木の葉の里の化け狐とババァ   作:眠りたい時だけ手が進む人

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夜王

突然だが、木ノ葉が平和で居られるのは里の力が強いからというだけではない。他国とて尾獣を内包する人柱力を擁し、中にはそれを自在にコントロール出来る者まで居る。対して、木ノ葉は九尾という尾獣の中でも特異な存在を所有しているがその人柱力はまだ忍びにすらなっていない子供だった。

 

木ノ葉という列強を打ち倒せば、その忍び里の権威は大きく向上する。同じ思いを持つ忍び里同士で同盟を組めばジャイアント・キリングぐらい引き起こせるのではないか。普通はそう思うだろう。

 

しかし、他里にそれが出来るのであれば木ノ葉に出来ない道理はない。

 

 

木ノ葉には同盟を結んだ相手として、風の国の忍び里…豊かな土地はなく日々を生きることすら難しい砂の大地にて根強く生きる強い精神性を持つ忍び達の里、砂隠れの里があるのだ。

 

 

故に、木ノ葉への対抗馬は無いに等しい。

 

なにせ砂隠れには尾獣を半コントロール出来るある子供に加えて、とある一大勢力があったからだ。

 

その男一人だけで忍びの世を終わらせることが出来るのではないか、そう謳われる男が…

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

「…というわけで、我ら砂隠れは木ノ葉に一大決起を起こします。貴殿にもその戦いに参戦して欲しい所存なのです。」

 

 

砂隠れの里の外れ。

そこには、オアシスがあった。飢えた男を癒すオアシスが。水だけではない、湯水のように女達がそこには居た。

 

そこは眠らない夜の街。太陽が昇ることはなく、常に闇が街を覆う欲望と恩讐渦巻く情欲の街。

 

"遊郭"だった。

 

 

そしてこの突拍子もない決意を固めた"四代目風影"であるこの男はその街に欲を満たしに来た…のではない。この街の支配者に協力を仰ぎに来たのだ。それも、護衛もつれず。

 

しかしそれほどの誠意を見せなければ砂隠れの里の長と言えどこの街の支配者に会うことは叶わない。そしてこの男の協力さえあれば、木ノ葉崩しの成功は夢物語ではなくなる。

 

 

 

 

 

「…フ……酒の肴にするには興が冷めるつまらぬ話を持ってきたな、風影よ。」

 

 

 

 

 

その男は老いていた。老いて尚、風影にも勝るとも劣らぬ品格と王たる威厳を帯びていた。

衣服の隙間から覗く傷だらけでありながら衰えているようには見えない屈強な肉体からは王であった以前、戦士であった時代が垣間見える。

 

 

 

「このわしに、キサマのくだらぬ欲の駒になれと。この夜王が、誰かの下につくと思っているのか?」

 

 

 

夜王。その名が示す通り夜の王。眠らない夜の街は、この砂漠のオアシスは飢えた者達の為にあるのではない。この男が為にある。

 

 

 

 

「この夜王───鳳仙が、木ノ葉を崩すのにキサマら砂隠れの力が必要だとでも?」

 

 

 

夜王、鳳仙。

砂隠れが一大勢力。否、この男一人で勢力足りうる。

 

ある日突然現れたこの男は偵察に来た忍び達を鏖殺。寄る辺もない女達を囲い夜の街を築き上げた。

 

その正体は雷影の隠れた兄弟だなどと噂されていたが正体は定かではない。だが日光の下を歩く姿を誰も見たことがないことから、この男は陽に嫌われているのだと揶揄されていた。

 

 

「……は。」

 

「火影も、その里の忍びも、恐るるに足らん……わしが恐れ、厭い、嫌い、憎み、恨むのはただ一つ……太陽のみよ。」

 

天上天下唯我独尊。その言葉を地で行くように驕りきった、しかし確かな実力で裏打ちされた発言をすると傍らに侍らせた女中から注がれた酒を呷る。

鳳仙の発言に、"風影"はただ頷くのみだった。

 

「……だが、1つだけ。ある事をするのならばキサマらに協力してやらんこともない。」

 

「…なんでしょう?」

 

"風影"が質問すると同時にその顔の横を赤錆た番傘が高速に飛来していく。

ズッ、と重い音を響かせて番傘が背後の壁に突き刺さるとそれに合わせて"風影"の顔にキズが出来、そこから皮膚が崩れていく。

否、正確には…顔が、僅かに剥がれた。

 

 

 

「この夜王を謀らんとするとは愚かな……何者だ。名を明かせ。」

 

 

風影だったモノの皮が剥がれていく。その中身が、蛇のような瞳が顕になっていく。

 

 

「流石は砂隠れの里が恐れた個人……感服致しました。」

 

 

その男は風影ではなかった。風影の皮を、肉を纏っていたが、風の国の忍びですら無かった。

その男こそ、木ノ葉崩しの真の黒幕。木ノ葉の里に尽くしながら里を追われ国を追われ、歪んだ形で木ノ葉へと帰らんと目論む蛇。

 

名を───

 

 

「大蛇丸、と申します。今は音の忍びでございますれば…」

 

恭しく敬礼する大蛇丸に鳳仙は鼻白む。その男が蛇のように、その見せ掛けの敬意の下に暗く重い欲を隠しているのだから。

 

「…風影も耄碌したものよ、こんな男に取って代わられるとはな。これならば奴の息子ばらの方がまだ見所がある……安心せよ、わしはこの事を一々漏らすほど器量の狭い男ではない。」

 

風影が殺されており、他里の、それも犯罪者に成り代わられているという事実。砂隠れに所属するものならば報告し即刻大蛇丸の抹殺に動くものだが、夜王はそうはしない。そうする必要もない。

砂隠れの里にあって砂隠れの里ではないこの夜の街では夜王こそが法律でありルールなのだから。

彼がそうすると言えば、この街ではそうなる。安堵したように大蛇丸が微笑んだ。

 

「流石ですわ、私もまだアナタとやり合うような事はしたくなかったのです。」

 

「フン、木ノ葉を崩す前にわしに殺されれば計画も何もないだろうからな。……して、聞かせよ。なぜキサマは木ノ葉崩しを目指す?」

 

幾人もの忍びを葬ってきた血塗れた手で器を弄びながら、同じく血に濡れているであろう大蛇丸に問い掛ける。

間を置かず大蛇丸が答えた。その声色に嘘偽りはない。

 

 

「風車はね、回っている方が面白いんですよ…停滞したもの、回らない風車ほどつまらないものはないでしょう?」

 

「ふん……」

 

「私はその風車を動かす風になりたい…それだけです。」

 

「………良かろう。この夜王、鳳仙。目障りな火は絶やしたいと思っていたところよ。」

 

大蛇丸の回答に満足したらしい夜王が、決意を固めたように席を立つ。夜の王が獰猛な獣と化す。

 

「…来る決戦の日はもう暫し先です。時が来ればアナタを来賓として招待致しましょう。」

 

 

 

悪の胎動。絶対的だった木ノ葉の火を揺るがす冷たい風が巻き起こらんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そういえば、私からも一つ良いでしょうか?」

 

「なんだ。」

 

「どうして私が風影でない、と見抜けたので?」

 

「…眼よ。風影の小童とは違う、飢えた眼。幾ら欲せど届かない。幾らその身を血に濡らしたとしても乾く飢え。わしと似たものがあった。それだけよ。」

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