機動戦士ガンダムSEED~金色の残光~   作:マルク

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奇妙な少女

〝コーディネイター″ ――それは卓越した感覚・運藤神経、強靭な身体能力、優秀な頭脳を生まれながらにして持つ新人類の総称である。

 

人間とは脆弱な生き物だ。

些細な事で体調を崩し、劣悪な環境には適応できず、知識を得るのに莫大な時間を費やす。特にこのC.E.(コズミック・イラ)において弱い事は〝罪″だ。石油資源の枯渇、環境汚染された大地、民族・宗教問題、そして第三次世界大戦。全世界的に不況の嵐が吹き荒れて、弱者の命を刈り取っていった。

だから誰もが救いを求めた。

この荒廃した世界を救うメシアの出現を祈った。

 

後に振り返れば一笑に付していたその願いを神は聞き入れた。

 

ジョージ・グレン――僅か17歳でMIT博士課程を修了、オリンピック銀メダルを獲得、アメリカンフットボールのスター選手、4年後には空軍のエースパイロット。彼は文字どおり、人類に誕生した英雄(ヒーロー)として暗雲立ち込める世界に希望の光をもたらした。

しかしC.E.15年に全てが狂い始める。

木星探査プロジェクトの為に木星へ出発する際に、彼は自身が遺伝子操作によって誕生した人間である事を世界中に告白。そしてその詳細を記した製法マニュアルをネット上に公開したのだ。

 

『この母なる星と未知の闇が広がる広大な宇宙との架け橋、そして人の今と未来の間に立つ者。調整者――コーディネイター。僕に続いてくれるものがいてくれる事を切に願う』

 

このジョージ・グレンの告白は世界を震撼させた。

今まで崇めていたのは造られた英雄で、その輝かしい功績・恩恵を得られるかもしれない。そう考えた人類の行動は早かった。彼の様になりたい、彼の様で在りたい、誰もが望み、コーディネイターの人口は徐々に増えていった。

 

しかしジョージは見落としていた。人間の善性を信じるあまり、悪性を軽んじていたのだ。遺伝子操作されず、ごく自然に出生した人間――ナチュラル。彼らは学術・芸術・スポーツ各方面において活躍するコーディネイターに、強い嫌悪と嫉妬の感情を持つようになる。C.E.53年、ジョージはコーディネイターとして生まれなかった事に悲観した少年に撃たれて死亡した。

 

その悲劇から約20年経過した。今でもナチュラルとコーディネイターの争いは続いている。ジョージの願いは叶わず、今日も世界のどこかで彼の告白のせいで誰かが命を落とすのだった。

 

 

 

「うわーっ! すっげー!!」

 

「良いんですか、乗せちゃって? こういうのって機密事項とかあるんじゃ…」

 

百式のコクピットに乗ってはしゃぐ恋人(トール・ケーニヒ)の姿に呆れながら民間人の少女(ミリアリア・ハウ)はミラベルに尋ねる。

 

「ほんとはダメなんだけど電源入れなけりゃただの置き物だよ。動かさない事と写真とかに残さない事さえ守ってくれるなら大丈夫。みんなには百式の装備一式を運ぶのを手伝ってくれたからね。これくらいのご褒美があってもいいだろ」

 

男の子ってこういうの好きだしなとまで言い放つ豪胆さに、ミリアリアは本当に同年代なのか不審に思う。ミラベルのあっけらかんとした性格は、さっきまで戦争が起きていた事実を忘れそうになる。

 

(キラもこう思えたら良いんだけど)

 

逃げ遅れたミリアリア達を守る為に戦ってくれた友人はというと、ストライクというMSに同乗していた女性軍人の傍で糸が切れたかのようにグッタリしていた。命のやり取りをしていたのだから当然の反応だろう。

 

「それに私はこいつの見張りもあるんでね。いつまでもコクピットにいる事はできないんだ」

 

言われてミリアリアは彼女の足元に転がるザフト兵(ミゲル)に視線を移す。改めて見ると自分達と2、3歳しか違わない青年だ。こんな若者でも戦場に立っているという事実に恐ろしさを感じる。

 

「手足を縛って、更に間接も外しておいたんだ。人体の構造上、身動きできないから心配ないよ」

 

それでも一切警戒を怠らないところにミラベルが荒事慣れしている事が分かる。もしかしたらこの子も軍人なのではと考えたところで女軍人が目を覚ます。最初は戸惑っていたが現状把握すると急にミリアリア達に拳銃を向けてきた。

 

「その機体から離れなさい! それは軍の重要機密よ!!」

 

彼女はトールが乗る百式ではなく、学友のサイとカズイが見上げていたストライクの方に言っていた。そして皆を女軍人の前に横一列に並ばされ、自己紹介させられる。

 

「サイ・アーガイル」

「カズイ・バスカーク」

「トール・ケーニヒ」

「ミリアリア・ハウ」

「キラ・ヤマト」

「ミラベル・クローバー」

「ミゲル・アイマン」

 

軍人らしい高圧的な態度に憮然としながらも各自、素直に名乗っていく。その姿にほっとしたのか固い表情を少し崩し、ストライクの傍らにいる百式のパイロットについて聞いてきた。

 

「私はマリュー・ラミアス、地球連合軍の将校です。それでは次に、あの金色のMSを動かしていたのは誰?」

 

「はい、私です」

 

あっさりとミラベルが手を上げる。

 

「あのMSは何? 助けてくれたのには感謝してるけど、あなたは一体何者なのかしら?」

 

「あの金ぴかはシェルターを探して逃げ回ってる時に見つけました。私は観光に来ていたただの民間人です」

 

一発の銃声が虚空に轟く。それに体を竦めるミリアリア達だったが、ミラベルは平然としていた。

 

「ただの民間人がぶっつけ本番でMSに乗って、ザフトを撃退するだけでなくその機体を鹵獲した。嘘をつくのも考えてつきなさい」

 

「ヘリオポリスが中立国のコロニーとはいえ、自衛手段を持とうとしないとどうして言えるんです? あの連合の新型MS、あれのデータを盗用しないとどうして言い切れるんです? 利用していたのは連合(あなたたち)だけじゃなかったとどうして考えられないんです? 疑心暗鬼になるのは仕方ないですけど、もう少し冷静になってくれてもいいじゃないですか」

 

ミラベルの言葉に眉を顰めながらマリューは閉口した。ミリアリア達も混乱状態の頭を整理しようとする。

 

世界では新たな兵器が続々と開発されてるのに、中立を理由に非武装もしくは中世の槍や弓矢で武装している国家がいたとしたらそれはもう狂気の沙汰だ。民から見放されて衰退するか、野心溢れる暴君の格好の狩場と化すだろう。

 

この世にエデンの園など存在しないのだ。

 

「…そうね、ごめんなさい。それでも私はあなたの話を簡単に信じる訳にはいかないの」

 

「まぁ、なんとなく気持ちはお察しします。普通はザフトの工作員とか疑いますよね」

 

ミラベルの発言にミリアリア達は僅かに距離を取る。それでもお構いなしに彼女はにっこり笑いながら言葉を続けた。

 

「だから私はもうあの機体には近づきません。捕虜もお渡しします。それでいいですか?」

 

その言葉にマリューだけでなくミリアリア達も息を呑んだ。

 

周りに連合の軍人は見当たらない。ミリアリア達の保護者は安否不明。ナチュラルではMSを動かせない。しかも民間人や捕虜など足手纏いにしかならない。

どう見繕っても現状はマリュー1人では対処不可能だ。

 

詮索はしない。代わりに状況次第ではMSに乗って戦ってほしい。そう約束を取り付ける事がマリューができる精一杯だった。

 

 

 

「オーライ、オーライ! はい、ストップ! うん、バッチリ! ありがとうね!!」

 

ミラベル達が最優先にすべき事、それはいつ来るか分からない敵に備える事だ。

マリューの指示の下、ミラベル達はストライクの装備や修理用パーツを掻き集めていた。

 

ストライクは凡庸性に優れたMSである。

その最大の強みは背中に装着する事で様々な戦況に対応できるストライカーパックシステムだ。

 

機動性のエールストライカー、近接戦のソードストライカー。そしてたった今装着した遠距離戦のランチャーストライカーの3種類。

 

バッテリーも内臓されているのでストライクの装甲が通電されて灰色から白色へと変化する。

PS(フェイズシフト)装甲――ストライクとその兄弟機の計5機『GAT -Xシリーズ』に備わる特殊装甲だ。展開されてる間は物理攻撃に対して絶大な耐久力を発揮する。

 

「こちらX105ストライク。地球軍、応答してください。こちらX105ストライク…」

 

「キラ君、どんな感じ?」

 

「ミラベル…さん。駄目です、何も反応がありません。」

 

生き残りの友軍がいないかキラは通信を試みているが応答はない。一刻も早く合流してストライク(こんなもの)から降りたい身としては気が気でなかった。

 

「そうか。まぁなるようになるよ。私達は今できる事をやろう。許可も下りたし、いざとなったら私が戦うからさ!」

 

「なんで…なんでそんな呑気なんですか。戦争ですよ? 人が死ぬんですよ? あなたはそんなに殺し合いが好きなんですか!?」

 

今でも敵の脅威は去っていない。にもかかわらず笑顔を振りまくミラベルの姿勢はキラの神経を苛立たせていた。

 

「キミ、私を快楽殺人鬼と勘違いしてない? 確かにMSは好きだし、戦うのも好きだけど、殺し(・・)が好きな訳じゃないぞ。必要だからやってるだけさ」

 

「刀って知ってる? 剣の一種なんだけど刀身が鏡みたいですっごく綺麗でさ、光に当てると刃紋が浮き出るんだ。一振り一振りに個性があって、これが見てて飽きないんだ!」

 

ミラベルは瞳を輝かせながら話す。今までの楽観的というか他人事というか、どこか距離感があった彼女とは異なる豹変ぶりにキラは圧倒される。

 

「刀だけじゃないぞ。銃も好きだし、戦艦も好き。戦闘機も戦車も好きだな。人殺しの道具が好きだなんて気持ち悪いってみんな言うけどさ、それって見たり、触れたり、語ったりするのもダメなのかな? ダメなのはあくまで殺人という行為であって、道具(もの)に罪は無いだろ?」

 

ストライク(このこ)もそうさ。別に嫌われる為に生まれた訳じゃない。なのに兵器ってだけで嫌われるのはどうなんだろうと私は思うわけだけど…キラ君はどう?」

 

「僕は……よく分かりません。こんなのが無ければ戦う事も人殺しもしなくて済んだけど、これがあったからこそ僕もみんなも助かったんだし。嫌い…だけど否定(・・)はしたくないです」

 

キラの答えにミラベルは笑みを浮かべて頷く。きっとキラは一生兵器を好きにはならないだろう。だがそれでも、兵器が無い事が良い事だとも思えなくなった。この世に、最初から生まれてはいけないものがあるのだと思いたくないから。どんな物にも何かしらの意味があるのだと信じたいから。

 

(でないと、あまりにも寂しいじゃないか)

 

誰からも祝福されない命。

そんな孤独な人生は想像しただけで恐ろしい。

自分はその孤独感を与えるような人間にはなりたくないと心に刻み、キラは今の自分にできる事――友軍への呼びかけに戻るのだった。

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