こんにちは。左之助です。
前回は奇跡かと思わせるような運命的な出会いを果たした2人でしたが今回はどんな事が起きるのでしょうか。
それでは2話目、どうぞ。
「三葉。三葉。」
俺は何度も口にする。
忘れたくない人の名前を。
忘れたくなかった人の名前を。
「三葉がなんだってぇ?立花くん?」
「、、あ、あぁ!すみません!」
「本当に大丈夫なのかい?体調。今日はすこしおかしいぞ?立花。」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
俺はそう教育係である齋藤あずささんと会話を交わす。
あの階段で起こった出来事の後、俺たちは名前だけ聞いて別れた。
三葉。彼女はそう口にした。
「、、、はぁ。」
いつものように溜息を吐くがその要因はいつもとは違う。
ずっと悩まされていたあの気持ちはどこかにいってしまって、
今はただ、ただもう一度彼女に会いたい。
そんな思考のみが脳を支配する。
「、、、なんなんだよ。この気持ちは。」
今日はどうにも仕事に身が入らない。
◇◆◇◆◇◆
「瀧、瀧くん。」
私は何度もその名前を口にする。
忘れてない。
絶対に忘れない。
きっともう忘れない。
心のどこかでそう確信する。
「・・・の、あの!」
「は、はい!?」
「あ、あの、こういうのってもらって嬉しいと思いますか?」
「えっ?」
うちの店で指輪を買った少年がそう尋ねてくる。
黒いTシャツに黄色いポーチ。
まだ東京という色に染まっていない可愛らしい少年。
彼はここで3時間ほど悩んだ末にこの指輪を購入した。
きっと好きな子にプレゼントするのだろう。
いいなぁ。とか、私も、、など焦りを、虚しさを感じる。
今までの私なら。
でも、今の私は何故かそんなもの感じない。
いや、彼、今朝出会った瀧くんという男性を知ってから何故か心のどこかにあった寂しい隙間はどこかに消えてしまった。
「君、ここで3時間も迷ってたもの。私だったら凄く嬉しいです!頑張ってください。」
心の底からそう言える。心の底からお客さんに笑顔を向けれる。
それが凄く嬉しくて、楽しくて、本当の接客というものはこんなにも楽しいものなんだと実感する。
今日はなんだか仕事が楽しい。
彼にもう一度会ってお礼、言わないと。
◇◆◇◆◇◆
「、、、はぁ。」
今日は災難だった。脳裏にずっと彼女がいて、仕事に集中出来なかった。
あの声。
あの笑顔。
あの髪紐。
彼女の全てが写真を撮ったかのように鮮明に脳裏に浮かぶ。
「、、、まさかな。」
一瞬 ”好き” という単語が浮かんだが流石に名前だけしか知らない彼女の事を好きにはならないだろう。
そんなことを思考しながら電車に乗り、いつも通りの満員電車に揺られ、電車を降り、ボーッとしながら帰路につく。
「きゃっ、、、」
俺は正面から近づいてきていた女性にぶつかる。
「あ、あの!すみません!つ、つい考え事していて、、」
「い、いえ。こちらこそ、少し上の空で、、」
そうお互い顔を見合わす。そこには・・・
◇◆◇◆◇◆
「、、、はぁ。」
今日は凄く楽しかった。思い悩んでいたことがびっくりするほどに綺麗さっぱり晴れ、いつも貼り付けていた笑顔を本物の笑顔にすることが出来た。
ただ、1つ彼にもう一度会いたい。
それだけが今日の心残り。
彼。瀧くん。立花瀧くん。
私になにかをくれた人。
私の心を満たしてくれた人。
でも、きっと私たちは会える。
そう思いながら職場を離れ最寄り駅に向かう。
鼻歌を歌いながら。
「きゃっ、、、」
私はスキップ混ざりでルンルンで歩いていると目の前にいた男性に気づかず正面衝突してしまった。
やってしまった。
最後の最後で今日イチのミスをしてしまった。
「あ、あの!すみません!つ、つい考え事していて、、」
「い、いえ。こちらこそ、少し上の空で、、」
どこかで聞いた事のある声の主の顔を見る。そこにはやはり、、、
そこにはやはり
◇◆◇◆◇◆
「あ、三葉。・・・さん。」
「た、瀧くん・・・さん。」
お互い慣れない敬称で名前を呼ぶ。
また会えた。
こんなの奇跡なんじゃないかと思えるほどの偶然。
でも、これはきっと必然なんだと、会うべくして会ったのだと何故か思う。
「と、とりあえず立ってくださいよ。怪我、してませんか?」
そう言って俺は彼女に手を差し出す。
「あ、はい!大丈夫です。そちらこそ怪我とかしてないですか?」
そう言って彼女は手を取る。
暖かい。
初めてなのに何度かこの手に触れたことがあるように感じる。
少しの間その場には沈黙が流れる。
しかし、その沈黙を破ったのは彼女の声だった。
「あ、あの?」
「あ、ああ!すみません。」
彼女は少し恥ずかしそうに顔を紅く染めていた。
何を話せば、、、
会ったものはいいものの何を話せば良いのかわからない。
その場には再び沈黙が訪れる。
ただ、何故かその沈黙は気まずくなく、彼女と面と向かっているだけでなにかが満たされるような、そんな気がした。
しかし、いつまでも黙っているわけには行かず、俺はその場に流れていた暖かな沈黙を破る。
「よ、よかったら少し歩きませんか?」
幸いなことに近くには大きい庭園がある。
「もちろん!」
彼女は嬉しそうに返事を返してくれた。
そうして俺たちは入口を通る。
”新宿御苑”
東京屈指の巨大庭園。
そこだけ栄える東京に取り残されたかのような趣深い風が吹いている。
俺たちはそうしてある場所に行き着く。
大きな池のそばにあるベンチ。
長いベンチなのに俺たちは至近距離で座る。
お互い手が触れてしまうほどに。
池に桜。
月に虫の音色。
こんなにも心安らぐ景色だというのに、俺の心はどうしてこんなにも踊り狂っているのだろう。
「よかったらなにか買ってきますよ。ここ、座っててください。」
「あ、いえ!おかまいなく!」
彼女は遠慮するが俺はその言葉を聞こえないふりをして近くの喫茶店に向かう。
頭を、心を冷ます必要があるのだ。お互い。
◇◆◇◆◇◆
「はぁ。」
彼は飲み物を買いに行ってくれた。
申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、少しそうしてくれて助かった。
今にもこの胸がはち切れそうなほど心が鼓動していた。
この心を落ち着かせないと。
そう思いながら周りの風景を眺め、スマホのシャッターを切る。
美しい。ただそれだけを思わせるほどの光景だった。
風は少し冷たく、でも、確かに季節が流れていることを知らせてくれる風。
そんな風に飛ばされヒラヒラと踊るように舞い、池を自分色に染める桜の花。
それを明るく照らす明るい月に素直に色を受け止める池。
そんなステージに合うかのように演奏している虫の大合唱。
その全てが私を魅了するかのように調和しあって存在している。
ただ、それでも私の心はまだ冷めない。
残りの熱は文明の利器に頼ることにする。
そう思い、私はスマホのロックをあけSNSを開く。
「、、ダイジン?」
ランキング入りしているひとつに興味が湧きその項目をタップする。
「か、かわいい!」
そこには白い猫が1面表示された。
くりっとした目に、
自立している綺麗な耳。
それから右目の周りには黒色が入っている。
投稿されている写真のほぼ全てが閲覧者を魅惑するかのようにポージングをとった写真。
その猫のおかげで私は落ち着きを取り戻すことが出来た。
私は一息深呼吸をして再び彼の事を考える。
それだけなのにまた心が暖かく火照ってくる。
「、、、まさかね。」
こうなる理由がいくつか思いつくがそのひとつに ”好き” という単語が頭に浮かぶけどそんな訳ないでしょ。
だって今朝会ったばかりなのだから。
歩いてくる音が聞こえ、そちらの方へ視線を向けるとそこには帰ってきた彼がいた。
待ってましたと言わんばかりに再び心が踊り出す。
◇◆◇◆◇◆
と、言うわけで2話目終了でございます。
またまた運命的な出会いを果たした2人。
いやはや、やはりムスビというのはそう簡単に切れないものですな。
ところでみなさんお気づきでしょうか?
そうです。今回は新海誠監督の他作のキャラ、場面を登場させました。
指輪を買う男性に、雨の日必ず訪れ靴をデザインする場所、それから生意気だけれどすっごく可愛い猫。
我ながら少し頑張りました。
次回もいくつか登場させたいと思ってます。
気づいてくださいね。