レベル上がらないテイマーさん 作:匿名幼女
「手助けは?」
「大丈夫だよ」
沼地より少しだけ突き出た岩場に乗ってこちらを見守る一人と一匹。
「子供達に任せて大丈夫なんですわ? まだ小さいのに心配ですわ……」
「あいつが大丈夫って言ったんなら大丈夫だろ。……ってか、その言い方だとラピンってやつもガキなのか」
「ラビッツから家出したら腕ぶった切られて取っ捕まったっていってたですわー!」
「はっ? 鳴き声一つ上げてなかっただろ?」
「武器振り回してた時に言ってたですわ」
「俺は聞こえなかったが……種族によるもんか。何かしらの条件で解放されるものか? まあそこらへんはリルの問題か」
お兄ちゃん達が何か会話してるのは分かったけど、全部聞き流してラピンに集中する。
「お願いね、ラピン」
鼻を鳴らしたラピンが何を考えてるのか。
────そう、テイマーなくせに使い魔のことが何も理解出来ていない。そんな状況に危機感を抱いただけ。
別にお兄ちゃんにやってもらっても良かったんだ。
お兄ちゃんってば、レベル上げを考えてエリアボスなんかの強い敵を積極的に狩る気満々だし。
それでも私はやらなければならない。リュカオーンをぶっ飛ばすために。
このままリュカオーンにいいように扱われて、時限爆弾が体内にあるまま呑気に過ごせない。
「おーおー。卓球の玉みたく跳ね回ってんなぁ」
「シークルゥ兄ちゃんみたいですわ! ビュンビュンですわー!」
「片腕しかねえが俺と同じ俊敏特化か。リルの身体を足場代わりに使いつつ、ラピンを沼地に入らせないためにアイテム込みで撹乱。壁ジャンからの切り込み右目突き刺し煙玉投下……あれスパイラルエッジだな。そういうスキルも覚えるのか」
「お兄ちゃんうるさい! ちょっと静かにしてて!!」
「お、おう」
普段よりラピンに指示を飛ばす。どの技を出すのか、移動か、避けるのか、防御するか、潜ってしまった泥掘りからどう立ち回るのか。
口で、行動で、ラピンに指示を飛ばしていく。
そして泥掘りの隙を狙って────私自身が攻撃をして殺す。
でもレベル1かつ経験値もなく、スキルが育てられない私には、ストレートスラッシュかナックルラッシュしか使える技はない。
だから一撃で仕留めなければならない。
リュカオーンめ、厄介な力を授けたわね……。
(今殺る? いや、幕末ならお返しカウンター天誅される場面……急所を狙わないとレベル1の私が殺される……)
検証を重ねていかなければならないのだ。
普段であればラピンに全部任せて倒してるけど、それじゃあ何も変わらない。
ラピンじゃなくて私が倒したら影スキルがどんな影響を及ぼすのか反応を見て、必要ならこのプレイスタイルを定着させよう。
「っ!」
「地響きか!?」
「リルサンまずいですわ! 来るですわぁぁ!!」
後ろから聞こえる悲鳴に、反応することすら危うく。
────奴は攻撃し続けたラピンを狙うはず。
ラピンは影スキルで戻せるからダメージの心配はない。
だからその際に私が攻撃を────。
いや、待って。
こんな簡単に終わらせるのがエリアボスでいいの?
私なら、私がゲームを作るなら確実にプレイヤーを狙う。プレイヤーが簡単に突破できないように、ひねくれたことをする。
ならば。
「っ────!」
何が起きたのか一瞬分からなかったが、上空へ跳ね上げられたのだと気づく。
不運にもラピンが動くのを止めたことで沼地に足をとられて動けないまま。
真下を見れば、大きな口が私を食べるために待ち構えている。
「リル!?」
「はわわわ! た、助けなきゃですわぁ! マジックスクロ────」
「手出ししないで!」
「ひょえ!?」
だって、こんなにも隙だらけで!
なおかつこんなに、影がある!!
「ラピン!」
一瞬岩場の影へ消えたラピンが、私の服の隙間にある影から飛び出す。
ラピンに抱えられたまま、私は拳を握りしめた。
「ナックルラッシュ!!」
「ギシャァァァァァァァァァァア!!!?」
頭上からの攻撃に耐えきれず泥掘りは叫ぶ。
落下ダメージが来る前にラピンが私を抱えたまま、泥掘りの身体の上を滑っていった。
『影に打ち勝ち、影と共にあり』
『経験値は全て夜襲のリュカオーンへ付与されます』
『ユニークスキル「リュカオーン」の深度が上がりました』
『片腕のウォーパルバニー「ラピン」の影が繋がりました』
『プレイヤー「リル」の影が深まりました』
わーいなんかよく分からないものが出てきたぞー。私でもラピンでも倒したらやばくなるんじゃ手立てないじゃん。
ああもうしーらない!
「しょーり!!」
「ギリギリ及第点だったぞ」
「及第点ならいいじゃん。知りたいことも解決したし」
「知りたいこと?」
「リュカオーンの影を解く方法」
「ぶっ飛ばすしかねえだろ」
「やはり天誅……天誅こそ世界の成り立ち……! よし今度復讐人狼ゲーム作ろっと!!」
「調子がいいんですわぁ」
♢
エリアボスを倒したらあとはサードレマまで一直線なのでゆっくり歩いている最中。
難しい顔をさせた私に、お兄ちゃんは呻く。
「サードレマで待ち構えてるかもしれないんでしょ。馬鹿正直に突破するの?」
「そこからしか行けねえなら仕方ねえだろ。まあ落ち着け。策はある! 兄ちゃんに任せろ!」
「囮作戦は無しね。ねえお兄ちゃん何で目線そらすのよ。ねえ、ねえ?」
「ま、まあ待て。まだ策はある!」
「信用できないんだけど……」
「強行突破は無理ですわ。門番にお話して中に入れてもらう必要ありますわ」
「門番と話してる最中に捕まりそうな予感しかしないや……お兄ちゃん?」
不意に兄が立ち止まって何処かを見ている。
ギョッとしてるような。冷や汗かいてるような……。
「ひぇ」
風景に溶け込む白の塊。そこかしらに装飾があって、何かのオブジェかと勘違いしていた。
それが動いて、こちらに近づいてきた。