ユミアのアトリエ―導きの錬金術師と異界の狩人   作:サバ缶みそ味

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19話 東への調査

「ユミア、アイラ、報告を聞いた。調査ご苦労だった」

 

 ヴィクトルがユミア達のいるアルボール植物園の拠点に赴きユミア達と合流した。

 

「お兄ちゃんの方は大丈夫?」

 

「ああ、魔物の群れを討伐した後は急ごしらえだがバリケードを作ったから問題ない。ただ……」

 

 バリケードを建てて流れ込む魔物を食い止めているがそれでも未だに流れ込んでいるようで少々手を焼いているとヴィクトルは疲労のため息をつく。

 

「お兄ちゃん、やっぱりちょっと休んだ方がいいよ?」

 

「大丈夫だ心配ない。いち早く調査をして原因を突き止めなくては……ところで、レクスの方はどうなんだ?」

 

「レクスさんは……例の謎の繭のところに」

 

 レクスはアルボール植物園の地下通路の先に見つけた広間にあったその白い大木についていた大きな白い繭を調べている。

 

「レクスさん、すっごく驚いていたよ。あんなに焦るレクスさんは初めて見た」

「『この世界では存在できないはず』って言ってた……レクスさんの世界では危険な存在なのかな」

 

「それは気になるな……僕達もレクスの所に行こう」

 

 ヴィクトル達はレクスのいる白い大木がある場所へと向かった。植物園の奥で発見された地下通路を通り、巨木に囲まれた苔が生えた広い場所へと辿り着く。

 中央に枝も葉も白い大木があり大木に巨大な白い繭の抜け殻がついていた。その白い繭の抜け殻をレクスとブランは唸りながら見つめており、隣にはウィルマとリヒトもいた。

 

「レクス……す、すごい真剣に見つめているな」

 

 ヴィクトルが声をかけるがレクスは物凄く真剣にしかも引く唸りながら腕を組んで繭を凝視している。

 

「わ、私達も呼ばれたんですけどずっとこの状態でして……」

 

 ウィルマは苦笑いをしてレクスを見つめる。これでは話が進まないのでアイラ達も声をかけることにした。

 

「レクスさーん!みんな待ってますよー」

 

「うーむ……」

 

「レクスさーん、ブランちゃーん!」

 

「うーむむ……」

 

「おいレクス……だめだ、かなり集中している」

 

「アイラ、ヴィクトルさん、ここは私が……あっ!あんなところにハチミツが!!」

 

「ナニィッ!?ハチミツだって!?いったいどこに……あっ」

 

 ハチミツと聞いて咄嗟に反応したレクスが振り返る。ムスッとジト目で見つめるユミアとアイラ、苦笑いをするヴィクトルとウィルマとリヒトを見て自分が彼らそっちのけで考え込んでいたとやっと気付いた。

 

「す、すまない。深く考えてた……おいブラン、みんな待ってるぞ」

「ウニャ?あっ!?いつの間にみんないたんだね!?」

 

「2人ともすっごく難しく唸って考え込んでたよ?」

「もしかしてこの繭は2人が悩むほど危険なものなのか?」

 

 ヴィクトルの問いにレクスは難しく悩みながら首を傾げる。

 

「これは……うーん……危険では、いや生態系にとっては危険にもなりうる……かもしれない」

 

「かもしれないって、歯切れが悪いですね」

 

「そこなんだ。もし、俺の考え込んていることが的中していれば……だがこの世界では存在できないはず。だから確証が得られないんだ。ウィルマさん、リヒトさん、このアラディスの伝承か噂話で『白い繭』または『白いモンスター』に関連するものはないですか?」

 

 ウィルマとリヒトは難しい顔をして考えたが2人は首を横にふった。

 

「私達が知る限りでは、それらに関連する伝承は知らないですね」

「アルボール植物園にこんな場所へ通じる噂話も聞いたことがない。調査団による調査で初めて発見された……アラディス帝国の時代でも滅びるまでずっと隠されていたのかもしれないな」

 

「もしアラディスの人間さえも知られないよう隠していたのだとすれば……相当危険なものだったのかもしれない。レクス、憶測でもいい。心当たりがあるのならば僕達に教えてくれないか?」

 

 ヴィクトルの問いにレクスは腕を組んで考え、ブランに視線を向けた。ブランはレクスの視線に応えるように頷く。

 

「旦那さん、知ってもらった方がいいと思うよ」

 

「そうだな……この繭は、俺達の世界にある失われた古代文明の技術にかなり似ているんだ」

 

 レクスの言葉にユミア達は驚愕した。まさかこの繭がレクスのいた世界と関連しているかもしれないとは思いもしなかった。

 

「こ、古代文明って……かなり古いの?」

 

「ああ。およそ1000年前に存在した『竜都』と呼ばれる古代文明があってな、その人々が造ったとされる失われた技術だ」

 

「造った……ん?ま、待ってください。『造った』とすればこの繭の中にいた『モノ』ってまさか……!」

 

 ユミアは先ほどウィルマとリヒトに尋ねた『白いモンスター』という言葉にハッとなり、焦りながらレクスに尋ねた。

 

「その通り……繭の中には『人が造り出した生命』がいた、かもしれない」

 

 衝撃の言葉に更にユミア達は絶句した。人間が生物を造り出す、レクスのいた世界にはそんな技術を持つ文明があったとは。

 

「人が生命を造る……そんなことができたのか!?」

 

()()()()()()()に造られた人に従う生物、『護竜(ガーディアン)』と呼ばれる。竜都の民はその技術で繁栄していたが文明は滅び、技術は失われた」

 

「そんな技術が存在していたとは……これは僕達の世界の禁忌に近い存在ではないか?」

 

 ヴィクトルは厳しい視線を向け、ユミアは心配そうにレクスを見つめる。人造の生命を造る、これは錬金術が禁忌と見なされているように危険なものではないかと。

 

 レクスはしばらく考え首を横にふった。

 

「確かに護竜の存在は自然への脅威であり、生命の冒涜ではないか、という意見もあった。だが人の考えよりも自然は常に想像を超える。護竜が生息する竜都の跡地は独自の生態系を築き、更には彼らを捕食する存在もいた。自然に影響を与えるどころか、自然が長い時間をかけて彼らを馴染ませた。危うい技術ではあるが、彼らは本能を取り戻し力強く生きている。だから俺達は護竜を受け入れた……」

 

 人よりも先に自然は受け入れていた。ヴィクトルはレクスの世界の生命と大自然の力強さに感心して頷く。

 

「だが……もしこれが護竜だとすれば、不可解な点がいくつかある。一つは護竜は竜都の跡地にしかない竜乳(リュウヌ)という物質を生命エネルギーとし、これがなければ生命活動ができない。竜乳がないこの世界でどうやって造られたのか……そして護竜だとしたら、竜都の民がこの世界にやってきたとされ、どうやってまたはなぜこの世界にやってきたのかだ」

 

「もしかしてレクスさんが調査していた『竜隠し』に関係しているのかもしれませんか?」

 

 ユミアの問いにレクスは低く唸りながら考えた。繭の抜け殻を見ても手がかりはなく、ただただ首をひねることしか出来なかった。

 

「護竜である確証がなければ何とも言えない……もしそうだとすれば重要な手がかりになるかもな……」

 

 レクスはじっくり繭の抜け殻を見つめた後、ふっと一息ついてから気持ちを切り替えた。

 

 

「よし、これは一先ず置いといてと……ウィルマさん、リヒトさん、ご協力ありがとうございます。ヴィクトル、ユミア、東の調査へと向かおうか」

 

「ああ、ここの調査が進めば繭のこともこの場所の秘密もいずれは分かるだろう。僕達は東のマナ領域へ向かい他の団員達が調査できるよう進まなければな」

「そうですね。マナ領域を晴らし、調査すれば手がかりも見つかるかもしれませんね!」

 

「レクスさんもブランちゃんも準備万端ならすぐに行こっか!」

 

 白い繭の抜け殻がある謎のエリアの調査は一先ず保留となり、ウィルマ達は拠点へ、ヴィクトル達は東のマナ領域へと向かう。外へ出る最中レクスは振り返って白い繭の抜け殻を見つめた。

 

(もし護竜ならば……中にいたモンスターは一体……)

 

 白い大木のあるこの場所を囲うように生い茂る木々をよく見ると、一筋の傷跡があちこちについていた。

 

(竜都の民がこの世界に来たとすれば……古文書の話が……いや、まだ護竜の確証がない。事実ならばユミア達やエアハルト団長にちゃんと話しておかなければ……)

 

______

 

「もうすぐマナ領域へ入ります。みんな、準備はいいですか?」

 

 

 アルボール植物園の拠点をあとにマルゴー樹海へ出たユミア達は東の草原を進み、団員達が建てたバリケードを抜けて高濃度のマナのモヤが漂うエリアへと差し掛かった。

 

「問題ない。ただ魔物の群れが流れ込んでいるから遭遇した際は気をつけるんだ」

 

「魔物の群れは厄介だけどマナ領域に入るモヤッとする感覚は慣れないなぁ…」

 

「なぁにユミアがいれば大丈夫!マナ領域を解消して魔物が流れ込んでくる原因も調べてズバババっと解決すればオッケー!」

 

 フンスと張り切るレクスにユミアとアイラは苦笑いをする。

 

「レクスさん張り切りすぎですって……ヴィクトルさんの言う通り、魔物の群れにも注意して進みましょう」

『エナジーコアの消費には十分気を付けてください』

 

 ユミアは分かってると言いながらフラミィを小突き、マナ領域へと入った。。

 ユミアを戦闘に、濃いマナのモヤが漂う草原をヴィクトルとレクスは辺りを見回し警戒しながら進む。今のところは魔物の群れの気配はない。

 

「ブラン、魔物の群れやモンスターのニオイはないか?」

 

「うーん……モヤッとした感じでわかりにくいけど魔物の群れのごちゃごちゃしたニオイやモンスターのニオイはないよ」

 

 ひと通り辺りを見回して魔物の群れの気配がなく、大規模な戦闘は避けることが出来そうでユミアとアイラはホッとする。

 

「それなら安心してマナの流れを見て台座を見つけることが出来そう」

「たしか東には研究施設みたいな遺構があるって聞いてたけど、どんな建物だったかお兄ちゃんは知ってる?」

 

「団長の話では……古地図と実際の土地環境を照らし合わせた調査で錬金術士が研究に関わったとされる施設の跡地が残っていると確認された」

 

「錬金術士の施設、ですか…!」

 

 錬金術士という言葉にユミアは目を丸くする。

 

「その場所は『マルゴー中央観測施設』、錬金術士が所属していたそうだ」

「名前からして台座がありそうな場所だね!重要な手がかりが残ってそう!」

 

「何か重要な手がかりが残っているかもしれない。その時はユミア、頼りにしている」

「…!はい!任せてください!」

 

 アホ毛がピンッと伸びてユミアは笑顔で張り切った。レクスが微笑ましく感じたその時、導蟲が光り飛んでいった。

 

「導蟲が反応した…!モンスターの痕跡があるんだね!」

「やはりモンスターの存在が魔物の群れが流れ込んだ要因か……」

 

 魔物の群れが流れ込んできたのはモンスターによる影響が原因かもしれない。レクス達は導蟲が飛んだ先へと進んだ。

 その先には一部地面が3本の線をなぞるように掘り返され土が盛り上がっている痕跡が残されていた。

 

「導蟲が光ってるけど……これ、モンスターの痕跡なの?」

「まるで道端で畑を耕した跡にしか見えないんだが……」

 

「これは……【剛纏獣】ガランゴルムの痕跡だ」

 

「本当にモンスターの痕跡なんですか!?」

 

「ガランゴルムの尻尾には鋤のような形をした尾爪があり、土を掘り返して土の中にあるキノコを食べる……はずなんだが」

 

 

 レクスは不思議そうに見ながら痕跡を採取し、導蟲にニオイを覚えさせる。

 

「キノコもないし、食べた痕跡もない……ただ単に耕したように見える」

 

「縄張りを主張しているのではないか?ガランゴルムが魔物の群れが流れ込んだ要因になると思うが」

 

「いや……ガランゴルムは非常に温厚かつ臆病な性格をしている。縄張りを広げないし、縄張りから離れない習性で無闇に環境を荒らすようなことはしない……もう少し調べる必要があるな。ユミア、すまないが辺りを調べたい」

 

「エナジーコアの残留も問題ないですし、アルスタリアの花もあちこちに咲いてますし大丈夫ですよ」

 

 レクス達は導蟲の光を辿り、ガランゴルムの痕跡を探した。辿る最中に最初に見つけた土を耕したような痕跡が何度も見つかり、同じように餌を食べた痕跡は見つからなかった。

 

「やはり食べた痕跡がない。ただ土を耕しているだけなのか?」

「レクスさん、ひとつ気になることが…このガランゴルムの痕跡、マナの流れと同じように続いています」

 

 ユミアはガランゴルムが土を掘り返した痕跡を見て、進む先へと指を差した。

 

「一定の間隔でしかも乱れなく真っすぐ……まるで巡回しているように進んでいるみたいです」

 

「ガランゴルムが…?こんなに警戒する性格ではないはずなんだが……ますますわからないな」

 

「もしかしたら僕達が進む先にいるかもしれないな。気をつけて行こう」

 

 導蟲が照らす痕跡とマナの流れを辿り進んでいくと大きく苔生した古めかしい廃墟があちこち見られる場所に辿り着いた。

 

「廃墟がそこかしこに……いかにも何か見つかりそうだね」

 

「確かに、リグナス地方でこれほどの遺跡群を見たのは初めてだ」

 

 ここまで崩れていない遺構が沢山残されているのは珍しかった。

 

「これは大規模な施設の跡地、みたいだな……」

 

「ということは、帝国滅亡にまつわる記録が残っているかも」

「見つけたら大手柄かも?」

 

 これだけの遺跡群ならば手がかりか何かが残されている可能性はある。ユミアは俄然やる気が湧き、張り切った。

 

「うん、台座と一緒に探してみよっか」

 

 さっそく研究施設らしき建物の一つに入って調べてみようとした時、ブランがピクリと反応しニオイを嗅ぎ始めた。

 

「みんな、魔物のごちゃごちゃしたニオイがする!こっちにくるよ!」

 

 ブランが呼びかけたと同時に遠くから黒い毛並みに脚の爪と尻尾に風を纏う魔物、『エアロウルフ』が5頭の群れを成して駆けてくるのが見えた。

 

「魔物の群れか…!みんな、迎え撃つぞ!」

 

 ヴィクトル達は武器を構え迎撃に備えたが、レッドウルフの群れはお構い無しにヴィクトル達を素通りした。

 

「素通り…?私達に目もくれなかったよ?」

「僕達よりも脅威な存在がいるのかもしれない……後を追ってみよう」

 

 エアロウルフの群れが向かった先へと進むとエアロウルフの吠える鳴き声と聞き覚えのない魔物の低い咆哮が聞こえた。急ぎ向かった先には囲って吠えるエアロウルフの群れを威嚇する岩のように重厚そうな甲殻に覆われ、ゴツゴツした大きな腕をした巨躯のモンスターがいた。

 

「あれがガランゴルムですか!?」

 

「か、かなり大きなゴリラみたいなモンスターだね…!?」

 

 ユミアとアイラは目を丸くし驚いているがレクスは唖然としていた。

 

「おかしい……普段のガランゴルムじゃない」

 

 よく見るとガランゴルムの甲殻は苔がついてはいるが白く、目の部分は黒く塗りつぶしたように真っ黒であった。

 更には温厚な性格とは違って気性が荒く、エアロウルフの群れに対して激しく怒り咆哮をあげる。

 

ヴォオオオッ!!

 

 ガランゴルムは吠えて襲い掛かるエアロウルフに向けて大きな腕を振り下ろす。大きな衝撃でエアロウルフの1頭は吹き飛ばされるが数頭のエアロウルフがガランゴルムに飛びかかった。

 

 しかしガランゴルムはものともせず大きな腕で力強く薙ぎ払った。ぶっ飛ばされた仲間を見た残りの数頭は後退りし逃げ出していった。

 

 

「群れを蹴散らした……魔物の群れが流れ込んだ原因はガランゴルムだったか」

「……みんな、気をつけて。あいつは本来のガランゴルムじゃない。侵入者には容赦なく襲い掛かるぞ」

 

 レクスは背負っている太刀『破邪之太刀イチモンジ』を引き抜き構えた。

 

 エアロウルフの群れを追い払ったガランゴルムはレクス達の存在に気づき、唸りながら近づいてきた。

 

「『本来』のガランゴルムじゃないって……レクスさん、あれはまさか……」

 

「白い甲殻に、漆黒のように黒い目……間違いない、あれは『護竜』だ」

 

 

 




 ユミアのアトリエ世界に護竜が乱入したよ!

 ワイルズの護竜、もっと出してもいいと思ったけど護竜の役割を考えたら厳選されてるのかなと思った
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