我は魔王。受付嬢である   作:丸焼きどらごん

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24話  「我は魔王。本業と副業が充実しすぎている」

 我の作った迷宮から帰ったユアンは、そこで得た情報をもう一人の師であるギルドマスターへ伝えてから、気絶するように眠ってしまった。

 すうすうと寝息を立て、時折うなされるユアンは、もうかれこれ三日ほど眠ったままである。

 

 ……これはおそらく回復のためであると同時に、急激なレベルアップが原因であろうな。

 

(ふむ……。まだこの未熟な体に、大きな変化は負担である……ということか)

 

 己の推測に納得しつつ、うなされるユアンの手を握る。

 寝所を共にしていた頃にユアンが悪い夢を見ると、我の手を握ってくることがあったのだ。その時の癖であるな。

 

 

 

 弱き人間が我ら魔族や魔物と戦える強さを手に入れることが出来る、冒険者証を使用したレベルアップという仕組み。

 "経験値"という普通なら目に見えないものを数値化して取り込み、成長の糧とする。

そのための魔法式は我でも解析できないほど複雑怪奇で秀逸なものだが、脆弱な人間の体に急激な成長をもたらすのだ。今回のように大量の経験を一気に取り込むとなれば、体への負担は相当なものであろう。

 今は眠りながら、得た力を体に馴染ませている途中といったところか。

 

 ……ふむ。

 十歳まで冒険者になれないという決まりごとは、この辺りの兼ね合いも理由に含まれるのかもしれぬな。

 

 

 

 

 ともあれ、だ。

 やっと始まった我の我による我の終活のための勇者育成ゲームであるが、無事に初回を終えることができ満足である。

 そして初回なだけに、その内容はなかなか気合の入ったものとなった。

 

 まず、だ。

 すでに部下達に作らせている魔族の迷宮……人間の間では伏魔迷宮(ラビリンス)と呼称されるようになったそれを、我自らを迷宮主に据えて作り出すこととした。

 

 というのも、我が"アルニラムの冒険者ギルド受付嬢"だからである。

 

 ユアンが今後順調に成長すれば、魔王()を倒すという目的のためにその冒険の範囲は広がっていくだろう。

 そうなってもらわねば困るが、そうなると困ることもある。

 …………アルニラムを遠く離れてしまえば、ユアンが別の冒険者ギルドで別の受付嬢にクエストの紹介をされることになってしまうのだ。

 そうなると我が受付嬢としてクエストを紹介し、その裏で魔王としてユアンに試練となる魔物や魔族を派遣することが出来なくなる。

 

 

 

 そこで、「ならば冒険がアルニラム周辺ですむように最終目的地(魔王城)を近くに配置すればよいのでは?」と閃いたのだ。

 我ながら非常に冴えた、素晴らしい思い付きである。

 

 

 

 最初は我が派遣受付嬢といった形で、ユアンが行く先々の冒険者ギルドに赴けばいいのでは? とも考えたのだが……。

 先輩にそのような事は可能か訊ねた所、以下のような答えが返ってきた。

 いわく、派遣のために他の仕事仲間に自分の仕事を引き継がせた上でギルドマスターに紹介状を書いてもらったり、行き先の冒険者ギルドが実際に受け入れてくれるのか不明だったりなど……。

 ユアンの冒険を助けるためといった意味合いでは、派遣受付嬢という方法は実に非効率であることがわかった。

 手続きをしている間に、ユアンの行き先が変わる可能性もあるのだしな。

 出来れば臨機応変に動ける立場にあるのが望ましい。

 

 人間世界の観光も兼ねられる、よい思い付きだとおもったのだが。

 ……まあ、それだけなら休日にフォルティマに転移魔法を使わせれば十分であるしな。

 

 ゆえに慣れ親しんだアルニラムに居座ったまま、ユアンをこの冒険者ギルドに通い続けさせる状況を作るのがベストである、と考えたわけだ。

 時折遠方へ行くのも良い経験となるであろうが、最終的にはここへ戻ってくることとなるだろう。

 

 

 

 迷宮作りに関しては、ユアンの誕生日を目途に夜の間本体へ戻り、こつこつと行っておった。

 迷宮の魔法式自体は我とフォルティマでラルギーニに乗っ取らせた神々の迷宮を参考に共同開発したものだが、実際にそれを使って自らの迷宮を作るのは初めてだったこともあり、非常に楽しめた。

 

 基本的なマップは基礎とする町や村の形に依存するため、そのあたりは手を加えられぬが……。その分、配置する罠や魔物にはこだわった。

 受付嬢をしていると冒険者共の報告で何もせずとも既存の迷宮……神々が作った螺神迷宮(ダンジョン)の情報が入ってくるからな。

 それらの情報から着想を得たり、はたまた冒険者共の飲みの席での与太話「こんな罠が有ったら嫌だ」「こんな魔物が居たら嫌だ」シリーズを参考にしてみたりもした。

 結果として"魔王の迷宮"という格式を保ちつつも、個性的かつ愉快さを兼ねそろえた素晴らしい迷宮が出来たと自負しておる。

 

 中でも迷宮に住民を取り込む際の巨大スライムなど、なかなか良い出来だったのではないか?

 あれは魔物のスライムをそのまま使うと捕らえた人間を消化してしまう恐れがあったがために、わざわざ魔法式を整えて迷宮に組み込み、生み出した存在だ。

 柔らかくクッション性のある軟体で人間を無傷で捉えることが可能であるし、それを邪魔してくる者どもを、密度の高さと粘り気で体力を奪い苦労させることにより、反撃するまでもなく消耗させることが出来る。

 着想を得たのが酒場でスケベな冒険者共が話していた「無害でデカいスライムがいたらめちゃくちゃエロいよな」という与太話であることだけがいささか品にかけるが……。

 元ネタなど誰も考えまい。うむ。他の格式を高くしたからな。思いつきもしないだろう。おそらく。

 

 

 

 ともかく我が手塩にかけた迷宮であったが、無事に目をつけていたラケルタにて展開することが叶った。

 仕込みをしてくれたフォルティマを、改めて労わねばならぬな。

 

 今回冒険者フォルシスは我にやられたという形で、フォルティマをユアンの師匠役から撤退させた。

 更には先んじて強大な力を振るわせてハイクラス冒険者に据えていたフォルシスを簡単にあしらうことで、我が魔王であるという信憑性も冒険者ギルドに示せたであろう。

 駆け出し冒険者であるユアン一人の証言だけでは、本当に最奥が魔王城に繋がっているのか? と信じぬ者も居そうだったからな。

 総じてフォルティマが作り上げていた冒険者フォルシスという像は、実に良い働きをしてくれた。

 流石は我が側近である。

 

 

(途中、少々驚かされたりもしたが……)

 

 我にやられる演技をするフォルティマが思いのほか過剰演出だったり、本体の我を前にして我への敬愛を抑えきれずユアンに突っ込まれていたり……。

 いや、考えまい。フォルティマが成した功績は、それに勝るのだから。

 我自身も本来の姿でユアンの前に立つのが思った以上に落ち着かず、反動で饒舌に話しすぎたかもしれぬなど反省点があるしな。

 

 

 

 …………迷宮の最奥、特別に誂えた転移陣で繋げた魔王城の玉座の間。

 そこにて本来の姿でユアンを待っておった時は、フォルティマに道案内をさせていたとはいえ途中で死にはしないかと落ち着かない心地であった。

 せっかくの勇者育成ゲーム、自らが用意した迷宮の匙加減を失敗して始まる前に終わってしまうなど馬鹿馬鹿しい。

 しかし、それは杞憂であった。

 ユアンは我の期待に応え、途中に配置した魔物や罠を潜り抜け我の前にたどり着いてみせた。

 フォルティマが居たとはいえ、大したものである。

 

 迷宮を配置したもう一つの目的には、ユアンの実戦経験を早々に高い所までもっていこうというものもあった。その目論見通り、しっかり経験値を得てレベルも上がったようである。

 これで師匠を二人つけた経験に体が追い付き、勇者の卵としては最低限の体裁が整った。

 

 我の元にたどり着いたユアンに我が魔王である事、迷宮の最奥が魔王城に繋がっているということを伝え、それらをギルドに報告もさせたし……。

 ……うむ! やるべきことは十分に終えたといえよう。

 

(やれやれ、我にここまでの手間をかけさせたのだ。しっかり育ってもらわねば困るぞ?)

 

 嘆息しつつ、額を撫でるようにして前髪をかき分ける。

 良く見えるようになった顔は未だ幼く、我に届きうる勇者になるのはまだまだ先の事であろう。

 勇者育成ゲームの試金石のつもりだったが、どうせならしっかり勇者へと育ってもらいたいものだ。

 今後も励んでもらわねばな。

 

「ん……」

「む?」

 

 うなされ、険しかった表情が少し和らいだ。どうも額を撫でられ、少し力が抜けたらしい。

 ククククク。その相手が魔王とも知らず、呑気なものだ。

 

 

 

 

「エリーデルちゃん。ユアンくんの様子は、どう?」

「少し落ち着いたようです」

 

 ふいに部屋の扉が開き、ギルドマスターが顔を出す。

 

「そっか。エリーデルちゃんに看護を頼んで正解だったね」

「看護というほど何かしていませんが……」

「こういう時はね、そばに好きな人が居てくれるだけで看護になるんだよ」

「そういうものなのですか。……しかし、そろそろ業務に戻っても? だいぶざわついているようですね」

 

 ギルドマスターの取り計らいで業務時間の一部をユアンの部屋で過ごすことになっていた我だったが、この部屋はギルド内にある。そのためギルドの喧騒は嫌でも耳に入ってくるのだ。

 いつも騒がしくはあるが、今日は輪をかけてざわめきが大きい。

 

「ああ~……うん。ごめんね、本当は気にせず看護してもらいたいんだけど、戻ってもらっていいかな? ギルドの「はじまりの町」としての宣伝と、魔王の迷宮が重なって、初心者と他大陸のハイクラス冒険者が同時に来ちゃってたりとかしてね……あはは……」

 

 ここ三日で明らかに心労が溜まったらしいギルドマスターが力なく笑う。

 まあ本来この状況下で一番忙しいのはこ奴であろうが、その中でここへ様子を見に来ているのだから適度にサボってはいるのだろう。

 そのあたりの力の抜き方は卓越しておる奴よ。

 

 

 さて、では業務へ戻るとするか。

 忙しくあるならば我としては歓迎だ。そうであればあるほど、我としては己の受付力が試される最高の暇つぶしとなるのだからな。

 

 

 

 さあ、人間どもよ。我に仕事をよこすがよい!

 

 

 

「ようこそ、アルニラム冒険者ギルドへ。本日はご依頼とクエストの受注、どちらのご用件でしょうか。なんなりとお申し付けくださいませ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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