大学生探偵福来あざみ   作:あざジャス派の猫

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ホームズ・フリーク殺人事件3

 私は殆ど成り行きとはいえ、幼少期から探偵の真似事をしている。

 守秘義務があるのも多いが、話のネタには困らない。

 

「それでいきなり上から鐘が降ってきて、事件と関係ない人が突然死んじゃってね」

「何やそれは! とばっちりにも程があるやろ!」

「あざみお姉さんって、つくづく殺人事件に巻き込まれるよね」

 

 事件に巻き込まれるのは、コナン君たちだと声を大にして言いたい。

 しかし振り返ってみれば自分も、結構な頻度で事件や事故に巻き込まれている。

 

 元々この世界の治安が悪いのもあるけど、本当にマジで勘弁して欲しかった。

 

 とにかくまだまだ話のネタは付きないが、いい加減に心身共に限界が近い。

 気づけば時刻は夜中の三時半近くで、もう数時間もすれば日が昇ってくる。

 

 私は大きく息を吐いてお茶を一口飲み、何となく窓の外を眺めた。

 

「あれ? あの車は? こんな夜中に、誰が運転してるの?」

「本当や! しかもアレは、オーナーやないか!?」

「ちょっと不味くないか? あのままだと、崖から落ちるぞ!」

 

 私だけでなく服部平次君とコナン君も反応して、そこからの行動は早かった。

 自分が一番に席を立って窓を開け、飛び越えて車に向かって駆け出す。

 

 だがやはりインドア派の私では、若い二人には敵わないようだ。

 すぐに追い抜かれてしまう。

 

 その後はオーナーが乗った車は崖下に転落して大爆発が起きたが、私はギリギリ車内を確認できた。

 人形ではなく本人が運転していて、前面に布がかけられていて妙な音がすることに気づく。

 

 

 

 当然のように寝ている人たちを急いで叩き起こして、オーナーの死について伝える。

 自殺か他殺かで色々な意見がでたが、一先ず警察を呼ぶことに決まった。

 

 私はその間にガレージに移動して、ペンライトを片手に念視を行う。

 コナン君と服部君は、クーラーの痕跡を探しているので別行動だ。

 

「確かに犯人がガレージに居たのは間違いなさそう」

 

 何処の誰かわからないが、全身黒タイツの犯人像が浮かび上がる。

 車があった場所にしゃがみ込んで、何かをしているようだ。

 

 他に何かないかと周囲を探すと、二台目の車にも細工をしている影を見つける。

 

「これは燃料タンクに穴が開けられてる?

 ガソリンも全部流れ出てるし、バッテリーも上がってる!

 これじゃ動かないよ!」

 

 どう考えても犯人が私たちを逃さないために、屋敷に閉じ込めたようにしか思えない。

 

 その後、預けられていた携帯だけでなく、屋敷の電話も全て壊されていることを知る。

 さらにホームズの初版本もなくなっているしで、泣きっ面に蜂である。

 

 しかも各所に仕掛けられていた防犯カメラや盗聴器も全部偽物で、パパっと解決とはいかなくなってしまう。

 

 そんな状況でアヤコさんが突然笑いだして、犯人がわかったと勝ち誇った顔で言い出した。

 さらに証拠も握っているようで、十分間の猶予を与えるから自分から名乗り出るようにと告げて、タバコを吸いながらトイレに行ってしまう。

 

 その間に私は手帳を開いて、難しい顔をしながら考える。

 

「あざみお姉さん、何かわかった?」

 

 コナン君が率直に尋ねてきたので、別に隠すこともないのではっきりと答える。

 

「状況を整理するから、少し待って」

 

 私は息を大きく吸い込んで両手を頬に当てて、目を閉じて静かに考える。

 

 オーナーは車に乗って崖下に転落した。

 自殺か他殺かは不明だけど、至近距離で目撃したので少なくとも人形ではない。

 それに車はガタガタ揺れても体は全く揺れなかったので、生きている人間ではなく死後硬直をしていた。

 

 コナン君たちはエアコンの痕跡を探していたが、見つからなかったとも聞いた。

 だったら常識的に考えれば真夏にあり得ないけど、暖房がかけられていたのかも知れない。

 

「車に乗っていたのは、確かに死んだオーナーだった。

 それに暖房がかかっていて、前方の布はそれを隠していた。

 うん、多分そう」

 

 取りあえず、オーナーを殺害したトリックはわかった。

 私は目を開けて静かに息を吐く。

 

「凄いね。あざみお姉さん。もう、そんなことまでわかっちゃうんだ」

「ほんま、平成のミス・マープルとは良く言ったものやで」

 

 二人が褒めてくれるが、これは念視で現れた影と車の位置を重ね合わせて、その場所に何があったかを推測したからだ。

 おかげで犯人が仕掛けたトリックを暴けたので、別に私の頭が特別良いわけではない。

 

「だが何のために暖房を? 今は真夏で夜も蒸し暑いんだぞ?

 つける意味がないだろ」

「アホやなおっさん」

 

 常識的な解答をした毛利さんに、呆れたように服部君が横槍を入れる。

 ちなみにコナン君も同じような顔をしているが、後ろに隠れているので位置的に見えない。

 

「姉ちゃん、続きはオレが説明してもええか?」

「そうですね。ここは服部君にお願いします」

「おう! 任されたで!」

 

 私は別に推理ショーをしたいわけではないので、やる気のある人に任せることにした。

 その後は服部君が暖房で死亡推定時刻を誤魔化し、さらにブレーキペダルに足を乗せたまま死後硬直させるトリックを説明する。

 

 時刻を割り出せないように崖下に転落して爆破し、死体を回収できなくすることまでだ。

 

「恐らくオーナーが殺害されたのは、昨日の昼間!」

「じゃあ、その時刻にアリバイのない人が!」

「ああ、間違いない! オーナーを殺害した犯人や!」

 

 そう堂々と言い切った服部君は、次にドヤ顔で私を見てくる。

 

「それで姉ちゃん! 一体誰が犯人なんや?

 オレも色々と考えを巡らせとるけど、まだ確証はなくてな!」

「私も誰が犯人かは、これから聞き込み調査をする予定なんだけど」

 

 私も全部わかるわけではない。

 候補はあっても、服部君と同じように確証はなかった。

 

 皆も自分に期待しているようだが、そんな目で見られても無理なものは無理だ。

 

 しかし今から聞き取りをするにしても、オーナーの部屋に行ってないととぼけられたら、それ以上は追求できない。

 容疑者で終わってしまう可能性があるし、本当に犯人でない場合もあった。

 

「うーん、決定的な証拠でもあればいいんだけど」

「せやなあ。昼間に出歩いてる奴が複数人おったら、証拠なしじゃお手上げや」

「証拠、……証拠かあ」

 

 一人だけなら考えるまでもないが、複数の場合はどちらが犯人かわからなくなってしまう。

 服部君とコナン君も頭を悩ませるけど、なかなか良い案は出てこない。

 

 だがここで蘭さんがそう言えばと呟き、アヤコさんの昼間の行動が変だったことを教えてくれた。

 

 色々聞いた私は、彼女はカンニングする気だったのではないかと呆れてしまう。

 

「そうか! 問題用紙!」

 

 ホームズの試験問題は、千問というとんでもない出題数だ。

 常識的に考えて、やることが多い犯罪トリックの準備をしながら、全ての問題を解くのは不可能と言える。

 

 単独行動をしている時間が長いとそれだけ疑われるし、皆で集まって問題を解くとカンニングされる恐れがある。

 どうしても解答できる場所は限られていた。

 

「決定的でなくても、犯人を示す証拠の一つにはなります!

 今すぐ、全員の問題用紙を回収しましょう!」

「よしきた!」

「うん、わかった!」

 

 私が大声で叫ぶのと、戸叶さんが扉を開けて入ってくるのは、ほぼ同時だった。

 彼は最初は困惑していたが、先程の話を聞くと、たちまち青い顔になる。

 

 そして私の目の前で両手をついて、頭を深々と下げた。

 全て自分がやったのだと犯罪の自白を始めるのだった。

 

 

 

 正直後半は事件解決までの展開が早すぎて、ある程度の事情を知っている人でないとついていけないと思う。

 しかし彼の白紙の問題用紙を証拠品として確保したら、確かにこれでは言い逃れはできないと察して、動機も納得はできたので一件落着になったのだった。

 

 

 

 ちなみに二人は、未記入だということはわかっていたらしい。

 やはり念視頼りの自分とは頭の出来が違うので、主人公と相棒は凄いなーと感心する。

 

 ただコナン君と服部君は、どうやら私を頼れるお姉さんと見ているようだ。

 私が全然気づかなかったと正直に告白すると、そんなはずはないし冗談が上手いと笑い返されてしまう。

 

 これはどうやっても信じてくれそうにないし、何だかんだで徹夜なのでさっさと布団に入って眠りたかった。

 なので別に無理に訂正しなくても良いかと、その場は流す。

 

 

 

 その後、服部君から面白いものを見せてくれるらしいので、首を傾げながら待ち合わせ場所に行くと、コナン君の正体が工藤新一であることを思いっきり暴露された。

 慌てて子供のフリをするが、全く聞く耳を持たない。

 

「あれ? 姉ちゃんは驚かへんのやな」

「そんな気はしてました。

 でもコナン君から言う気がないなら、黙っておいたほうが良いのかなと」

 

 服部君に捕まって困っていたコナン君も、揃って驚きの表情で私を見ている。

 

「流石は平成のミス・マープルだね!」

「せやな! 全部お見通しだったとは、逆にこっちが驚いたわ!」

 

 コナン君の反応で服部君の主張が正しいと認めているようなものだが、名探偵でもうっかりはするのだろう。

 

 なお、本当は申し訳程度の原作知識で知っていたからとは言えない。

 しかしやっぱり、平成のミス・マープルは過大評価だ。

 

 それはそれとして、コナン君の正体を知る人が二人増えた。

 

(ひょっとして私、もろに原作に巻き込まれない?

 あと、服部君ってこの事件でコナン君の正体を知るの? わっ、わからない!)

 

 気づいたときには、もう手遅れだった。

 原作についてはネタでしか知らないので、気に病んでも仕方ない。

 だが私が介入したことで、どのような影響が出るのかは未知数だ。

 

 もしぽっとでのキャラなら、以降は出てこないので本筋に問題はない。

 しかし二度あることは三度あると言うし、実際に何の因果かコナン君と再会してしまった。

 

 おまけに秘密を知ったことで必然的に関わることが決定したし、今さらなかったことにはできない。

 

 ぶっちゃけレギュラー出演は嫌だし、準レギュラーも御免被る。

 私としては、ただのモブとしてやり過ごしたかった。

 

 だが女子大生と探偵の二足の草鞋をしているので、ミステリー世界で完全にフェードアウトするのも難しそうだ。

 

(現状もっともマシなのが準レギュラーとか、これアカンやつだ)

 

 こっちの実家は東都近辺にあって、毛利探偵事務所と割と近い。

 下手をすればレギュラーキャラのように、頻繁に関わることになりそうなのだ。

 

 しかしあいにく私は、危険に飛び込みたくはない。

 無理なのはわかっているが、どうか何事も起きずに平和な大学生活を送れますようにと、切に願うのだった。

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