大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
伊豆の港まではジャスミンさんに車を運転してもらい、そこから船に乗って敷島を目指す。
役場の職員である木下五郎さんが乗客を前に、丁寧に説明してくれる。
「敷島には、三時間ほどで到着します。
講演会のためにわざわざこんな遠方までご足労いただき、本当にありがとうございます」
「いやー、本当に遠いっすねー!」
毛利さんたちも一緒なので、つくづく縁がある。
ちなみにこうなった原因は、私が期限ギリギリになって申込みをしたからだ。
その時点で既に出席者は決まっていたのだが、平成のミス・マープルを断るのが惜しくなり、かと言って一度承諾した毛利さんを断るのも申し訳ない。
なので急遽、私と毛利さんの同時講演に変更したというわけだ。
毛利さんは私やジャスミンさんを見て鼻の下を伸ばしているが、いつものことなので軽く流す。
「ねえねえ、あざみお姉さん。そっちのお姉さんは?」
「ああ、こちらはジャスミンさん。私の護え……ううん、助手かな」
「ちーっす。ジャスミンでーす。よろしくね」
あまりやる気が感じられないが、ジャスミンさんは基本こんな感じだ。
コナン君はそんな彼女を注意深く観察しているけど、私から言うことは特にない。
公安もしくは警察庁とズブズブの関係なのは秘密だし、本名もジャスミンさんが口にしなければ、多分そういうことだ。
「ねえ、木下さん。七年前に金塊を積んで行方不明になった船が、最近見つかったんでしょう?」
それはそれとして、コナン君は思い出したように木下さんに質問した。
「ええ、島じゃまるで幽霊船だって大騒ぎですよ」
「でも、金塊は見つからなかったんですよね」
「はい、今となっては積んであったかどうかも、怪しいもんですよ」
私は木下さんたちの話を聞いて、金塊と幽霊船騒ぎがあった島だと、たった今知った。
「ジャスミンさん、幽霊船のこと知ってました?」
「当然、全国ニュースにもなってただろ? あざみーは知らないの?」
「多分その頃、依頼が溜まり過ぎて休日がありませんでした」
「あー……どんまい」
当時のことを思い出してガックリと肩を落とす私に、ジャスミンさんが困った顔で励ます。
こっちでも別の意味で世間知らずだが、仕方のない事情があるのだ。
「船だけでも村興しの目玉になると、村長は喜んでおりますが」
幽霊船だけで村興しするわけではない。
有名人を島に招いて活性化させようとも考えているようだ。
私と毛利さんを講演のために呼んだのも、その一環らしい。
しかし名前が出たところで、東京の旅行会社の人が双眼鏡を落とす。
もちろんすぐに拾ったが、船内に引っ込んでしまう。
どうやら彼は幽霊船ツアーを企画したいと申し出て、島に呼ばれたらしい。
とにかく三時間ほど揺られ、私たちは敷島に到着する。
わざわざ横断幕を作ってくれていたようで、住民からは熱烈大歓迎であった。
「いやぁ、毛利先生! 長旅お疲れ様です!」
村長の三上武男さんが毛利さんを握手をし、にこやかな笑顔で歓迎の挨拶を行う。
「本当に有名なの? このダサいおじさんが」
しかし、そこで隣に居た幼女が横槍を入れた。
「名探偵って言うから、もっと渋いオジサマかと思ったのに」
「んだと! このガキ!」
「鈴! パパのお客さんに失礼だろ!」
キレた毛利さんだが、村長の関係者だと知ると態度を変える。
可愛いお嬢さんと呼び始めた。
「それでもう片方の、福来あざみ先生はどちらですかな?」
ここで私は初めて気づく。
自分は噂こそ広まっているが、個人情報は非公開なのだ。
(講演依頼って、自分の顔と名前が公表されるってことじゃ?)
私がしまったという表情で固まっていると、ジャスミンさんが呆れた顔になる。
「あざみーって、ちょくちょくうっかりやらかすよな」
「ジャスミンさん! 知ってたら止めてくださいよ!」
「いやー、てっきり顔出しOKに方針転換したのかと」
そんなわけないのだが、時すでに遅しである。
今さら依頼を断ることはできないので、私は冷や汗をかきながらも、おずおずと手を挙げる。
「貴女が福来あざみ先生ですか! お会いできて光栄です!」
「どっ、どうも」
引きつった笑みで村長と握手をすると、彼はさらに大きな声を出す。
「福来あざみ先生には、講演が終わったあとのインタビューも予定していますので、ぜひよろしくお願い致します!」
「はっ、はあ、善処します」
インタビューについて詳しく聞きたくはないが、大体想像はできる。
運が良くて新聞や雑誌で、悪ければテレビ局が乗り込んでくるだろう。
何しろ十年以上ぶりの顔出しと、さらには実名での講演を行うのだ。
今から気が重くなってくる。
ただ村長の娘さんとコナン君のやり取りは、少しだけ癒やされた。
その後、旅行会社の人が前に出て、村長に幽霊船に案内してくれと申し出る。
成り行きで私たちも付いて行くことになったが、何年も海を彷徨っていたのに、船底しかフジツボがついていないのが少し気になった。
だが今回の依頼は講演なので、推理する予定はない。
なお毛利探偵とコナン君と蘭さんと一緒だから、何かしらの事件や事故が高確率で起きそうなのが怖いところだ。
しかし仕事中に宿泊する旅館に移動しての食事は、新鮮な海の幸が豊富でかなり美味しい。
講演会やそのあとのことを考えなければ、羽根を伸ばしに来て良かったと言えるだろう。
ちなみに村長さんから、毛利さんと一緒に金塊探しをお願いされた。
私はどうしたものかと思案し、見つかる保証はできないことと、大学が休みの間ならと承諾する。
いくらプライベート優先の方針に切り替えたとはいえ、家に帰っても待っているのは山積みの書類だ。
それより先に大学の課題も片付けないといけないし、考えれば考えるほど気が滅入ってくる。
なのでこの際、全部忘れてリゾート気分を満喫するのも良いかと考えた。
宝探しもちょっと面白そうだし、現実に見つかるかどうかはさて置き、息抜きにはなりそうだ。
その後、山下さんから七年前に何があったのかを教えてもらい、私はいつも通り手帳に細かくメモするのだった。