大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
私とジャスミンさんは旅館をこっそり抜け出して、敷島の灯台に向かった。
コナン君は子供なので置いてきたが、どうせこっそり尾行してるだろうし考えないことにする。
夜中の外出以外は、別に後ろめたい行為ではない。
ただ島民に見つかると言い訳が面倒なので人目を避けて移動し、やがて集落を抜けて森に入ってしばらく歩く。
やがて目的地のすぐ近くまで来ると、灯台は夜の闇の中でも明るい光を放っている。
最上階に人影が見えたが、まだ遠いので良くわからない。
普通に考えて、恐らく浜田さんだろう。
話を聞くには都合が良い。
そのまま並んで歩いて近づいていくと、灯台の入口の扉がガチャリと開く。
だが、現れたのは意外な人物だった。
「上原さん? 何で灯台に?」
「それはこっちの台詞だ。君たちこそ、どうして」
私たちと上原さんとは、友好的な関係とは言い難い。
こんな時間に人里離れた灯台の前でバッタリ会ったのだ。
互いに油断せずに距離を取りつつ、表面上は穏やかな雰囲気で会話を続ける。
「浜田さんに少し話が聞きたくて」
「俺も似たような理由だ。
だがあいにく、浜田の奴は留守だぜ。
全く、こんな夜中に何処にいったのやら」
彼はやれやれと肩をすくめ、残念そうな顔で私たちの横を通り抜ける。
そのまま集落のほうに歩いて行った。
心の準備をしていなかったので、少々肝が冷えたが何も起きなくて良かった。
そう胸をなでおろし、彼が十分に離れたことを確認して、緊張を緩めて大きく息を吐く。
するとそのとき、近くの茂みが微かに揺れた。
ジャスミンさんが素早く反応して、無言で両手を突っ込んだ。
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
「全く、油断も隙もないな。このガキンチョ共は」
茂みから引っ張り出されたのは、コナン君と鈴ちゃんだった。
「あざみー、このガキンチョたちはどうする?」
「今は夜中で、灯台は人里から離れてます。別行動は危険ですね」
「了解ー。んじゃ二人共、離れるんじゃないぞ」
ジャスミンさんはにっこりと笑ったが、どう見ても作り笑顔だ。
彼女が内心では凄く怒ってることに気づいたのか、コナン君たちは震えながら何度も、コクコクと頷いたのだった。
浜田さんが不在だからといって、私たちは引き返す気はない。
そのまま灯台の中に入って一通り探索すると、興味深い物がいくつか見つかる。
一つは空っぽに近いガソリン容器で、くす玉の仕掛けに使われた証拠品で間違いはなさそうだ。
そしてもう一つが竜王丸と彫られた望遠鏡で、海ではなく山の洞窟に固定されていた。
七年前の幽霊船と、しばらくして敷島にやって来た浜田さんが、どういう理由でコレを所有し、洞窟を四六時中監視していたのかがわかってくる。
だがそこまで推理したとき、毛利さんと蘭さんに危機が迫っていることに気づいた。
コナン君も同じだったようで、慌てて踵を返して灯台の階段を駆け下りていく。
「急にどうしたの! あざみー! ガキンチョ!」
「毛利さんと蘭さんが危ないんです! 浜田さんが不在な理由は、もしかしたら!」
「ああ! そういうことか! でもあざみー! 絶対途中でバテるだろ!」
「そっ、それはそうかも知れないけど!」
私は別に非力ではなく、女子大生としての平均かそれより少し低い程度の運動能力だ。
しかし蘭さんのように格闘技はやってないし、暴漢を一撃でノックアウトできない。
ついでに筋トレもしていないので、長距離を走り切るだけの体力はない。
体格的にはコナン君に勝っていても、持久力ではボロ負けという良いとこなしだ。
けれど、危機が迫っているのに放ってはおけない。
急がないわけにはいかず、とにかく焦っていた。
「ああもう! アタシが一足先に行って様子を見てくる!」
「お願いします! ジャスミンさん!」
「あざみーから離れて単独行動なんて! 本末転倒だよ! 全く!」
ジャスミンさんにお願いすると、彼女は若干イラつきながらも毛利さんたちを助けに行ってくれた。
私だけでなく、コナン君よりも遥かに速いスピードで駆ける。
みるみる距離が開いていった。
「あざみお姉さん! ボクも先に行くね!」
「どっ、どうぞ!」
コナン君ともぐんぐん距離が開いていき、私は早くも息切れしてきた。
ペース配分を考えずに、いきなり全力疾走するものでないと反省する。
なお鈴ちゃんは、そんな自分を心配そうに見上げつつも、元気いっぱいに並走していたのだった。
私はすぐに速度が落ちて後半は殆ど歩きで、旅館に帰って来る頃には日が昇りかけていた。
自分の体力のなさが悲しくなってくる。
それはともかく、ジャスミンさんは旅館の入口で出迎えてくれた。
彼女はスポーツドリンクを両手に持っていて、苦笑気味に差し出してくる。
「お疲れあざみー。それにガキンチョもな」
「あっ、ありがとう。ジャスミンさん」
「別に大したことじゃないけど、ありがと」
お礼を言ってスポーツドリンクの缶を受け取り、タブを開けて乾いた喉を潤す。
本当にマラソンなんて久しぶりすぎて、全身ガクブルで息も絶え絶えだ。
これは明日は筋肉痛だなと思いつつ、水分補給して一息ついたところで、ジャスミンさんに毛利さんたちの安否を尋ねる。
「一応説明はしてもいいけど、見たほうが早いぞ」
そう言って、私に合わせてゆっくりペースで案内してくれる。
道中で毛利さんたちの身に何が起きたかを、ジャスミンさんが簡単に説明してくれた。
何でも毛利探偵は鎧武者に襲われて、追いかけて捕まえようと港まで行ったら、逆に襲われて気絶させられてしまう。
それが彼の主張だが、島民は違うようだ。
何故なら鎧を着た浜田さんは、刀で喉元を刺されて殺されていた。
一番近くに居たのが気を失った毛利さんだったので、犯人に違いないと完全に決めつけている。
「いやもう凄い騒ぎで、全然収拾つかないんだわ。
あざみー、何とかしてよ」
「そんなの私に言われても、収拾できる気がしないんだけど」
島民の怒りの感情を打ち消すのは難しいし、部外者の私に頼られても困ってしまう。
説明を終えて港に到着すると、確かに凄い騒ぎだ。
幽霊船が保管されている巨大な倉庫の前は人集りができていて、島民は口々に毛利さんを責め立てている。
村長さんも庇う気はなく、完全に犯人だと思っているようだ。
さらには祟りだ何だとざわついて、報道関係者も降って湧いた特ダネを手に入れようと躍起になり、時間が経つごとに状況は悪化するばかりだった。
「あっ! あざみお姉さん! 大変だよ!」
「大体の事情は、ジャスミンさんから聞きました」
コナン君の大声で、島民たちの視線が私に集まる。
ついでに取材陣も早起きなのか、カメラやマイクも一斉に向けられた。
私はそれらを無視して、駐在さんを探して声をかける。
「すみませんが、少し調べさせてもらっていいですか?」
「ええと、失礼ですが貴方は?」
「私は福来あざみと言います。一応、探偵のようことを──」
「福来あざみさんですか!? どどどどうぞ! 好きなだけお調べください!」
私の名前を出すと、駐在さんの態度が急変する。
さらに集まっていた島民たちも、モーゼのように二つに割れた。
ジャスミンさんとコナン君と鈴さんと自分、さらに蘭さんは、その道を通って拘束されている毛利さんに近づいていく。
「福来さん! 俺じゃない! 俺じゃないんだぁ!」
「ええ、わかってますよ。毛利さんは殺っていない。
それを証明するために、今から調査します。
申し訳ありませんが、少しだけ我慢をお願いします」
毛利さんが命を狙われていることはわかっていたが、それは浜田さんにだ。
しかし港に戻ったら、彼は殺されていた。
おまけに探偵さんが濡れ衣まで着せられているので、正直わけがわからない。
(真犯人は別にいるのは確かだけど、一体誰が?)
今後の調査で明らかになれば良いけどと考えながら、倉庫の中を調査する。
まずは、殺害された浜田さんの体からだ。
鎧を着た彼は喉元に刀が刺さり、壁に打ちつけられていた。
流石に子供を死体に近づけるわけにはいかないので、毛利さんの近くで待機してもらいつつ、肩書だけは大学生探偵の自分が注意深く調べていく。
「致命傷は、刀の刺し傷で間違いないね。
袖が破れている? それに縛られた痕がある」
ただ殺されたにしては妙だ。
疑問に思って袖をめくると、腕には無数の切り傷が残っていた。
「傷が新しい。殺される前に、拷問でもされた?」
一旦、浜田さんの死体から離れて眼鏡をかける。
念視で再び見直すと、確かに全身黒ずくめの人間が、彼の前で何かをしていた。
息をしていないので死んでいるのは間違いないが、それにしては血が殆ど流れていない。
私は状況を整理するために両手で頬を軽く押さえて、静かに深呼吸をする。
「浜田さんの腕には、無数の切り傷があった。
普通の怪我なら、そうはならない。
袖も奥までは破れてないし、明らかに不自然」
頭の中で推理を組み立てながら、私はそれを口に出していく。
「浜田さんは、別の場所で拷問されて、そこで殺された。
うん、きっとそう」
さらに毛利さんに罪を着せるために、首を貫いて壁に打ちつけたのだ。
「けど鎧を着た人間を移動させるのは、かなりの重労働だから──」
きっとこの近くで殺されたのだ。
眼鏡をかけたまま周囲を見回すと、竜王丸の船室に薄っすらと影が見えた。
「きっとあそこかな」
竜王丸に乗り込んで船室内を調べると、犯人らしき影の近くに血の跡がくっきり残っていた。
しかも完全に乾いていたので、少なくとも死後三、四時間以上は経過している。
「間違いない。浜田さんは、ここで殺されたんだ」
拷問の時間も含めると、浜田さんはかなり前にここに来ていたのは間違いない。
「真犯人に関しては、まだわからないけど。
それでも、毛利さんの無実は証明できるはず」
船室から出た私は、そのことを集まっている島民に説明した。
そして浜田さんが龍神丸の乗組員の可能性が高いことと、島に来た探偵に金塊を探し出されるのを恐れて、くす玉の仕掛けで殺そうとしたこともだ。
さらにもう一人、上原さんも金塊の在処を探っている。
浜田さんを殺したかはまだわからないが、重要人物であるのは確かなのだった。