We are…Lethal Protector !! 作:ヌルノルヌール
ヴィジョン・コーポレーション、爆破解体作戦本部
鳴らない通信機、更新されない報告、戻らない仲間たち。沈黙を続ける作戦状況に、待機していた偽治安官たちは次第に不安を募らせていた
「……おかしいな、なんで兄弟たちは戻ってこないんだ?」
「パールマン長官からも何の連絡もない…サラ長官、如何なさいましょうか?」
焦りを見せ始める部下たちの声に、冷ややかな沈黙で応じていたサラは、やがてポケットの中へと手を伸ばす
中にあるのは、カンバス通りに仕掛けた爆弾の起爆スイッチ
「……仕方がないわね」
そのスイッチに指をかけた瞬間、現場の緊張を裂くように、別の部下が叫んだ
「待て!ホロウに繋がるトンネルから誰か出てきたぞ!!」
ヴィジョンの警備員たちは即座に反応し、複数のスポットライトをトンネル口へと向ける
闇の中から姿を現したのは…カンバス通りに閉じ込められているはずの住民達をだった
そしてその群衆を率いているのは邪兎屋の社長、ニコ・デマラ。声高らかにサラを含めたヴィジョンの面々を指差し、言い放った
「ふふん、観念しなさい!ヴィジョン・コーポレーション!あんたらの悪事もここまでよ!」
ニコの声を聞き、その背後から群衆たちの怒りの声が周囲に響き出す
「ヴィジョンは命を軽んじた!ヴィジョンを倒すのよ!!」
「いつまでも俺達の口を封じられると思うなよ!!」
「ヴィジョンの手は血で汚れてる!!体の隅々まで罪なき人々の血に濡れてるんだ!!」
その声を聞き、腕を組んで仁王立ちするニコ
その隣では、肩にボンプを乗せたアンビーが鋭い目を光らせ、ビリーは小さな子供を肩車しながら、不敵に笑っていた
そして、彼らの影からひょっこりと顔を出したのは猫又
「アンタが、ここの責任官? はい、これ返してあげるぞ〜!」
手にしていた何かを、笑顔のままポーンと投げつける
「むぐぐ!むむぐ!!」
ゴロゴロと転がってきたのは、口を塞がれ、縄でぐるぐる巻きにされたパールマンだった
地面を這うように呻き声をあげながら、彼は助けて欲しそうにサラを見つめるがそんなパールマンにサラは目を細め、短く息を吐いた
「驚いたわ、まさか爆破エリアから抜け出してくるなんて。でも…全てが公になるとでも? ここにいるのはみーんな、うちの人間よ?」
彼女が片手を軽く上げると、直後に背後に控えていたヴィジョンの部下たちが、一斉に群衆へと銃を向けた
しかし次の瞬間、サラは違和感に気づいた
圧をかけられたはずの群衆、ニコも、アンビーも、猫又も、ビリーも、誰ひとりとして顔色を変えないのだ
むしろニコの笑みは、さらに深く、勝ち誇ったようなものに変わっていた
「……どういうこと?」
サラの困惑を切り裂くように、トンネルの影から何かが放り投げられる
それは、黒い粘糸で拘束された偽治安官たちの山だった
「こういうことだ、マヌケども」
影からゆっくりと姿を現したのはヴェノムだ。威圧感を撒き散らしながら、銃を構えている者たちの前へ跳躍し、サラの目の前へと降り立った
サラの部下たちは、目の前の“怪物”を前にして恐怖で身体を強張らせたがサラだけは違う
彼女は一歩も引かず、鋭い視線でヴェノムの目をじっと見つめ、静かに口を開いた
「…黒衣の怪物。なるほど、あなたが居たのね。それならこの状況も納得できるわ」
そんなサラを見て、ヴェノムは口元を吊り上げてニヤリと笑い、そしてゆっくりと視線を後ろへ向ける
そこには、邪兎屋と、怒りと希望を捨てていない群衆たちの姿があった
その光景を見据えながら、ヴェノムは確かな声で語り出す
「オレたちが居なくても、大して変わりはしなかっただろうさ。人の思いってのは時に予想も出来ない程の力を生み出すもんだ」
そんなヴェノムを見てさらに目付きが鋭くなるサラ
そしてようやく部下の一人がヴェノムに向かって銃を突きつける
「バ、バケモノめ、サラ長官から離れろ!!」
しかし、ヴェノムは一歩も動かず、わざとらしく両腕をあげた
「おっと怖い怖い。でもいいのか? お仲間が来てるみたいだぞ?」
その言葉と同時に、遠くから徐々にサイレン音が聞こえ始める。それも一つや二つではない。かなりの量のサイレン音が爆破解体本部に集まってきた
「な、なんで治安局が!?」
「……チッ」
顔をしかめるサラの背後に、新たな車両が続々と到着する。報道の車両や救急車、そして上空からは治安局のヘリがヴェノム達を照らしながら上空を旋回していた
「なんでそんなに嫌そうな顔をしている? お前たちは治安官だろう?」
やがて報道陣のドローンが空に現れ、記録用のカメラが事態を上空から映し出していく
「このドローン、報道陣の…なっ、白祇重工まで!?」
1台の治安局のヘリが降りて来ると中から現れたのは白祇重工の若社長、そして幹部の面々。競合他社まで現れたことに縛られていたパールマンは涙目になりながら必死にもがいていた
「ふふん、言ったでしょう?観念しなさいって」
ニコは事前にヴィジョンが自分たちを殺そうとすることを想定してこうどうしていたのだ
ホロウが縮小し、通信が通じるようになった瞬間を見逃さず、すぐに白祇重工へ事態を報告。さらに治安局と報道関係者へも共有させ、"誰も口封じできない舞台"をここに作り上げた
「動くな!無駄な抵抗をやめて、大人しく投降しろぉ!!」
ヤヌス区治安局長である男が叫ぶと、すぐに偽治安官たちは次々と取り押さえられ、拘束されていく
だがその拘束された者たちの中に、サラの姿だけは見当たらなかった
「パーティの途中で抜け出すなんて、よっぽどつまらなかったか?」
薄曇りの空の下、波が静かに揺れる湾岸沿い
朽ちかけたコンテナと金属の匂いの残る風が吹く中、ヴェノムの低く響く声が沈黙を破った
「…ヴェノム」
その声に応じて、鉄の桟橋の先に立っていた女がゆっくりと振り返る
その後ろには、数人の重武装の部下たち。そして、その足元には海へ滑り出す準備が整った小型の船が停まっていた
「そうね、せっかく面白そうなパーティになりそうだったのに…全部台無し。貴方のせいよ?」
サラは至って冷静にヴェノムと話しているがその声には苛立ちが滲んでいた
「……あいにく、パーティに誘われたことがないもんでな。次からはもっと勉強してくるさ。まぁ…オマエに次などないがな!!」
地を裂くような跳躍と共に、ヴェノムがサラ達に飛びかかった
だが、その瞬間。
バシュンッ!と鋭い銃声が湾岸に木霊した
「何ッ…!?」
ヴェノムは自身の頭を狙ったであろう弾を咄嗟に回避し、背後の金属コンテナの陰に飛び込んだ
「チッ……どこからだ……?」
ヴェノムは即座に撃たれた方向へ目を凝らすが、周囲に船らしきものは無い。そして向こう岸に人影はなく、光り輝くビル群のみ見えるだけ…
「狙撃されたな、しかも角度を見るにあのビルの上だ」
ヴェノムの指差す先にあるのは一際高いビルの上だった
『狙撃!?ここから向こう岸まではかなり距離が離れてるぞ!?』
その時、船に乗り込むサラが、ちらりとこちらを振り返った
「……また、近いうちに会えるわ。貴方の"お仲間"も一緒に、ね」
エンジンの音が海面に響き、小型船はスムーズに湾を離れていき闇の中へと消えていった
「…エディ、思ったより長い戦いになりそうだ」
『あぁ、何かとんでもないことが起こりそうな予感がするよ』
サラが消えた先には、いまだ見えない新たな火種が待っていることを、彼らは本能的に察していた
その後、治安局や報道陣が撤収し終えた爆破解体エリアにて
先程までの騒がしさが嘘のように静まり返った広場には、人の姿は一人も残っていない
ぽつんと残されたのは、爆破解体の計画発表時に使われたステージと、いくつかのスポットライトだけ。今はその光も落ち、寂しげな影を落としている
『はー、撤収はっやいなぁ…やっぱり本物は優秀だねぇ』
エドワードの声がヴェノムの中で響いた
「ま、治安局が大変なのはこれからだ。住民たちから聴取を取り、それを纏めて…後でからかいにでも行くか?」
ヴェノムが肩をすくめ、いつもの調子で軽口を叩く
『それはやめといた方がいいんじゃない?』
「ん? おぉ、パエトーン。何してるんだ?」
不思議そうにヴェノムが振り返ると、パエトーンはその疑問に答えるかのように小さな手をバッと掲げる
すると近くの岩陰から、ひょこりと顔を出す邪兎屋と猫又がいた
「ヴェノム!どこ行ってたんだ?探してたんだぞ?」
「いやー、戻ってきてくれてよかったぜ!な、子猫ちゃん!」
ビリーが猫又の頭に手を伸ばすが、猫又はペシッとはたき、ふいと少し距離を取った
「オマエたち、何してる?」
集まってきた面々を見て、ヴェノムは首をかしげる。そしてその問いにアンビーがスッと近づいて、言葉を添えた
「貴方をご飯に誘おうと思ったの」
「ご飯?なんでオレたちを?」
益々深まる疑問にニコがさも当たり前かのようにヴェノムの胸に指を突きつけながら話し出した
「なんでって、あんたが一番の功労者じゃない。とは言っても、打ち上げ場所をどうしようかと思ってね…ほら、その…あんたって有名人じゃない?」
ちょっと言い淀むようなニコの言葉に、パエトーンが思いついたように提案を出す
『それなら…邪兎屋の事務所でするのはどう?』
「なっ!ダメよ!!こんな大男…男よね?とにかくその巨体じゃうちに入れないし、何より騒ぎを起こしたら大家さんに追い出されちゃうわ!」
「ニコ、それより先に家賃を払わなきゃ」
「そうだぜ親分。この前の怒りっぷりと言ったら…うぅ、思い出しただけでおっかねぇ…」
「そ、そんなギリギリの生活をしてるのか…?」
パエトーンと言い合いを始めるニコ、それとはまた別の問題があると伝えるアンビー、ビリー。そんな3人がどんな生活をしてるのか心配する猫又
ヴェノムは、そんな風景をしばらく静かに見つめていた
「んー…リバーブアリーナとかなら案外…」
「オレたちのことは気にするな。オマエたちだけで楽しんでこい」
「えっ!ちょっと待ちなさいよヴェノム!!」
「機会があれば…また会えるだろう。じゃあな」
ヴェノムは周囲に溶け込むように透明になり、周囲にはニコの静止する声だけが辺りにこだました
『狙撃失敗。すみません、ヴェノムを逃しました』
静寂を割って、通信越しに落ち着いた声が届く。だが、その口調の裏にはわずかに焦燥と自責の色が滲んでいた
報告の主、狙撃手の名はアクセル。彼は決して無能ではない。むしろ任務においては常に的確で、冷静な判断力を持っている凄腕のスナイパーだった
だが、今回ばかりは相手が悪かった。混乱の中で標的に狙いを定めるも、あの“黒衣の怪物”は予想を超える反応速度で撃ち抜いた弾丸を回避し、その後、姿を現すことはなかった
「……そうか、だが気にする事はないぞ。アクセル、君の腕は信頼しているし、何より相手はあのヴェノムだ」
声の主は残念そうに呟いた。それでも怒気や失望は一切なく、むしろ包み込むような優しさでフォローする
暗闇の奥でヴェノムの写真を見つめる男は、ゆっくりと椅子に背を預ける
「ホロウに侵され、この星は今癒しを求めている。それを救う"鍵"は間違いなく……彼だよ。あれはただの怪物ではない。新エリー都を破壊し、この星を滅ぼす存在ではなく、再生の可能性を宿す"希望"の存在さ」
男の声は次第に熱を帯び、目に狂気が帯び始める
「あぁ、彼を調べたい。そうすればきっと…きっと!この星の未来を…侵食障害で苦しむ人々を救う術が見つかるはずだ。そのために…僕はこの会社を作ったのだから」
だが、その瞳には信念にも似た光も宿っていた。誰よりもこの世界を救いたいと願い、そして苦しんでいた
「そのためには…彼女らとの協力もやむを得んさ。いまは助走期間…ゆっくり、確実に、僕らの作戦を進めていこうじゃないか」
男は静かに立ち上がると、部屋の奥へと歩みを進める
「どんなに多くの犠牲を…払ってでも」
第1章完結!次からは2章!ストーリー見直したりなんだりするので更新頻度はのんびりゆっくりになりますが気長にお待ちください。
白祇重工推しだからもう何回も読み直せるというかゼンゼロストーリー無限に見れる