"アビス"に転生したと思ったらキャベツが飛んでいた。 作:琥珀色の大西洋サバ
はい、投稿が遅れてすみませんでした……。
チェンソーマンとポケモン……許すまじ。
「いや〜、本当にありがとうございます……」
バッグを持ったウェーブのかかった長い茶髪茶色目の美女が俺に頭を下げる。鼻がどこにあるか分からんけど俺がまだ人間だったらその下が伸びてただろうな。
『いえいえ、人として当然の事をしたまでですよ』
人じゃないけど。
とりあえず卿のボイスでそう返す。
こういう時は大体卿ボイスは役に立つのだ。
さすが超人気声優、ありがたく使わせてもらいます。
「あ、あの……」
美女さんが声をかける。少しおどおどした感じが可愛い。
『どうしましたか?』
「その……名前とかって……」
あ、名前か。
『そうですね……名前……』
人間時代の思いに浸る。人間としての名前は覚えているがこの肉体でそれを名乗っても変な感じがするし、そもそもこの肉体で生活してる間は名前が必要ではなかった。
まぁここはアレか、種族名でいっか。ポケモンもニックネームつけなきゃ種族名だし。
『……ナキカバネとお呼びください。人間からはそう呼ばれていましたので』
「ナキカバネさん……ですか!よろしくお願いします!」
そして彼女が一礼をする。
礼儀がよくできている人だ。
なんかお店でも経営しているのだろうか。
「私はウィズと言います!歳はその〜…二十歳です!職業は魔法道具の販売店を経営しています!!」
正解なんだろうけど……魔法道具店?
いやいや、まさかね?流石にコレクターとしてだよな?
あのガラクタを売り物にする筈がない。転売ヤーじゃあるまいし!!
いやもうそうであってほしい。(願望)
残念系キャラにしてもそこまでポンコツだったらもはやまともな生活は程遠いのよ。
……うん。
『よろしくお願いします、ウィズさん』
まぁそれはそれとして、だ。俺は頭を下げる。
すると俺の瞳にウィズさんがピッタリ収まった。
……やっぱこうして見ると体格差凄いな。
俺の頭って人間の胴体並みにデケェし。
そう思いながら俺は一歩下がり、ウィズさんに背中を向けた。
『良かったら送りましょうか?ここからではアクセルの街まで徒歩30分程かかりそうですし』
フッ、ここでサラッと決めるイ☆ケ☆メ☆ンムーブ。
ドヤァ……。
「あ、その……私テレポート使えるので……その……」
あっ。
◆
「ナキカバネさん!!な、なんかすみません!!ご厚意には乗っかるべきでしたね!!あはは……」
思いの外ガチ凹みした俺を見てウィズさんがそうフォローする。
それはそれでなんか虚しくなるよウィズさん……。
……あ、そういや。
『立ち直りました。ありがとうございました』
「あ、本当ですか!よかった……」
『そういえばウィズさん』
「ん?どうしました?」
『あの道具達ってなんでこんな所に……』
聞きたかったんだよね。なんでこんな所にあんなガラクタが落ちていたのか。
だってテレポートあるなら簡単に、しかも一瞬で目的地に向かえる訳じゃん。だったら普通、その道中で道具を落とす事はない筈だ。
疑問に思う事は間違っていないと思う。
まぁ、結局は魔法の力って話になるので詳しくは俺も理解できないけど。
「あ、それはその......」
ウィズさんの顔が俯く。
聞かないほうがよかったのだろうか。
「じ、実はとある魔道具の影響らしくて……」
あ、全然そんな事なさそうだ。
ならご遠慮はいらないか。
『へぇ、何か特殊な物だったりしたんですか?』
バッグを頭で擦りつけてウィズさんにそれはどの道具なのか見せて欲しいとお願いする。
手が翼となっているので物に指差す時とかは頭で擦りつけたり言葉で表現するしかないのだ。なので人狼ゲームとかやる時は不便に感じるだろう。まぁそもそもカードゲーム全般、カードを持つ必要があるから遊ぶ事すらできないんだけどね。
「あの実は……なくて」
ウィズさんが小さな声で呟く。
目をパチクリさせながら俺は首を傾げた。
『へ?それはどういう……』
「どうやらナキカバネさんが洞窟に運ぶ際、バックの中から溢れ落ちたようです………」
マジか、結構慎重に運んだんだけどなぁ……。
『それってどんな形をしてますか?魔道具って言っても様々な形ありそうですし……』
責任感のせいか少し言葉が早く出る。
見つけて返さなければ。今の所戦犯でしかないぞ俺。
「えっとですね、魔道具の確か名前は……」
ウィズさんがそう言葉を続けようとしたその刹那。
「グルォォォ!!!」
凄まじい轟音と共に横から何故かでっけぇ熊が突進してきた。
「あ、一撃熊ですか」
結構あっさりしているウィズさんの反応とは真逆に俺は急いで前に出てウィズさんを庇おうとする。
「ギュイァ!!グルルルル!!」
転生してから久々の本気モードの俺。
人間の声真似ではなく、元のナキカバネの声帯で威嚇する様に吠える。
だって熊だよ?
異世界とはいえ十分強いバケモンなのよ。
まぁ俺には空を飛ぶというアドバンテージがある分、戦えば勝てるには勝てるが……ウィズさんを守りながら戦うとなると怪しいぞ……。
……なのでここは熊に逃げてもらおう!!
「グルォ!!?」
翼を広げて体を更に大きく見せる。
ナキカバネは翼を広げると大きさが10mを超える化け物だ。
この体格差を見せれば熊も俺には勝てないと理解する筈。
何故お怒りなのかは知らんが……ここは逃げてもらうぞ!!!
熊の足が止まり、行き先が真逆方向に急転換する。
そしてそのまま熊はここから去っていったのだった。
……ふぅ、なんとかなったぜ。
『ウィズさん、大丈夫でしたか?』
声をかけて安全を確認する。熊がこちら側に着く前に追っ払ったので絶対怪我はする事はない筈だが、一応確認だけしておこう。
「なるほど……大体把握しました」
「ナキカバネさん、あの熊追いかけましょう」
……へ?
◆
「一撃熊には見慣れないものを見つけたらそれを巣に持っていく習性があります」
「つまり……」
『落とした所を持っていかれた、と』
歩みを進めながらそう会話を繋げる。
なんかもうここまで偶然が繋がると凄いわ、これ。
どんな魔道具なんだろ。
「なんとしても取り戻したかったんですけど、ナキカバネさんが手伝ってくれるなら心強いですね!!」
あら嬉しい。
ウィズさんに言われると魔王だって倒せそうな気がしてくる。
この世界の魔王がどんな奴なのか全く知らないけどな。
この世界じゃなんかおふざけ感満載の魔王の可能性が高いが案外テンプレ系の魔王だったりするのだろうか。案外この世界ハードモードだし、あり得そうな話だ。
まぁ、どの道俺は魔王城まで行けない体なので関係ない話だろうが。
「グォォ!!!」
そう考えている間に熊再び。
巣がもう近いようだ。
『ウィズさんは先に行っててください。ここは私が引き受けます』
「え、あ、でも……」
そこまでしなくても……みたいな顔をするウィズさん。
しかし俺は引くつもりはない!!
『カッコつけたいんです!!!』
本心を叫ぶ俺。
今の所なんの役にも立ってないからせめてケジメをつけたいのだ。
目をガン開きにしてその事を強調する。多分人間時代だったら迫真の表情だろう。
「あぁ……なるほど?」
するとウィズさんは苦笑いをしながら一歩後ろに進んだ。
「分かりました、ならせめて援護はさせてください……元々落とした私の責任ですので……」
巨大な魔法陣がウィズさんの前に展開される。
静かに浮かび上がるそれは、熊の頭を正確に狙っていた。
……あれ?あいつ、ワシより強くね?
そう思ったその瞬間。
「えい!カースド・クリスタルプリズン!!」
熊は氷漬けになった。
……うん、援護ってなんだっけ。
◆
「見つかりました!!ありがとうございました!!!」
巣穴から出てきたウィズさんが頭を下げる。
元々は俺のミスによってこうなってしまったのに、礼を言ってくださるなんてやはり優しい人だな。役職は聖人かなにかだろうか。
ウィズさんは手に入れたそれを首にかける。
見たところそれは直径7cm程のガラスの球体に輪っかがくっついた形で、中身は星の形をしたアクセサリーの様なナニカが入っていた。
………星の羅針盤じゃん。
え、なに?ここで重要アイテム出てくるの?
心の準備というか全然現実を受け入れられてないんだけど。
というかそもそもコイツ、結局なんの道具かも未だに分かってないじゃん。つまり厄ネタにもなりかねん存在と言っても過言ではないわけで。
あー……頭痛くなってきた。
ウィズさんはそんな俺の内心を知らずにこの道具の紹介を始めた。
内容は大体知っているが、聞いておこう。
「この道具はですね、運命の指針というらしくて」
うん、知ってる。呼ばれ方変わってるのね。
「振っても回しても針が微動だにしない羅針盤で」
はい、ご存知ですよ。もはや羅針盤として機能しない奴ね。
ウィズさんが好きそうな道具だわ。
「どうやら運命を狂わす力を持つ魔道具だそうです」
いや知らなーい……。
へ?そうなのお前?そんな能力あんの?
球体に目線を向けながら心の中でそう唱える。
原作ではこの玉ころに特殊能力なんて微塵もないのだ。ちょっと謎で使えないコンパスぐらいにしかならない訳で。
「ん?どうしました?」
戸惑う俺を見てウィズさんが頭を傾ける。
流石に何にも知らないウィズさんでも、俺の戸惑う姿に気づいたようだ。
『いやなんでも。にしても綺麗ですね〜』
誤魔化しながらも思考を巡らせる。
まぁ能力に関しては百歩譲るとして。
コイツが存在しているという事は……他の遺物も存在するのだろう。
精神眷属機とか、欲望の揺籃とか。
……ダメだ、厄ネタの遺物しか頭に出てこない。
アイツらインパクトデカすぎるんよ……。
あ、ライザのピッケルとかもあったわ。
しわ鍋、洗剤になるあれ、水を作り出す奴!!!
後は……命を響く石……。
『ウッ、プルシュカァ……!!!』
「ど、どうしました……?炭酸飲料にありそうな名前?ですけど……」
ウィズさんの一言により目を覚ます俺。
確かに炭酸飲料みたいな名前してる。
どちらかと言えばプルタブを開けた時の擬音の方が感覚的に近いと思うが……まぉどっちでもいいか。
『すみません。ちょっと頭痛がしただけですので、ご安心を』
そうして一瞬で吹っ飛ぶトラウマなのであった。
「そうですか……ならよかったです!」
◆
「ではナキカバネさん、今日はどうもありがとうございました!!」
『いえいえ、こちらのミスだったのでそんなお礼を言うことではないですよ……。むしろこちらが謝りたいし、お礼を告げたいです』
「では、この辺で!!また会える機会があったら!!」
頭を下げた後ウィズさんは魔道具達を袋に詰め込み、踵を返した。
まぁ……俺完全に戦犯だったな。
今度はもう少し考えて行動せねば……。
そう心の中で反省会を開きながら俺は翼を広げた。
でも収穫はあった。
この世界に遺物が存在するという事だ。
厄ネタの遺物も結構あるが、それは使わなければどうとでもなる話。そいつらを見つけてうまく利用すれば今の生活よりももっと楽ができそうだ。
例えば水を産み出す装置とか。
なんか一部の奴らは魔法とかで生み出せるらしいけど、生憎俺と安楽少女にはそんな魔法持ち合わせていないのでいつも雨が降るのを待ったり飲みに行ったりする。
しかしそいつがあったらその必要がなくなるのだ。いいね!!*1
まぁ、あれは特級に値する遺物だし、そもそも遺物がアクセルの街付近に存在するかも分からないしで手に入れるのは至難の業だが……見つけられたら生活が豊かになる事間違いなしだろう。
今度お暇の合間にでも探してみよっかな。安楽少女もそういう秘密道具みたいなの好きだし、もしかしたら別の掘り出し物が出てくるもしれない。
俺は羽を動かそうとした。
さて、そろそろ帰るか。
かぼすゼリーが俺を待っているしな。
安楽少女もかぼすゼリーを待ち侘びているだろう。
あやつの為にも帰らなければ。
「……へ?」
動かそうとしたのだ。
「ギュイィィン!!!」
その瞬間、天から綺麗な一筋の光の柱が立つ。
肌でも分かる。これはエリス様の力だ。光から感じ取れるのは明らかな殺気……。
そしてその光は……1人の影を飲み込んだ。
ウィ、ウィズさーん!!!
エリスのフォトンゲイザー!!(白目)
大丈夫?これウィズさん死んでない?
心配になってきたんだけど……。