機動戦士ガンダムSEED~金色の残光~   作:マルク

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な、なんとかGW中に投稿できた。楽しんでいただけたら幸いです。


イレギュラー

 

 

ミゲル・アイマンは所謂エリートである。

 

士官学校の卒業成績上位10名(ザフトレッド)に入るこそできなかったが、不貞腐れずに努力し続けてきた。いくら模擬試験で成績が良かろうが実戦で結果が出なくては意味がないと信じていたからだ。持ち前の気さくな性格もあって先輩から後輩に至るまで広く慕われている。その人柄と実力が認められ、遂にはザフト軍の精鋭部隊『クルーゼ隊』に配属されたのはミゲルの誇りである。だからこそ、年下の女に敗北したのは人生最大の屈辱だった。復隊しても捕虜となったせいでMSからは降ろされるかもしれない。

 

それでも、この借りを返すまでは死ねない。ミゲルはそう心に誓った。

 

(なのに、なんでコイツは死にかけてんだ?)

 

連合の白い新型戦艦に着艦した百式。コクピットから降りたミゲル達に待っていたのは連合の兵士による手厚い歓迎だった。もちろんリゾート地で花輪を送られるようなものではない。黒光りする無数の銃口が2人に向けられていた。

 

「きみも、ストライクの坊主と同じコーディネイターだろ?」

 

紫色のパイロットスーツを着た金髪の男性がミラベルに話しかけてくる。にこやかに笑みを浮かべているが、その目は全く笑っていない。敵ならば子どもでも容赦しないと言わんばかりの冷徹な視線にミゲルは押し黙るしかできなかった。

 

「さぁ、たぶんそうじゃないですかね? 物心ついた時から孤児院育ちなもので、自分ではちょっと…」

 

男の問いにミラベルが答える。状況を理解しているのかいないのか、声は至って冷静だ。

 

孤児(みなしご)…か。MSに乗れてるからほぼ確定だと思うがね。スマンな。ちょっと確認したかっただけなんだ。いや、最近の子どもは凄いねぇ」

 

「フラガ大尉! あなた達も銃を下しなさい」

 

マリューが男を嗜める。フラガという名にミゲルは聞き覚えがあった。ムウ・ラ・フラガ——高い空間認識能力が必要なMA『メビウス・ゼロ』を駆り、ジン1:メビウス5というキルレシオをものともせずに複数のジンを撃墜する連合でも屈指のパイロットだ。噂では隊長のクルーゼと少なからぬ因縁がある男でもある。

 

(とりあえず、助かった…のか?)

 

自分達を助ける為に戦った少女に対し、コーディネイターというだけで銃を向ける。やはりナチュラルは野蛮だとミゲルは再認識した。捕虜への暴行は国際条約違反とはいえ安心できない。ここは戦場——公正無私とは無縁の理不尽極まる場所だ。気に入らない上官を撃ち殺しても、流れ弾が当たったとでも言えばなんとでもなる。普段の横暴ぶりを知る者なら見て見ぬふりをするだろう。助けたところで待っているのは感謝の言葉ではなく、なんで早く助けないんだという罵声と鉄拳だからだ。ヘリオポリスを破壊し、何人も連合兵士を殺害したクルーゼ隊。勝てない腹いせに隊員のミゲルを虐殺しないと誰が言えるだろうか。

 

「…で、その下に転がってるザフト兵はどうしたんだ?」

 

とうとう話題がミゲルに移る。体は相変わらず拘束されたままだ。無様な姿でムウを射殺さんばかりに睨みつける。

 

「戦闘の末にミラベルさんが生け捕りにしました。あそこにあるジンのパイロットです」

 

フォローするかのようなマリューの返事に周囲の連合兵士がどよめく。殺すより倒す方が遥かに難しい。それを実践したのが子どもでMS戦なら言わずもがなだ。

 

「へぇ、そいつは大したもんだ。ストライクのパイロットになるはずだった連中のシミュレータを見てきたが、あいつらは鈍臭動かすだけでも四苦八苦してたぜ。お嬢ちゃんはよっぽど腕が良いんだな。それとも…」

 

そう言いつつムウがミゲルへと視線を移す。

 

「敵に救われたかな?」

 

「な、グハッ!?」

 

自分の磨き上げた技術を、努力を貶されたと感じたミゲルは思わず声を張り上げようとしたが叶わなかった。ミラベルの足が体を踏み付けたからだ。肺の空気を吐き出す程に。

 

「もう、良いのは顔だけにしてください。私は機体に救われただけです。そんなに褒めても何も出ませんよ〜?」

 

「いやいや。これできみのやる気が上がってくれりゃ、俺達の生存率が上がると思ったからさ。期待してるぜ、機体だけに…」

 

ハッハッハッと陽気に笑い合う2人。だがすぐに底冷えするような声に凍りつく。

 

「2人とも、悪ふざけはそこまでに…。現在の状況分かってます?」

 

「はい、すみません!」

 

「お、俺は場を和ませようと…。いえ、なんでもありません。全面的に俺が悪かったです」

 

閻魔と化したマリューに揃って頭を下げるミラベルとムウ。その様子を見てクスクスと周囲が笑い出す。今までのお通夜のような雰囲気が霧散していた。

 

「フラガ大尉、冗談が過ぎます。死者が何人も出ているというのに…」

 

「死者を悼む精神(こころ)ぐらい持ち合わせているさ。俺も乗ってきた艦を落とされたからな。けど、いつまでも落ち込んでたり、復讐してやるって無駄に意気込まれても困るでしょ。力を抜いていこう、適度にな」

 

ザフトの奇襲に運良く生存できていた女性軍人——ナタル・バジルール中尉も苦言を呈するも、負けじとムウも言い返す。思い当たるところがあるのか、彼女もその言い分には押し黙った。

 

「さぁ、外にいるのはクルーゼ隊。あいつはしつこいぞ〜。だから、指揮をくれ。ラミアス艦長」

 

「わ、私が!?」

 

「専任大尉は俺だが、この艦の事は分からん」

 

何もかもが不測の事態(イレギュラー)。なんとも珍妙な部隊が誕生したのだった。

 

 

 

食糧、水、弾薬、MSとMAのパーツなど、アークエンジェルには様々な積荷が急ピッチで運ばれていく。そんな中で、ミラベルはマリューと対峙していた。

 

「やります」

 

「まだ何も言っていないんだけど…」

 

マリューが言いづらそうにしている事をミラベルは代弁する。

 

「現在この艦にあるMSは百式とストライクの2機だけ。まともに動かせられるのも2人だけ。そして今からまた戦闘になるかもと来たら、答えは決まってると思いますけど」

 

淡々と語られる現状に顔を歪めるマリュー。それに心が痛むが、ミラベルは更に言葉を続ける。

 

「かと言って、そのパイロットは未成年で民間人。彼らは明らかに守られる側の人間。そんな彼らに前線出て戦ってくれと頼むのは、軍人としても大人としても身を引き裂かれるような気分でしょう。お気持ちが分かるからこそ、私は承諾するんです」

 

「返す言葉も無いわ。私達、正規の…いえ非正規の艦員(クルー)だけでは人員が圧倒的に足りないの。避難民から医師や技術者を募ったけど、それでも足りない。そして今何より問題なのがパイロットよ。フラガ大尉のMAは中破で修理に時間がかかる。だから頼みの綱はMSになるのだけど…」

 

「だ〜か〜ら、私は(・・)戦いますってば。そんな顔した女性の頼みを断りたく無いですよ。断って艦から下ろされたら困りますし、私抜きで戦って撃沈でもされたら寝覚めが悪いんです」

 

曇り顔のマリューから少し笑みが蘇る。技術士官でしかない身で艦長業務という重責に彼女も潰れかかっていたのだろう。その重荷が僅かとはいえ軽減されたのならミラベルも本望だった。ムウではないが、心に余裕が無い者は意固地になりやすい。しかし今のような不測な事態を突破するには柔軟な思考回路が必須だった。

 

「一応確認ですけど、‶降伏″は考えていないんですか?」

 

「気づいてると思うけど、ストライクもアークエンジェルもこの戦局を打破する為に開発されたものよ。それを奪われる事は地球連合の敗北に繋がると言っても過言じゃないわ それだけは、できないの…」

 

力なく首を横に振るマリューの姿に、きっと何度も頭をよぎった選択肢だというのが分かる。まだ20代の若輩者の身で戦争の勝敗を左右する代物を背負わされる、そんな彼女にミラベルは同情する。だからこそ百式に乗る事に躊躇いが無いのだ。

 

「そういえば、キラ君はどうするんです?」

 

もう一つの懸念事項であるストライクのパイロット候補について話題を移す。再び顔を曇らせる彼女に状況が芳しくない事が分かる。ミラベルが直接交渉しても良いが、ここはマリューの成長の為にも彼女の裁量に任せる事にした。

 

「ずっと断られているわ。民間人だからの一点張りで…」

 

「まぁ、無責任に了承していざ駄目だったら非難轟々は分かり切ってますもんね。素人がザフトという戦闘のプロ相手にやってやるぜと言い切れる方が逆に怖いですよ。おっと、それだと私も危ないか…。すみません、今のナシで」

 

「大丈夫、気にしてないわ。そう、キラ君の反応の方が正常なのよね。あなたが何者かは分からないけど、既に2回も戦ってくれた。まだ艦内にはあなたを不審がる者も少なくないけど、私はあなたの事を信じます」

 

「その期待に応えられるよう頑張ります」

 

そう言いつつ2人は自然と手を組んでいた。互いに身の丈に合わない重責を背負うもの同士、通じるものがあったのかもしれない。何としてもこの窮地を乗り越えよう、2人の心はそう固く誓い合った。

 

そして数分後、クルーゼ隊の再襲撃が確認される。戦場になるのは勿論ヘリオポリス内だ。

 

『アークエンジェル発進準備! 総員第一種戦闘配備! 繰り返す、総員第一種戦闘配備!!』

 

MSハンガー内で百式がカタパルトデッキへと移動する。コクピット内では赤色のパイロットスーツに身を包んだミラベルが現在の状況について思案していた。キラは来なかった。自分以外にも戦える人間がいる事が最大の理由だ。その分の負担がミラベルに降りかかる事になるというのに。

 

(結局、彼は子どもである事を選んじゃったか。まぁ、私も知らない奴といきなり編隊(エレメント)を組まされると困るんだけど)

 

今までキラ達が戦争とは無縁でいられたのは大人——親のおかげだ。彼らの親が世界情勢を調べ上げ、仕事や収入と照らし合わせ、ヘリオポリスに移住したからこそ平和に暮らせていたのだ。しかし今、その親はこの場にはいない。酷な話だと思うが、彼らは己の力で生き抜かなければならない事を自覚する必要がある。

 

だからミラベルは時間を作ろう。彼らが子どもから大人へと至る時間を。

その為ならこの程度の苦難など、なんとでもなるはずだ。

 

百式がカタパルトに接続したと同時に両サイドのパネルが開く。右手にビームライフル、左手にストライクの予備のシールドが装備された。

 

「いいのか嬢ちゃん。シールドなんて持ったら機体が重くなるぞ?」

 

「今回は防衛戦です。アークエンジェルが落とされたら私の帰る場所が無くなっちゃいますよ」

 

整備班のマードック曹長の心配を笑って返す。そしてブリッジから操作されたアークエンジェルのハッチが開く。襲撃によって荒れ果てたヘリオポリスの街並みが見える。ここから復興するには長い時間が必要になるだろう。だが、それはまだこのコロニーは死んでいないという事だ。

 

「ミラベル・クローバー。百式、出るぞ!!」

 

傷だらけのヘリオポリス(いのち)の未来を守る為、金色のMSが飛翔した。

 

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