あとジークアクス面白い。毎週楽しみにしてます。
ミラベル達に資材集めをさせながら、マリューは視界の端にある百式をチラリと盗み見る。
(不思議な機体…。ストライク達とはまるで違う)
厳戒態勢が続いているとはいえ、百式という所属不明のMSを彼女は無視できなかった。
本来ならば試作機、それも初めて作る機体という物はとにかく癖がなく、誰でも扱いやすいように設計する。形にならなければ次作への開発予算を得られないからだ。彼女が開発した5機のGAT-Xシリーズも同様だ。特にX102〝デュエル″はその特徴が顕著に出ている。
X103〝バスター″のように遠距離戦に特化している訳でもなく、X105〝ストライク″のように換装機能もなく、X202〝ブリッツ″のように特殊兵装を持つ訳でもなく、X303〝イージス″のように変形機構がある訳でもない。正しく汎用機として完成した。
それに比べ百式はどうだろう。
マニュアルと実機を少し調べただけだが、技術士官のマリューには解る。百式は発泡金属装甲の軽さとフレシキルバインダーの柔軟な機動力をもって、攻撃は全て躱すという戦法をコンセプトにした機体だ。とても新米パイロットが扱える代物ではない。
どのXナンバーにも当て嵌まらない基礎フレーム、ジンと同じ縦型の操縦桿、本体からの直接供給ではなく
まるで5機のGが奪われる事を前提として、既存の技術で強引に作りましたという印象を受けるのは果たして気のせいだろうか。
(つまり、これは対G兵器? 開発者は…M.N。一体何者かしら)
マニュアルに記載されていた謎の人物。思考の沼に嵌りそうになる彼女を突然の震動と爆音が襲う。
ヘリオポリスの内壁が破壊され、瓦礫の中から銀灰色に塗装された1機のMSとそれを追うような形で橙色の
「MS!?」
MSはモノアイを動かし、ミラベル達——正確には鎮座しているストライクと百式を捕捉する。
「あれもザフトのMSよ! キラ君、ミラベルさん、機体を動かして! 早く!!」
マリューの言葉に2人は即座に反応した。
キラはストライクのPS装甲を展開し、ミラベルはストライクから降りて百式に向かう。その小脇にミゲルという荷物を抱えながら。
「ミラベルさん、何してるの!?」
「蓑虫みたいな動きしかできないコイツを転がしておく訳にはいかないだろ!? マリューさんは肩を怪我してるから運べないし、
そう言いつつミラベルは『ふざけるな! 離せ!!』と暴れるミゲルを強引に押し込んでコクピットへと姿を消す。
マリューは卒倒しそうになるが、無理やり己を納得させてミリアリアには避難を、キラにはストライクで守りに徹するよう指示を飛ばすのだった。
◇
「あれが例の新型か。確か残りは1機のはずだが…」
それが何故か2機いる。ザフトのMS『シグー』のコクピット内にて白銀の仮面で顔を覆った男——ラウ・ル・クルーゼは訝しむ。事前情報とは異なる事態にどうしたものかと思考に耽るが、それも一瞬。
「まあいい。ついでにあれも頂戴するとしよう」
機体を反転させ地表へ向かおうとしたところ、それを阻止しようと地球連合軍MA『メビウス・ゼロ』が背後から迫る。
「チッ! ムウめ、無駄なあがきを…」
うるさい羽虫を払うかのように、メビウス・ゼロの
「さあ、見せてもらおう。連合の新型MSの性能とやらを!」
まずは小手調べと突撃機銃を放つがストライクのPS装甲は貫けない。ここまではクルーゼの想定内。問題はもう1機の方だ。金色のMSはスラスターを吹かして回避した。
(躱す、という事は有効という事になるが…。連合製ではないのか? それとも…)
見たところストライクは長大な砲身のせいで動きが鈍い。警戒すべきは金色の方と判断し、今度は重斬刀で接近戦を試みる。
「キミは速いが私のシグーも負けてはいない。さあ、これはどうする!!」
ジンに代わる次期主力機として開発されたシグー。高い機動力と運動性を兼ね備えた機体だ。同じコンセプトの機体でしかも敵同士、パイロットとしては逸る心を抑えられない。高速で距離を詰めて振り下ろされる斬撃を金色のMS——百式は持ち手を掴んで防ぐ。
「反応速度も悪くない」
ならばと左手の28㎜バルカン内装防盾を向けようとしたが、これも上から抑えられて動かない。
互いに両手が塞がってしまい、武器が使用できなくなった。
「ふむ、パワーも向こうが上。新型なのだからこれぐらいはできて当然か」
着々と情報収集を行うクルーゼだが突如コクピット内に聞き慣れた声が響く。
『下がれ! やられるぞ!!』
「ミゲル!? 裏切りか? それとも盾にされているのか?」
『っ!? 構いませんクルーゼ隊長! 俺諸共やってください!!』
戦死したと思った部下との再会に面食らうも、クルーゼはすぐに意識を戦場に戻す。
「…私はラウ・ル・クルーゼ。この部隊を指揮をしている者だ。金色のMSのパイロット、キミの名を聞かせてくれないか?」
『ミラベル・クローバー、どーぞよろしく。あんたがこいつの上官?』
クルーゼの問いに女性特有の高い声が律儀に応える。
声の質からして恐らくアスラン達と同年代——10代半ばぐらいだろうか。
「可愛い部下が世話になっているようだが、人質とは感心しないな。連合も情け無い奴をパイロットにしたものだ。ミゲルがいないと怖くて戦えないか?」
『こっちは慣れない機体で戦ってるんだ! 指揮官ってことは凄腕なんだろ? だったらハンデって事で大目に見ろよ。男らしくないな!!』
相手が幼い子どもなら交渉できるかと思い、敢えて挑発する。しかし敵は逆に挑発し返してきた。その反応にクルーゼは口角を吊り上げる。
ああ、敵とはこうでなくてはならない。
簡単に口車に乗せられるようなら、最初から暴力など振るわない。言葉では治まらないからこそ、人は拳を振り上げるのだから。
「これは失礼した。ならば条件は対等という事で、全力でお相手しよう。ミゲル、悪く思うなよ」
『俺もクルーゼ隊の端くれ! 覚悟はできてます!!』
その言葉を合図に2機は弾かれたように距離を空け、互いに剣を向ける。
片や特殊合金製の実体剣、片やビーム粒子を束ねた光剣。
金銀の2機は円を描くように飛翔し、再び交差した。
◇
「こんのォ!」
シグーが繰り出す刺突の雨。それを前にミラベルは必死に操縦桿を動かす。最高速の剣撃を至近距離で回避しなければならない窮地に冷汗が止まらない。しかも時折フェイントを混ぜて幻惑してくるところが厭らしい。敵の陰湿な性格を感じる。
「
隙を見てビームサーベルを振るうものの掠りもしない。技能と経験測を以って機体性能を凌駕する——敵は自身が目指す理想形を見事に体現していた。離れたらライフルを持たない自分は一方的に撃たれてしまう。
(クソッ! こんなに強い奴が倒さなきゃいけない敵だなんて)
現実の厳しさに押しつぶされそうになる。しかし自分は1人ではない。操縦桿とフットペダルから伝わる振動が、百式という
(そうだ。こいつが強いなんて解っていたじゃないか。今さらビビってんじゃないぞ、私!)
この理不尽な世界に生れ落ちて何度も絶望の淵に立たされたが、
「うん? どこに向かって……チクショウっ!?」
一進一退の攻防に飽きたのか、シグーがキラ達のいる方へ向きを変えて飛び去っていく。そうはさせじとミラベルも百式のスラスターを全開にして追いかけた。
「もっと…もっと速く!!」
金と銀の追走劇。だが、その距離は縮まるどころか引き離されていく。直線的なスピードはシグーに軍配が上がったのだ。ミラベルは苛立つ心を堪える事しかできなかった。そしてストライクの姿を視認できるまで近づいたところで、急にミゲルが声を張り上げる。
「バカッ! 誘われてるぞ!!」
それに応えるかのようにシグーが動く。機首を180度反転させて急上昇した。
罠だと気づいた時にはもう遅かった。百式を射抜かんとシグーの銃口から無数の弾丸が射出される。
死ぬ。
そう脳が判断した瞬間、ミラベルの中で何かが切り替わった。
世界から色が抜け落ちて、迫る弾丸の動きがスローになる。機体が奏でる駆動を文字通り五感で感じていた。何かに操られたかのように澱み無く手足を動かし、百式を急旋回させた。
「グッ、ぬぅうう!? うおりゃああアア!!」
トラックが衝突したかと思わせる強烈な横Gがミラベルを襲う。それを歯を食い縛って耐え抜き、シグー目掛けて百式を突撃させる。
光刃一閃。
ビームサーベルの横薙ぎがシグーの両脚を斬り落とす。機体バランスを崩した敵に生じた致命的な隙。それを逃すまいと更なる追撃を仕掛けようとしたところへ、思わぬ邪魔が入る。
「熱源反応!? 八時の方向!」
ミラベルの後ろでレーダーを注視していたミゲルの警告。それと同時にヘリオポリスの内壁が吹き飛び、瓦礫の中から一隻の戦艦がコロニー内に侵入した。『アークエンジェル』——地球連合軍が G兵器の運用母艦として建造した戦艦だ。その名に違わぬ天使の翼のような白亜の装甲の優美さに、ミラベルは目を離せなかった。そして硬直した百式を尻目にシグーが戦線離脱する。
できればここで落としたい相手だったが仕方ない。
先の戦闘で、まだ自分の技量では届かない事。命を賭けても勝率は2割にも満たない相手という事が解った。戦闘好きとはいえ、命を捨ててまで勝ちたいとは今はまだ思えない。
(まあ、なるようになるか…)
すぐさま気持ちを切り替えたミラベルは、不安げな表情を浮かべているだろうキラ達のもとへと帰投するのだった。