大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
鈴木財閥の60周年記念パーティーで、怪盗キッドをあと一歩まで追い詰めたことで、世間を大いに騒がせた。
各界の著名人が五百人以上も集まっていたのでなおさらだ。
けれど、結局逃がしてしまった。
そもそも私は世間の評価と無縁に生きていて、大学生探偵や平成のミス・マープルと持て囃されても嬉しくはない。
念視頼りで頭の出来は平凡な自分には、過大評価にも程がある。
だが特別な能力を持っているとバレたら大変だから、便利に使ってはいても誰にも話さず墓まで持って行くつもりだ。
それはそれとして時は流れ、季節は夏になった。
暑さが厳しい七月の下旬、綾子先輩からアクアポリスのオープニング記念式典に誘われた。
毎日のように広告されているので、私も興味はある。
賑やかしとしてただ居るだけならと、参加することにした。
ただ、アクアポリスだけなのも勿体ない。
せっかくなので周辺の観光名所も見て回ることに決めて、数日前に近くのホテルに宿泊予約をいれる。
いつものようにジャスミンさんに車を出してもらい、夏の休暇を楽しむことにしたのだった。
しかしホテルに到着する前日の深夜に、首都高で大規模な自動車事故が二つも同時に起きたようだ。
負傷者77名、被害車両48台に及ぶ大惨事で、犯人はルパン三世とその一味らしい。
死者がでなかったのが、不幸中の幸いと言える。
私はそれを、ホテルの個室に備え付けられているテレビの朝のニュースで知った。
朝のホットコーヒーにミルクと砂糖を入れて良く混ぜ、フーフーして冷ましてからチビチビ飲んで眠気を覚ます。
久しぶりに彼のニュースを見たが、相変わらずやること成すことが派手だと思った。
それにルパン逮捕や騒ぎの収拾のために、警察も大勢動員されたようだ。
アクアポリスのオープニング記念式典目前なのに、周辺地域はまさに厳戒態勢になっている。
「せっかく休暇を取って観光に来たのになあ」
「こりゃ、のんびり観光できる雰囲気じゃないなー」
あっちもこっちも警察だらけでは、やましいことはなくても出歩きたくなくなる。
人が多いところは当然見張っているだろうし、有名な観光名所に警官が交じるだけで緊張してしまう。
「あざみーは職質されそう」
「職質という名の依頼は勘弁して欲しいなあ」
ルパン逮捕に協力をお願いしますというやつだ。
名前が売れていると警察組織に助力を得やすいが、向こうから依頼されることも多い。
ただ日本の公安や各組織などは、私への借りが山のようにある。無理強いはできないはずだ。
しかし、それでも無理を承知で頭を下げることはできる。
もっと言えば私個人も、目の前の悪事を見て見ぬ振りはできない。
ついでに押しにも弱かった。
ジャスミンさんは困った顔をしながらテレビのニュースを見ているが、私もガックリと肩を落として大きく息を吐く。
そして思い悩んだ末に携帯電話を取り出し、ある人に連絡を取ることにした。
「もしもし? 福来あざみですが」
「おおっ! 福来探偵ですか! 久しぶりですな!」
一度聞いたら、早々忘れないような元気な声が聞こえてきた。
名前を聞かなくても、目的の人物で間違いないとすぐにわかる。
その後は簡潔に用件だけを告げて、直接会って話をする約束をしたのだった。
目的の人物は、銭形警部だ。
福来あざみという例外を除くと、ルパン三世を詳しく知っていて何度も追い詰めた人は、他にいないだろう。
東京観光が台無しなので、これ以上被害や騒ぎが広がる前に、事態の収拾を図りたい。
ならば、彼に話を聞くのが一番手っ取り早い。
実際に銭形警部と組んで、ルパン三世やその一味を逮捕したことが何度もあった。
ただし留置所や輸送中、または刑務所などから脱走するので、捕まえても意味があるようなないようなだ。
それでも、今回の事故はどうも不自然な点が多い。
長年探偵の真似事をしていると、陰謀の匂いや妙な勘が働くようになる。
ただ自分は念視頼りだが他は平凡だ。
ガンダムで言うとニュータイプではなくオールドタイプだろう。
ゆえに超能力の類ではなく、経験則で無意識に事件や事故を感じ取っていると思われる。
まあそれを実証するのは難しいし、念視が影響を与えて強化人間のように成長した可能性もある。
本当のところは、自分でも良くわかっていない。
だがそれはそれとして、銭形警部と会う場所は焼き鳥屋の屋台なのが彼らしかった。
「こんばんは。銭形警部」
「おお、良く来てくれた! 福来探偵!」
今の私は服装を変え、サングラスと帽子で簡単な変装をしている。
しかし、銭形警部の大声で台無しである。
彼はルパン三世を捕まえたが同時に失敗も多くしているので、成功実績をチョモランマのように積み上げ続けている自分ほど、有名人ではない。
「あの、銭形警部? 酔ってます?」
「この程度! 全然酔ってないであります!」
「あー、これは酔ってるわ。間違いない」
赤い顔をしてビシッと敬礼する銭形警部に、ジャスミンさんも呆れた顔で口を開く。
「ったく! 何が休職だあ! このワシ以外に、誰がルパンを捕まえられるってんだー!」
銭形警部の前には、焼き鳥の串と空っぽになった酒瓶が大量に置かれている。
このことから、どう見ても酔っていた。
彼と会うことはできたが、これでは詳しい話を聞けそうにない。
「うわあ! 本物!? 本物の平成のミス・マープル!?
私! 一色まりやと言います!
あの! もしよろしければ、取材させてもらえないでしょうか!」
テンション高めに私に話しかけてきたのは、銭形警部の隣に座っていた女の子だ。
年齢は自分と同じか少し若いように思えるが、彼が助手を雇ったとは聞いていない。
「ごめんなさい。取材は受けてないの」
「そっ、そうですか。無理を言ってすみません」
一回受けると次々に申し込まれるので、サインと同じで基本的に断っている。
私はお気になさらずと流して、もう一度銭形警部に視線を向けた。
だが、屋台の前でいつまでも立ち話をしているのも店主に悪い。
空いている席に座って、自分も焼き鳥を適当に注文して、彼がまだ話せるうちにルパン三世について率直に尋ねる。
「あの事故は、ルパンの仕業じゃない」
「モグモグ……と、言うと?」
私は焼き立てのネギマをいただきながら銭形警部に質問すると、彼はまりやさんに声をかけた。
「お前、高速でトレーラーが勝手に動き出したことを覚えとるか?」
「そう言えば、私の車もぶつけられそうになったわ」
「うむ、トレーラーの運転手は皆、マイケル鈴木が用意した奴らさ」
もうこの時点で胡散臭さがプンプンしているが、全ての鍵を握っているのはルパン三世だ。彼を捕まえれば全てがわかる。
しかし銭形警部が言ったマイケル鈴木についても、調べておくべきだ。
「ジャスミンさん」
「わかった。知り合いに連絡して、マイケル鈴木のことを調べてもらう」
ジャスミンさんは調べ物は苦手で、捜査や推理は私の役目だ。
だが黒い噂やより深く詳しく知りたいときに、警察庁の伝手を使うことができる。
ただそういう場合は、高確率でヤバい事実が判明するので、正直今から気が重い。
おまけに、銭形警部が完全に酔っ払ってイビキをかいている。
すぐに起きそうにないし、放っておくこともできない。
仕方ないから、彼の自宅まで運ぶのだった。