我は魔王。受付嬢である   作:丸焼きどらごん

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31話 勇者候補、二名

「エルンスト様は未熟で幼いころに過酷な状況に追い込まれながらも決して腐らず、諦めず、一縷の望みと知りながらも不可侵とされていた迷宮に挑み、試練を乗り越え、多くの信頼を得て若くして(ステラ)の冒険者へと至りました。その勤勉さたるや才能を余すことなく育てる至高の土壌にして豊穣の水。正に現在この世で最も勇者に近い人間といえるでしょう」

「ユアンだって幼くして家族と故郷を失いながらもたった一人で冒険者ギルドに足を踏み入れました。誰にも頼らず自分で魔王討伐という目的を遂行しようと動いたんですよ? この最初の一歩をす踏み出せない者の、なんと多い事か。その勇気は勇者に至るに相応しいものだとわたしは考えます。真面目に実直に下積みを重ねて、着実に力をつけている。魔王迷宮から帰還できたのも単に師が優れていたからだけではありません。ユアン自身の力もあっての事です」

「ふぅん、どうだか? 確かにその努力は認めましょう。かつて自分が助けた後、まさかその足でギルドの門を叩くとは思いませんでしたのでその行動力は見上げたものです。力ある者に助けられて当然、自分はかわいそうだと蹲る者が大半ですからね。気骨はそれなりにあるようです。……ですが、魔王迷宮からの帰還に関してまでつなげるのはちょっとばかり身内びいきが過ぎますねぇ。なにしろ転移魔法はそもそもが資質が無ければ使えない上に、超長距離の転移魔法を使いこなす魔法使いなど世界でも一握り。帰還できたのは師が優れていたから、だけで片付く話では?」

「話を聞いていました? フォルシスさんは確かに優れた魔法使いでしたが、帰還時はともかくユアンを積極的に助けるような親切な師匠ではありません。彼と共に魔王迷宮を突破し魔王城までたどり着き、魔王を目の前にしながらも生きてそこでの情報を持って帰ってきた……。これが実力の証左であると、何故分からないのでしょうか。やれやれ、これが最高位の魔法使いとは残念ですね主にオツムが」

「ほほう? 受付嬢ごときが言ってくれますね~」

「ごときとは失礼ですね。受付嬢は冒険者ギルドを回す立派な仕事なのですが?」

「おっと、失言でした。ギルドには世話になっているのに、つい浅はかな売り言葉に買い言葉を。自分としたことが大人げない事をしました。役職ではなく若くて愚かな小娘ごときが、と個人を指すべきでしたね」

「これは若作りで愚昧な老害なお方だと返すべきなのでしょうか。何分若くて愚かで無知なもので、適切な言葉を計りかねます」

「老害? ははは、この若々しい姿を見て何処からそんな言葉が出てくるんですか。目まで腐っているなんて、おかわいそうに」

「その眼はそちらが血筋として欲しがっている高貴な物らしいんですけどエルンストさんの臣下としてその表現は大丈夫ですか?」

「我が主君は天に広がる蒼穹がごとく心の広いお方なので問題ありません」

「これが臣下とはエルンストさんご自身がいくら優れていても下の者に格を落とされてご不憫ですね」

「その程度で曇るような魅力ではありませんよ、あの方は。それに気づかないとはやはり見る目が無い……。これは后教育に苦労しそうです」

「ご安心を。そんな心配なさらなくとも、エルンストさんと結婚することはございませんので。杞憂ですよ」

「けど貴女、魔王を倒した方と結婚すると言っているようなものですよね。エルンスト様で確定じゃないですか」

「魔王を倒すのはうちのユアンですけど」

「魔王を倒すのはうちのエルンスト様です」

「は?」

「あ?」

 

 

 長々と途切れることなく、球技の打ち合いのごとく交わされていく会話。

 両者の間に飛び散る火花により途中まで誰も口を挟めなかったが、次第に「魔王を倒せる者」の根拠としてそれぞれの長所が述べられ、言いつくしてきたからか「早起きが得意」「料理を作るのが上手」「高貴な身分にも関わらず綺麗好きでパーティー全員分の下着も洗濯してくれる」「馬鹿がつくくらい働き者で家事全般が何処に出しても恥ずかしくない嫁級」などなど。

 魔王討伐に関係なさそうな長所自慢に移行し、果てには「その完璧さに反して実は落ち込みやすいガラスのような繊細さ」「冒険者登録その日にまでお人よしゆえに忙しく働いて登録が遅れた」など、短所ながら愛嬌を感じさせるエピソードとしての内容が語られ始めた所で……やっと"彼ら"は割って入ることが出来た。

 

 

「エリーデル!! 褒めてくれるのは嬉しいけど、そんなことまで話さなくていいよ! もう、恥ずかしいからちょっと出てって!! 今大事な話とかしてるから!!」

「お前もだゼノビア!! エリーデル嬢らへの無礼な発言の数々に謝罪させたいところだが、まずその口を閉じてもらおうか!! 今言う必要があったのかそれは!?」

 

 羞恥により顔を真っ赤に染めた少年二人は、それぞれの身内の肩を掴みぐいぐいと応接室の出口へと押していく。

 当の二人はといえば、「え、褒めたのになんで怒られた?」と言わんばかりのキョトンとした表情だ。

 

 極めつけに、二人が出て行けるよう扉を開けた男が柔和な笑顔で述べる。

 

「二人とも、ちょ~っと表に出てようか。お話終わるまで、廊下に立っててねぇ。……あ、エリーデルちゃんは後で色々説明してね彼らからも聞くけど」

 

 笑顔ながら顔色は青く、胃のあたりを抑えているのはギルドマスターであるマリウス・ゴルドーである。

 彼は情報共有のために彼らを引き合わせたのだが、すでに知り合いだった上に、幼いころから世話してきた少年少女に関する話がポロポロ出てきたうえにその内容が色々と聞き捨てならなかった。

 主に后とか王族の血筋とか。

 

 それらを飲み下したうえであくまでも穏やかに対応するマリウスに、それを見守っていたエルンストのパーティーメンバー達はひそかに敬意の感情をむけるのであった。

 

 

 

 冒険者ギルド、応接室。

 昼下がりの一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。

 

 

「改めて、うちのゼノビアがすまない。命の恩人があのような男で、がっかりしただろう」

「い、いえ。びっくりはしましたけど……エリーデルが色々言ってくれたから、俺は怒る気もなくなっちゃいました」

 

 また謝ってくれるんだ……出来た人だな……。

 そんなことをぼんやり考えつつ、ユアンは現状に困惑していた。

 

「そうか。……ふふ、君から彼女を奪うのは大変そうだ。愛されているな」

「あいッ!? ……そそそそそそうです! 俺は愛されてるんですよ! だから、えっと、うばわせませんけど!?」

「はははははははっ」

「わ、笑うなーーーー! わかってて、からかうような言葉選びしてません!?」

「おっと、ばれてしまったか。……ふふっ。恋敵だというのに、いけないな。どうも私は君の事も好きなようだ」

「!? な、好きって……!」

「人として好ましいんだ。……君もエリーデルも、自然体で私に接してくれるだろう? あのギルドマスターに育てられたからかな。彼や君たちと話すのは、どことなく心地よい」

 

 初めて見た時に感じた近寄りがたい高貴さとは裏腹に、思いのほか快活に笑うエルンスト。

 そんな彼と、何故自分はアルニラムを散策しているのだろうとユアンの心に疑問が渦巻く。

 疑問も何も、エルンストから「アルニラムを案内してほしい」と申し出られただけの、シンプルな理由であるのだが。

 ただ何故自分がそれを受けたのか、現在"エルンストと二人きり"という状態が何故なのかはわからない。

 

 …………やはり、疑問だ。

 

「あの……護衛の人たち、ついてこなくて良かったんですか? えっと、王子様……なんですよ、ね?」

「"元"王族だ。……ああ。渋い顔をされるが、私が頼めば"護衛"としてではなく"パーティーメンバー"として単独行動を許してくれる」

「へぇ。信頼されてるんだ……」

 

 思わず敬語も忘れて素直な感想を述べれば、エルンストは少々悪戯めいた笑みを浮かべた。

 

「パーティー内で二番目に強いのは私だからな」

「一番は、ゼノビアさん?」

「そうだ。あれでも私の師匠なのだよ。……今でこそ魔法の名手だが、もとの専門は戦士で剣の腕も一級品だ」

「えっ、すご!?」

「だろう? ……奴の経歴は少々複雑で、性格がねじれたのもそこに原因がある」

 

 それを言ってから「言い訳がましくなってしまったか。それを理由に奴の無礼を許してほしいなどとは思っていないよ」と困ったように笑ったエルンストを見て……ユアンは頬を膨らませた。

 

「……もっと嫌な人だったら良かったのに」

「ん?」

「あなたがもっと嫌な人だったら良かった、と言いました。絶対に嫌なのに、エルンストさんが完璧すぎてエリーデルのことを想うなら自分は引いた方がいいんじゃないかって、少しだけ考えてしまう」

「完璧……か。だが、引く気はないんだろう?」

「もちろん。魔王を倒すのだって、俺だ」

 

 迷いなく頷いたユアンを見たあと、エルンストはトンっと二本の指でユアンの胸を突いた。

 

「そうか。ならば強くなれ。私に引けを取らないくらい。……この魔王迷宮などという物騒なものが近くにありながらも平和な土地で、君のように本気で魔王を倒そうと考える冒険者は少ないからな。励んでほしいものだ」

「言われなくても、そのつもりですよ。……そんなことを言うためにつれ出したんですか?」

 

 相手は紛れもなく格上なのだが、それでも上から目線の物言いに少しむっとしてユアンの言葉に棘が混じる。

 それが自信の無さからくるものだと自覚しているため、言ってしまってから少々の後悔を覚えた。

 が、エルンストは気にした風もなく首を横に振る。

 

「まさか。……単純に、君と少し話をしてみたいと思っただけだ。互いに恥ずかしい思いをした同士、な」

「ああ……」

 

 それを聞いて、一瞬で納得してしまった。

 つい先ほどまで互いの身内の発言にいたたまれなさと、相手に対しての「なんか、うちのがすみません」という気持ちを抱いていたがゆえに。

 

 ちなみにその身内であるエリーデルとゼノビアは、現在ギルドマスターにそれぞれ呼び出されているため不在である。

 

「誘って正解だったと思っている。この平和な町と、出会って間もない、しかも気兼ねなく話してくれそうな相手との散策は良い息抜きだ」

「まあ、そんな風に言ってもらえるのは悪い気しませんけど……」

 

 エルンストは少し見ていただけでも分かる、真面目で律儀な性格の少年だ。

 きっとパーティーメンバーのことは信頼していても、彼らと居れば「黎明の鏡」リーダーとして振舞ってしまうのだろう。

 その点相手が自分のような新米冒険者一人なら、気軽というものだ。

 ユアンからしても、エリーデルを巡る恋敵という余計な情報を除けばエルンストとの相性はいいように思える。からかわれる事に対しては不満だが。

 

(なんだか調子狂うなぁ……)

 

 葛藤と相性。そのはざまでどう接するべきか迷いつつ、ユアンはばつが悪そうに頭を掻いた。

 

 

 

 

 その最中である。

 

 アルニラムに、緊急の事態を告げる鐘の音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どこかの魔王「てへぺろ、というやつである」(何かした
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