我は魔王。受付嬢である   作:丸焼きどらごん

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6話 「我は魔王。部下が勝手に深読みしてくれる」

 勇者の育成をフォルティマにも手伝わせよう。

 ポンっとそんな案が浮かび、これもまた我の今後の活動に必須となってくる条件だなと舌の上で転がすように考える。

 そして思考に没頭するあまりか、口元が少し緩んだようだ。

 

『勇者……か』

「! やはり何か掴まれたのでございましょうか。流石です魔王様。御身を動かされずとも世界の動向は我が主の手のひらの上、という事でございますね」

 

 思わず零れた一言が意味深になってしまったのか、フォルティマが何やら勝手に早口で納得している。

 いや我が魔王とて見ても聞いてもいないもの分からぬのだが……。

 だからこそ分身体を通して生活し、人間を知ろうとしているのだ。

 まあ暇つぶしであるため、そこまで真面目に人間を知ろうと取り組んでいるわけではないのだが。

 真面目にやりすぎると楽しくないからな。我の人間生活はあくまで暇な時間を充実させるための趣味なのだ。

 

 しかしフォルティマの目には、我が万物を見通す力を持っているように映っているようだ。

 もちろん我は魔王であるからして、そこらの有象無象などよりよほど出来ることは多い。……が、出来ない事は出来ないのだ。

 食堂の長の料理の腕しかり、先輩の事務能力しかり……他の者の方が優れていることなど無数にある。フォルティマ自身とて我より優れている部分があるのだ。

 

 我に全幅の信頼をおいている部下にざっくりと否定を突きつけるのも可愛そうであるが、出来もしないことを出来ると思われるのも居心地が悪い。

 ……あまり深読みするなよ~程度に、釘でもさしておくか。

 

『……ふぅむ。お前の一を聞いて十を察する知性は評価しているが、推測を真実として決めつけるのは似て異なる好ましくない癖であるな』

「!! も、申し訳ございません……! わたくしごときが魔王様の深淵なる機微を察する事など出来ようはずもございませんでした。出すぎた真似を……!」

 

 思った以上に恐縮されてしまった。

 跪くを通り越して床に身を投げ出すほど平伏され、少し気まずい。

 むう……。ただ釘をさすのもつまらぬと先輩の真似をして諫める前に"褒め"を挟んでみたが、あまり効果は無いようだ。

 先輩が我に仕事を教える時の「良い所を述べてから指摘する」といった言葉運びが好ましかったゆえに、我も試してみたのだがな。

 

『よい。気にするな』

「魔王様……! はっ! ご寛大なる御心にこのフォルティマ、敬服の念が絶えません」

 

 いちいち大仰な奴よな……。

 

 以前はこれらを普通に受けていたはずなのだが、自我(バグ)が芽生えてからの我は赤子のようなもの。

 その状態で人間の中で気安いやり取りに慣れてしまったからか、どうもフォルティマの態度に違和感を覚えてしまうな。

 まあ、我は魔王ゆえにこれはこれでいかんのだが。威厳を保たねば。

 

 

 ……と、それよりも本題だ。

 

『……ところでフォルティマよ。少し前に、我の命で人間の体を転移させたであろう』

「七日と五時間四十分三十六秒前の事でございましょうか。確か送り先はウィスタリア大陸コラーユ地方の廃村ですね」

(うわっ)

 

 こ奴ずいぶんと正確に覚えておるな……。

 感心だが、食い気味に早口でつまびらかに述べられるとやや気持ち悪く、魔王らしからぬ驚きの声を出すところだったぞ。

 

 このフォルティマは魔法に長けており、"技術"においてのみ考えるならば我をしのぐ実力者である。

 長距離の転移魔法を用いて我の分身体を人間領へ送ってくれたのもフォルティマだ。

 だがその際、詳しい説明まではしていなかった。

 

(手伝わせると決めたことだし……側近であるこ奴にはある程度、我の行いを話しておけばこの先動きやすくなるだろう)

 

 もちろん全てを話すわけではないが、我の目的には「勇者育成」が加わっている。

 そのために今後部下を動かす必要が出てくるが、我の言葉を受けて直接現場の魔族に指示を出すのは参謀のフォルティマなのだ。

 隠し立てするより先に事情を述べてしまった方が、我が楽である。

 

『……然様(さよう)。ところでだな。あの人間の体なのだが……実をいうと、正確には我の分身体なのだ。骨のみ、人間のものを使用している』

「!!!!!!」

『?』

 

 フォルティマが目に見えて動揺した。

 身体全体の鱗を鳴らしつつ震える様は「ガタッ」と一度動いたにしてはなかなか騒々しい。

 そしてフォルティマはそのままブルブルと震えだし、ふらつく動きで我に近づいてきた。

 ど、どうした?

 

「にん、に、にん、人間の体……を……! おん、御身から創造したのですか!? 我々の祖先のように!? 人間の体を!? 人間の!! 体を!! ですか!!?? いと尊き魔王様の御体を削り、わざわざ脆弱で愚かしく虫けらのごとく数だけは多いあの人間ごときをでございますキャァァァェァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!?」

『…………』

 

 い、勢いが凄いな。

 我の足首くらいしかない大きさだというのに、詰め寄ってくる圧が強い。

 語尾などなんの断末魔だ。

 

「!! 申し訳ございません、取り乱しました。魔王様の事です。もちろんお考えあっての事でしょう。……本日二度にわたる愚かな振る舞い、恥じ入るばかりです」

『よい、よい。許す』

 

 すぐ失態に気づいた事は評価するが、ひとこと話すごとにいちいち面倒な奴よな……。これでは話が進まぬわ。

 

 とりあえずフォルティマが"聞き"の体勢に入った事を確認すると、どう説明したものかと考えをめぐらす。

 

 

 現状、フォルティマに求めたい協力はふたつある。

 

 ひとつ。我が勇者育成のため部下を動かしたいと思った場合、我の命を受けて実際に指揮を執る役割。

 そしてふたつ目なのだが……先ほどの反応を見るに嫌がりそうであるな。まあやってもらうのだが。

 

 しかし何事にも前置き、という物が必要だ。

 本題に入る前に、我が分身を使い何をしているか……そこから説明せねば。

 

『フォルティマよ。これより話す内容は、側近であるお前にしか告げぬ。心して受け止めよ』

「!! かしこまりました」

 

 

 

 フォルティマに話した内容はシンプルである。

 

 脆弱な身なれど幾度となく我を打ち倒してきた人間と勇者に興味が湧いた。

 ゆえに人間の姿をした分身を作り人社会に紛れ、人が勇者に成長する過程を実験的に観察している……と。

 

「なんと……」

『ほんの余興よ』

「いえ、深淵なお考え有ってこそであると心中お察しいたします。我ら魔族は……その。申し上げにくいのですが、圧倒的な力を持っていながらも奴らに敗北してきました。もちろんこれは我ら配下の力不足や油断であり、魔王様ご自身には何の問題もございませんが。しかし魔王様は慈悲深くも我らの失態を補い世界掌握の道を盤石なものとするため、御自ら動かれている…………ということでございますね。……我らが不甲斐ないばかりに、申し訳ありません」

 

 なんだかすごく落ち込んでしまった。

 自分たちが成果を上げられないから我が動いたと思ったらしい。

 こんな様子を見ると、我の目的が真逆であることが少々申し訳なくなるな……。

 

 

 

 

 我が目指すのは魔族の勝利ではない。

 創造主により「負け」が確定している損な役割の中で、納得がいく華々しい死を迎える事だ。

 

 

 

 

(……この自我(バグ)からしか分からぬ感覚を共有させるのは酷だな。これについては、我が死ぬまで秘するとしよう)

 

 我を信じている魔族にとって、これはひどい裏切りだろう。

 だが「仕組み」として勝てないのだ、我々は。同じ舞台に立っているようで、実はそうではない。

 人間を主体とした舞台装置。それが我ら、魔王と魔族である。

 

 ……しかし我とてまったくの考え無しで趣味を楽しんでいるわけではない。我自身の楽しみが優先であるが、あくまで優先順位が高いだけである。

 終活とは死後についての備え……残された者達の事を考える内容も含まれるからな。

 我が子も同然の魔族たちについて考えるのは当たり前のことだ。

 

 ………………。

 まあ、今は少し後回しにしているが。

 少し、な。…………本当に少しだけ、な!

 

 

 

 

 ともあれ、勇者育成についてだ。

 

『そこでだな。どうせ観察するならと……試しに我が自ら勇者となりうる存在を育ててみようと思いついたのだ。自ら育てることで、これまでの敗北の理由も探ることが出来よう』

 

 ほんの少しの後ろめたさからか、最後に言い訳じみた文言をつけたしてしまった。

 

「は!? あ、いえ失礼をば。いや、え、しかし……魔王様自らが……怨敵を育てると!?」

『愉快であろう?』

 

 多くは語らず、試すようにフォルティマを見る。

 そこに込められた期待は「こいつなら深く聞かず勝手に解釈するだろう」、である。

 我としては本当に愉快なだけの成功しても失敗してもいいだけの試みだが、フォルティマがそれを理解することは難しいだろう。

 ならばフォルティマ自身が納得できる理由を、本人の中でつけてもらえばいいだけのこと。

 フフン。我は策士なのだ。

 

「…………。わたくしは、何をすればよいのでしょうか」

 

 しばしの沈黙の後、ひと呼吸したフォルティマが発した一言に満足げに頷く。

 

 

 そうだ、その一言が欲しかった!

 

 

 いくらフォルティマが我の命ならば何でも聞いてくれそうな相手とはいえ、言われてやるのと自分からやると申し出るのとでは意欲に大きな差がつくからな。

 これは我も副業での研修で実感済みである。間違いない。

 

『時が来たら伝えよう』

「はっ! かしこまりましてございます」

『……不要な忠告かと思うが、この件については他言無用である』

「もちろんでございます。魔王様が側近であるわたくしだけに……わたくし! だけに! 教えてくださったのですから」

 

 こちらが念を押したはずが、何故か逆に妙な圧を感じたのは気のせいだろうか。

 

 しかしこれで手伝ってもらう約束は取り付けたぞ! と……心が弾む我。

 

 

 

 フォルティマに手伝わせたいことのふたつ目。

 それは……今のところ勇者になれる可能性が限りなくゼロな小僧に、魔法を教えてもらう役割である!

 

 

 

 我が直接戦う術を教えるわけにはいかないので、代わりに素晴らしく優秀な教師を派遣してやろうというわけであるな。

 剣などの扱いについてはまた別に考えねばならぬが、魔法についてはフォルティマで十分であろう。

 確かこ奴、変身の魔法も使えたはず。我のように分身を作らずとも人間に化けられるだろうしな。適役だ。

 

 

 

 まだ小僧が弱っているため先の話であるが、自分からやると申し出たのだ。

 ふはははははは! 嫌がりそうではあるが、やってもらうぞフォルティマよ!

 我のため存分に、勇者の卵を鍛えてもらおうか!

 

 

 

 

 

 

 

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