我は魔王。受付嬢である   作:丸焼きどらごん

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二章 魔王、勇者を育成する
17話 「我は魔王。モテ期である」


 今日も今日とて冒険者たちで賑わう、アルニラム冒険者ギルド。

 その中で、ひと際多くの冒険者が並ぶ受付があった。

 

「エリーデルちゃん、今日も可愛いね~。どう? 仕事の後にデートでも……」

 

 カウンターに肘を乗せながら若い冒険者が色目を使うのは、美しい金髪を背に流した暁色の瞳の少女だ。

 白い肌にすらりと長い手足を備え、姿勢も整っている。そのどこか気品を纏った佇まいは、一枚の絵画のようであった。

 

 だが。

 

「わたしが可愛いのは当たり前です。ギルドの受付に相応しくあるよう、日々磨いているので。それと誘い文句が五点ですね。何処のお店に行くとか何を食べるかとか、具体的なプランを添えるといいですよ。あと差し入れの一つも持ってくるとか」

 

 口から飛び出て来た台詞は実に俗物的であった。

 更に言えば彼女の後ろには"差し入れ"の山が出来ているのだが、彼女が誰かの誘いを受け入れた、ということは無い。

 全て貰いっぱなしで、貢いできた相手への見返りは皆無である。

 

「あっと……へへ。装備新調したから、今日はちょっと持ち合わせが……」

「そうですか。ところでギルドへのご用向きが無いのでしたら、次の方に順番をお譲りください」

「かぁ~ッ! 相変わらずツレないね。そんなところもイイんだけどさ!」

「順番を……」

「ああ、待って待って! 今日はこの依頼を受けたくってぇ……」

 

 慌てて受付への用向きを持ち出す男だったが、それを後ろからぐいっと押しのける太い腕がひとつ。

 

「おいおい、お前早くどけよ。エリーデルちゃん、俺はこんな貧乏と違って今日は最近話題のメレンゲ菓子を持って来たぜぇ~!」

 

 強面で筋肉の盛り上がった男が、可愛い小包を手にデレっとした表情で身を乗り出す。

 更にはその後ろから、ばさばさと嵩張る大きな花束を抱え気取った青年が顔を出した。

 

「ああ、無粋な方ばかりですねぇ。エリーデル嬢には可憐な花こそ相応しいのです。さあ、この輝星花の花束を受け取ってください! そして今日こそ私と逢引を……」

「てめっ、順番ぬかしてんじゃねぇ!」

「オメーもだよ! 今は俺の番なの!」

 

 並んだ列からやいのやいのと冒険者たちが受付に群がり、その様子に眉根を寄せた受付嬢……ギルドに来てから五年の月日を経て美しく成長した少女は、パンっとカウンターを手で打った。

 

「わたしは規律を乱すような行為をなさる殿方に、魅力を感じません。あ、差し入れは頂戴しますから、そこの箱に入れておいてくださいね。いつもありがとうございます」

 

 毅然とした態度をとりつつ、ちゃっかり贈り物は貰う気らしい。専用の箱まで用意している有様である。

 

 

 

 

 

 

 

 アルニラム冒険者ギルド受付嬢、エリーデル。自称十五歳、実年齢云万歳。

 現在モテにモテる、モテ期真っ盛りであった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 そしてそれをギルドに併設された食堂から横目に見つつ、眉根を寄せる少年が一人。

 

「ユー坊、気になるなら行ったらどうだ?」

「別に、気になってないし。いつものことだろ」

 

 常連客の冒険者にぶっきらぼうに返すのは、鉄色の髪に夕日色の目をした少年だ。

 名をユアン。エリーデルと同じく五年前からアルニラム冒険者ギルドで働いている、冒険者志望の少年である。

 

 現在は給仕中のようで、注文の品をやや乱暴気味にテーブルへ置いた。

 

「はい、おまちどう」

「ひゃっははは! 分かり易いなぁ、お前」

「な。強がんなよぉ、ユアン。眉間にふっけぇ谷が出来てんぞ」

 

 五年経ち身長は随分伸びたが、まだまだ子供のユアンは屈強な冒険者に囲まれると、途端に埋もれてしまう。

 左右から頬をつついてくる指を避けることもままならず、ついには「うがぁ!!」と両手をばたつかせて振り払った。

 

「おー。怒った怒った」

「まっ、お前としちゃあ気に食わんだろうが仕方ねぇよ。エリーデル、綺麗に育ったもんよ」

「だよなぁ。元から顔の良いガキだったが、そんでも化けたぜ。俺達にとっちゃ娘みてぇなもんだが、若い冒険者共が群がるのも無理はねぇさ」

「他の受付嬢はみんな旦那か彼氏持ちだし、余計にああなるよなぁ~」

「てかお前、今日冒険者登録するんじゃなかったか? 念願の十歳誕生日だろ? なんで普通に働いてんだよ」

「忙しそうだったから……」

 

 もごもごときまり悪そうに俯くユアンは、姿だけならすでに立派な冒険者の装いである。この日のために一生懸命お金を貯めて、一式そろえたのだ。

 だが現在は昼飯時真っ盛り。本日は混み始めるのが早かったこともあり、うっかり手伝い始めたら抜けるに抜け出せずこの時間である。

 

「もうお前冒険者になるのやめとけって。このまま食堂の後継者として俺らの腹を満たしてくれよ。ユアンの料理、美味いし」

「嫌味じゃなく本気で言ってるの腹立つ」

「ぎゃははははっ! 腹立つ、だってよ。あのチビが言うようになったなァ! まあ今もまだチビだがよ!」

「子ども扱いするな!」

「ユアーン! ちょいと厨房も手伝っておくれよー!」

「あ、はーい!」

 

 悲しきかな。

 体には食堂手伝いとしての振る舞いが五年分しみついており、流れるように空いた食器を両手に持ちながら厨房へと舞い戻って行くユアンであった。

 

 彼の冒険者登録には、もうしばし時間を要しそうである。

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

 

 人間領域で人間に擬態し生活をし始めてから、五年。

 我は現在、先輩いわくモテ期……というものらしい。

 人間の雄共があとからあとから寄ってくるのだ。

 

 まあこの体は魔王たる我が分身体として選んだほどの美しい造形であるからして? それも当然である。

 更には素材そのままに頼るのではなく、我なりに五年間この身を磨いてきたつもりだ。小僧に身だしなみを整えろと言いながら、我がそれを怠るわけにはいかぬからな。

 まあ結果としては非常に役立っておる。雄共が自らすすんで我に貢物を持ってくるのだから。

 ギルドの景観を飾る花や、先輩たちとの休憩時の茶菓子には困らぬわ。金目のものは売れるしな。

 

 ちなみにこの分身体だが、五年で我の肉と素体としたエリーデルの骨が馴染んだため今では完璧に同化しておる。

 人間の成長速度にあわせて骨ごと変化させるのも、お手の物だ。

 

(それにしても、ユアンめ。ここにきて怖気ずきおったか? 何故さっさと冒険者登録をせぬのだ)

 

 今朝方意気揚々と冒険者登録の準備をしていた小僧は、何故かいつものように食堂で忙しなく働いておる。

 こちらは朝一で登録をするだろうと待ち構えておったのだぞ? 小僧がもたもたしておるから、いつもの有象無象共で我の受付が埋まってしまったではないか。

 

 そう思いながらジト目で動き回るユアンを見ておったが、奴め……。ついに注文が許容量を超えたからか、厨房に戻らず"その場で"調理を始めおった。

 

(シルフィ)、卵と油と玉ねぎとコマツィ菜とってきて! あとフライパンとおたまと俺の調味料セットも!」

 

 ユアンがそう叫んだ途端、厨房から風に舞う木の葉のように、到底風では浮かないようなものが飛んできた。

 それを宙に浮かせたまま必要な物だけ手に取ると、次いでフライパンの下部に手を添える小僧。

 

(イグニ)、強火でお願い!」

 

 すると途端に空中で火が燃え上がり、そのまま滞空しユアンが構えたフライパンを熱する。

 ユアンはそこに油を流し入れると、いつの間にか風に切らせていた玉ねぎと菜っ葉を炒め、仕上げに溶いた卵を投入し、あっという間に卵とじを作ってみせた。

 

 それを見た周囲が、どっと歓声に沸く。

 

「はい、おまち!」

「おうおう、相変わらず鮮やかだねぇ!」

「いいぞ、もっとやれ! おい注文追加しろ追加」

「わざとやってるだろ!? 俺のこれは見世物じゃないの!」

「どう見たって見世物だろうが」

 

 食事席のど真ん中で火を扱うにも関わらず、周りからは愉快気に囃し立てるような声ばかりが飛び交う。まさに見世物である。

 

 我はその"魔法"の使い方にこそ呆れるが、うむうむと腕を組んで頷いた。

 

 我はユアンに魔法の師匠として、我が魔王軍随一の魔法の使い手たるフォルティマをつけたわけだが……。

 フォルティマに教えさせた通常の魔法の他に、こ奴は思わぬ才能を発現させたのである。

 

 

(まさか"精霊魔法"に適性があるとは……。うむうむ、勇者といえば精霊魔法よな~。これを次段階の付与にまで進めれば、ますます勇者らしく……)

「クソガキ、脆弱な精霊魔法など使うなと何度言えばわかる」

「げ。今忙しいから後にしてくれやがりますかクソ師匠」

(ぬ)

 

 我が満足げに頷いていると、新たに冒険者ギルドに入ってきた者が一人。我が側近、フォルティマである。

 非常に不機嫌そうだが、まあ、それもさもありなん。

 魔族は精霊魔法を毛嫌いしておるからなぁ……。魔法の行使を他者に"委託"する魔法など魔法ではないと思っておるし、そもそも魔族は精霊が嫌いであるし……。

 更にはわざわざ自分が魔法を指南したというのに、教えたわけでもない魔法を使われて気に食わないのであろう。

 我としては嬉しい誤算だったのだがな。

 

 

 

 精霊魔法。

 それは歴代の勇者の多くも使用していた、精霊という概念生物を味方につける魔法のことである。

 この魔法に関してだけいえば、詠唱は完全に必要が無い。

 何故なら使用者は必要な魔力を提供し精霊に"お願い"するだけで、その他魔法の発動に必要な工程は全て精霊が請け負ってくれるからだ。

 使い手が少なく、それにはそれなりの理由もあるが……我にしてみれば「勇者適正」として捨て置けない要素である。

 

 

 

 それにしても、フォルティマめ。一応ユアンの冒険者登録の日に来るとは、弟子相手に多少の情でもわいたか?

 

 などと観察していると、我の受付に群がっていた冒険者共が「げっ、出た」「くそっ、今日は奴が来る日かよ。運が無いぜ」などと言いながら、すーっと波が引けるように散らばっていった。

 ……うむ。

 

「!! エリーデルさん、おはようございます!」

「もう昼ですけどね」

 

 一回だけ瞬きをした間に、ユアンに絡んでいたはずのフォルティマが目の前に移動していた。恐ろしい速度である。流石は我が側近よ。

 

「もうあの兄ちゃんのこと幼女趣味って言えなくなっちまったよなぁ……」

「だよなぁ。子供の成長ってはえーわ」

「でも歳の差は歳の差だろ。あの人何歳よ」

「知らねー。腕がいいのと変態臭いこと以外、知ってる奴いないんじゃねぇの?」

「依頼受けてるとこも見たこと無いしな。普段なにしてんだろうな、あの人」

 

 周りからちらほら聞こえる会話の内容に、なんとも言えなくなる。

 

 フォルティマは五年前に冒険者登録した時から、ユアンの修行の時のみアルニラムに訪れているのだが……。

 その神出鬼没さと、我に対する行き過ぎた敬愛の様子を求愛だと勘違いされ(ちなみに貢物の半数以上もフォルティマによるものである)「何か凄い魔法使いらしいが、幼女趣味の変態で不審人物」というのが冒険者ギルド内での評価となっていた。

 アルニラムを魔族から救った英雄という評価はすでに過去のものである。いや過去にしていい評価ではないはずなのだがな? 何故その大きな評価を普段の態度で塗りつぶせるのだ。

 突発的に仕組んだ茶番とはいえ、わざわざ凄腕冒険者という箔をつけるために痛めつけられたラルギーニが不憫になってくるぞ。まあ茶番を指示したのは我なのだが。

 

 

 

 

 

(それにしても、登録はまだか……? この魔王を待たせるとは、いい度胸だ)

 

 

 

 

 

 いつもと変わらぬギルドでの日常を目の前にしつつ、我は妙にそわそわとした心持でユアンが冒険者登録をしに来るのを待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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