我は魔王。受付嬢である   作:丸焼きどらごん

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3話 「我は魔王。新たなる大望を抱く」

「ふ~む。人間とは短い生のくせに色々と考えるものだな……。いや、短いからこそか」

 

 一日の業務の終えてギルド内の自室に帰った我は、今朝がた聞いた「終活」という概念について反芻し唸っていた。

 食堂の長である女が言うには、終活とは死ぬまでの期間を充実させつつ死後の備えをする……といったことが主な活動内容であるようだ。

 その考えを最初に口にしていた近所のじいさんとやらは、残りの生を充実させようという段階を終えて現在は備えに奔走しているのだとか。子供や孫が多いため、遺産相続についてもめないよう取り計らうのに忙しいそうだ。

 

 人間の寿命は短い。加えて脆弱な体ゆえに、寿命以外でも容易にその命を散らす。人間領域を侵略する我ら魔族もその要因の一つだ。

 だがそんな人間だからこそ、今ある命を充実させたいという欲が湧くのだろう。

 限りが短いからこそ思いつく事やもしれぬな。寿命の長い魔族の中ではなかなか生まれぬ考えであろうよ。

 

 あのご婦人としてはどんなに前向きな思考でも「死」を前提にした考えだからと、未来ある若者……だと思っている我の参考になるかと気にしていたが……。

 ククククク。大いに参考になったぞ。

 やはり人間に興味を持って正解だった。

 よもやこのような場で、この魔王の次なる大望が決まろうとは!

 

 

 

 我もするぞ! 終活というものをな!!

 

 

 

 まず前提として、我はこの飽き飽きしている魔王生を終わらせたいのだ。

 だが創造主によって不用品と処分されるのは実に癪である。

 ゆえに魔王としての役割をこなしつつ、納得いく形で華々しい最期を迎えたい。

 ……しかしそのための妙案が思い浮かばず、とりあえず暇をつぶすためにこうして人間に扮し副業など始めていたのだが……ここに手がかりはあった。

 

 死ぬまでの期間を充実させ、死後に備える?

 飽き飽きする暇な時間をこうして趣味で満たしつつ、魔王としての役割を全うすることで死後に備える。

 正に終活とは我のためにある言葉ではないか。

 

「ククク。具体的な内容はこれから考えねばならぬが、言葉一つ知るだけで(しるべ)となりうるものだな」

 

 自我(バグ)を得てからどことなく「こうしたい」という願望こそあれど、はっきりとした目的意識を持てなかったのは願望に"名前"が無かったからだ。

 例えば今の我になる前の我の大望を一言で言うならば「世界征服」であるな。……今にして思えば、けして叶うことが無い空しい望みであったが。

 

 

 ただ死にたいわけではない。

 だが我は我が我である状態で、充実した何かを得てから満足の上で区切りをつけたいのだ。

 

 

「くくっ、ムクククク……終活、終活か。良い響きではないか」

 

 気分の高揚に思わず妙な笑い声まで零れてしまった。

 

 

 

 こうして我の暇つぶしは、終活の一環へと姿を変えたのだった。

 受付嬢という副業と人間としての生活、大望へ至る過程での趣味として今後も存分に味わいつくしてやろうではないか!

 

 

 

 

 

 

+++++

 

 

 

 

 

 

 ……などと目標を新たにしたはいいものの、すぐに何かが決まるわけでもない。

 まあ我は魔王であるしな。導を得た今、それはそれは素晴らしい閃きが綺羅星のごとく舞い降りるであろう。

 待ち、の時間を楽しむことも余裕の表れである。人間のように短い寿命でもあるまいし、そう急くこともあるまいて。

 

 どうせ本体はやることはないしな。ゆえに我は今日も今日とて、受付嬢の仕事に精を出していた。

 なんというか……副業こそが本業のようになりつつあるな。本体の我、本当にやることが無い。

 魔王とは勇者が来るまで暇なのだ。

 

(勇者……勇者か)

 

 そういえばここで働くことになったのは我が意図したことではなく偶然なのだが、せっかく勇者の発生源ともいえる冒険者ギルドに所属したのだ。勇者絡みで何か妙案はないものか? こう、我の終活をより充実させるような……。

 

(おお、なんとなくの思い付きであるがいい考えのような気がしてきたぞ……!?)

 

 勇者とは我に終焉をもたらす者。つまり我にとって墓と同義。終活には自らが入る墓を用意する事も含まれると聞いたし……うむ! これは一考するに値する思い付きではないか!?

 いいぞ、流石は我。そう間を置かずしてさっそく素晴らしい閃きを得てしまった。

 

 しかしどう内容を詰めていくか……。

 

 そう、腕を組んで熟考を始めた時だった。

 

「冒険者になりたい」

「はい、冒険者登録ですね。かしこまり…………ん?」

 

 我としたことが自らの考えに没頭するあまり、カウンター前に人が並んでいる事に気が付かなかったようだ。

 我はすぐに受付嬢としての仮面をかぶり、顔を上げすっと背筋を伸ばした。が……受付前、視線の先には誰も居ない。

 はて、空耳か? この身体の調整もまだ完ぺきではないからな。

 そう考え、事務作業の続きでもするかと手元の書類を読むため顔を伏せた。

 

 すると。

 

「ここだ! むしするな! 僕を、冒険者に、しろ!」

 

 苛立ちのこもった仔犬のような声に、はてと思いつつ視線を下方へ動かす。

 

(ああ、小さくて見えなかったのか)

 

 そこにいたのは、必死に背伸びをしてやっとカウンターから頭を覗かせているような小さきものであった。

 癖毛の一本がかろうじて背を足すようにぴょんっと立っているが、受付にとどくのもやっとなのだろう。背伸びでもしているのか、カウンター端をつかみ支えにしている手がぷるぷると震えている。

 

 屑鉄のような髪色をした、みすぼらしい人間の子供。

 ……はて。この者、今冒険者になりたいと言ったか?

 

「あの……」

「おいガキ、邪魔だ」

「わあッ!? ちょ、はなせ! なにすんだ! いたっ!」

 

 我がその者……人間の子供に声をかける前に、後ろにいた冒険者が子供の首根っこを掴んで横に放る。

 尻もちをついた子供が文句を言うが、冒険者は野良犬を追い払うように「しっし」と手を振り相手をしない。

 

「ごっこ遊びがしたいんなら外でやんな、クソガキ様よ。さて、この依頼を受けたいんだが……っと、こっちもガキか。まあいい。手続きをしてくれ」

 

 子供をどかした冒険者が、掲示板に貼ってあった依頼書を受付に差し出す。

 いつもならこれを冒険者のランクと照らし合わせて処理するところだ。……が、我は何かに惹かれるようにカウンターを出て、子供の前にしゃがみこんでいた。

 

「あ、おい! お嬢ちゃんよ、場違いなのはそのガキだぜ? お優しく相手をする暇があるなら俺の……」

「君が、冒険者になりたい理由は?」

 

 なにやらうるさいが、我の興味は尻もちをつきながらポカンとこちらを見上げているあどけない顔に向いていた。

 そして間抜けだったその顔が……我の問いかけに別の色を帯びる。

 

 

 赤い瞳だ。驚きに染まっていたその瞳は、夕日に染まる空を思わせた。

 だがそれは我の問いかけによって、どろりとした憎悪を宿し全てを焼き尽くさんとする炎へと印象を変える。

 

 そして。

 

 

 

「勇者になって、魔王をやっつけるためだ!!」

「!」

 

 

 

 言葉は拙いというのに、その必死さには迫力があった。

 喉がひきつるような無様極まりない声だが、幼い体が弾けんばかりの嘆きと切望と怒りを捏ね混ぜた感情……それが真正面から叩きつけられ、思わず舌なめずりをしかけた。

 ……非常に良い味である。

 

 我々魔族は人間の負の感情を体内で魔力に変換し食事とすることが出来るが、これはここ最近の中で一番の甘露だ。

 

(ほう、これは……)

 

 我がきらりと光る思い付きをした直後、この魔王()の前に現われ勇者になりたいなどと吠えた子供。

 その運命力が、ふと先ほどの閃きに形を与える。

 脳裏を駆け巡ったその考えは、非常に愉快なものであった。

 

 我はにやけそうになる口端を抑えるために、とりあえず子供に対し業務に必要な問いかけを口にした。

 

「君、何歳ですか?」

「五さい!」

「…………」

 

 勢いよく発せられたその年齢に、我は受付嬢としてまず言うべきことを口にする。

 

 

 

「申し訳ありません。冒険者登録が可能となるのは十歳からとなります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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