大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
<ジャスミン>
だが今はジャスミンに名を変えて、福来あざみの助手をしているのだから、人生とはわからないものだ。
数年前に何があったかを説明すると、長くなるので簡潔にまとめさせてもらう。
まずキッカケになったのは銀座の事件で、来日していたルパン一味が、謎の忍者集団に襲撃された。
狙いは斬鉄剣だ。
そして福来あざみが、日本警察からこの件の調査を依頼される。
彼女は他にも多くの仕事を抱えていたけれど、流石に銀座で武装組織が大暴れした事件を放っておくことはできなかった。
平成のミス・マープルは伊達ではない。
彼らの狙いは斬鉄剣と龍の置物と巻物。他にも香港マフィアのドンの
流石に情報量が多すぎてあっという間とはいかないし、学校の課題が犠牲になって泣きながら補習を受けることになったが、それはそれだ。
以降は警察も本腰を入れて、忍者集団の逮捕に乗り出す。
公表はされていないが、裏では福来あざみが助言をしていた。
彼女は極力人が死なずに怪我もさせない作戦を立案し、香港マフィアや忍者集団を追い詰めていく。
だがそれだけでは終わらず、これ幸いとルパン一味も便乗して大暴れする。
ダメ押しとばかりにインターポールの銭形警部も参戦してきたので、非常に混沌となってしまう。
もうどう足掻いても収拾はつかないと思われたが、世界を揺るがす大事件を終わらせたのも、福来あざみだった。
彼女は関わった以上は最後まで責任を取る方針なのか、
彼らが大暴れして敵の気を引いている隙に、各国の諜報や警察組織が密かに乗り込んで武器製造基地の各所に爆弾を仕掛ける。
その後、タイミングを見計らって一斉に起爆した。
なお、この程度でルパン一味が死ぬはずがない。
逆に爆破騒ぎに乗じて毒ガス室から脱出し、スタコラサッサと逃げ出した。
しかし武器製造基地を破壊しても、
武器も爆弾も通じない巨大爆撃機は既に完成しており、ギリギリで間に合わずにアメリカのニューヨークに向けて飛び立ってしまった。
太平洋艦隊が迎え撃ったが、特殊合金の装甲は傷一つつかない。
ミサイルは全く効いていないのだ。
だが福来あざみは、さらなる攻撃を指示する。
アメリカ軍は困惑するが、相手は平成のミス・マープルと呼ばれる程の名探偵だ。
何か考えがあるのだと信じて、絶え間なくミサイルや大砲で攻撃をし続けると、やがて合金ステルス爆撃機は姿勢を保てなくなる。
機体は無傷でも明らかに失速し、エンジンから火を吹きながら、真っ逆さまに海に落下していく。
この理由を福来あざみに尋ねると、ミサイルや大砲で傷一つつかなくても、あれだけ直撃すれば機体は揺さぶられて、乗っている人間はとても耐えられない。
さらに空を飛ぶのは、本来とても難しい。
ほんの少し機体が揺れるだけで、そのまま墜落する可能性もあるし、装甲以外は従来品を使用している。
特にコンピュータなどの精密機器は特殊合金ではないので、熱や衝撃に弱いのは当たり前だ。
そういうことで、ミキサーのように揺さぶられて爆撃機は落ちるべくして落ちる。
量産されていたら話は変わってくるが、一機だけなら何とでもなるのだ。
だがもしあのまま無策で挑めば、下手をしたら太平洋艦隊が全滅していた可能性もあった。
敵がこちらを見下し、油断しているうちに集中攻撃できたからこそ、犠牲もなく無傷で勝利できたのだ。
考えてみると簡単な理屈ではあるが、それを実行できる者は非常に少ない。
味方に説明しているうちに、敵が本気で殺しにかかる可能性のほうが高かった。
とにかく世界的な名探偵、福来あざみだからこそ説明の時間を省いても、効果がない攻撃を続けられたのだ。
なおその後、身柄や爆撃機を米軍が確保する前に、落下中の爆撃機を石川五ェ門が斬鉄剣で真っ二つにした。
おかげで合金や製法は海の藻屑だ。
不幸中の幸いで乗っていた人たちは救助されたが、二度と陽の光を浴びることはないだろう。
だが中には例外もあり、アタシは条件付きで日本に帰される。
そして桔梗という過去を捨てて、新しく
どんな裏取引があったのかは、詳しくは知らない。
ただ他の仲間も日本に送還され、公安や警察の裏の仕事をしているようだ。
条件を飲まなければ刑が執行されて殺されるか、死ぬまであっちの収容所に囚われたままなので、アタシたちに選択の余地などなかった。
だがそれらの理由について、少しだけなら教えてもらえた。
それは福来あざみが、私たちの助命を願ったからだ。
本当に、お人好しにもほどある。
もちろん無罪放免とはいかないし、たとえ釈放されても一生首輪をつけられて監視されるだろう。
それでも日の当たらない裏稼業で悪事を働いたアタシが、今は命を救ってくれた恩人を守るために、陽のあたる場所に居る。
忍の里に居た頃とは生活環境が激変して戸惑うことも多いが、悪くはないと思っていた。
他の仲間とも、監視付きだがたまに連絡を取る。
彼らも今の生活は悪くは思ってはいないようで、散々悪事に手を染めたのに国や民を守るための正義の味方に生まれ変わったのだと、笑いながら話していた。
それはアタシも同じ気持ちで、まさかこんな日が来るとは思わなかった。
いくら金に目が眩んで判断を誤ったとはいえ、もう間違えたくはないものだ。
こんなろくでなしの自分の命を救ってくれた福来あざみを、裏切りたくはなかった。
もしそんなことをしたらアタシは、今度こそ人間以下の外道になってしまう。
家族や友人だけでなく、地獄から救い出してくれた命の恩人さえ手にかけてしまうのだ。
そんな彼女は、世界を守るために探偵をしている。
平成のミス・マープルなんて呼ばれてるくせに、実際には臆病で非力ですぐに泣き出す弱虫だ。
でも困っているアタシを放っておけず、こうして助けてくれた。
桔梗は死んだことになったが、名前と顔を変えて何処かで生きていることは伝えられているようだ。
あざみーはたまに遠くを見ながら、仲間やアタシが元気でやってるといいなーと呟くので、目の前に居ることを伝えたくて堪らなくなる。
しかし、ジャスミンとしての関係も悪くはない。
けれど、もし正体がバレたらアタシは姿を消さなければいけない。
逆に言えば突然消えても困らないからこそ、彼女の護衛に選抜されたとも言える。
いわば使い捨ての便利な駒で、身体能力が高い女性なのも選ばれる基準になっていた。
体内に爆弾を埋め込まれるのは困ったが、闇に葬るよりも潰れるまで利用しようと、日本の上層部はそうは判断したのだろう。
だがおかげでアタシは福来あざみの助手になり、毎日充実している。
底抜けのお人好しで目が離せない、可愛い妹ができたような感じだ。
最初は仕事と割り切って演技をしていたが、今では
こういうのを光落ちというのか、いつも明るくて優しいあざみーに感化されたようだ。
けれど不快ではなく、むしろ喜ばしい変化と言える。
だがそのせいで過去の過ちにも気づき、特にルパン一味の石川五ェ門には、心底申し訳ないことをしたと後悔の念に苛まれる。
しかし、ジャスミンとして謝罪することはできない。
それに手紙を出すにしても、桔梗が生きている証拠は残すわけにはいかなかった。
なので、もし再び会うことがあったらどうしようかと、二度と会わないかもしれないのに頭を悩ませてしまう。
これも年頃の女性らしい普通の生活を送るようになって、心身に余裕ができるぐらい満ち足りている証拠だろう。
しかし幼い頃に兄のように慕い、恋心を抱いた相手である。
あの時は罠にかけて敵対したとはいえ、その気持ちは嘘ではない。
だが今となっては簡単に会える身分ではないし、もしかしたら一生会わずに終わるかも知れず、なので石川五ェ門については心底辛いが今生の別れだと割り切っている。
桔梗が死んで
ちなみに現在は福来家の個室を借りて、あざみーの隣室はアタシが寝起きする部屋になっている。
山奥の忍の里と違って快適そのものだし、彼女の両親も自分のことを家族の一員のように迎え入れてくれた。
身分は偽造で、両手は血で汚れた存在しない人間なんかを、心の底から信じているのだ。
あざみーもアタシを親しい友人として接しているし、本当に前の人生と180度違う。
そしてアタシにとっては彼女は守るべき存在だが、それはあくまで仕事上の役割だ。
自分は心の底からあざみーを失いたくないと、そう思っていた。
そこにどのような感情が含まれているのかは、アタシにも良くわかっていない。
ただ普段はのほほんとして何処か抜けているあざみーだが、時々妙に格好良く見えることがある。
あざみーは同性だし可愛い妹のような存在だし、仕事上の護衛対象だ。
何と言うか庇護欲の塊で、是が非でも守護らねばと目が離せないのだった。