ユミアのアトリエ―導きの錬金術師と異界の狩人 作:サバ缶みそ味
シリアスも苦手だぜ!(ヤケクソ
「ブガオオオッ!!」
アンジャナフが咆哮し、大口を開けて地面を抉りながら突進をしてきた。レクスは迫るアンジャナフを迎え撃つように前へ、そして背中に背負っている大剣『鎧怨鬼大剣ムダンオウ』を抜刀し、力を溜めて振り上げる。
「あらよっ!」
大剣の刃とアンジャナフの牙がぶつかり『ガッ!』と鈍い音が響く。衝撃を受けて弾かれたアンジャナフは仰け反るが倒れることなくレクスめがけて鋭い牙をむき出しにして噛みつく。
「むんっ!」
レクスはアンジャナフの猛攻を大剣で受け止め鍔迫り合いに持ち込んだ。獣竜種の脚の力は強く、アンジャナフが一歩一歩押し込んでじりじりとレクスに圧力をかけていく。
「ふぬおぉぉっ!」
レクスも負けじと力を込めて押し込み、レクスの馬鹿力とアンジャナフの剛力がぶつかり合う。
「レクスさん!援護しますっ!」
ユミアがすかさず杖銃を構え、アンジャナフの頭部を狙って銃弾を撃った。いつもの銃弾では弾かれていたがバスンッと頭部に直撃しアンジャナフの押し込む力が一瞬緩んだ。
「よし、今だ!そいやっ!」
レクスは緩んだ隙を逃がさず大剣に力を込めて振るい、アンジャナフを押し返す。
「ブルオォォッ!?」
「からの追撃っ!」
更に仰け反って怯んだアンジャナフに向けてクラッチクローを放ち一気にアンジャナフに接近すると大剣を横に薙ぐ渦流斬りを放った。
「ユミア、ナイスアシスト!」
「うん!レクスさんの銃弾ならモンスター相手にも戦えそう!」
前回よりも手応えがあり、新しい武器なら戦えることにユミアは自信を持った。
「ガルルォッ!」
アンジャナフは標的をヴィクトルとアイラに変えて連続した噛みつきで襲い掛かる。ヴィクトルは盾で受け流し、アイラは躱して反撃で槍を突く。
「衝撃が少ない…!この武器ならモンスターに苦戦を強いられなくてすみそうだ」
「まだ重さに慣れてないけど、使いこなしてみせるよ!」
「うん3人ともその意気だ。でもアンジャナフは顎の力だけじゃなく筋力も強いから油断は禁物。あと怒った火を吹くから気をつけて」
「「あれ火を吹くの!?」」
アンジャナフが火を吹くことにユミアとアイラはぎょっとした。見た目からして火を吹くような風貌ではないのだが本当なのかと訝しげに見る。
「だとしたら植物園内での戦闘だと植物に飛び火しかねない。まずは広い場所へおびき寄せる必要があるな」
「それだったら……」
レクスはその辺に落ちていた石ころを幾つか拾いスリンガーに装填しアンジャナフに接近した。
「ブルオオォッ!」
アンジャナフはレクスを狙って噛みつこうとしたがレクスは前転して噛みつきを躱しながらクラッチクローを展開しアンジャナフの顔めがけて発射しアンジャナフの顔に接近する。
「こいつをくらえっ!」
石ころを全弾発射し、その衝撃でアンジャナフを明後日の方向へと走らせた。以前アケノシルムに放った所謂ぶっとばしかと思ったが、石ころの数が少なかったのか壁にぶつかることなく勢いは止まってしまう。
「よし…みんな、急いで走るぞ!」
レクスは追撃すること無く植物園の出口へと走り出した。ユミア達はぽかんとしているがすぐさまブランがユミアを引っ張る。
「アンジャナフは気性が荒い。狙った獲物をしつこく追いかける習性があるんだ。旦那さんはアンジャナフをわざと挑発したから……すっごく怒って追いかけてくるよ!」
「ブオオオオオッ!!」
ブランの言う通り、アンジャナフはギロリと睨み咆哮をした。鼻の部位から突起物が隆起し、背中に翼膜が展開され、喉元が薄ら赤く発光し口と鼻から炎が漏れ出てしており、レクス達を追いかけ始めた。
「キレたぞ!走れ走れ走れ!!」
「本当に火を吹くのか!!」
「ちょっと!?めちゃくちゃ怒ってるんですけど!?」
「というかレクスさん!怒らせて追いかけさせるなら早く言ってくださいよ!?」
レクスに続いてユミア達も急ぎ走り出す。後方からは怒れるアンジャナフが大口を開け、壁や樹木の障害部を破壊しながら追いかけている。ようやく出口へ差し掛かり外へ出た瞬間、アンジャナフが助走をしてユミア達めがけて大きく跳んだ。
「跳んでくるぞ!避けるんだっ!」
「わかった!」
「「ひゃああああっ!?」」
ヴィクトルは落ち着いて、ユミアとアイラは焦りながらダイブするように緊急回避した直後に自分達のいた場所に大きく跳んだアンジャナフが着地。少しでも遅れていたら踏みつけられていた。
「あ、危なかったぁ……」
「あの図体で跳んでくるとか、反則でしょ……!」
「みんないい緊急回避だったぞ!」
素直に喜んでいいのか、少し複雑ではあったが今は戦闘に集中しなくては。
「ブルオォッ!」
アンジャナフが横に回り込んで大口を開けて噛みつく。前に出たヴィクトルが盾で防ぎ受け流した。
「っ!この盾の重さを活かせば…!」
カウンターで盾を使ってアンジャナフの頭部を狙って殴った。以前より重さがあり、動きが遅くなってしまったが手応えがある。
「その調子!アンジャナフの喉元に火の粉を溜め込む部位があり、怒ると『炎熱蓄積状態』になるんだ。噛みつきと同時に炎を出したりブレスを放つがそこが弱点にもなる。頭部を攻撃し続ければ衝撃で内部で爆発しダウンするぞ!」
「了解した。集中的に狙う!」
アンジャナフが数歩下がり身体を使ったタックルを放つ。ヴィクトルは盾で防ぎ、レクスはタイミングを合わせてタックルでいなす。
「アンジャナフの脚は丈夫だが傷をつければこかすことができる。立ち回りに気をつけて攻めていけば大丈夫だ!」
「オッケー!そこは私に任せて!」
「ボクも援護するよ!」
アイラはブランの投げるブーメランの援護と同時にアンジャナフの脚を狙って槍を振るう。
「グルルルォッ!」
しつこく脚を攻めるアイラやに向けてアンジャナフは足蹴をし、頭部を狙うヴィクトルやレクスに向け勢いをつけて尻尾で薙ぎ払う。アイラはアンジャナフの足蹴を避けることはできたが尻尾の薙ぎ払いによって起きた風圧に怯んだ。
「わっ!?風がっ!?」
その隙を逃さないアンジャナフの口から炎が強く漏れ出し始める。
「旦那さん!ブレスがくるよ!」
「まずい、アイラが狙わてるっ!」
アンジャナフは数歩下がり大きく息を吸って口から勢いよく炎のブレスを吐いた。燃え盛る炎はアイラめがけて飛ぶがレクスが前に立ち大剣で炎のブレスを防いだ。
「レクスっ!!」
「レクスさんっ!」
「うおおおっ!あっちぃぃぃぃっ!!」
刃から伝わる熱と隙間から炎がわずかにかかるがそれでもレクスは炎のブレスに耐え続ける。
「ヴィクトルさん、レクスさんを助けないと!」
「ああ!ユミア、急ぐぞ!」
ユミアとヴィクトルは炎を吐き続けるアンジャナフに迫る。
「これをくらえっ!!」
ヴィクトルがアンジャナフの下顎めがけて盾によるアッパーカットをぶつけ、衝撃を活かしてパイルバンカーを放つ。
「ブルオオッ!?」
強い衝撃を受けたアンジャナフは頭を上へ仰け反り、炎のブレスを吐きやめた。そのアンジャナフに追撃するようにユミアが高くジャンプをし、改良したブーツにマナの力を込めた踵落としを放つ。
「はああああっ!!」
宙返りをし勢いをつけた踵落としはアンジャナフの頭部に炸裂。頭部に衝撃を受けたと同時にアンジャナフの口内で赤い光が一瞬強くなり鼻から勢いよく炎が漏れ出すとアンジャナフは悲鳴を上げてダウンをした。
「わ、わあ……踵落としでアンジャナフをダウンさせちゃった……」
狩人でも武器で殴ることで炎熱蓄積状態のアンジャナフをダウンさせることはできるが踵落としでダウンを取ったユミアにブランは目を丸くする。
「でもすごいよユミア!ダウンしているアンジャナフに畳み掛けるよ!」
「やるなユミア……アイラ、大丈夫か?」
「う、うん。ありがとうレクスさ……って、レクスさん!?肩が燃えてるっ!?」
「え、あっちぃっ!?こ、転がれば鎮火するから今のうちに畳み掛けるんだ!!」
飛び火した炎を前転しながら鎮火させるレクスに驚きながらもアイラ達はダウンしているアンジャナフに迫り攻めかかっていく。
アンジャナフが起き上がり、頭を大きく振り上げて近接するレクス達を追い払う。
「タックルからの溜め斬りっ!!」
レクスはアンジャナフの攻撃にタイミングを合わせてタックルでいなし、力を溜めて強溜め斬りを放った。大きな爆発と同時にバキリと音をあげてアンジャナフの頭部に傷が入る。
「ブルオオォッ!!」
しかし部位破壊されてもアンジャナフは攻め手を緩めず大口を開けて地面を抉りながら突進をしてきた。
「ちょ、ま、力尽くかっ!?」
焦るレクスはアンジャナフの突進をもろに受けた……かに見えたがレクスはタイミングを合わせて体をきりもみ回転するかのようにダイナミックに回避した。
「危なかったぁ……!」
レクスはほっと胸を撫で下ろしたが一部始終を見ていたユミア達は目が点になっていた。
「ちょ、今の回避は何!?」
「明らかに今の直撃してたよね!?」
「あれがジャスト回避だよ。アタリハンテイ力学に基づいた直撃するタイミングに合わせた回避の仕方なんだ」
「い、所謂僕達のいう見切りみたいなものなのか……?」
そんなことをしている内に再びアンジャナフは咆哮をし喉元を薄っすら赤く光らせた炎熱蓄積状態に移る。
「ブルルォォッ!」
アンジャナフはユミアの横へと回り込んで噛みつく。ユミアは咄嗟にアンジャナフの牙を躱すが口から漏れ出た炎が僅かに飛び火した。
「っ!あちちちっ!?ふ、服に焦げ跡が…!」
ユミアはキッと睨むと杖銃を構えてアンジャナフの頭部を狙って何度も銃弾を撃った。
「この服、予備がないんだからねっ!」
「ゆ、ユミア……私が直してあげるよ?」
「そこは錬金術で直さないのか……」
ユミアを援護するようにヴィクトルとアイラはアンジャナフの頭部を集中的に攻める。しかしアンジャナフも同じ手をくらわまいと頭部を守りながら足蹴したり尻尾で薙ぎ払って追い払う。
「くっ!なかなか狙わせてくれないか…!」
「いたっ!?足蹴がしつこいっ!」
蹴飛ばさるも受け身をとり立て直したヴィクトルを狙ってアンジャナフが唸り声をあげながら勢いよく頭突きを振り下ろした。
「ヴィクトル危ないっ!」
レクスがヴィクトルを押し、代わりにアンジャナフの頭突きをくらう。地面に叩きつけられたレクスを追い打ちをかけるかのようにアンジャナフは噛みつき持ち上げた。
「うそ!?レクスさんが食べられちゃう!?」
アンジャナフはレクスをガジガジと噛みながらその場から離れようとし始めた。
「旦那さん!こやし玉っ!」
「すまん、持ってくるの忘れたぁっ!!」
「ちょっと!?食べられかけてるのに悠長に話してる場合じゃないよ!?」
「レクスさん、今助けますっ!」
ユミアは新たに作った槍の形をした魔物退治の道具『プラジグ』を展開させると助走をつけてプラジグをアンジャナフめがけて投槍のように投げた。勢いよく飛んだプラジグはバチバチと黄色い雷光を帯びて雷のような光となってアンジャナフの体に突き刺さる。
「ギュルオオォッ!?」
雷のダメージを受けたアンジャナフは怯み、噛む力が弱まる。
「旦那さんを離せっ!」
怯んだ隙にブランが勢いよくかけて跳び、ネコトンカチの一撃をアンジャナフの頭部にぶつける。
「ブルルォッ!?」
受けた衝撃でアンジャナフはレクスを振り落とし、レクスは上手く着地し再び武器を構えた。
「っと!ユミア、ブラン助かった!」
「えへん、いい一撃だったでしょ!」
えっへんと胸を張るユミアであったが、雷の一撃に癪に障ったかアンジャナフは大きく息を吸って鼻から炎を薙ぎ払うように吹いた。
「うわっと!!口だけじゃなくて鼻からも!?」
「っ!多彩な炎の出し方だな!」
アイラは慌てながらも躱し、ヴィクトルは盾で炎を防ぐ。アンジャナフは尚も炎を吹き続けている。
「なんとかしないと…!」
屈んで躱したユミアは杖銃を構えて狙いを定める。狙いはアンジャナフの鼻腔。アンジャナフの吹く炎の熱気を掠めながらも集中して照準とタイミングを合わせる。
「……ここだ!」
タイミングを狙って引き金を引いた。その時、一度引き金を引いただけなのに銃弾が連続して放たれた。
「グルルォッ!?」
連続して銃弾が直撃し、アンジャナフは怯んで炎が吹き止んだ。
「……え?えぇっ!?」
撃ったユミア自身がかなり驚いていた。錬金術で新調した武器に知らないギミックが入ってユミアは焦りだす。
「おっ、ユミアの杖銃は速射ができるのか」
「そ、速射!?そんな機能知りませんよ!?」
「しゃがみ撃ちかと思ったが……大きさのせいか速射に切り替わったのかもな」
まさかレクスの世界のモンスターの素材や鉱石を使った影響なのか。後で耐久面や性能などをしっかり見直さなければ。
「おかげで反撃のチャンスができた!」
レクスは大剣を縦に円を描くようにぶんぶんと力を溜めて振り回す。一方でアンジャナフは大口を開けてレクスに向かって地面を抉りながら突進し迫っていく。両者がぶつかる寸前、レクスは振り回した勢いで高くジャンプした。
「うおりゃああああっ!!」
体を大きく捻らせその勢いで大剣を振り下ろす。大剣の重みを最大限に活かした強烈な一撃、『ムーンブレイク』がアンジャナフの頭部に爆発と同時に炸裂する。
「ギュルォッ……ブルルォォォッ……!!」
一撃をくらったアンジャナフはよろめき、弱々しく最期の咆哮を上げ、大きな音をたてて倒れた。
「……よし、討伐終了」
安全を確認しレクスは大剣を納めた。戦闘が終了しユミア達はほっと安心して武器を納める。
「でっかいモンスターだったけど、新しい武器で苦戦することなく戦えたね!」
「ああ、まだ課題はいくつかあるがこれならこの先のモンスターとの戦いもやれそうだな…」
アンジャナフとの戦いで今までに無かった手応えがあり、使いこなせていけば戦えると自信を得た。
「それにしても……ロックリザードの群れもアンジャナフもかなり気が立ってたね」
ブランが疑問に思っていたように、どのモンスターも妙に気が立っていた。
「確かに縄張りに足を踏み入れたのかもしれないけど……マナを晴らした直後の揺れが気になります」
「ふむ……この森で何か起きているのか。もう少し調べてみよう」
まだ森の奥に何かがいるかもしれない。十分警戒しつつロックリザードの群れとアンジャナフが現れた方角へと調査しに向かった。
森の奥へ奥へと突き進みながらも辺りを見回しながら何かあるか潜んでいないか慎重に調べていく。
レクスは先頭に立って導蟲が何か痕跡を見つけないか反応を見ながら進んでいくと、導蟲が一瞬赤く光を放つ。
「む…!」
近くにモンスターがいるのかもしれない。ユミア達に手で合図して更に慎重に、見つからないようゆっくりと進む先を覗く。
「うん……?」
覗いた先には後ろ姿ではあるが大きな翼に長い尻尾、明らかに竜の姿ではあるが、人と同じ大きさであり人と同じ直立した姿をした竜のような魔物が見えた。
「あれは――!?」
人のような竜の魔物の後ろ姿を見たヴィクトルが驚愕していた。ヴィクトルだけでなくアイラも目を見開いて絶句している。
「あの魔物――!」
2人の反応がレクスは気になっていたが魔物のしている行動め気になっていた。魔物の近くに青白い光が地面から湧き出ている所謂マナ間欠泉に、魔物は何か赤い液体のようなものが入った小さな瓶を使ってマナ間欠泉のマナを回収している。
「え?あれは……道具?」
一部始終を見ていたユミアは何か見覚えがあった。あれは錬金術士がやっているマナ間欠泉の残響片の収集と似ている。マナ間欠泉の光が消えると、魔物は脚を踏み込んで高く飛び立った。
「あっ…!」
魔物が飛び立った直後、アイラがすかさずヴィクトルの方へ視線を向ける。
「あいつ……絶対そうだった…!ねえお兄ちゃん!」
アイラは険しい剣幕で声を荒げていたがヴィクトルは魔物の姿に上の空だった。
「ちょっとお兄ちゃん!!」
アイラの怒気にヴィクトルはハッとする。
「あ、ああ……悪い」
「みんな!はやくあいつを追おう!」
アイラが険しい剣幕のまま先頭に飛んでいった魔物の行方を追いだした。レクスとユミアは2人のただならぬ雰囲気を感じながらも続いて行く。しかし進んだ先には何もなく、飛んでいった魔物の姿も無かった。
「ダメ…これ以上追えない……レクスさん!導蟲で追える!?」
「……すまない。魔物の痕跡が十分じゃないから追跡もできない」
魔物の行方を追えずアイラは悲しそうに俯く。
「……クソっ。どうして僕は肝心な時に……」
魔物の姿を見て動くことが出来なかったヴィクトルは悔しそうに拳を強く握りしめる。
「あ、あの……どうしたんですか一体、こんなにも血相を変えて……」
今までになく感情が荒げになっている2人にユミアは尋ねた。ヴィクトルとアイラは顔を見合わせ頷く。
「……お兄ちゃん、話しておこうよ。私達が、あの日見たこと」
「ユミア、君もデューラー領出身で同じ事故を経験したんだったな……」
『デューラー領』と『同じ事故』と聞いてユミアはピクッと反応した。レクスとブランはどういうことか、あの魔物と何か関係があるのかと首を傾げる。
「あの魔物こそ……僕達が調査団に参加した目的。奴は、僕達兄妹の―――仇なんだ」
ヴィクトルの言葉にユミアは驚きを隠せないでいた。
「……詳しく聞かせても?」
落ち着いているレクスが静かに尋ね、ヴィクトルは頷く。
「3年前……ユーステラ共和国、デューラー領で大量のマナが溢れ出す爆発事故が起きた。突如として相次いだ爆発によって多くの人々の命が奪われた。僕とアイラも例に洩れず……その爆発に巻き込まれた」
「忘れもしないよ。突然轟音が聞こえたかと思ったら……次の瞬間には、天と地がひっくり返ってた……」
ヴィクトルとアイラにそんな命の危機に巻き込まれていた過去があったとは。レクスは拳を握りしめながらも静かに聞く。
「その時…火災に揺らぐ視界の先に、僕達は見たんだ……翼が生えた二本足の魔物を」
「もしかして、それがさっきの……」
「うん、間違いないよ。あいつの姿だけは、はっきり覚えてる」
アイラは俯きながらも目と拳に力が入り、悔しさが滲み出ていた。
「それに私はっきり見たんだ。あいつが地面に何かしたせいで、爆発が起きたんだよ」
アイラの言葉にユミアは目を丸くした。
「あの魔物が、マナ災害を……」
レクスはユミアの杖銃を握る力が強くなっていることに気付いた。
「うん……だからあいつは『仇』なの。領地を荒らして、たくさんの人の命を奪って……!許せない、許せるわけがない!あいつは絶対、この手で倒す…!」
アイラの声に、瞳に多くの人が、アイラにとって大切な人達が奪われたとレクスとブランは静かに頷く。
「エアハルト団長に助けられていなかったら、僕達も生きていなかっただろう……救われたこの命は、あの日護れなかった命のために…そう心に決めて今まで生きてきた」
「そういうこと、だったんですね……でも、領地に爆発を引き起こす存在って……」
そんな力を持つ魔物なんて存在していたのか、と感じていたユミアだったが、あの魔物がマナ間欠泉でやっていた行動にハッと気付いた。
「そういえばあの時、魔物が手に持っていたもの……エナジーコアに似てた……あの魔物、残響片を回収しているように見えました」
「残響片って……ユミアがマナ間欠泉でやってた、あれ?」
「うん、マナは死んで大地に還った命の記憶。残響片は、大地から溢れ出た記憶の残滓。私は残響片に刻まれた記憶を頼りに調合してレシピを編む。理由は全然分からないけど……少なくともあの魔物は『錬金術』を知っているはず」
ユミアの話にヴィクトルは静かに頷く。
「そうだったんだな……」
3年前のマナ災害を引き起こしたあの魔物は錬金術を知っていて、何かしらの力で爆発を引き起こした。僅かではあるが手がかりを得た。
「……ごめん、私情と任務を分けて考えないとね!暗くて重たい話はやめやめ!」
少し暗い表情をしていたアイラに明るい笑顔が戻る。
「あぁ、調査団の目的は奴を追うことだけじゃない。僕達の個人的な目的は、あくまで『ついで』なんだ。ここにいることが分かった。今はそれだけで十分だ」
いずれきっとまた邂逅するはず。ヴィクトルは静かに拳を握りしめつつ気持ちを切り替えた。
「ひとまず北のマナ領域の解消をしたこと、拠点の設置が出来そうな場所のこと、魔物のこと……全て団長に報告しに戻ろう」
「ユミアの拠点造りがまた見れるのは楽しみだなぁ。次はどんな建物にするのかな?」
ユミアも気持ちを切り替えて、次の任務と拠点造りのことに集中した。
「そうだなぁ……やっぱり森に合わせてログハウス的な……」
拠点造りの話題に盛り上がるユミアとアイラを見つめながらレクスはゆっくりと続いて進む。
「旦那さん……あの魔物のことだけど……」
「ブラン、わかってる」
あの魔物はアイラとヴィクトルにとっては仇の存在。自分達の世界でも大切な人をモンスターに奪われ、仇を討つハンターもいる。仇をとることには何も言及はしないし、力にもなってあげる時もある。
だが、一つ問題があった。
「あの魔物……人間のような雰囲気があった」
モンスター独特の野生の気配はなく、人間や獣人族のような理性ある気配を感じた。もし、魔物ではなく獣人族や人間のように思考し、理性があって行動するのであれば……自分は力になれない恐れがある。
「狩人の掟………この武器は、人殺しや戦争に使う武器ではない。だが……」
それでも、アイラとヴィクトルの力になりたい。
「ブラン、あの魔物と邂逅した時に問い詰めてみる」
あの魔物の本心を問い詰め答えを得た時、自分はアイラとヴィクトルの力になれるのだろうか。レクスは悩んだが、今は気持ちを切り替えることにした。
ワイルズの次のアプデ……ラギアだけじゃなくてしれっとバゼルギウスとかイビルジョーとかマム・タロトとか乱入してほしい
もっとモンスターが欲しい