を抱くべき存在であることを、本能で感じ取っているからかもしれない。
「
「ここまで形の残っている原種魔族の遺骸は珍しいよ。ま、落ちぶれたザコ門閥貴族家が御大層に大事にしてたものを軍府が貰い受けたって感じ〜?」
ううむ、興味深い。ここまでヒトと違う見た目で、ヒトと交配が可能だったということもそうだけど。どれほどの代替わりを経れば、このような怪物が今の人間に近い見た目になるのだろうか。いや、むしろ天華連邦ができて4000年経った今でさえ、ヒトでない特徴を有していることの方が面白いのかもしれない。
案外、混血の二代目くらいですでにほとんどヒトだったりして……。
「お〜〜い、お〜〜い。なんか自分の世界入っちゃってね?」
やっぱり自分の知らない知識を得るのは楽しい。前世もよく知らない分野の科学知識をインプットするために色んな分野をかじっていたのを思い出す。専門家ってほどでもないし、どこかに発表するでもないけど、色々見て聞いて考えるのが好きだった。
「うんともすんとも言わないな。……ほっぺつねってみようかな。怒っちゃうかなぁ」
転生してはじめのころは、この世界の魔術や法則を考えるのが楽しくて、小さい頃は色々やったものだ。物理法則は前世と違うのか、文化はどうだ、生活は、道徳は、価値観は。特に魔術にはとても興味をもった。まぁ魔術なんてものがあるとわかれば、サブカル好きなら当然興味が湧くだろう。
「うん……? 何これ?
簡単な物理学の実験なんかをして、物理法則を確かめようとしてたっけな。懐かしい。
ってうわ!近い近い近い。
どうした?というか俺に触ろうとしてる?
「ワタシのご尊顔になにしてんの?」
「へっ? あっ、ごめん……。全然動かないからつい、イタズラしたくなってぇ……」
てへへ。と頭を掻いてるフェイ。すまん、俺のせいだ。放置プレイしてしまった。
「いや、これはワタシの悪い癖のせい。考え始めると要らないことまで考えちゃって。じゃあ、もうちょっと見てから前言ってたフリーマーケットにでも行こ」
「お! おっしゃきました〜っ! 何探そっかな〜?」
その後、少し老けたコウに激似の偉人の絵を見つけ、2人でさんざん笑って、博物館を離れた。
さらに移動した先のフリーマーケットでは、おそろいのブレスレットを買ったり、危うくフリフリの服を買わされそうになって逃げたり、屋台で謎のお菓子を買ってシェアしたり……、存分に友人?との時間を楽しんでお開きとなった。
「ほんじゃあまた明日〜! 今日は楽しかったわ!」
「思ってたよりもいい時間だったよ。合格点あげる♪」
「ひぇ〜、採点厳し〜。再挑戦だねこりゃ」
離れていくフェイに手を振る。フェイが見えなくなった後、俺はこれからの予定を考えていた。
このまま寮に帰るというのも味気ない。
……よし! どうせなら適当に歩いて、気になるところに入ってみよう!
………
●技術開発科の展覧会
たくさんの魔術を活用した兵器のほかにも、魔術と組み合わせて日常を便利にするさまざまな道具案やその試作品が紹介されていた。
屋外でのマナー違反防止のための『立ちションを検知して歌を歌う魔道具(?)』が、他の魔道具によって生成された水で誤作動し、全魔道具で大合唱しはじめたときは謎にツボって笑いをこらえるのに苦労した。
他には、偶然見つけたコウが脚のロボットみたいなやつを使って身長を高く見せようとしていた。明日フェイに共有してイジってやろう。ちなみに周りに人がたくさんいたから話しかけられなかった(
●魔術理論科の発表会
たまに面白そうな内容もあったが、大半がすでに魔術論文で読んだことのある内容だった。論文雑誌を読みすぎたかもしれない。しかし以前はこんなお堅い発表は人気ないだろうと予想していたが、けっこう人がいる。勉強熱心な人が多い、というか似たような意欲と興味ある人がけっこう多いんだろうな……。
とか感心してたのだが。『尿に近い温度の水を探知する』とかいう妙に既視感のある馬鹿みたいな発表ポスターが会場の隅の方に貼られており、最短の伏線回収に頭が痛くなった。絶対にこれ参考にして作ったなあの魔道具。
●アイドルっぽい部活の小規模ライブ
なんとなくふらっと立ち寄って見ていたら、アイドルの中の一人に既視感を覚えた。なんか見覚えのある女子生徒なんだよなぁ、と思って見ていると、そのアイドルの発した冷静かつ落ち着きのある声で急に思い出した。
いやあの人、俺の仕事の報告を聞いてくれてる軍府側の諜報員じゃねぇか!!
何してんだよあんた!!
よく見るとだいぶ露出高い衣装を着ているというか、悪魔みたいな尻尾も合わせてサキュバスにしか見えない……。うわっ踊りはじめた。
真顔で♡ポーズ作ってるよあの人。
あああぁ今度仕事の報告するときに絶対思い出してやばい。
………
ふう、けっこう回ったな……。もう帰ってゆっくりするか。それともミミック姉妹と恐怖症くんでも探してみようか。
日はすでに傾いており、地平線から茜色が空に向かって滲み出し始めていた。
これからどうしようか思案しながら学園を回って、校舎をウロウロしていたところ、窓越しに教室の中にいる恐怖症くんを見つけた。
声をかけようとしたが、そこには他にも数人いた。遅れて教室の扉に看板が立てられているのを見る。……《基底論理探究部》か。パンフレットでは見なかった名前の部活、つまり学園に提出されていない非公認の部活だろう。そういうものはけっこうある。人気のないものから、意味不明なので許可が出ていないもの。そういった部活たちも、この学科交流会の雰囲気に紛れて勧誘を行っているのだ。
……カルトサークルとかじゃないよな? 名前的には大丈夫そうだけど、こういうのって往々にして偽装してるもんだからなぁ。
恐怖症くんが騙されていないか不安になっていると、当の本人はコチラに気づいたようだ。ニマニマと笑みを浮かべて手を振ると、彼は一瞬固まったあと、観念したように扉から出てきた。
ガラリ。
「は? ユー氏!! その女の子は誰ですかナ!?」「も、も、もしかして彼女とか!?!?」「なんだと!!」「うわっ、カワイイ……!」「おい私にも見せなさい」「チクショウお前だけずるい!!」
ピシャン!!
……ガチャリ。
素早く扉を閉めたユーは、魔術で強制的に扉に鍵をかけていた。
一瞬なんかワチャワチャした声が聞こえたが、気の所為だということにしておく。たぶんカルトサークルじゃなさそうってことだけはわかった。うん。
「何の用だ? 用がないなら帰ってくれ。うちの馬鹿どもが煩くなる」
「え〜〜? いけずぅ。別に用がなくなって会いに来てもい〜じゃん。もうお互い知らない仲じゃないんだし」
「本当になにもないのか……」
呆れたみたいな溜息をついたユー。暇で悪いか? 俺そんなに友達いないんだよ(鬱)。お前だけ仲間(?)とつるみやがって!!
「ミミック姉妹も見つかんないしさぁ。暇で暇でしょ〜がないの。ワタシの暇つぶしに付き合ってよ」
「……わかった。とりあえずここを離れよう。アイツらがいると気が散る」
ユーが指をさす方を見ると、窓に男子学生たちが張り付いていた。ヒエッ。
………
あたりもすっかり暗くなってきたが、まだまだ学科交流会は終わらない。魔術によって輝く灯の光が辺りを照らし、昼と変わらぬ活気で続いてゆく。さながら夏祭りの夜のような雰囲気だ。
ユーと一緒にミミック姉妹を見たかどうか聞き込みを行ったところ、皆が口をそろえて会長と一緒にいた言っていた。いやなんで???
しかしミミック姉妹は
……ちなみに陰キャ二人かつ片や女性恐怖症、片や傲岸不遜メスガキという多大なるコミュニケーションデバフを受けているため、聞き込みは相当に難航したということだけ述べておこう。というか合流からだいぶ時間がたったのは完全にそのせいです。
目撃証言を追っていくと、ついに交流会の喧騒から少し離れた、人通りの少ない場所にあるベンチに座っている二人を発見した。一緒にいたと聞いていた会長は見当たらない。もう別れたあとか?
二人ともうつむいていて、顔が見えない。人気のない場所でうつむく二人に、どことなく暗い雰囲気を感じてしまう。会長が二人に何かしたのだろうか? そんな悪い人には見えなかったけど。
「「だ、だいじょうぶ(か)?」」
びくりと体を震わせた二人はこっちをみて、数秒惚けていたものの、同時に何かを覚悟したように口を開いた。
「私たちの秘密を話すから!」「あなたたちの秘密も教えてほしい!」
辺りが静まり返った。二人は緊張した様子でこちらか目を離そうとしない。
驚いて固まる俺たち二人を前に、覚悟的な何かが徐々に消えていく。
「い、いやっ。別に、聞いてくれるだけでも、いいん、だけ、ど」
……そんな失敗したみたいな感じを出されても、そもそもあまり状況がつかめていない。どうしたものか。そもそも秘密とは何を話せばいいのか。
「秘密とはそもそもなんだ? それに、本当に何か聞きたいことがあるのならそちらが先に話すべきだろう?」
容赦なさすぎるだろ。絶対何かあったんだって! こういうときは事情を話してもらえるかをゆっくり確認というか。
正論パンチを受けたリリアは「うっ」となっていたが、少し落ち着きを取り戻したようで、ぽつぽつと話し始めた。
「ごめん。焦りすぎてた……。たぶんなんとなくわかってると思うけど、私たちにはちょっと特殊な事情ってやつがあるの。それで、その、いろいろあって」
「わ、わたしたちに、魔術おしえたり、よくしてくれてるふたりにくらい、相談しても、いいんじゃ、ないかってぇ」
「「それに」」
「「同じくらい学科で
……なるほど。いろいろ言いたいことはあるがまずは一つ。
たぶん今、となりのユーと同じこと考えてる。
「「失礼じゃね?????」」
~~~(※フェイ)
仮設された学科交流会運営本部室。そこには現在学科交流会で発生した生徒間のものの売買に関する情報などをせわしく処理する会計、フェイの姿があった。
日もすっかり暮れ、一日の売上に関する書類が舞い込んできたことで書類作業に追われているのだ。そこに一人の男が突然現れた。
「失礼します」
その男がこの場に現れるまで、フェイはまったく気づけなかった。書類仕事に集中していたとはいえ、まるで本当に今ここに瞬間移動したように、気配を感じなかったのだ。
「おっ、チョンっちじゃん。お疲れ様。」
チョンは情報科の学科代表だ。彼は中肉中背で、どこにでもいそうな男に見える。きっと学科交流会の中に彼の姿を見ても、雑踏の中に消える彼のことなど誰も気に留めないだろう。
しかし、彼は学科代表である。学科の代表に選ばれるほどの才をもちながらも、彼の認知度は異常なまでに低い。フェイにはそれが少し恐ろしいことのように感じた。
「あなたもお疲れ様です、
――だが、彼は味方だ。フェイの実家である龍亀家から領地を与えられた士族の出身で、この学園に先んじて入学していた、龍亀家と懇意にしているものの一人である。
つまり実質的に、フェイは情報科を掌握していた。
「なんの用もなく来たってわけじゃないんでしょ。――なにかあったの?」
「それはもちろん、なにかありましたよ。細かく、普通なら無視してもいい違和感ですが」
これを見てください。と広げられた資料を見る。
何やら名前がずらりと並んでいる。
「学科交流会の来訪者リスト……? なんでこんなもの。いや、この名前の横のマークはなに?」
「これは、本日の外部からの来訪者の中で挙動が怪しかったものをマークしたものです」
「っ!?」
学科交流会には学園外部の人も参加することができる。この学園に入学を目指すものが学園の雰囲気を味わったり、単純にイベントとして楽しみに来る人もかなりの数が存在する。
「この学科交流会の開催期間中、その入園ゲートは情報学科の管轄です。また、不審者の発見も同じ」
「我々は些細な行動や受け答えから、一応怪しいものをマークしておりました。諜報学を学ぶものからすれば、細かな表情の動き、声の揺らぎからある程度の違和感は感じ取れます」
さすがだ。学生の身でありながらすでにかなりの技術を修めているのだろう。しかしながら。
「それでも、それがどうしたの? 言いたかないケド、この学園にスパイとか日常茶飯事っしょ。今更注目すべきこと? もちろん注意すべきなのは当然だけどさあ」
「――――
「別途、調査を行いました。このマークしたものたちがどこから来たのかです」
チョンはまたも何かの資料を取り出すと、目の前に広げた。そこには、どう調査したのだろうか、先ほど見た何十もの名前のほかに、それぞれの予想される出身地が記載されている。
天華連邦、商業国家ティレイア、神聖民主国家ヒエロポリス、蒼きボンジル=カーン。それにもっとたくさんの国々の名前と、その中の出身地が書かれていた。
「――こいつら、国籍がバラバラすぎる! それにこの中に、学園に近い出身地のやつが一人もいない!!」
何かが起こっている。少なくとも偶然と楽観視できるような情報ではない。
懸念が本当なら、数人のスパイが入り込んでいるような状態ではないことは確かだ。
「対応策を考える! サポートして。まずは軍府に連絡!!」
フェイは爪を噛む。嫌な予感がする。
それは奇しくも、実技講義においてリィンが姉妹に感じたモノによく似ていた。
外では学科交流会の喧騒が今なお響いている。
――学科交流会はまだ初日。闇はまだ潜んだままだ。
プロフィール
●リィン・カーネシア・■■
年齢 : 16
身長 : 145cm
好きなもの : 知識、優しくしてくれる人、甘いもの、サブカル
嫌いなもの : 病気、殺すこと、孤独、自分、一部を除く家族
●フェイ・メイリェン・
年齢 : 16
身長 : 161cm
好きなもの : お金、お母様、お父様、お兄様、お姉様、妹
嫌いなもの : 敵、苦いもの、虫
●ヨウ・ハオ・
年齢 : 16
身長 : 158cm
好きなもの : ロ マ ン !!、魔道具、機械
嫌いなもの : ロマンを無駄と切り捨てる愚か者、野菜、運動、横暴
※作者はハッピーエンドが好きです。なので主人公も幸せになります。