お登勢。その名前を知らぬものは木の葉隠れの里には居ない。
人々の暮らす表の世界にも、ドロドロとした暗雲渦巻く陰謀だらけの裏の世界にも、その名は知れ渡っている。
更には、その名前は他の隠れ里にまで広がっている。
「木ノ葉隠れの里の顔役と言えば?」と聞くと、木ノ葉隠れの里では火影の次の2番目にその名前が挙がり、他里では1番目にその名が挙がるほど。
老若男女、彼女に抱く感情が様々であれ。少なくともお登勢の名は火影や大名に並ぶ、或いは凌ぐほどのものになっている。
お登勢。本名は寺田綾乃。
火影をも凌ぐ優れた忍術を持つわけでも、栄えた名家の血筋というわけでもない、単なるスナックを経営している普通のババァ。
そんな、顔岩に拝むぐらいならこのババァに金をせがんだ方が幸せになれるとまで言われるババァのスナック。
九尾の化け狐を抱えるそのスナックが、当然ながらただのスナックなわけがなく……
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「よぉーし決めたぞカカシぃ!!今日はこのピスタチオ一粒で酒瓶を何本開けられるかで勝負だ!!!!」
「バカ言うんじゃないの…あぁ、ちくわぶ一つ。」
バカしか寄り付かないと言われるスナックお登勢。綺羅びやかという言葉とは程遠い侘しい店内に反して、夜になれば不夜城もかくやと言わんばかりのお祭り騒ぎなこのスナックに、今日もまた忍者が二人。何れも手練れ。
一人は、マイト・ガイ。木ノ葉の碧き猛獣。或いは珍獣。全身緑色のタイツの齢三十を超えんとする青春熱血先生。
一人は、はたけカカシ。コピー忍者のカカシ。或いは写輪眼のカカシ。"木ノ葉隠れの白い牙"と恐れられた、はたけサクモが子。
見るものが見れば恐れをなし、聞くものが聞けば竦み上がる、里でも実力ならば上澄みに近い二人。
「ココハオデン屋ジャネェンダヨハナタレ小僧!!頼ムナラシャンパン二シロコノ白髪野郎!!!」
そんな二人を前にしても恐れるどころか従業員としても嬢としても接客態度に難のありすぎる、お世辞にも可愛いとは言えない女性の名はキャサリン。スナックお登勢の重鎮(自称)。
「えっ、シャンパンなんて置いてあったの?」
「あるわきゃないだろうこんな貧相な店に……ここで言うシャンパンってのは、焼酎を炭酸9で割った隠しメニューだ。価格は焼酎の倍にしてあんだよ。シャンパンって言われりゃ出してやることにしてんのさ。」
カウンターで煙草を嗜みながらそう答えたのは、このスナックの女将お登勢。言わずと知れた、クソババア。
「……あぁ、そういう……」
「ちょうどいいや、おでん屋じゃねぇのは確かだけどおでんなら出してやれるよ。」
「エッ、マサカアノ"クソガキ"ガ昨日作ッテタヤツデスカ!?ヤ、ヤメトイタ方ガイイデスヨオ登勢サン、下手シタラ保健所案件デスヨアンナ小汚イ若造ノオデン!?」
「保健所に来られて困んのはアンタだろ泥棒猫。……ほら、無料でいいよ。払うとしたらお布施として払いな。」
「……これは、まさか?」
「あぁ、うちのクソガキの作ったおでんだよ。…つっても、市販の出汁を使って、市販の具材を使ったなんでもないおでんだけどね。」
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はたけカカシにとって、"うずまきナルト"とは。
恩師を殺した九尾の人柱力であり、その恩師の忘れ形見でもある。
複雑な感情こそあれど、アカデミーの担当教師同様彼を恨むことは無かった。
但しどうにもプライベートでは顔を合わせる気になれず、このスナックお登勢に来るのも彼の顔を見に来るためであるが、来るタイミングは決まってナルトが早寝をしている日である。悪戯の後片付けをして、疲れて眠ってしまうのが早い日。
そんなナルトと、間接的に接触することになったとも言える。
料理とは、人の一面。その人間がどういった性質なのかを表している、と言える。
ナルトは、果たしてどんな子供だろうか。
消すべき九尾の人柱力か、或いは護るべき恩師の子か。
それを口にして、思ったことは。
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「………」
「当ててやろうかい、カカシ。」
「……どうぞ。」
「"優しい"、だろう?」
「……えぇ、随分と優しい味だ。」
「…言っとくけどね、アイツに何かあったら…あたしだって黙っちゃ居ないよ。」
「出自も過去も人柱力も関係ない。……一つ屋根の下で、一緒の釜の飯食って、バカな話で笑い合った大事な家族さ。」
「…分かってますよ。分かりました。」
「また明日来な。今度は逃げないで、ちゃんと目ぇ見て話してやんだよ。」
「……参ったな…」
ワタシ、難しいハナシ、かけない。