大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
コナン君と服部君と秘密を知る友人関係になってしばらく経つ。
相変わらず警察や各関係機関から、殺人や迷宮入りの解決が困難な事件ばかり依頼される。
そのせいで私は花の女子大生なのに、休日どころか外出時間もろくに取れない有様だ。
別に自分は探偵や警察ではなく、ただの一般人である。
いつまでも減らない仕事の山を見ていると、気が滅入るというものだ。
まあ、確かに依頼を受けたのは私である。
しかし予約待ちの有り様だし、引き受けている仕事を全て片付けるには、恐らく年単位の時間が必要になりそうだ。
これではもはや、ワーカホリックならぬ新手の拷問である。
まだ女子大生なのに、こんな若さで過労死など絶対に嫌だ。
そんな私が弱音というか愚痴を家族に漏らすと、何処で聞いたのか警察庁から人材が派遣されてきた。
彼女は護衛や監視や秘書や雑用係、ようするに何でも屋のようなものらしい。
名前は
見た目は私のように、都市伝説解体センターに登場するキャラにそっくりだった。
不審に思われないように探りを入れても、前世の記憶持ちだったりあっちの住人ではなさそうだった。
間違いなくコナン世界の
今までは殆ど一人で処理してきたし、多忙な時は家族が協力してくれていたが負担になっていた。
なので両親に対して申し訳ない気持ちもあったし、心の底から普通の生活を望んでいる私と、探偵の能力を頼りにしている各関係機関と折り合いをつけた結果だ。
ただジャスミンさんは警察庁のエリートだったけど、今は私の専属のような扱いである。
自分のせいで出世街道から外れたことについて尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「あざみーの助手のほうが、気楽でいいし。
警視庁は、どうも堅苦しくてさー。
あと、給料がいいんだわ」
全く気にしていない雰囲気で、軽口混じりで答えてくれた。
この発言が本心かはわからないけど、ジャスミンさんが納得して私の助手をしていることだけは理解する。
「だから、あざみーは気にしなくていいって。
調査は得意じゃないから、そっちは任せるけどねー」
そういうことになり、数年前から彼女が助手になっていた。
ようは都市伝説解体センターと同じように、運転手や護衛で頼りになるジャスミンさんだ。
それと歳が近い同性で明るい性格なので、気を使わずにフレンドリーに話せるのは、私としてもありがたかった。
だがそれはそれとして、当分の間は多忙なのは変わらない。
探偵として活動を続けるうちに、自室からは女の子らしさが消えて、作業効率高めの執務室っぽくなった。
今この場に居るのは私だけではなく、ジャスミンさんも一緒だ。
私が念視でチェックした資料をめくっている間に、携帯で何処かに連絡を取っていた。
しかしこのところ徹夜続きで、いつ暇になるのか全く見通しが立たない有り様だ。
依頼者はそれでも構わないと、藁にも縋る思いで頼み込んでくる。
私には助けを求めている人を、冷たく突き放すことはできない。
「あざみーって、大学卒業しても就職できなさそうだねー」
「ううー! やることが! やることが……多すぎる!」
「依頼がたくさんで、食いっぱぐれなくていいじゃん。羨ましー」
年単位で待つことになると、説明しても構わないらしい。
仕事の山は高くなるばかりだ。
「だったら! ジャスミンさんが代わってくださいよー!」
「いっ、いやほら、アタシは調査は専門外だしさー!」
半泣きになってジャスミンさんに愚痴っても、作業の進みが早くなるわけではない。
書類の山を崩して、一つずつ地道に片付けていくしかないのだ。
だからと言って仕事ばかりでも、気が滅入って鬱になってしまう。
「もう仕事が片付かなくてもいいやって、開き直ればいいんじゃね?」
「確かに、いつ終わるか全く目処が立たない仕事を、いちいち気に病んでも仕方ないですけど」
何年先になるかわからないのに、依頼は増えるばかりだ。
もう開き直って笑うしかない。
「それに大学を卒業すれば、探偵に本腰入れられるじゃん」
「私は別に、探偵が本業じゃないんですけど」
「じゃあ、あざみーは何になりたいの?」
「ええとー、……OLとか?」
別に具体的な将来の夢はない。
だがこの世界の探偵は危険と隣り合わせだし、なりたいとは思わない。
ジャスミンさんは苦笑気味な表情で通話を切り、こちらに近づいて自分の肩にポンと手を置く。
「定年を迎える前に、就職活動ができるといいな!」
就職への第一歩さえ踏み出せないとか、相当なヤバさだ。
だが確かに依頼が片付く目処が立たないし、来年も調査資料とにらめっこをしているのはほぼ確定と言える。
「はぁ、そうですね。ここはもう少し、長い目で見ます。探偵になる気はありませんけど」
「あざみーは意思が強いねー」
私はただ、怪我や死亡率が高い探偵にはなりたくないだけだ。
もっと安心安全な職場で、定年まで勤めるほうが精神衛生上良いに決まっている。
名探偵コナンの主人公やライバルキャラのように、躊躇うことなく危険に飛び込んで推理を披露する趣味はないのだ。
「今後は仕事ではなく、プライベートを優先します!」
「……と、言うと?」
二足の草鞋は続けるが、今後の優先順位は日常生活のほうを高くする。
依頼は心身に余裕があるときに片付けるのだ。
そして私はジャスミンさんに、普段なら決して受けないような仕事を引き受けることを堂々と告げた。
ついでに長らく機会がなかった旅行も一緒に楽しもうと、瀬戸内海の敷島に向かうのだった。