我は魔王。受付嬢である   作:丸焼きどらごん

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11話 「我は魔王。時間を支配せし者なり」

 我が受付嬢としての更なる飛躍を目論む中、小僧もそれなりに頑張っている様子を見せていた。

 

 小僧がギルドマスターに指導を受けられるのは、だいたい七日に一度か二度。

 それもあの男なりに幼いユアンの未発達な体を気遣っているのか、せいぜい一時間程度の指導だ。

 その短い時間の中で教えられる剣術や武術の型を、幼子なりに精一杯理解しようと我が与えた古紙の裏につたない絵で記す様はなかなかに微笑ましい。

 

 ……しかし、ふむ。新たな課題も見えてきたな。

 

 ユアンはどうも文字の読み書きが出来ないようだ。だから絵で描き記している。

 これは幼いから、というわけでなく、そもそもの識字率の問題であるらしい。

 先輩に聞いたところ、小さな村では村長など一部の者が読み書きを扱えるのみだという。

 

 当然我は魔族文字に加え人間の文字も完璧に扱えるが……まあそれは、この身体(エリーデル)という下地があった故であるな。それがなければ、我とて学習に時間を要していた。

 姫として生まれ育ったエリーデルの基礎教養は、人間生活に馴染むため大いに役立っている。少なくとも文字の読み書きが出来なければ、受付嬢という仕事を紹介されることもなかっただろう。

 姫だからこそ料理など庶民の生活面では不足する知識もあるが、それはさしたる問題ではない。我が自ら学べば良いだけの事であるし、それもまた我の娯楽なのだから。

 

 

 ともあれ、ユアンの新たなる課題……知識面の教育についてだ。

 

 

(むぅ……。そうだな。これについては、我が教えてやるか)

 

 アルニラムに子供の学び舎が無いわけではないが、エリーデル()が必要な知識を全て有しておるのだ。空いた時間に我が知識を与えてやればよい。

 我を倒す勇者が馬鹿では、倒される我の箔にも傷がつくからな。読み書きに加え算術など、可能な限り知識を詰め込んでやろう。

 

 それとギルドマスターの指導が無い間も、基礎体力は向上させねば。

 朝夕で走り込みでもさせよう。ついでに我も共に走り、この脆弱な体を鍛えれば効率的でよい。

 あとは……そうだな。筋力増強に役立つ運動も調べておくか。

 

 小僧を勇者に育てるべく必要な課題に対し、次々と脳内で予定をくみ上げていく。

 

(まったく、やはり人間とは脆弱で面倒な生き物であるな)

 

 嘆息するも……我の顔は邪悪に笑んでいた。

 

(ククククク。小僧め、貴様に自由な時間があると思うなよ? 朝から晩まで、この魔王が支配してくれる!)

 

 魔王に時間を支配されし勇者。

 それはなんとも滑稽で、愉快ではないか?

 

 実際に我を倒せる勇者に成長できるかは不明であるが、もし失敗したとしても次回の育成に活かせる経験となるであろう。

 我はギルドマスターのように配慮などせぬからな。覚悟するがよい。

 

 

 ……あ、そうそう。そうであった。フォルティマにもそろそろ、折を見て魔法の指導を始めさせねばな。

 えーと、まず人間に化けさせて……それと意外と(さか)しく疑り深いユアンが信頼できる肩書はどうするべきか……修練頻度は参謀としての仕事もあるフォルティマの予定を優先させるとして……。

 

 ひとつ考え始めると、あれもこれもと考えることが増えていくし、どれも悩ましい。

 だがそれは、暇を持て余す我にとって非常に楽しいものであった。

 

 

 勇者育成ゲーム、やはり最高の暇つぶしであるな!

 わーっははははははは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に、我がユアンの育成計画に力を注いでおる最中の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お祭り?」

「そっ。真珠祭って言ってね。豊作と豊漁を願う年に一度の大きなお祭り。エリーデルちゃんもユアンくんも、まだアルニラムに来て日が浅いし経験したことないでしょ? 当日はお休みあげるから、よかったら二人で行ってきなよ」

「!」

 

 毎度ながらの締まりのない赤ら顔でそんな事を言うギルドマスターに、たった今こ奴の修練を終えたユアンがぱっと顔を輝かせる。

 

 ふむ……人間の祭り、か。

 

 興味がないわけではないが、我は祭事というものがどうも苦手なのだ。

 魔族にも祭りはあるが、その際に我は玉座で延々と我を崇め奉る堅苦しい儀式を見せられるのみ。嫌いとまではいかないが、流石に飽いて微妙に苦手意識が根付いてしまっておる。

 

 だがあの表情を見るに小僧としては興味があるようだし……ここは一人で行かせるか。

 普段はみっちりと我の課題をこなしておるのだ。嫌な顔ひとつしない姿は感心であるが、おそらく内心は疲れ果てているだろう。

 ここで我が寛大にも息抜きをさせてやることで、我に対しての信頼が増し今後の学習効率も向上するはず。

 

 ふむふむ。そう考えると一日休ませる程度、安いものだ。

 ククククク。これらを瞬時に計算する深謀遠慮たるや流石は我。計算高い魔王である。

 

「ユアン。わたしはいいので、君は息抜きにでも行ってきなさ……」

「祭りに合わせて商船も集まるから、いつもと雰囲気違って面白いんだ~。屋台で普段は食べられない特別な料理が売られるし、アルニラム特産の真珠を使った工芸品なんかも並んで華やかだよぉ」

「是非ともお休みを頂きます」

 

 普段は食べられない特別な料理だと? それを早く言え。あやうく休みを辞退するところだったではないか。

 アルニラムは港町だが、平常時は地元の漁船が停泊するのみ。そこに商船がやってくるとなれば、あわよくば他国の食物にもありつけるやもしれぬ。

 

「! お、おねえさん。いっしょに、行ってくれるの?」

「ええ。ユアン、食堂での賃金は貯めていますね? 食べつくしますよ、祭りを」

「真珠の工芸品にも興味をもってほしかったかなぁ……」

 

 工芸品? そのような食えぬものに興味などないわ。なによりこの身体こそが一級の芸術品なのだ。装飾など不要よ。

 

 ククククク。さぁて、人間の祭りとやら。この魔王をどの程度満足させられるか、見せてもらうとしようか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギィ……と木材のきしむ音をたて、白い帆を掲げた船が月夜に波の花を咲かせながら進む。

 その甲板には多くの人影が見られたが、いっさいの喧騒は無く波の音だけが海上で踊っている。

 誰もが幽鬼のような動きで淡々と船の操縦を行っており、その整然とした様は統制がとれているというよりも、からくり人形が同じ動作を繰り返すそれに似ていた。

 

 彼らの首筋を、月の光を照り返す白い花が飾っていた。

 ……否。それは花でなく、翅を広げた白い蛾である。

 蛾は管状の細い口を伸ばし、人々の首に吸い付いているようだった。

 

「~~♪」

 

 静寂をひとつの歌声が割る。

 

 カツンっカツンっと甲板をステッキでついて上機嫌に歩くのは、小洒落た燕尾服に無理矢理身を包んだ異形だった。

 はち切れんばかりの服を我が物顔で着こなして、背中の翅から銀色の鱗粉をまき散らし船の操作をする人間達を満足げに眺めている。

 

「さて、次の食事はどこで楽しもうか。出来るだけ、賑やかなところがいい。平和で、幸せそうで、我らの脅威など対岸の火事のように感じている、無知で無垢な愚か者どもが住まう場所。ああ、船は良い。ボクを自由にしてくれる」

 

 軽やかに紡がれる言葉は、誰かの返事を期待したものではないようだ。

 黄色い複眼に喜悦を浮かべ、異形は踊るようにその場で腕を広げ回転する。

 その動きにあわせ、花が手折られるがごとくあっさりと、何人かの首が甲板に落ちた。

 

「おっと、いけない。そこのお前、掃除を頼むよ」

 

 頭のなくなった胴体から吹き出す血に顔を歪めた異形は、近くで動く人間達に命令をくだした。

 人間はそれに従い落ちた首を拾い上げ、胴体を海に投げ捨て、血で濡れた甲板をぬぐっていく。……だが淡々とした動作とは裏腹に、その顔は苦悶で歪んでいた。

 

「嗚呼……甘い」

 

 満足げに目を細める異形は、今度は別の者に顔を向ける。

 

 

 

「……次の目的地にふさわしい、おすすめの港はあるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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