我は魔王。受付嬢である   作:丸焼きどらごん

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22話 「我は魔王。未来の勇者(仮)に初回クエストを授けた」

「ねえねえ。エリーデルちゃんは、ユアンくんのどんなところが好きなのかしら?」

「素直なところと、料理が上手なところですね」

「あっさり答えたわね!? ……もっと照れるとか、してくれていいのよ?」

 

 ……などと少々不満そうな様子を見せるのは、腕に赤子を抱えた先輩である。

 ふむ。先日のユアンといい、どうも恋愛には"照れ"というものが必須であるらしいな。覚えておこう。

 

 本日の我は久しぶりの休暇を貰っているため、育児のために仕事を休んでいる先輩の家に招かれ茶会と洒落こんでおるのだ。出された茶菓子が実に美味である。

 

 我はこの五年……見習い期間の三年を経てから、先んじて宣言していた通り受付嬢としての三つの資格……紹介者(リファラー)分析者(アナライザー)鑑定者(アプレイザー)を全て取得した。

 ゆえにこれまで三つの資格を有し、業務に追われていた先輩の代わりを務めることが出来るようになったのだ。

 先輩は丁度その頃結婚し、子を成したため長期の休暇に入り現在も子育て中である。

 忙しい業務を押し付けるような形になってすまないと事あるごとに謝罪されるが、この程度魔王たる我にとって容易き事よ。

 こうして定期的に持て成されるため、悪い気もせぬしな。

 

 ……それにしても、人間の赤子とはいつ見ても不思議なものだ。

 魔族はある程度成熟した姿で生まれるが、人間はそうではない。

 あのように一人で頭も持ち上げられぬ無力な姿で生まれてくるとは、やはり人間とは実に不便な生き物である。

 

「ふふっ。それにしても、あなた達二人が婚約なんてびっくりしたわ。ユアンくん、思い切ったわねぇ~! しかも、それをエリーデルちゃんが受け入れるなんて」

 

 我がことのように喜ぶ先輩を前に、いずれまた小僧の精神をゆさぶる手段でも教授してもらうかと考えつつ茶を口に運ぶ。

 ……うむ。やはり先輩は良い目利きであるな。

 我を飽きさせないために毎回異なる茶と菓子が用意されておるが、今回も素晴らしい。

 

「そういえば、そのユアンくんは初めてのクエストに向かったんでしょう? 何を紹介したの?」

「ラケルタ周辺の魔物討伐です」

「あら、初回からずいぶん遠くを紹介したのね。でも、そっか。ラケルタは最近、魔物が増えたって聞くものねぇ……」

 

 ラケルタは港町であるアルニラムに並ぶ、この辺りでは栄えた町だ。

 いくつかの街道が結ばれる地にあるため、交易の拠点として機能している。

 それだけに街道での魔物被害が増えると商いに支障が出るとかで、土地の者も商人も、金を惜しまず積極的に冒険者ギルドを利用しているようだ。

 ラケルタにも冒険者ギルドの支部はあるが、こちらにも依頼が舞い込む程度には仕事が多いらしい。

 

「初心者には難易度高めだけど、フォルシスさんが一緒なら逆に簡単すぎるのかしら。……師匠とはいえ、初めてのクエストでクラス結晶(ルミナ)の人にパーティーを組んでもらうのは流石に過保護じゃない?」

 

 先輩が言う事はもっともであろう。

 我がユアンにパーティーを組ませた相手……フォルティマ(フォルシス)はクラス結晶(ルミナ)のランクA。

 活動実績さえ伴えば、クラス(ステラ)にもなれるであろう冒険者なのだから。

 

 …………まあ冒険者としての肩書きなど、ユアンからの信用を得させるためのお飾りなのだがな。

 ユアンが冒険者となった今、フォルティマの師匠役も終了だ。

 "此度の件"が終わった後は、魔王軍参謀という本業に専念してもらおう。

 

「フォルシスさんに組んでもらったのは、今のユアンでは受けられないランクのクエストも受けられるようにするためなので。補助も最低限にとどめるよう、頼んであります」

 

 とりあえず、用意しておいた建前を述べる。

 

「あ~……なるほど。過保護どころか、その逆か」

「彼が目標とする勇者になるには、身の丈に合ったクエストをこなすだけでは難しいでしょうから」

「ふふっ。その言いっぷりだと、エリーデルちゃんはユアンくんが本当に勇者になれるって信じているのね」

「結婚するにあたっての条件ですので」

「あらあら。これはユアンくん、頑張らなきゃだわ」

 

 先輩はそう言って優しく微笑んだ。……が、次いで急に真顔となる。

 

「というか、フォルシスさんってエリーデルちゃんの頼みならクエスト受けるのね。あの人の事だし、絶対「弟子のために」って理由じゃないでしょ。……ギルドマスターが彼の冒険者証更新ごとに苦労してたの、かわいそうになってきちゃったわ」

「…………」

 

 魔族なので当然であるが、フォルティマの"人"格への信頼があまりにも薄い。

 普段の行いが行いであるため、我からはなんとも言えぬ。……そこから発生した微妙に気まずい沈黙は、茶をすすってやりすごした。

 

 ……ふむ。こういうのをお茶を濁す、と言うのだろうか。便利な言葉である。

 

 

 

 さて。

 嫌いな師匠とパーティーを組まされ、しょぼくれた顔でクエストに向かった小僧は今頃どうしておることやら。

 

 ククククク。何事も最初が肝心であるからな。

 我からとっておきのクエストをプレゼントしてやったのだから、せいぜい感謝してもらいたいものだ。

 仕込みはフォルティマに頼んだが、奴の事だ。良い成果を上げてくれることだろう。

 

(浮ついた心に、我自ら冷や水をかぶせてやろうではないか)

 

 "連絡"を心待ちにしつつ、我は先輩との歓談を楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてユアンがフォルティマと共にラケルタへ向かってから、更に数日後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの通りギルドの受付で仕事をしていると、突然ギルドの扉が乱暴に開き、転がり込むように何者かが入ってきた。

 何事だ、と周囲から視線が集まる中、我はそれが心待ちにしていた人物であると分かり口端を持ち上げる。

 

(おお、ようやくたどり着いたか。思ったより早かったではないか)

 

 フォルティマより連絡を受け、我が"直接"出向いてから三日程度。

 反則じみた方法を用いた我と違い、ラケルタから戻ってくるにしてはなかなかの速度だ。

 

「ゆー坊!? どうしたんだよ、ボロボロじゃねーか!」

「おいおい、初クエストで死にかけたってか? まっ、死んでねぇだけマシだろうがよ」

「そんなこと言ってる場合!? 酷い怪我だわ。誰か治癒魔法かお医者さんを……!」

「こいつと組んでたの、結晶(ルミナ)のフォルシスだろ? なのになんだよ、このざまは。新人の面倒も見れねぇのか」

 

 おかしな方向に曲がった腕、打撲の青あざ、体中の裂傷。その上血まみれという、満身創痍そのものといった様子で息も絶え絶えに入ってきたのは、数日前に旅立ったユアンであった。

 そのあまりな様子に、まずユアンを知る者達がざわつき次々に声をあげる。

 

 ユアンの婚約者たる我は、真っ先に顔を青ざめさせ駆け寄るべきなのだろう。

 だが演じるべき態度がこれまでの人間観察で分かっておるのに、どうも仕込みが成功した高揚感とユアンが無事にここまでたどり着いた満足感で口がにやついてかなわん。

 

 

 

 

 

 

 まあユアンをこれだけズタボロにしたの、我なんだがな。

 

 

 

 

 

 

 誰かに見られては怪しまれるだろうと、とりあえず我は緩む口元を両手で覆い隠した。

 

「エリーデル、しっかり! 大丈夫、あのくらいなら死なないわ」

 

 すると我の仕草が衝撃を受けて震えているようにでも見えたのか、受付嬢の先輩の一人が我の肩を抱き励ましてきた。

 ふむ。とりあえず殊勝な態度で返事をしておくか。

 

「は、はい……!」

「治療の手配はするから、近くに居てあげて」

 

 次いで抱いていた肩をユアンのいる方向へ押し出される。

 すると、ちょうど顔を上げた小僧の夕日色の瞳とかちあった。

 

 

 

 

 

────嗚呼。よい色合いに、よい味だ。

 

 

 

 

 

 煮詰まった憎悪、弾ける烈火のごとき怒り、泥沼に沈むような絶望。

 それらがない交ぜになったユアンの瞳は、出会った頃を思い起こさせた。

 我が勇者(我の墓)にと、見初めた色だ。

 

 五年間もぬるま湯に浸けていたため心配しておったが、鈍っておらぬようで安心したぞ。

 

 ……にやける口元の次は、舌なめずりを抑えねばならぬな。

 非常に良い仕上がりだ。我なりに苦労して色々仕込んでおいたかいがあったというものよ。

 なにしろ実際に出来るかどうかは、ぶっつけ本番というやつであったからなぁ。

 

「ユアン……」

「!!」

 

 名を呼び近づくと、折れていない方の腕で縋るように抱きすくめられた。

 その思いの他強い力に、我としたことが一瞬だけ「ぐえっ」と魔王らしからぬ無様な声が出てしまった。

 こ、こ奴め。本人が知らぬところとはいえ、早くも我に一矢報いるとは大したものよ……!

 

「エリーデル……エリーデル、ごめん! 俺、また何もできなかった。せっかく強くなったのに、また!! 俺、俺……! 何のために、五年間……ッ!」

「落ち着いてください。なにがあったのですか? フォルシスさんは?」

 

 素知らぬ顔で尋ねる我。

 全て知っておきながらとぼけるというのも、難しいものだな。

 

「…………フォル師匠は、生きてるかわからない……」

 

 ユアンの言葉にギルド中に動揺が走る。

 

 冒険者フォルシスは普段の行いで忘れられがちだが、五年前にアルニラムを一人で救った魔法使いである。

 その実力者が生死不明ともなれば、何か尋常ではない事態が起きたのだと察するのはた易いであろうよ。

 

「多分、ラケルタから脱出できたのは俺だけだ。俺だけ、あのクソ師匠が逃がしてくれて……! ああ、もうっ、なんで! なんでこんな時だけ、師匠らしいことするんだよ!!」

「大きな声を出さないでください。傷口が広がります。……ひとつひとつ、ゆっくり、話してください」

 

 なだめる様に抱きしめ返すと、ユアンは息をのむ。

 そして深く呼吸を繰り返してから……ぽつぽつと、言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ラケルタ、は、魔族の迷宮に、呑まれた。そして、迷宮主は……………………魔王だ。迷宮の最奥が、魔王の城に、繋がってる」

 

 

 

 

 

 うむ。

 迷宮作り、ものすごく楽しかったぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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