ユミアのアトリエ―導きの錬金術師と異界の狩人 作:サバ缶みそ味
えっ、落下しても死なないんっすか!?
大自然が広がる未開の大陸、アラディス。嘗ては帝国として栄えていた大国であったが数百年前に起きた災厄で滅亡し誰一人として足を踏み入れることができない禁足地となってしまった。
この秘境と化したアラディスに足を踏み入れ大陸に秘められた謎を解明するため『アラディス調査団』が発足され調査が進められていた。
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アラディス調査団の一員である女性、ユミア・リースフェルトは半ば緊張していた。
この度調査団に入団することができたのだが同じ団員からは距離を置かれていたり、疎ましく思われている。その理由は彼女自身も分かっていた。
――自分は『錬金術士』だから
嘗ての帝国は錬金術師による技術で栄えていた。その栄華を誇る帝国が滅んだのは『錬金術』が関わっていたとされており、今や『錬金術』は『悪』であり『禁忌』とされ忌み嫌われ続けている。
そんな忌み嫌れた錬金術に彼女はなぜ錬金術は禁忌とされたのか、その理由と真実がアラディスにあるはずと考え、真実を知りたいという一心で入団したのであった。
そして今、その第一歩である、錬金術士のユミアの監視役として任ぜられた団員であるヴィクトル・フォン・デューラーとアイラ・フォン・デューラーの兄妹に錬金術とはどのようなものか知ってもらおうと、錬金術の披露の準備をしている最中であった。
団長に注意されてしまったのだが単独での探索で発見した嘗ての錬金術師が使っていたであろう屋敷ことアトリエにて準備をしていたのだが、肝心の錬金術に使う素材を回収するのを忘れてしまいどうするか悩んでいた。
「えーっと……ユミア、何か手伝おうか?」
そんな悩めるユミアにアイラがにこやかに尋ねる。
「う、うん……錬金術に使う素材を集めないといけなくて……」
「なーるほど。もうお兄ちゃんがしかめっ面で監視するからユミアが緊張してるじゃんか」
アイラは先程から腕を組んでしかめっ面でユミアを見つめるヴィクトルをジト目で睨む。
「む。仕方ないだろ、ユミアが行う錬金術とはどのようなものか、危険が含むものかしっかりと見ておかないと」
「もーそういうところが固いんだから……ごめんね、ユミア」
「ううん、大丈夫。私が行う錬金術をしっかりと見届けてもらいたいから」
この一歩はとても大事な一歩である。少しでも錬金術を知ってもらいたいため手を抜くことはできない。
「それで素材はどこで集めるんだ?」
「錬金術につかう素材ならアトリエの外にある草花やキノコ、水、鉱石でできますよ。あ、でも材質とかで錬金術に使えるかどうか区別しないといけません」
「材質かぁ……それならアトリエから下りたところにある水辺ならどうかな!昨夜の嵐で何か変わったものが流れ着いてるかもよ!」
昨夜に突然発生した嵐、豪雨には至らなかったが空が荒れ、雷が激しく轟き風が吹き荒れる激しいものであった。
「増水して流れが激しくなっているかもしれない。無闇に近づくなよ?」
「大丈夫大丈夫!危ない所までは行かないから。さ、行こユミア!」
アイラに引っ張られユミア達はアトリエを出てアトリエに向かう道中に通った水辺へと向かう。
昨夜の嵐による影響か川は増水していた。流れが激しくなっていないことが救いではあるが水辺には魔物が水を飲むために彷徨いていることがある。ヴィクトルは周辺に魔物がいないか警戒しつつユミアと妹を見守る。
「珍しい石とかなんか変わったものないかなー?」
「そう簡単に見つかるものじゃ……ん?なんだろうあれ……」
ユミアはゴツゴツとした岩場に見慣れぬものを見つけた。それは自分の身長よりあるかないかと言わんばかりの長く大きく、白と薄紫色の鞘に収まった鮮やかな刀だった。
「刀?いや、刀にしては長すぎるし、大きい……」
「大剣かな?でも細いし……ってなにこれ重たっ!?」
アイラが持とうとしたが以外と重かったようで持ち上がらず腕がプルプルしている。なぜ自然にそぐわない見たこともない形の刀がこんなところにあるのか不思議に思ったユミアはまだ何か変わったものがあるのかもしれないと辺りを見回す。
大剣のような刀のようなよく分からない武器の少し離れた岸辺に土汚れたマントに黒と褐色の色合いの鎧兜を纏った人が仰向けに倒れているのを見つけた。
「アイラ…!あそこに誰か倒れている!」
「大変…!急ごう!」
このままだと水辺に寄ってくる魔物に襲われるかもしれない。2人は急ぎ倒れている人のもとへ駆け寄った。
「見たこともない鎧姿……うちの騎士団でもなさそうだし、魔物の類とかじゃないよね……?」
「分からない……フラミィ、サーチを」
『わかりました。サーチを開始します』
ユミアは自分の直ぐ側に飛んでいるフラスコと電球のような形をし、中に炎を灯した物体こと自称『超高性能自律型探索補助装置』ことフラミィに倒れている鎧の人を解析させる。
『生命反応有り。気を失っているようです』
「それで、魔物なの?」
『体格、骨格からして男性。そしてユミア達と同じ人間と思われます』
「よかったー、見た目からして魔物かと思ったよぉ……」
『ですが、筋肉量からしてユミア達とは違う人間かとフラミィは判断します』
「私達とは違う人間?それってどういう……」
「アイラ、ユミア!!急に走り出して驚いたが何かあったのか!?」
フラミィに詳しく聞こうとしたところへヴィクトルが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!倒れている人を見つけたの!」
「見たことのない鎧姿だな……魔物じゃないのか?」
「いえ、フラミィにサーチしてもらったところ人のようですが……」
「………うう………」
すると鎧の男がぴくりと体を動かし首だけを起こす。
「目を覚ました!あ、あの!大丈夫ですか!?」
ユミアは慌てて鎧の男の体を起こして顔を覗かす。鎧の男はまだ朦朧としているのかじっとユミアを見つめる。
「……め、めっちゃびじん……」
鎧の男はそう呟くとガクリと再び意識を失った。言葉が通じず何と言ったのかユミアは分からなかった。
「し、しっかりして……!!」
『疲労が溜まっていたのでしょうか、眠っているようです』
「眠ったとしてもこのままにするのはよくないよね……お兄ちゃん」
「あぁ。一先ず拠点に連れてってその後に事情を聞くとしよう。鎧の人は僕が担ごう……って意外と重いな」
「ユミア、私達はあの刀か大剣みたいなものを持つの手伝って」
「こっちの武器もかなり重たそうだよね……」
ヴィクトルは鎧の男を担ぎ、刀のような大剣はユミアとアイラと二人がかりで持って調査団の拠点へと戻った。
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「ヴィクトル達か。以外と早く戻っ……って誰だそいつは?」
アラディス調査団の団長である白髪混じりの壮年の男性、エアハルト・ボールマンは調査団員を集めて会議している最中に戻ってきたヴィクトル達が気を失っている鎧の男を連れていることに目を丸くする。
「錬金術について知るための準備の最中にユミアが発見しました」
「こ、この大剣みたいな刀もですー!」
「お、重すぎる……!」
「ほほう………随分変わった防具に武器だな……」
見たこともない鎧姿の男を物珍しく頷きながら見つめるエアハルトに対し、幹部含め団員達はユミアに向けて『変なものを拾って余計なことをしたな』と言わんばかりの視線を向けていた。
「アイラ、ユミア、その武器はこちらで預かっておく。とりあえず鎧の人を救護室へ連れて介抱してやれ。ヴィクトル、ちょっと来てくれ。話がある」
「わかりました。2人はこの鎧の人を頼む」
ヴィクトルは気を失っている鎧の男をゆっくりと降ろし、2人に運んでもらおうとした。すると口元に髭を生やした調査団の幹部である男性がズカズカと近寄りユミアを睨む。
「余計なことを……運ぶのはいいが魔物だったらどうするつもりだ?」
「み、見たところ同じ人間のようですし魔物ではないから大丈夫かと……」
「魔物でなくとも姿からして盗賊かもしれん。こいつの所有している物も預かるぞ」
幹部の男性は鎧の男の腰に下げているカンテラのような物と腰につけているポーチを取外した。ポーチを外した瞬間、かなり重いのかポーチを落としそうになる。
「お、重たっ!?このポーチ、何が入っているんだ!?本当にこいつ人間か!?お前の判断も信用ならんな!」
「…………」
「……ユミア、とりあえず救護室に運ぼっか」
アイラは幹部に色々言われてしょんぼりするユミアを励ましながら二人がかりで救護室へと鎧の男を運んでいった。2人が救護室へ向かうのを見届けたヴィクトルはエアハルトへと視線を変える。
「団長、集まっているのはやはり……最近拠点周辺に増えだした魔物の件ですか?」
「察しが早くて助かる。そうだ、ここ最近になって急に魔物が辺りを彷徨き始めた」
昨夜の嵐より前から拠点の近辺に彷徨く魔物の数が増えていた。いつもならば拠点周辺より川上、または山や森林の奥地に生息するはずの魔物も目撃するようになり、調査がしにくくなっていた。
「特にグリムビーバーの群れがこの近辺に彷徨いてな。様子からしてまるで何かに追い出されたみたいだが、拠点に被害が被る前に何とかさしないとな……それともう一つ妙な魔物の姿も目撃されている」
「妙な魔物……?」
「目撃した団員の話じゃ『一本足の白い魔物』らしい。『一本足で跳ねるように動いていた』とか、『傘のような姿をしていた』とか……図鑑に載っていない未確認の魔物のようだ。近づいて蹴られたという団員もいる。妙な魔物も拠点に接近しているようでどうにか対処しなければと話をしていたところさ」
「本当に妙な魔物ですねそれ……」
そんな未確認の魔物に対して困っている最中にユミアが発見した鎧の男、それで皆がピリピリしているわけかとヴィクトルは納得した。
一本足の白い魔物……願わくば出くわしたくないと心の隅でヴィクトルは願った。
ユミア、大人しかわいいと思ったら悪ガキ感あるアグレッシブガールだったのか……だがかわいい!