僕と絵画と美術館。   作:亜莉守

11 / 24
「僕にとってはこれでした。もう二度と(...)やりたくありません」

―――中学編。第一話
   時系列:中学二年生の終わり頃。冬の学芸会的な何か



中学編。
黒歴史と呼ばれるものは誰にでもあるわけで


 

「すまん! 吉井、助けてくれ!!」

「はい?!」

 

これは僕にとっての美術館以上の悪夢の始まりだったなんてその時の僕は思わなかった。

いや、美術館も結構怖かったよ? でもね、恐怖と悪夢って意外にも別なんだよね。

 

―――まあ、そんなお話です。

 

 

                   ★

 

土下座のごとく明久に頼み込んでいる青年、彼の名は桐木修一 生粋の演劇馬鹿だ。その熱意は学校でも有名で、無名だった演劇部を全国レベルの舞台にまで昇格させるほどの手腕の持ち主だ。

 

「どうしたの?」

「実はな……」

 

修一が説明するには舞台の背景が足りないらしい。ついでに言うなら役者も

 

「背景は手伝うけどさ、役者は無理だよ?」

「いや、今回は新人たっての希望でとある曲を題材にした芝居をするもんでな。歌が上手い奴がやってくれるとありがたいんだ。おまえ、音楽の成績良かっただろ?」

「嫌だね。お断りさせていただくよ」

「そういうなよ。正体ばれないようにするからさ。な、頼むよ!」

 

懇願の声に一瞬ぐらりと来る明久、なんだかんだで彼はお人好しなのだ。必死で頼まれたら大体のことは断れないくらいに。

 

「………本当にばれない?」

「ああ、演劇部(ウチ)の技術の粋を結集させよう」

「………しょうがないか、やるよ。ただし、ばれたら今度から手伝わないから」

「助かるよ」

 

                   ▼

 

昔々、人間に恋をした人魚のお姫様が居ました。彼女は人魚たちの中でも飛び切り麗しく他人にも優しかったので、海のみんなから好かれていました。ただ、お姫様は一言もしゃべりません。微笑むことはあっても声を上げて笑うことはありませんでした。

 

人間に恋をした彼女は深い森の奥に住むという魔女へと会いにゆき、人間の足を手に入れました。彼女はさっそく人間へと会いに行こうとして、その途中で倒れてしまいました。人間の足で歩くことはずっと魚の足で泳いでいた彼女には辛いことだったのです。

 

目覚めれば彼女は知らない場所に居ました。そこにやってきたのは猟師の青年です。その猟師の青年こそ彼女が恋をした相手でした。彼は笑います。

 

「嬢ちゃん、気が付いたか。何でまたあんたみたいなのがこんな薄暗い森の中に居たんだ?」

「……」

 

彼女は生まれて初めて自分から喋ろうとしましたが喋れません。声が出ないのです。ずっと喋らないでいたへいがいとでもいうやつでしょう。

 

「ん、そういうことか。あんたも苦労してんだな」

「……(こくこく」

 

何かを察したらしい猟師は頷き、また笑いました。その笑顔を見て彼女も笑いました。

その後、彼も彼女も幸せな日々を送っていました。でも、その幸せもある日、終わりを告げるのです。

 

「すみません。一晩の宿を貸していただけないでしょうか」

 

そうたずねてきたのはかなり上等な服を着た青年でした。彼は一目見た途端に彼女のことが好きになってしまったのです。彼は彼女に言い寄りますが彼女は全く相手にしませんでした。いえ、相手にできなかったと言った方が正しいかもしれません。彼女は喋れないのですから。

 

その後、しばらくして。この国の王様の家来がやってきて、彼女を連れて行ってしまったのです。連れ去られた彼女が連れて行かれたのは王様と彼の息子の前でした。そう、あの上等な服を着た青年は王子様だったのです。

 

言い寄る彼を彼女は頑に拒みます。彼は温厚で優しかったので彼女の思いを真摯に理解しました。そして、彼女が自分のものにならないことも悟ったのです。しかし、彼の父親は違いました。彼は生まれたときから王様でした。望んだものが手に入らないなどあってはならないのです。息子を拒絶した彼女を彼は牢屋へと閉じ込めてしまいました。

 

来る日も来る日も牢屋に閉じ込められた彼女はようやく出るようになった声で歌を紡ぐのです。愛おしい猟師への愛を。その心は今まで父親のなすがままだった王子の心へと届きました。彼はこっそりと彼女を逃がしたのです。彼女は逃げました。愛おしい猟師の住む森へ

 

戻ってきた彼女を見て、猟師は喜びました。彼もまた彼女が帰ってくることを望んだのです。彼と彼女はこうしてまた穏やかな生活に戻ることは……ありませんでした。彼女が逃げ出したと知った王様が追っ手を差し向けたのです。彼女と猟師は逃げ出します。森の奥へ奥へ、その先には湖がありました。とても澄んだ水です。まるで溶けそうなくらいに。そう、二人が思った瞬間、二人は水面へと吸い込まれてしまいました。沈む彼女に水の中の生き物たちが囁きかけます。

 

『人の足など捨ててしまえばいい』

『そうすればあなたは生きられる』

『このままではあなたは死んでしまう』

 

それでも彼女は彼と一緒に沈む道を選びました。

 

 

時は変わって少し昔、一人の少女が水面を眺めて歌いだしました。

 

                   ★

 

「……あれって、明久よね?」

「だと思う。立ち振る舞いや雰囲気は全然違うけどあの歌い方は明久だよ」

「そうじゃない? でも、女の子よりも女の子らしいって…ギャリーに似てきたね」

「どういう言う意味かしら?」

 

劇を見ていた三人が口々に言いだす。

三人から少々離れて座っている一団が居た。

 

「ぶっ、くくくくくっ」

 

赤いやや長め髪に赤い目の少年が笑う。思いっきり爆笑したいらしいが場所が場所のため押さえているようだ。

 

「ゆーじ、笑っちゃダメだよ?」

 

水色の長い髪に水色の目をした少女が赤い少年をたしなめる。

 

「すげー。もう、あれは歌姫ってことでいいんじゃねーか?」

 

茶色い短髪にやや銀入りの茶色の目の少年がちょっとぽかんと口を開けて言う。

 

「だと思うな。声も女っぽいし」

 

黒の短髪に黒の細目の少年が頷く。

 

「違うのですよ。ぽいではなく限りなく女性に近い声なのです」

 

白い髪をツインテールにした赤目の小学生ほどの少女が何やら機械を持って測定した結果を言う。

 

「ま、人の夢は壊すべからずってことで身内だけの秘密な?」

「「「おう」」」

 

男性陣から同意の声が出る。まあ、立場的にもどうかとは思うし?

 

「はいなのです」

「そうだよねー。アッキーにしてみればばれていないって思っているんだろうし。でも、ボクたちを甘く見ないでほしいなぁ」

 

どうやら演劇部の技術の粋を集めたごまかしは身内以外(....)には効いていたようだ。

その後、明久は仲間内から『姫』というあだ名で呼ばれるようになったことを追記しておこう。

 





※作中に歌をベースとしたと書きましたが、原型ほぼとどめていません。
 わかる人が居たらびっくりです。

そんなわけで明久が『姫』と呼ばれる由縁です。『歌姫』ってことで。
女装して人魚姫役やっていました。普通の人が見たら普通に女の人だって思うレベルです。男だってわかる人が凄い。上記にあるように今では明久は女装も人前で歌うのもあまり好きではありません。


※またもや一発書きです。誤字脱字がございましたら報告お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。