ある灰色の雲の多い日。
僕は母さんに連れられて、ワカメみたいなのが頭に生えた人と会った。
「直接会うのは本当に久しぶりね」
「そうね。この子がうちの息子、明久よ」
「こんにちは、アタシはギャリー。あなたのお母さんのお友達よ」
「こんにちは、ギャリーさん」
「あら、あんたに似ないで礼儀正しい子ね」
「似ないでは余計よ」
なんだか知らない人を見ている気分だった。普段の母さんだったらしないような顔をしている。
「ギャリー、頼んだわよ」
「じゃ、行きましょうか。ゲルテナ展」
「! 本当?」
「ええ、お母さんから頼まれたからね」
嬉しくて飛び上がりそうだったことをよく覚えている。作品集を見てからずっと行きたかったんだっけ? 今はもう勘弁してほしいなぁって思うけど。
ギャリーに連れられて美術館へと向かう。そういえばギャリーって基本的に年取らないよなぁ。八年たったのに全然外見が変わってない気がするよ。
「大人一枚とこども一枚で」
「かしこまりました。パンフレットをどうぞ」
受付の人からパンフレットを貰ってさっそく美術展を見始めた。
右も左も作品集に乗っていた絵ばかりだ。楽しそうにしているとちょっと眉をひそめたギャリーが僕にささやいた。
「あんた、こんなのが趣味なの?」
うーん、今なら絶対に違うって言い返せたけどあの時は本当にどうかしてたんだと思う。
「うん。楽しいよ」
そう思わず答えて、走ろうとした僕の腕をギャリーが掴んだ。あの時は痛かった。
「―――っ」
「走らな……あら、アタシ強く握っちゃった?」
「だ、大丈夫だよ」
姉さんからその前の日折檻を受けて体がちょっとボロボロだったんだよなぁ。顔色の悪さが気になったらしくギャリーはその後もずっと大丈夫か大丈夫か聞いてきたけど、心配かけたくなかった僕は大丈夫と言い返した。
「あら、この絵」
『吊るされた男』の絵の前でギャリーは立ち止った。何でギャリーは立ち止ったんだろう? あの時も今もよくわからない。いくら声をかけても反応しなくなったのでしょうがないから一人で行くことにした。ある意味ここが運命の分かれ道だったのかもしれない。
ふらふらと作品を見ていると茶色の髪に赤い目の女の子とすれ違った。親とかいないのかなぁ? まあ、後々まで仲良くなる友達だったんだけどあの時は何も思わずにただ居るなぁって思ったんだよね。
「この絵………」
僕の目の前にあったのは黄色の薔薇に囲まれた女の子の絵だった。随分とさみしそうな顔をしてるって思った。本当に寂しかったんだろうなぁ。今じゃあんなに明るくて面倒見のいい子になったけど。
見ていると時間を忘れそうだった。ふと振り向けば、見覚えのない場所に居た。どこだここ? 子どもの落書きみたいだ。
「ここどこ?」
呟いた言葉もむなしく消えて………気が付けば花瓶のある部屋に居た。
美術館の延長線上のような部屋はずっと続いている。光のある方へと行ってみた。顔を覗かせればその美術館には姉さんがいて、血眼になって僕を探しているようだった。怖くなって、暗い方へ足を進めれば、背後の光は消えて僕は指定席と書かれたソファーが置かれた部屋へと迷い込んだ。