我は魔王。受付嬢である   作:丸焼きどらごん

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30話 「我は魔王。理の鍵を模索する」

 密談を聞いてから、何食わぬ顔で応接室を訪ね茶を出した我。

 その後で「魔王迷宮からの生還者」として呼び出されたユアンがエルンストらと顔を合わせ、情報の共有がされた。

 互いにどう顔を合わせていいものかといった、なんとも気まずい雰囲気が形成され見ていてそこそこ愉快であったわ。

 

 そういえばギルドマスターめ、ずいぶん青い顔で胃を抑えていたが例の王族に対する緊張故だろうか。

 やれ、これでも世話になっている身だ。あとで特別に我直々に酒でも振舞ってやるとするか。

 後で話があると呼ばれているし、その時で良いだろう。

 

 

 

 そういえば"元勇者"だとかいう、あのゼノビアという魔法使い……興味が湧いた。

 それは勇者育成ゲームにおけるライバルになりそうだとか、元勇者という未だ真偽の疑わしい出自に対してではない。

 「魔王と共に魔族を殲滅」するという、奴の目的を聞いたがため。

 

 

 

 

 

 なにしろその発言は、"世界の理の範疇外"であるからだ。

 

 

 

 

 

 この世界は「魔王と魔族という共通敵に立ち向かう人類の団結」が念頭におかれ回っている。

 そのためいくら我や魔族が強かろうと、世界の覇権を握る日は永遠に来ない。

 世界を作った神々にとって人間の重要度の方が上だからだ。

 

 だがいくら勝てなくとも、魔族は全滅することもない。

 人類を共闘させるための"敵役"の駒が居なくなるのは、神々にとっても困るがゆえに。

 

 だからこそ人間側は可能不可能を考える前に……まず魔族殲滅という考えには"至らない"。

 どうあっても"魔王を倒して世界の平和を取り戻す"という筋書きを辿り、根本を断とうとまでは考えられないように"出来て"いる。

 

 思考の施錠(ロック)とでも言おうか。

 あくまで推測の域は出ないが、これらは人族、魔族双方に施されているようだ。

 

 例えば魔族であれば、人間を滅ぼさないのはそもそも食料を生み出す動物だからという理由がつくが……。

 ならばなぜ、その家畜ともいえる動物が反逆し、強くなる術を断たないのか? といったところなどで思考の抑制が見受けられる。

 神々の遺産ともされる迷宮。人間の修練場であり、破格の性能を持つ迷宮宝物(アーティファクト)が眠る場所。……その存在を、これまで魔族は不自然なほどに無視してきた。

 

 人間は魔族の根絶を考えない。

 魔族も人間側が強くなる術を断とうとしない。

 この世界の生物全てが、違和感も覚えぬほどの不変の思考。

 

 ……そのはずだった。

 

 しかしどうも最近、わずかに世界がその様相を変化させてきているように思えるのだ。

 

 

 

 

 神々の知識の一部が流れ込み、思考の施錠から逃れた【自我(バグ)】を持つのが我であるわけだが……。

 もしかすると、この【バグ】は伝播するものなのではないか?

 最近、我はそんな仮説を立てつつある。

 

 

 最も分かりやすい例は迷宮だろう。

 これまで魔族は迷宮に対して、存在は知っているのに不自然なほどに無関心だった。

 しかし我がラルギーニに命じたことによって、初めて魔族は迷宮を攻略しその力を手に入れた。

 これは魔族の侵略の形を変える試みのためであったが……。その成果は、我が思っている以上に大きいのではないだろうか。

 その成果は巡り巡って、我が魔王迷宮をラケルタに築いたことで魔族を殲滅すると言い放つ元勇者まで現れた。

 

 

 

 確信はない。

 だが予感がする。

 

 天上の神々の目も及ばぬほどの水面下で、じわじわと変化が起き始めている予感が。

 

 

 

 我は幾度も繰り返される終わりのない魔王生に興ざめし、壮大な最期をもってその役割から逃れようと考えている。

 が、未だにその"役割から逃れる"ための具体的な方法まではたどり着いていない。

 その方法が思いつくまでの暇つぶしを充実させるために"終活"を行っており、魔王()の墓ともいえる勇者の育成を行うゲームや、人間を殺さず侵略するための魔族の迷宮もその一環であるのだが……ここにきて、どうも糸口をつかんだような感覚だ。

 

(ククククク。流石は我。暇つぶしの中でこうも核心に迫ることが出来ようとは)

 

 

 しかし大きく動き過ぎて、我に【自我(バグ)】があることを神々に気付かれてもいけない。

 もし気づかれた場合、我は我の役割をする代替品と挿げ替えられるという、つまらぬ最期を迎える事となるだろう。

 神々の目を気にせねばならぬなど魔王として癪であるが、相手は我をも作り出した創造主。致し方あるまい。

 

(……今のところ干渉される気配はない。つまり侵攻の形を迷宮に変化させたことは問題ないという事)

 

 ならばこれを起点に、ゆるりと変革を行っていこうではないか。

 世界に【バグ】が蔓延すれば、もしかすれば我は今生をもって魔王生に終止符を打てるやもしれぬのだから。

 

 

 

 

 世界の理を紐解く鍵、いずれこの手にしてみせようぞ。

 

 

 

 

(ともあれ、ゼノビアはしばし泳がせるか。我以外で思考の施錠が外れた者として興味深い)

 

 転移の力を用いた魔族の殲滅方法も気になる所だ。

 どうも我本体を出し抜いて魔族領内に転移のためのマーキングを施すらしいが、場所と本人の動向さえつかめておれば問題なかろう。

 

 

 ククククク。

 よもや魔王自身が、このような真隣りに居るとは思うまい。

 せいぜいその素晴らしい計画を、我の前で披露してみるがよいわ。

 

 

 内心ほくそ笑みながら隣を見れば、派手な金色交じりの赤髪魔法使いの冷ややかな視線とぶつかった。

 

「何か? 先ほどの続きでもしますか?」

「いいえ。お互い、怒られたくないでしょう」

「……それもそうですね」

 

 

 

 現在我と魔法使いゼノビアは、応接室で少々騒がしい会話を行ったがために廊下に立たされていた。

 

 遺憾である。

 

 

 

 

 

 

 

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