ユミアのアトリエ―導きの錬金術師と異界の狩人 作:サバ缶みそ味
序章のボスはドシャグマにしたかった。反省はしてる
ユミアの憂いた表情も明るい笑顔もかわいい
「ドシャグマか……どんなモンスターなのか、詳しく教えてくれないか?」
「ドシャグマは森林地帯に生息地する『牙獣種』の一種だが時として食糧を求め歩いて移動できる距離なら他の地域へと生息地を伸ばす。牙獣種の中でもかなり獰猛な部類で強靭な肉体と爪による剛力で障害を強引に突破しようとするほど攻撃性の高い大型モンスターなんだ」
レクスは導蟲の光を辿り、導蟲が集まり光が灯された複数の足跡の痕跡を採取した。
「普段は単独で行動するのだけど、時として食糧を効率よく確保するために3〜5頭程の群れを作る。群れの仲間が外敵に攻撃されたら群れで一斉に反撃したりと中々厄介な相手だ………でもその反面、我が強い性格だから集団行動ができなかったり、本能や自分の意思で決めて勝手な行動したり群れから勝手に抜け出したりするデメリットもある」
痕跡を採取し続け、導蟲が緑色の光を発しながら大きな灯台らしき建物が見える山道へと飛んでいった。
「ドシャグマの群れによる狩りの成功率は高いとは言えない……だがこのアラディスの大地をみる限り、豊富な自然で溢れている。おそらくドシャグマの群れは狩りの成功と失敗を繰り返して、グリムビーバーの生息地まで狩りの範囲を広げたと思う」
「レクスの考えだとこのドシャグマの狩りの範囲は広がり続け、仕舞には調査拠点付近にも達するということか」
レクスは無言で頷く。このままドシャグマの群れの狩りの範囲が広がればいずれ調査拠点にも達し調査団に危険が迫る恐れがある。
「歩いて移動できる範囲なら何処へでも現れ獲物を狩る。対処しないといけないな……」
レクスが導蟲の光る先を辿って大きな灯台が見える山道へと入ろうとした。そんなレクスをユミアが慌てて止める。
「レクスさん待ってください!今から大灯台の山道を入るのは危険です!」
「え?そうなの?確かに山道の向こうは何かモヤーってしてるのが見えるが……」
「それが見えるのなら尚更!一旦戻って準備すべきです!」
「ユミアの言う通りだ。早急に対処するのも大事だが、まずは団員や団長に報告するのが先決だろう。それに僕達は拠点周辺のグリムビーバーの討伐の任務だけを受けている。報告無しに行動したら余計なことをするなと怒られてしまうぞ?」
幹部の男性から余計なことはするなと釘を刺されていたことを思い出したレクスは面目なさそうに頭を掻く。
「そうだよね……すまない、少し早計だったか」
「まあ原因を突き止めることができた。戻って報告をしよう。拠点にブランとアイラが待っているしな。」
「確かに、ブランを置いていくわけにはいかない。ドシャグマの対処は戻って報告した後だな!」
「すぐにでも行きたいと体がウズウズしてますよー……」
ユミアは今すぐにでも狩猟しなきゃと体がウズウズしているレクスをジト目で見つめた。
_____
調査拠点へ戻り、幹部の男性に報告しに向かう。そこにはアイラとブランが幹部の男性と幹部補佐の女性と共にレクス達の帰りを待っていた。
「お兄ちゃん達おそーい!ずいぶん時間かけてたんじゃない?」
「いろいろと調査をしていたからな。アイラ、そっちはどうだったか?」
「へへーん、こっちはすごかったんだから!団員の皆、最初はブランちゃんにビックリしてたけど……ブランちゃんの手当てが上手すぎて皆にすっかり好かれちゃて大人気だったもんねー!」
「肉球印の絆創膏あげて頑張ったよ!」
好評だったとアイラとブランは胸を張る。ヴィクトルは喋ってしかも子供ほどの大きなの猫らしき生き物を団員達は怖がるのではと心配であったが杞憂だったと内心ホッとした。
「ブラン、よく頑張ったな!えらいぞー!」
「いいなぁー、私も肉球印の絆創膏…欲しいなぁー」
「えへへ、ユミアにもあげちゃう!」
ナデナデされて嬉しくなったブランは腰のポーチから肉球印の絆創膏をユミアにあげた。そんな無邪気なブランにほっこりしつつヴィクトルは幹部の男性に報告する。
「ただいま戻りました。グリムビーバーの討伐後、グリムビーバーの生息地を調査したところ……」
グリムビーバーの生息地をドシャグマというモンスターが群れを成して荒らし、更に狩りの範囲を伸ばしていることを伝えた。幹部の男性は眉間に皺を寄せつつ難しい顔をして頷いた。
「そうか……ご苦労だった。グリムビーバーの討伐については先に戻ってきた者達から報告は聞いている」
そう告げるとユミアに向けて厳しい視線を向ける。
「……私は伝えたはずだ。余計なことはしなくていいと、立場を弁えろと。ずいぶんやりたいようにやってくれたようだな?」
「それは……錬金術があればいろいろ役に立てることがあると思って―――」
実際に使ってみてユミアが錬金術で作った魔物退治の道具は使いやすく、群れに襲われていた団員達の助けにもなった。今回の任務では活躍していたと思っていた。だが幹部の男性の視線は厳しく、『余計なことはするな』という指示に従わなかったのがよくなかったようだ。
「………すみません」
「はぁ……まったく、母子ともに罪の自覚がないのか」
幹部の男性の言葉にユミアは暗い表情を浮かべ俯く。それは言い過ぎなのではないか、なぜ『罪』という言葉が出るのか、レクスは前に出ようとしたがヴィクトルが止め、無言で首を横に振る。
余計にややこしくなるまたは更にユミアが責められるかもしれない。ここは割り込んではいけない、レクスは留まった。
「ともかく、報告は了解した。その『ドシャグマ』とやらの件は団長に報告しておくように」
そう告げると幹部の男性はその場を離れていった。
「旦那さん、あの人ちょっと怖いかも……」
「まあその、幹部の人だからいろいろ考えてるのだろうな……」
圧から解放されてようやく場の空気が少し軽くなった。理解されるどころかさらに嫌厭されている。ユミアは小さいため息をこぼす。
「ごめんなさいね……みんなまだ貴女が何者なのか分からなくて、探り探りなの」
幹部補佐の女性が申し訳なさそうに苦笑いしながらユミアに話しかける。
「……はい、それは理解しています」
だからこそ少しでも分かってもらおうといろいろと試みているが空回りしている。俯くユミアに幹部の女性は優しく微笑む。
「……貴女は頑張っているわ」
「……えっ?」
彼女の言葉にユミアは顔を上げてきょとんとする。
「貴女が悪い人じゃないってことも分かってる。そもそも、団長が認めてここにいるんだもの」
幹部補佐の女性はポケットからあめ玉を取り出してユミアに渡した。
「これ、たいしたものじゃないけど……皆の代わりに私からのお礼。手伝ってくれてありがとう、助かったわ」
受け取ったユミアは驚きながらもあめ玉を見つつ、少し暗い表情が再び浮かぶ。
「私……まだ全然何も……」
そんなユミアに対して幹部補佐の女性はにっこりと笑う。
「そう思うなら、これからも頑張って」
彼女の言葉にユミアの暗い表情が消え、やる気に満ちた明るい表情が戻った。
「……はい、ありがとう、ございます」
また一歩。少しずつではあるが、ユミアの錬金術が伝わっている、力になっている。レクスだけでなくブランも微笑ましく思えた。
―――――
「そうか………『ドシャグマ』、か」
ヴィクトルとレクスの報告を聞いたエアハルトは難しい顔をして地図をじっと見ながら考え込む。
「しかもそいつは群れを作り、主にこの『ドゥクス大灯台』付近にいる、と……」
「はい、ドシャグマの群れはその『デュクシ大灯台』付近を中心に狩場を広げています」
「旦那さん、デュクシじゃなくて『ドゥクス大灯台』だよ」
ドシャグマ達にとってアラディスの地は豊富な自然。例え狩りが失敗しても足を延ばせば別の獲物がいる。更に狩場の範囲を
広げていきこの拠点にも被害が出る恐れがある。
しばらく考え込んでいたエアハルトはやや困った顔をして頭を掻く。
「次にユミアにしかできない任務をやってもらおうと思っていたが……こいつはえらいことになったな」
「私にしかできない……?」
エアハルトは頷き地図に載っているドゥクス大灯台の周辺を指差し円を描く。
「我々調査団はここ『リグナス地方』を起点に調査の範囲を広げたかったのだが、この『ドゥクス大灯台』の周辺は『高濃度マナ領域』となっており本格的な調査ができずにいる」
「『高濃度マナ領域』……?」
「マナは生命が刻んできた記憶が大地に還ることで生成される力。本来は我々の生活にも利用できるエネルギー源なのだが……あまりに濃度が高すぎると人体に悪影響を及ぼす」
「悪影響があるのか……!」
マナは錬金術等に使われるものかと考えていたが濃度の高さで悪影響を及ぼすのかレクスは驚く。
「マナには死した者達の記憶が詰まっている。一度に多く浴びすぎれば頭痛や目まいを引き起こし、最終的には意識を失う。高濃度マナ領域とはそういう場所だ」
「なんだか毒沼みたいだね……」
「あるいは瘴気の谷みたいな場所だな……」
「長年調査が進めずにいたが、この問題を解決できるのがユミアというわけだ」
エアハルトはニッと笑ってユミアの方へ視線を向ける。『高濃度マナ領域』の話を聞いて自分にしかできない役目という意味を理解したユミアは頷いてポーチから赤い液体のような物が入っている小瓶を取り出す。
「はい、この『エナジーコア』があれば大丈夫です」
ユミアが取り出したエナジーコアにブランとレクスは目を輝かす。
「わぁー……綺麗な色!」
「エナジーコア……これを飲むのか?」
「飲んじゃダメですよ!?これは液体に変換したマナ、『エナジー』を保存するための容器です。ここからエナジーを取り出して、周囲に膜を展開させることで高濃度マナが人体に及ぼす悪影響から身を護ることができます」
「へー、これがあればマナ領域の中も探索できるんだ」
「なるほど……飲んだほうが早くない?」
「レクス、あれは飲み物ではないと思うぞ。逆に言えば彼女の持つその道具が無ければマナ領域内では活動できない……つまり、彼女に同行する僕らの生殺与奪の権は彼女の手にある、ということか」
「考えすぎだよ!ユミアは悪い人じゃないよ!」
「い、いやあくまでの話だからそう怒らないでくれ」
プンスカするブランにヴィクトルはあたふたとブランを諌める。その様子にエアハルトは苦笑いをして頷く。
「そんなことをしたらユミアだって投獄されて人生が終わっちまう。ま、これに関しちゃ『信じてくれ』と言いようがないが……」
「大丈夫、俺は信じてる!」
「ボクも信じてるよ!」
「私もー!」
フンスと張り切るレクスとブラン、にっこり笑うアイラにユミアは少し照れながら苦笑いしヴィクトルはやれやれとため息をこぼす。
「それで団長、この高濃度マナ領域の先にあるドゥクス大灯台に何が……」
「これも……ユミア、お前さんなら分かるな?」
「はい、ヴィクトルさん達に会う前……アトリエを探している最中にアトリエから大灯台にかけて『大きなマナの通り道』があるのが分かったんです」
「「「マナの通り道?」」」
また聞いたことのない用語にレクスとブラン、アイラが不思議そうに首を傾げる。
「アラディスを覆うマナ領域は通り道を正しく流れなかったマナが地上に溜まったもの。大灯台周辺もその一つ、マナの流れが正常じゃないからああなっちゃてるんです」
「事前の調査ではアラディスの主要な通り道に『循環器』と呼ばれるものがあった」
「私がそこへ向かってマナを操れば滞った流れを正せる……はずです」
「はず……か」
なぜ『はず』なのか、少し自信がないのかヴィクトルはやや難しい顔をする。
「……すみません、今はそうとしか言えなくて」
「理論上、勝算はある。後はユミア次第だ」
エアハルトのユミアに向ける視線は『信じている』と言う眼差し。ユミアはその眼差しに応えるように真剣な眼差しで口を開く。
「禁忌に触れるリスクを冒してまで、わざわざ調査団としてここにやってきたのはこのためです。この力で調査団の役に立てるのなら、私は私にしかできないことをしたい」
ユミアの意思にレクスとブランは頷き、アイラも頷いてヴィクトルに視線を向ける。ヴィクトルはしばらく考えてユミアに視線を向ける。
「それならば僕達もできることを担うだけだ」
「よし、その意気だ。残す問題はドシャグマとなるわけだが……レクス、ドシャグマの討伐を頼めるか?」
ユミアにしかできない役目、彼女の覚悟を無駄にしないためにもレクスは胸を張って頷いた。
「……拝命しました。任せてください」
「すまない、感謝するぞ……重要な任務だ。しっかりと備えて万全の状態でこの任務を当たってくれ」
「わかりました。アイラ、ヴィクトルさん、レクスさん、装備等の準備で少し手伝ってほしいことが……」
「分かった。僕は団長に報告することがある…アイラ、レクス、任せていいか?」
「ガッテン!力仕事なら任せてくれ!」
「うん!ユミア、どんなことすればいいの?」
「拠点に戻る途中で『マナ間欠泉』の導道を見つたんだ。マナ間欠泉を探すのを手伝ってほしいの」
______
ユミアはアイラ達と共にグリムビーバーの生息地に近い場所へ向かっていた。『マナ間欠泉』とやらが何か気になっているのだが、レクスはユミアの後に続いていくうちに何やら不思議な空気が漂っている気がしてきた。
「……あった。ここにマナ間欠泉がある」
ユミアが立ち止まった場所にはただ草花が生い茂っている以外何もない。
「ユミア、ここに何かあるの?」
「うーむ……何か、何かがフワフワしてる気配を感じるな」
「旦那さんの言う通り、何かある気配がしてるね」
「レクスさんとブランちゃんってマナが見えてるのかな……ここにマナが溢れているの。これは錬金術に使える」
「なんだかぼんやりしてる感じだけど、これも錬金術に活用できるの?」
「うん、新しいレシピを作るためにも必要なの。マナに刻まれた記憶が道具を作るための道標になる……調査や探索をしつつより多くの記憶に触れればたくさんの道具を増やせる」
「なーるほど、ユミアがどんな道具を作るのか見ものだね!」
「あはは……緊張、するなぁ。それじゃ見てて」
ユミアが杖銃をかざすと見えない風が舞い、白い光が収束して光の中からガラスの試験管のような物が現れユミアの背負っている壺型の鞄の中に入っていった。
「これがマナの記憶に刻まれた残響片。これを集めてレシピを作るんだ」
『今は少ないですが、残響片を得られる数はユミアの錬金術の練度に依存します』
「フラミィ、一言余計」
ユミアはジト目で睨み、早速集めた残響片でレシピを作るためアトリエに向かうことにした。
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「いやはや……レクスが討伐したアケノシルムとやらは思った以上にでかかったな」
エアハルトはヴィクトルの提案で調査団達でレクスが討伐したアケノシルムを研究調査として回収したのだが想像以上の大きさと見た目に団員共々驚きの声を上げていた。
「彼のいた世界にはあれほどの大きさ、或いはそれ以上の大きさのモンスターが闊歩していると思うとぞっとします……」
「だからこそ討伐できるほどの力と知識が備わっている……本当に面白い男と……あれは猫、か?」
「アイルー、だそうです」
既に日は暮れている。明日には大灯台にいるであろうドシャグマというモンスターに出くわすはず。知らねばならない反面、不安がヴィクトルの心の隅を突く。
「アケノシルムに手も足も出せなかった僕らに何かできるのでしょうか……」
「どうだろうな。だがアラディスにはレクスのいた世界から流れ着いたモンスターがこの先うじゃうじゃいるだろう。俺達はいずれ己で対処せねばならん」
騎士として何ができるのか、今はまだ答えを得られていないヴィクトルであった。
「ところで、レクスのレンキンスタイルについてだが……どうだ?」
「あー……」
もう一つ頭を悩ます事が。マナを操り調合を行うユミアの錬金術に対して、タルに物を入れて只管振り続け、マナとか関係なしに別の物を作り上げる。使っている本人も原理をよく理解できてない、どう説明したらいいかヴィクトルは頭を抱えた。
「………危険性はありませんが、いろいろおかしくて逆にわからないものでした」
「………お前さんが遠い眼差しで話すほどよくわからないものなんだな……」
______
「旦那さん、ここの星空も綺麗だね!」
レクスとブランはアトリエの屋敷の付近で焚き火をし、セクレトと共に満天の星を眺めていた。
「この世界の星空も絶景だな」
世界は違えども星空の景色はどこも美しい。レクスはホッしていた。
「さて、ユミア達もしっかり準備してたし俺達はどうしようか」
アトリエで作ったベッドでユミアとアイラはぐっすり眠っている。数時間前までユミアは錬金術で新しい魔物退治の道具を作り明日の任務に備えていた。
「ボクの道具は壊れてなかったから全部使えて大丈夫。旦那さんはどうするの?」
「そうだな……使えるものは全力で使う。狩技もあらゆるスタイルも駆使してやるべきかな」
このアラディスは狩人にとって未踏の大地。出し惜しみなく全力で取り組まねば。
「このアラディスを突き進めば、きっと『竜隠し』の謎も解けるし元いた世界に帰れる方法も見つかるはずだ。ブラン、頑張ろうな」
「ボクも全力でサポートするからね………ところで旦那さん、あの2頭の『古龍』の話はユミア達にしたの?」
「………………あっ」
この世界に流れ着く前、遺跡に突如現れ自分達より先に光の割れ目の中へ突入した『2頭の古龍』。
「……旦那さん、うっかり忘れた?」
「い、いやぁ話したぞ。2頭のモンスターって話したぞ?く、詳しく教えてないけど……」
「もしまた出くわしたらどうするの?」
あの2頭の『古龍』は生半可でかかれば命が危ない。だが2頭の『古龍』の役目は十分知っている。出くわす機会はないはずだが、いずれユミア達と共にアラディスを突き進めばまた出くわすはずだ。
「お、俺が全力で皆を守る……ってなわけで明日に備えて寝るっ!」
唯一傷がつかず無事に回収できたハンモックでそそくさと眠る。
願わくば、再び自分達の前で姿を現せないでほしいとレクスは切に願った
ユミア達の活躍も入れたいから中々ドシャグマ戦に入れなくてすいません……ちょっとドシャグマに殴られてきま(首が折れる音