大学生探偵福来あざみ   作:あざジャス派の猫

13 / 29
幽霊船殺人事件3

 次の日になり、朝は毛利さんと一緒に講演会を行う。

 島の公民館にはパイプ椅子があるだけ並べられていたが、大勢の人が詰めかけて立ち見も許可せざるをえないほど、大変賑わっていた。

 

 さらに外から来たと思われる雑誌や新聞記者、テレビ関係者まで勢揃いしているようで、本番前にカメラの配置や打ち合わせを熱心にしている。

 

 村長さんとしては大成功だろうが、私的には始まる前からうへえという感じである。

 

 成り行きで推理をしたときは、人前で喋る機会は何度もあった。

 だがそれは犯人逮捕や真実の究明のためで、自分から講演をしたことは一度もない。

 

 けれどジャスミンさんに励まされ、あらかじめ手帳にまとめておいた項目を一つずつ目を通していく。

 

 そして講演の順番だが、一番は毛利さんだった。

 しかし、あいにく昨晩お酒を飲みすぎたので、まずは酔いを覚まさないといけない。

 

 なので予定を変更して、先に私が舞台に立つ。

 

「では! 福来先生のご来訪を記念して! くす玉を割っていただきましょう!

 どうぞ! 福来先生!」

 

 山下さんがマイクで指示を出したので、私はくす玉に手を伸ばそうとした。

 だが途中であることに気づいて、冷や汗をかきながら手を引っ込める。

 

 続いて舞台の中央ではなく、コナン君たちの居る端に戻っていく。

 

「あの? どうしました? 福来先生?」

 

 どう考えてもおかしな行動だったからか、山下さんが戸惑う。

 そして集まった大勢の人たちもざわつき始めたので、私は大きな声で説明する。

 

「全員! くす玉に近づかないでください! ガソリンの匂いがします!

 恐らく紐を引っ張ると着火して爆発し、落ちてくる仕掛けです!」

「なっ、なんですと!?」

 

 ガソリンの匂いがして、さらに水滴が滴り落ちてきていた。

 さらにゲン担ぎで眼鏡もしていたので誰かの影らしきモノが見えて、不自然さに気づくことができた。

 

 ただもし酔っ払った毛利さんが先に公演していたら、間違いなく引っかかっていただろう。

 

 そして私の警告を聞いた山下さんだけでなく、集まった人たちも大騒ぎになる。

 中には水軍様の祟りとか言い出したり、とても収拾がつきそうにない。

 

 村長さんも皆を落ち着かせようとしているが、話を聞いてくれなかった。

 仕方ないので私は山下さんからマイクを借りて、大声で叫ぶ。

 

「皆さん! 落ち着いて聞いてください!

 これは何者かが仕掛けた罠で、犯人は人間です!

 祟りや怪異ではありません!」

 

 私の説明で納得してくれるかわからない。

 だがこんなあからさまな罠を、怪物が仕掛けるはずがなかった。

 

「にっ、人間なのか? だが鎧武者の姿を見た奴もいるぞ!」

「それに水軍の洞窟からは、唸り声が聞こえてくる!」

「やはり祟り以外、考えられない!」

 

 駄目だ。全く話を聞いてくれない。

 困った私を見かねたのかはわからないが、村長の娘さんが怒った顔をしながらズンズン歩いてくる。

 

「馬鹿ね! そんなの全部、迷信に決まってるじゃない!

 この人は、平成のミス・マープルって呼ばれてるのよ!

 くす玉のトリックにもすぐ気づいたし、洞窟の祟りも解明してくれるわよ!

 ねっ! そうでしょう!」

 

 鈴ちゃんは凄いキラキラした目で、私を見つめてくる。

 自分としては、水軍の洞窟や鎧武者は全く知らないので、何それ知らん……こわっであった。

 

 だがそれでも、子供の期待を裏切ることはできない。

 条件反射で作り笑顔を浮かべてしまう。

 

「調査してみないと何も言えません。

 ですが、今の段階で祟りと断言するのは、早計です」

「じゃあ!」

「ええ、真実を解き明かしましょう」

 

 私はしゃがんで、鈴ちゃんと目線を合わせる。

 そして安心させるように微笑みかけて、彼女の頭を優しく撫でた。

 

「あざみー、そういうとこだぞ」

「そういうとこって、何ですか! ジャスミンさん!」

 

 ジャスミンさんは、心底呆れた顔をして溜息を吐いた。

 鈴ちゃんは頬を染めてウルウルしているが、周りの大人たちがあまり良い感情を持っていないのだ。

 

 そんな状況で、子供を孤立させるのは不味い。

 

 だから私だけでも味方だと口に出して守ろうとしたのに、この仕打ちである。

 別に彼女の好感度を稼ごうとしたわけでは、断じてない。

 

 私はそのことを懇切丁寧に説明したが、ちゃんと理解したかは不明だ。

 

 その後、鈴ちゃんは将来は島を出て探偵の助手になると言い出した。

 何を目指そうと自由だし応援するけど、自分は別に将来探偵になる気はないので、別の事務所に就職してもらいたい。

 

 せっかくなので同じ有名人ということで、すぐ隣で酔っ払っている毛利さんの探偵事務所を勧めると、鈴ちゃんは露骨に嫌な顔をするのだった。

 

 

 

 結局講演会は中止になり、くす玉も警察を呼んで解体作業を行う。

 予想通り、内部には発火装置が入っていて、紐を引っ張ったら着火して爆発する仕組みのようだ。

 

 しかし村長さんはこれを事故として処理しようとしたので、呆れて物が言えない。

 どうやら外に連絡して大事にしたくないらしく、私と毛利さんには黙って金塊探しをすれば良いと言って立ち去ってしまう。

 

「報道陣が詰めかけて証拠写真や映像も撮られまくってたのに、事故で済ますのは無理だろ」

「大事にしたくない気持ちは、わからなくもないけど。私もそう思う」

 

 コナン君たちもウンウンと同意しているので、今回の件は遅かれ早かれ事件として処理されるだろう。

 

 だがそれはそれとして、村長さんに逆らって島に閉じ込められるのは困る。

 

 それに鈴ちゃんとも約束をしてしまったし、十億円の金塊とは関係なく、洞窟の調査は行うつもりだ。

 

 なお山下さんが私たちのことを気遣い、連絡船ではなく小さい漁船で本土に帰してくれるらしいが、今すぐではない。

 毛利さんも天下の名探偵として、金塊を見つけるつもりのようだ。

 

 

 

 取りあえず私は一旦自室に戻って、情報を整理するために手帳を開く。

 

 何故かコナン君も一緒で、布団も敷いてある。

 これはあざみお姉さんから推理や探偵の話を聞きたいと、外出許可を取った結果だ。

 

 何も知らない蘭さんが申し訳なさそうに頭を下げるので、気にしなくて良いと微笑みながら返事をしたが、逆にこっちのほうが罪悪感を抱いてしまう。

 

 なお私はジャスミンと相部屋なので、工藤新一ではなくコナン君として会話をしないといけない。

 それが少し面倒だが、重大な秘密を知る人を増やすわけにはいかなかった。

 

 とにかく私は手帳に重要そうな島民と情報を書き込んでいき、落ち着いて状況を整理していく。

 

「よし、今回の事件について考えてみよう」

 

 村長さんは事故として処理しようとしたが、アレは間違いなく事件だ。

 内部にはガソリンと発火装置が組み込まれていたので、危害を加えるのが目的だったのは明らかである。

 

 そうなると誰が何の目的で仕組んだのかとなるが、犯人と動機は想像がつく。

 私は順序立てて推理しながら、はっきりと口に出していく。

 

「灯台守の浜田幸二(はまだこうじ)さんが、金塊探しを止めさせるために、くす玉に爆破装置を仕掛けた。

 ……うん、きっとそう」

 

 まだ証拠品は見つかっていないが、今のところ一番有力だ。

 コナン君も同意してくれるようで、無言でウンウン頷いている。

 

 だがジャスミンさんは納得できないのか、はてと首を傾げていた。

 

「金塊探しを止めさせるために、罠を仕掛けたのはわかるけどさ。

 浜田幸二(はまだこうじ)さんは、どうして容疑者候補に?

 怪しい奴なら他にも、えーと、旅行会社のアイツもいるじゃん」

上原康夫(うえはらやすお)さん?」

「そう、そいつ」

 

 ジャスミンさんは本当に捜査は苦手なようだ。

 まあ私も手帳にメモしないと人物名や状況を把握しきれないので、ちょっとはマシ程度だろう。

 

 とにかく彼女の疑問はもっともなので、その辺りについて説明をしていく。

 

「まだ確実な証拠は見つかってないけど。

 公演が始まる直前に、人目を避けるように公民館の裏口から出てきたからね」

「なるほど、状況証拠を考えると、確かに一番怪しいな」

 

 あとは量が減ったガソリンの容器が見つかれば、浜田幸二(はまだこうじ)さんでほぼ確定になる。

 

「それにコナン君が山下さんから聞き出した情報では、浜田(はまだ)さんが島に来たのは七年前らしいね」

「おい、七年前って言えば確か」

「うん、竜王丸が行方不明になった頃だよ。

 それからしばらくして、浜田(はまだ)さんが島を訪れて灯台守になったんだ」

 

 私の発言にコナン君が補足すると、ジャスミンさんはおいおいマジかよという表情に変わる。

 

 まだ確証はなくても、浜田(はまだ)さんが容疑者の可能性が高まった。

 

「多分、証拠が残っているなら灯台かな。

 それと、浜田(はまだ)さんから話を聞かないと」

「どうする? 今から踏み込むか?」

 

 ジャスミンさんから普段の適当な雰囲気が消えて、真面目な顔つきになっている。

 そこに、さらにコナン君が主張した。

 

「急がないと、証拠が消されちゃう!」

 

 コナン君は今すぐ行きたいようだ。

 

 確かに犯罪の証拠をいつまでも保管しておくのは、とても危険だ。

 それでも灯台まで踏み込んでくる者は稀だから、まだ処分はしていないと思いたい。

 けれど絶対に残っている保証はなく、時間が経つごとに消される可能性が高まっていく。

 

 それはそれとして、ジャスミンさんはコナン君のことが気に入ったようだ。

 情報収集能力や頭の回転の速さなどで、見込みありと判断したのだろう。

 

「お前、将来は刑事なんてどうだ? 結構向いてると思うぞ」

「えへへー、そっそうかなー?」

 

 そこは探偵を勧めるんじゃないのかと思ったが、ジャスミンさんの派遣元はアレだからなと思い直す。

 まあ私にとってはどうでも良いことだし、コナン君の将来は今さら聞くまでもない。

 

「それともアタシのように、あざみーの助手になるか?」

「あざみお姉さんの助手かー。それもいいかなー」

「もう! ジャスミンさん! こんなときに冗談を言わないでよ!

 それにコナン君も、あんまり本気にしちゃ駄目だからね!」

 

 今は容疑者である浜田(はまだ)さんを見つけて、話を聞くことが重要だ。

 他にも証拠品を探したりと、急いで済ませなければいけないことが、たくさんある。

 

「まっ、そういうことで、お前は旅館で待機な。

 危ないし、子供が夜遅くに出歩いちゃ駄目だぞ」

「えー! ボクも行くー! 一緒に行きたいー!」

「駄目ったら駄目だ。子供はもう寝る時間だぞ」

 

 コナン君は私たちと行動したがっているが、ジャスミンさんは断固拒否する。

 理屈はわかるし、普通に考えれば子供を連れて行っても足手まといだ。

 何よりすんなり話がつけばいいが、場合によっては荒事になるだろう。

 

 そんな場所に子供を連れて行くなど、常識的に考えてあり得ない。

 もし何かあれば保護者に申し訳が立たないし、良心的にも置いていったほうがいい。

 

 なのでコナン君も、ジャスミンさんの主張は理解できるようだ。

 しばらく言い合ったが、最後には渋々ながら引き下がってくれた。

 

(でもコナン君が、このまま諦めるとは思えないし)

 

 多分、私たちが出発したあとに、こっそり跡をつけるつもりだ。

 本来ならそのことを改めて釘を刺すべきだが、彼が体は子供でも頭脳は大人なのは知っている。

 

 なので結局、こっそり勝手についてくるのだろう。

 

(私が何を言っても、コナン君は聞かないだろうなあ)

 

 そして原作では、私はこの場に居ない。

 一人で旅館を抜け出して、灯台に乗り込みそうだ。

 

 そう考えると今回は大人の同行者がいて、一般人の私はともかくジャスミンさんは荒事では頼りになるので、多少は安全と言えなくもない。

 

 ここは彼の自由に行動させたほうが、結果的には上手くいくかも知れない。

 

 とにかくここで考え込んでいる時間はないので、私とジャスミンさんは出かける準備を手早く済ませ、他の人に気づかれないよう、気をつけて旅館から抜け出すのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。