大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
夕焼け空の4月19日、私はジャスミンさんと一緒にクイーンエリザベス号に乗り込むことになった。
船内では鈴木財閥60周年記念船上パーティーが開かれて、各界著名人が大勢集まっていた。
もしこれで怪盗キッドを捕まえられなければ警察の沽券に関わるため、なおさら中止にはできない。
なかなか大変そうだが、それはそれとして
ブラックスターの偽物を大量に作り、五百人以上の招待客の胸につけさせたからだ。
どれか一つだけが本物とのことだが、知っているのは彼女だけだ。
盗れるものなら盗ってみなさいと、逆にキッドに挑戦状を叩きつけた。
「そう言えば綾子先輩は? 船内に居るはずなのに、見かけないんだけど?」
「おかしいわねー。姉貴は何処に居るのかしら?
ちょっと電話して確認してみるわ」
園子さんが携帯のボタンを押して電話すると、綾子先輩はすぐに出た。
そして、まだ鈴木家の豪邸にいることが明らかになる。
何でも出港が二時間遅れると警視さんから言われたようで、
ならば先程、会場で話していた会長は偽物で、怪盗キッドが演じていたことになる。
そして船も出港してしまったので、少なくとも三時間は誰も外には逃げられないのだった。
その後、いつまでも怪盗キッドが現れないので、私は普通にパーティーを楽しむことにする。
ちなみに毛利さんが
「んー、アタシにはどれが本物かわからないなー。あざみーはどうだ?」
「ちょっと待って、少し考えてみる」
ジャスミンさんの質問に私は大きく息を吸い、気持ちを落ち着けて考える。
まず思いつくのが、ブラックスターは宝石の黒真珠だということだ。
一般的な鉱石とは大きく異なる、アコヤ貝が作り出す生体鉱物で、鈴木家に代々大切にされていて、恐らく最低でも60年程は経っている。
取り扱いに気をつけないと光沢が失われるため、素手で触れるのは厳禁だ。
真珠に関する基本的な知識と、先程のヒントを組み合わせる。
私はジャスミンさんだけに聞こえるように顔を近づけて、小声で話しかけた。
「
うん、きっとそう」
「……マジかよ。でも、そう言われると、確かになあ」
ジャスミンさんに説明すると納得してくれたようだ。
しかし、ここで私が本物を見つけたと外に漏らすと大騒ぎになりそうなので、この場は黙っておくことにした。
「じゃあ、怪盗キッドも誰かわかったのか?」
「さっきまでは鈴木会長に化けてたけど。今は別人に変わってるだろうし」
鈴木会長は偽物だとバレたので、いつまでも変装しているはずがない。
しかし五百人以上の著名人を調べるのは容易ではなく、怪盗キッドが尻尾を出せば良いが、今のところは動きがなく大人しくしているようだ。
誰に成り代わっても不思議ではない状況で、推理をするのは難しい。
私はどうしたものやらと思い悩み、ダメ元で眼鏡をかけて念視をしてみる。
「……あっ!」
「どうしたんだ?」
念視で周囲を見回すと、会場に戻ってきた蘭さんの影がぼやけて見えた。
しかも女性ではなく、男性の体格のようで明らかに不自然だ。
他の乗客はそもそも推理する価値なしなのか偶然か、影は見えない。
だが蘭さんだけが見えたということは、推理に関係する何かがあるのだ。
もっとも可能性が高いのは、今の彼女はキッドが変装しているのだろう。
それをどうやって確かめたものかと悩む。
しかし、考えても良い案はでない。
しょうがないので、こちらの視線に気づいたところでチョイチョイと手招きをする。
なお、蘭さんだけでなくコナン君まで一緒に付いてきた。
いつもくっついているので気にせず、小さな声で話しかける。
「蘭さん、今から変なこと聞くけど、正直に答えてくれる?」
「ええと、何だか知らないけど、わかったわ」
蘭さんは戸惑っているようだが、一応は言質を取った。
私は呼吸を整えて、はっきりと尋ねる。
「今の蘭さんって、変装した怪盗キッドでしょう?」
「なっ!? いっ、嫌だなー。私がキッドなわけないじゃない」
「あはは、キッドなわけないよねー」
「あはは、そうですよー」
二人してしばらく和やかに笑い合ったところで、私はジャスミンさんに声をかける。
「それじゃ、ジャスミンさん。お願いします」
「おう、任せとけ」
「えっ? ちょっと、あざみさん? 一体何を?」
ジャスミンさんが蘭さんに少しずつ近づく。
逆に彼女は、戸惑いながらゆっくり後退する。
「今からキッドの変装かどうかを確認します。
大丈夫です。間違っていた可能性も考えて、会場ではなく外の個室で行うので」
「いっ、いや、それは、その!」
「もし何もなければ数分で終わりますので、すみませんけど我慢してください」
蘭さんは空手が得意で、今の態度ではボディチェックに応じてくれそうにない。
なので、荒事に慣れているジャスミンさんにお願いした。
誰にも気づかれない個室で調査し、女性同士なら大丈夫だとお願いする。
早ければ数分で終わるだろうから、会場にはすぐに戻ってこれる。
「わっわかったわよ! ボディチェックを受けます!」
「ご協力に感謝します。では、場所を変えましょう」
むしろここで断れば、蘭さんが怪盗キッドだと宣言するようなものだ。
本当に違うなら身の潔白を証明するべきで、ボディチェックに応じてくれてホッと一安心する。
その後は、会場の出入り口を固めている警備員に、気分が優れないので少し個室で休むことを伝えて通らせてもらう。
ただ彼らも心配して付いてこようとしたので、断るのに苦労した。
もし蘭さんがキッドの変装でなかった場合、自分の勝手な憶測で彼女の名誉が傷つけられることになる。
事情を知っているのは四人だけでいい。
そんなことを考えながら、人気のない船内の廊下を歩く。
途中で、蘭さんが私に話しかけてくる。
「しかし驚いたな。一体いつから気づいてたんだ?」
「蘭さんが、会場に戻ってきてからですね」
「なるほど、最初からか。
やっぱり、もっとも警戒すべきは平成のミス・マープルだな」
もはや正体を隠す気がないようで、私たちは廊下を歩きながら呑気に世間話をする。
「なら、本物のブラックスターが何処にあるかも、当然気づいてるんだろ?」
「ええ、
「やっぱり全部お見通しか」
怪盗キッドが変装した蘭さんは、困った顔をして大きく息を吐く。
そして真剣な表情で私を見つめる。
「参ったよ。完敗だ。
福来探偵、今回は負けを認めよう。
次に相まみえるときには──」
「お前に、次なんてあるわけないだろ!」
彼が最後まで喋り終わる前に、ジャスミンさんが速やかに拘束しようと勢い良く飛びかかった。
だがその瞬間、私たちが身につけていたブラックスターの偽物が、突然発光して爆発し、大量の煙幕が視界を遮る。
「しまった!?」
「けほっ! けほっ!」
幸い煙幕はすぐに晴れたし、爆発も誕生日パーティーのクラッカー程度の威力だ。
それでも不意を突かれる形になり、あとに残っていたのは蘭さんのドレスや下着だけだった。
「おっおい、あざみー!」
「大丈夫!? あざみお姉さん!」
「こほっ! だっ、大丈夫! ちょっと煙を過剰に吸い込んで、むせただけ!」
私から言えば、超至近距離で小規模の爆発と煙幕を受けたのだ。
すぐに復帰できる二人のほうがおかしく思える。
だが名探偵コナンの世界では、それが普通なのかも知れない。
まあ実際は良くわからないけど、とにかく怪盗キッドをあと一歩というところで取り逃がしてしまった。
それはそれとして、彼は紳士だから大丈夫だと思うが、蘭さんの安否も確認しないといけない。
私は急ぎ警備の人に先程のことを伝え、船内を捜索してもらうのだった。
その後、蘭さんは救命ボートに乗せられて眠っているところを発見され、無事保護される。
怪盗キッドには逃げられたが、本物のブラックスターを盗まれずに済んだので探偵側の勝利だろう。
ただ案の定、新聞やニュースでインタビューを受けて大々的に報道されたので、こういう自分が前面に立つ事件は、どうにも小っ恥ずかしくて苦手なのを再確認する。
今後は私の代わりにジャスミンさんが取材を受けてくれないかなと、記者の質問を無難な解答でやり過ごしながら、ぼんやり考えるのだった。