恋人に浮気された夢主が、癒しを求めて夜行バスで向かった先は海。
そこでダイバー月島と出会い、海に魅せられて・・・
はぁ・・・、金カム男子達が働いてるダイビングショップはどこにあるんでしょうか。あったら毎週通う。
だって合法的に上裸見られるんでしょ?
なるべく専門用語と詳しい説明文は使わないようにはします。
逆にダイビング経験者には、ん?となることも多いかもしれませんが、そこは夢小説なのでご理解頂けるとm(_ _)m
一応簡単に解説↓
ライセンス(Cカード):ダイビングの資格。体験ダイビングで満足出来なくなった人が取得する。最初はオープン・ウォーター・ダイバーを受講し、最大18mまで潜れるようになる。更に上のライセンス受講してライセンスのレベルを上げると、もっと深く潜れるようになる。
マスク:目と鼻を覆うゴーグル
フィン:足ヒレ
グローブ:手袋
ウエットスーツ:ピチッとしたダイビングをする時に着るスーツ。濡れるので水着の上に着る。
ドライスーツ: 水が中に入って来ないスーツ。中には普通の服を着る。寒い時期に使う。
BCジャケット: 中に空気が出し入れ出来るようになっているベスト
タンク:空気が入ってるダイバーが背負ってるやつ。レギュレーターと繋げる。重い。
レギュレーター:口に咥える水中でタンクの中にある酸素を吸う器材。タンクと繋げる。
オクトパス:レギュレーターの予備。自分もだが仲間のレギュレーターがダイビング中にダメになった時に使う。
残圧計:タンクの中の空気残を示す器材。
ダイブコンピューター:今いる水温、水深、潜っている時間などなどを表示、記録してくれる腕時計型の器材。
耳抜き: 鼓膜に圧力がかかってしまうことで感じる痛みを取り除く方法。鼻をつまんで口を閉めて、息をしっかりと鼻から出す。
バディ:相棒。ダイビングは団体でやるにも二人一組を決めて、水中で何かあったら助け合う。なりたいよね、月島さんと。
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『地獄に落ちろッ!!』
裸で抱き合っている男女に中指を立てた私は、般若のような顔をしていただろう。
よくある話だ。サプライズで彼氏の家に向かう途中、買った食材を手に自身の手料理のラインナップを思い浮かべながら合鍵でいつものようにドアを開けると、薄暗い玄関に赤いパンプスが一足。
おやおや?こんな靴、私は持ってないぞ??
とリビングに続く引き戸を勢いよく開ければ、まつ毛に毛虫付いてんのか?ってくらいケバい女がいて、二人は致してる真っ最中で。
思わず買い物袋を落とすとグチャっと音がして、中には彼の好きなだし巻き玉子を作るための卵が入っていることを思い出した。あぁ、もったいない。
一生懸命思考回路を巡らせてその光景の意味を分析すれば、自分が三十路目前で結婚を意識していた恋人に裏切られた哀れな女に成り下がったのだとようやく理解した。
悲しみよりも怒りでいっぱいで、不思議と涙は流れなかった。
割れてしまった可哀想な卵達を使うのは今しかない。とキレのあるピッチングで二人の顔と部屋中にお見舞いしてやった。ナイスボール。
確実に今までの人生で一番のコントロールだろう。
彼・・・いや、元彼が何か騒いでいるが無視して、わざと大きな音を立ててドアを閉める。
私の耳には何も届かない。聞きたくもない。
ふぅーっと息を整えて、遠くに見えるコンビニの灯りをしばらくぼおーっと眺めてから、スマホを操作して夜行バスの予約サイトを開き、数時間後には飛び乗っていた。
◇◇◇
──────静かな早朝の海。
波が砂を吸い込んでまた吐き出していく音が、絶え間なく続いている。
潮と朝の澄んだ匂いが混ざり合った空気を大きく吸い込んで暫く目を閉じると、自然と肩の力が抜けていった。
スッと目を開けると、無意識に足が海へと進んで行く。
足に纏わり付くざらりとした細かい砂に、そういえばタオル持って来なかったな・・・と思いながらも、ヒールとストッキングを脱ぎ捨てて、朝焼けの海に駆け出した。
冷たいと思った夏の終わりの海は、意外にもぬるくて心地良い。
早朝のテンションで浮かれちゃってるな〜と思いながらも、パシャパシャとつま先で波を蹴った。
魚、もう少し深い所にならいるかな?・・・なんて網目模様の水面を見つめていると、後ろから焦りを含んだ大声が空気を震わせた。
「早まらないでください!!」
もしかして私に言ってる?と振り向けば、顔を青くした坊主頭の男性が近付いてくる。
全力疾走で躊躇いもなくスニーカーを履いたまま波を蹴って目の前まで来ると、肩をガシッと掴んで目線を私に合わせた。
「はぁ、はぁっ・・・貴女に何があったか分かりませんが、それだけは駄目です」
『えっ、いや、私は・・・』
「私で良ければ話を聞かせてください」
どうしよう、めちゃくちゃ誤解されている。
『それは嬉しいんですが、違うんですっ!』
「月並みなことしか言えませんが、吐き出せば少しは気分が落ち着くかも知れません」
『本当に違くて!海が綺麗だったから・・・決して海に身を投げようとした訳ではないんです!!』
「・・・は?」
◇◇◇
「・・・すみません、とんだ勘違いを」
『いえいえ!誤解されるようなことをしてた私が悪いんです。・・・スニーカーも私のせいで濡れちゃいましたね。すみません』
「いいんです、これくらい」
堤防の階段に腰掛けた私の足に目線を移した男性は、耳を赤くしてサッとタオルを太ももにかけてくれた。
あぁ、素足だったもんね。見苦しい姿を晒してしまった。
少し低い背と鼻、シャツの上からでも相当鍛えていることが分かる体つきの男性は、軽く会釈をして月島と名乗った。
釣られて私も会釈をして『七海結月です』と告げる。
「こちらへは観光ですか?」
『いえ、えっと・・・』
元彼のことが頭を過り、何となく言葉にするのを躊躇ってしまった。
それに気が付いたのか「女性に不躾でしたね」と月島さんが呟いた。
多分、この人は話を聞いても馬鹿にしないだろうな。
気が付けば私の口からは言葉がこぼれ出て、『恋人の浮気現場を見ちゃって・・・』と波の音を遠くに感じながら、ポツリポツリ自身の数時間前に起きたことを話した。
・・・言葉にするとちょっと笑えるな。
そう思ってちらりと月島さんを見やるが、そんなことは杞憂だったようで黙って耳を傾けてくれていた。
『貴女は全く悪くありません。ただ、相手が不誠実な人間だっただけです』
話し終えた私の目を真っ直ぐに見て、きっぱり言い切った月島さんの言葉が心にストンと落ちた。
じわりと胸の奥が熱くなり、涙が堰を切ったように流れ出して止まらない。
『すみません、泣くはずじゃなかったのに・・・』
生温い液体が頬を伝う感覚に、恥ずかしいやら情けないやらで思わず俯いた。
ポリポリと頭を掻いた音が聞こえて顔を上げると、月島さんはポケットの中を探って「どうぞ」と深緑色のハンカチを差し出してくれた。
「無理しなくていいと思います。七海さんは傷付いたんですから。泣ける時に泣けばいい」
『ゔっ・・・ありがとうございます』
おずおずとハンカチを受け取って泣き続ける私の横で、月島さんは何をするでもなく傍にいてくれた。
朝焼けのグラデーションが薄れ始めた頃、涙と共に私の心の中の靄は流れ去ってくれたようだ。
手の中でくしゃりと濡れたハンカチで目頭を押さえた後、『ありがとうございます。もう大丈夫みたいです』と伝えると、月島さんはフッと柔らかく笑った。
ハンカチからふわりと漂うレモンの香りが、潮風と共に溶けていく。
『食べ物を使うのは罰当たりだと思ったんですけど・・・割れちゃった卵、投げつけてやったんです』
「へぇ、やりますね」
『カラーボックスの隙間とか窓のレールとか地味に拭きづらい場所狙いました。もちろん顔も』
「いい判断だ」
『思わずナイスボールってガッツポーズキメました』
「ぶッ」
崩れた顔の線を片手で隠して、くっくっと小刻みに揺れる月島さんを見て、せっかく止まった涙が出る程笑った。
◇◇◇
体中の笑いがようやく止まった頃、「ここにはしばらく滞在しますか?」と唐突に尋ねられた。
『はい・・・三日休みをとったので、その間は居ようかなと』
「せっかくここまで来たんですから、水中の景色も見てみませんか?宜しければ案内します」
『水中・・・ですか?』
「すぐ近くのダイビングショップで働いているんです。もし興味があれば・・・」
そう言って手渡された名刺には、ダイビングショップ"Seven Seas"、インストラクター月島基と書かれていた。
ダイビングかぁ。
興味はあるけど、結局今まで経験してこなかったな。
・・・多分、今がそのタイミングな気がする。
『やってみたいです!でも、水着とか無いからどうしようかな・・・』
「器材はレンタル出来るので大丈夫ですよ。服や水着は・・・近くにショッピングモールがありますから」
そういえばバスで通ったな・・・とよくあるブランド名が描かれた看板が並んだ建物を思い出した。
確かここに降りる何個か前のバス停が、そんなような名前だった。
『じゃあ調達して来ようかな。あ・・・でも泊まる所決めてないんです』
「ショップと提携しているホテルがあるのですが、もし良ければ空きがあるか連絡しましょうか?この時期なら大丈夫だと思いますよ」
至れり尽くせり過ぎる。
初対面で情緒不安定な姿を晒したおかしな女になんて優しいの。
ホテルに電話をかけた月島さんは、電話口で話しを続けながらこちらを振り返ってOKサインを出した。
そうして私は残りの三日間、この海街に滞在することになった。
不思議な縁だな。
あんなことがあったのに、ここにいれば全てが上手くいく気がする。
「明日の朝迎えに行きます」と言われて連絡先を交換した別れ際。
「あの」と声をかけられて振り向くと、月島さんの表情は逆光に照らされていて見えなかったが、心地良い低い声が潮風に乗って耳に届いた。
「今日と明日では世界が違って見えるはずです」
月島さん越しに光を反射した水面が、宝石をちりばめたように煌めいて、しばらく目が離せなかった。
◇◇◇
予報通りからりと晴れた翌日。
ホテルの入口に横付けされたネイビーのハイエースには、"Seven Seas"の文字と波の絵が白く描かれている。
ガチャっと音がすると、運転席から月島さんが降りて来た。
ハイエースと同じデザインのTシャツと、カーキのハーフパンツにサンダルというラフなスタイル。
身体の線を捉えた服からは逞しい筋肉が覗いて、物凄く強そうに見える。
あぁ、そうだ。と昨日彼の前で醜態を晒したことを思い出して、途端に小っ恥ずかしくなり手をパタパタさせて顔をあおいだ。
蒸しタオルを駆使して腫れた目を鎮めたけど、まともな顔をしてるかな・・・
「おはようございます。眠れましたか?」
『あ・・・はい!楽しみ過ぎて早く目は覚めちゃいましたけど』
「それは良かった。今日は七海さん以外にゲストがいないので、ゆっくり教えられます」
おぉ、嬉しい反面緊張するな。
「どうぞ」とドアを開けてくれた月島さんが運転席に戻り私は後部座席に乗り込むと、顔に傷のある男性が爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「おはようございます!今日サブで付く杉元佐一って言います!」
眩しい笑顔を直に浴びて『ゔッ!』と思わず胸を押えて怯んでしまった。なんだこのイケメンは。
「マスクが曇るから化粧はしない方がいいです」と伝えられて、ファンデーションは諦めて夜に仕込んだ眉ティントと薄づきのリップしか施していない顔面には、あまりにも刺激が強すぎる。
『・・・っ、七海結月です。よろしくお願いします』
「よろしくね、七海さん」
杉元さんは月島さんの後輩で、話している内に同い歳ということを知って一気に親近感が湧いた。
最初こそ顔が良すぎる杉元さんに緊張してしどろもどろになっていたけど、人懐っこい彼の雰囲気も相まってすぐに打ち解けた。
海に向かうまでの道のりで、杉元さんは琥珀色の目をキラキラさせて、ダイビングの魅力をたくさん語ってくれた。
「俺、可愛い魚見るのが好きなんだよねぇ。今日行くとこ、カラフルなちっちゃい魚とかいっぱいいるんだよ」
『そうなの?!そういう魚って沖縄とかにいるイメージだけど・・・』
「南から流れ着いた生き物が多いんです。魚が好きなら楽しめると思いますよ」
「水族館で見るのと水中世界で見るのとじゃ感動が全然違うからさ、楽しみにしてて!」
逸る気持ちが顔を緩ませる。
それが照れくさくて窓から見える遠くの景色を眺めていると、いつの間にか目的地に着いたようだ。
『わぁっ・・・!』
目の前に広がる海は、澄み渡った空の色を映してゆらゆらと光っていた。
屋根付きの爽やかな色合いのテーブルとイスの周りには、南国を象徴する植物が木陰を作るように生えている。
眩しさに目を細めると、潮風が髪に絡んで舞い上がった。
「気に入りましたか?」
『綺麗・・・ここだけ別の国みたい』
「海の中はもっと別世界ですよ」
口元だけで笑う横顔に不覚にもときめいてしまって、それがバレないようにサッと目を逸らした。
◇◇◇
「このスーツがちょうどいいと思います。違和感があれば教えてください」
必要な情報として事前に体重を知らせていたけど、今更になって羞恥心に襲われた。
こんなことなら普段から運動しとくんだった。
二人の鍛え上げられた腹筋を見て、パーカー越しに自分のお腹を摘む。
ふむ・・・筋肉は不在のようだ。
明日からダイエットしよう、明日から。
それから、月島さんから器材の説明やプールで講習を受けた。
聞き慣れない言葉が飛び交って疲弊している私に、絶妙なタイミングでお茶とお菓子を差し出して小休憩を挟んでくれる。
接客業だからとはいえ、彼の気遣いが温かい麦茶と共に体に広がっていった。
そして、いよいよ海に潜る準備に取り掛かった。
二人が慣れた様子で器材を動かしているのを横目に、すぅーっと息を整える。
「難しいかもしれませんが、力を抜いてください。ちゃんと誘導しますから」
「大丈夫!俺もいるし、熟練ダイバーの月島さんがついてるから安心してね」
『は、はいっ!』
マスクをつけて顔を上げると、月島さんがこちらをじっと見て何かを確認している。
「顔、触っても?」と尋ねられたので息を呑んで小さく頷くと、濡れた指で顔周りをするりと撫でてマスクに挟まっている髪を引き抜いた。
月島さんは「よし」と呟いて頷き、しゃがんで私のフィンの緩みを調整してくれた。
わっ・・・絶対私の顔、赤くなってる。
見られていなくて良かったと思いつつ、ゲストへの普通の対応!仕事だから!!と心の中で自分に言い聞かせるが、心臓の音がうるさくて目が泳いでしまう。
動揺しているのを気付かれたくなくて私も足元に目線を落とし、月島さんの合図でロープに掴まってペンギンのように横歩きでペタペタと歩き出す。
岩礁にぶつかった波が砕けて跳ねる水しぶきにおっかなびっくりしながらも、「大丈夫ですよ」と言う声に向かってええいと海に飛び込んだ。
泳ぐと言うよりは波に流されるまま水面を掻き分けて進むと、月島さんが潜降のサインを出してテキパキと器材を操作し、ゆっくりと身体が沈んでいく。
その浮遊感に思わずぎゅっと目を瞑った時、ベルのカラカラとした金属音が水中に鳴り響いて恐る恐る目を開けると、目の前を小さな魚達の渦が銀色の鱗を翻して駆け抜けてゆく。
これが海の中。
まるで自分が童話の登場人物になったみたい。
見上げると泡を吸い込んだ白い光が海に差し込んで、青とのコントラストを創り出している。
水族館で見る景色とは違う、どこまでも続いている終わりの無い青い空間。
パチパチと何かが弾けるような不思議な音に耳を傾け、その光景にしばらく目を奪われていると、後ろから肩をトントンと叩かれて月島さんに両手を差し出された。
引き寄せられるように腕を伸ばして触れたグローブ越しの硬い手は、無機質な温度の筈なのに熱く感じた。
じっとこちらから目を離さずに手を引かれて、照れている自分が更に恥ずかしい。
邪な考えを振り払うように肩越しの景色を見つめていると、いつの間にか横に付いていた杉元さんが近くの岩場をちょんちょんと指差した。
そこには黄色と黒の縞模様の魚達がゆらゆらと漂っていて、よく見ると違う種類のカラフルな魚達も混じって青い背景を彩っていた。
目を見開いて杉元さんに目配せすると、ピースサインをしてマスク越しにも分かるくらい二カッと笑っていた。やだ、カワイイ。
杉元さんにピースを返して月島さんを見るとこちらにカメラを向けていて、魚をバックに何枚か写真を撮ってくれた。
月島さんはカメラを仕舞うとしきりに辺りを見渡して、手のひらサイズのホワイトボードを取り出し、"シマさん"と縞模様の魚の絵を描いてこちらに向けてきた。シマさんって何??
すると月島さんが指差した岩場の奥から、その絵そっくりの黒とグレーの縞模様の大きな魚がゆらゆらとこちらへ近寄って来た。
つぶらな目をしたその魚は、まるで品定めをしているかのように私の周りをクルクルと泳いでいる。
野生の魚もこんなに近付いてくれるんだぁ。としばらく眺めていると、月島さんから小さな貝を手渡された。
私が首を傾げていると、貝を持った手を引かれて魚に近づけていく。
ヒレをパタパタとさせて私をじっと見た魚は、手元の貝をツンツンとつつくと、それを咥えてひらりと身を翻して去って行った。
んぐぅ・・・カワイイっ!!
シマさんが去って行った方向を指差して興奮していると、月島さんが頷いてサムズアップをしたので、私も釣られて親指を立てた。
波に身を任せて浮遊感を味わっていると、身体が海に溶けてゆくような気がした。
私達を気にもとめず自由に揺蕩う魚達、透明なガラスの中には決して閉じ込められない神秘的な空間。
何もかも新しい世界に、私はすっかり心を奪われてしまった。
◇◇◇
『すごい!本当に別世界でした!!』
月島さんは私の身体から器材をカチャカチャと外して「それは良かった」と満足気に返事をしてくれた。
『あの魚、"シマさん"って何者ですか?!』
「人馴れしてるイシダイですよ。縞模様だからシマさんって呼ばれてるんです」
「ダイバー見つけると好物の貝がもらえるって分かってるから寄ってくるんだよ。カワイイよねぇ」
『野生の魚でもあんなに人懐っこい子いるんだぁ。また会いたいな、シマさん』
「他のグループからもらって腹が膨れていなければ寄って来ますよ。今日は運が良かったです」
そう言って器材を片した月島さんは、カメラを取り出して写真を見せてくれた。
その中にはシマさんとのツーショットが綺麗に写っている。
わぁっ・・・!後でこれ、アイコンにしよう!!
私が見た景色を切り取った画面に目を輝かせていると、月島さんは「案内した甲斐があります」と目線をカメラに向けたまま、丸みを帯びた声で呟いた。
あの時月島さんに声を掛けられなければ、私の世界はこうも広がっていなかったんだな。
そう思うと心の奥がきゅうっとした。
「身体が温まるからカップ麺がおすすめだよ」と杉元さんに進められ、お昼は施設に売っていたカップ麺を食べた。
水族館でもそうだけど、魚を見た後って何で魚が食べたくなるんだろう。
私の手は迷わずシーフード味を選んだ。
スキー場で食べるカレーみたいに特別感があって、温かくて染みる。
目の前に座る月島さんは、大きなおにぎりにガッとかぶりついて、もきゅもきゅと頬張っていた。
屈強な身体で眉間に皺を寄せているのに、先程よりもやわらかな表情の月島さんを見て、おにぎりが相当好きなんだなと伝わってきた。
カワイイ。この顔、癖になりそう。
差し入れでおにぎり作ってあげたい。
下心ある目で月島さんを見ていると、杉元さんが後ろから声を掛けてきたので我に返った。危ない危ない。
「七海さん、初めてなのに落ち着いててびっくりした!センスあるよ!!」
お世辞だとしても、真っ直ぐに褒められるのは嬉しくて自然とニヤける。
『えへへ、嬉しいなぁ。・・・ライセンス取るともっと深い所まで行けるんですよね?』
「一番最初に取れる資格で、十八メートルまで潜れるようになりますよ」
ササッとスマホでライセンス取得にかかる金額を調べてみると、こちらは全くもって可愛くない。
『ふーむ』とアプリで残高を確認すれば、これといって趣味が無い私の口座はまあまあ潤っていた。
恋人もいなくなって自由な今、自分の為にお金を使うのもいいかも。
『月島さん、私ライセンス取ります』
「即決して大丈夫ですか?ガイドした身としては嬉しい限りですが・・・」
『はいっ!もう決めました!!』
そうしてもう一つ、私は一大決心をした。
「でしたら三日あれば取れるので、またこちらに来ていただけるなら・・・」
『ここに住みます』
「・・・・・・はっ??」
『私、ここに移住しますっ!!』
月島さんは頬っぺたにご飯粒を付けたまま口を半開きにし、杉元さんはカランと箸を落とした。