大学生探偵福来あざみ   作:あざジャス派の猫

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ピアノソナタ「月光」殺人事件2

 公民館に到着した私が見たのは、法事に参加していた大勢の人たちがざわめいていたことだった。

 どうやら殺人事件が起きたようで、殺されたのは川島さんだ。

 

 何となく興味があったので中に入らせてもらったら、呪いのピアノに突っ伏すように死んでいた。

 私は島民の隙間から現場を覗き込み、現在の状況を頭の中で整理していく。

 

「あの手紙は、満月の夜に再び、この月影島で人が死ぬということを、予告していたんだ。

 うん、きっとそう」

 

 最初に不審な手紙のことを聞いたときは、昔の事件の再調査をして欲しいのかと思っていた。

 なので何処か楽観的に考えていたが、殺人事件が起きたら話は別だ。

 

 一先ず法事に来た人たちに紛れて、目立たないように大人しくして詳しい話を盗み聞きする。

 

「死亡推定時刻は三十分から一時間前、死因は窒息でしょう。

 恐らく川島さんは、溺死させられたものと」

 

 浅井成実(あさいなるみ)さんが検死をしていたので、その情報を手帳に書き記していく。

 

 長年探偵をしていれば、死体を見ることも珍しくはない。

 相変わらず慣れないし怖いが、顔を真っ青にして嘔吐することはなくなった。

 

(しかしあの探偵と子供、それに付き添いの娘さん、何処かで見たような)

 

 名前を聞くことはなかったが、島の人たちの話では有名な探偵らしい。

 なので多分、テレビや新聞で見たのだ。

 

 やがて駐在さんが到着して、彼が毛利小五郎さんだと知った。

 彼は最近になって名前を聞くようになった探偵で、テレビやニュースで報道されるので知っていても納得だ。

 

 取りあえず答えが出たので、推理に戻る。

 今は殺害された川島さんの事件を解決しないといけない。

 

 外の浜に上着が浮かんでいる。

 そして何かを引きずったような海水の跡が、海に続くドアに繋がっていた。

 

 やけに賢い少年が、犯人の行動について分析して皆に説明している。

 話を聞く限りでは、確かに筋は通っていた。

 

 入口には毛利探偵の親子が居て、外に出たり新しく来た人は誰も見ていないようだ。

 ならば状況証拠から、法事の最中に行なわれた犯行である。内部犯でほぼ間違いはないだろう。

 

 

 

 やがて皆が引き上げたあとに私は途中で引き返して、こっそりと中に入る。

 そして一人残ったお年寄りの駐在さんに、身分証を見せた。

 

 自分のことは秘密にするようにとお願いして、彼から島民の詳しい情報を聞きながら、残されていた楽譜の謎について解読する。

 

 恐らく十年以上前に、麻生圭二さんたち一家が自殺した件に関係してるのだろう。

 自宅に火を放ったと証言した四人の目撃者のうち、一人は心臓発作で死亡し、もう一人は今日殺されたからだ。

 

 不審な手紙では、まだ事件が続くことが暗示されている。

 残りの二人も狙われる可能性が高い。

 

 過去に何があったのかがより詳しく判明すれば、今回の事件を解く鍵になりそうだ。

 

「駐在さん。十二年前の事件で、何か残っている物はありませんか?」

「何か残っている物と言われてものう。殆ど燃えてしもうたし──」

 

 私は手帳にメモしながら、駐在さんが思い出すのを待つ。

 

「いや、確か耐火金庫の中に、楽譜が残っておったはずじゃ!

 今は公民館の倉庫に保存されておるはずじゃ!」

 

 ならば、ここに残されていた楽譜の暗号が、十二年前にも存在していたかも知れない。

 

 何にせよ、手がかりの一つにはなるだろう。

 駐在さんにその楽譜をあとで見せてもらうことを約束して、いよいよ事件の調査を始める。

 

「でも、何処から調べたものかな」

 

 これから本腰を入れて調査を行うので、眼鏡をかけて念視をした。

 注意深く周囲を見回すと、人影がぼんやりと浮き出て見える。

 

「妙だね。こんな所で一体何を?」

 

 犯人と思われる影が、ピアノの下で何かをしているようだ。

 不審に思ったので、調査のために私も腰を屈めて潜り込む。

 影に重なるほど近づくと、突然後ろから声がかかった。

 

「ねえねえ、お姉さん。そんなところで何してるの?」

「わあっ!? あいたあっ!?」

 

 まさか声をかけられるとは思わず、驚いて飛び上がってしまう。

 おまけに狭いピアノの下に潜り込んでいたため、頭を思いっきりぶつける。

 

 あまりの痛さにしばらく声が出ず、頭部を押さえて体をプルプルと震わせながらうずくまってしまった。

 

 すると先程声をかけた子供が、心配そうに口を開く。

 

「ごっ、ごめんね? でも、お姉さんが何をしてるのか気になって」

「きっ、気にしないで。わっ私がうっかり頭を……あいたた!」

 

 半泣きになりながらも子供に微笑みかけるが、ぶつけた頭がズキズキ痛む。

 

「そっそれで、私が何をしてるか、だったよね?」

「うっ、うん」

「今は私なりに事件の調査をしているんだけど、ピアノの下に少し気になるモノを見つけてね」

 

 私はそう言ってピアノの下部を押し込んだ。

 カチリという音が鳴り、綺麗に枠が取り外される。

 

「これは! 隠し扉!?」

「そうそう、中に何が入っているかは想像がつくよ。

 床に落ちてる粉があるでしょう? これが何だか──」

「まさか! 麻薬か!?」

「キミ、鋭いね」

 

 私が説明しなくても答えを出してしまった。とんでもない子供だ。

 多分、刑事ドラマか探偵のアニメや漫画の影響だろうけど、頭の回転が早いことには違いない。

 

「それでさっき駐在さんから、面白いことを聞いたんだよね」

「面白いことってなあに? お姉さん! 教えて教えてー!」

 

 そんなにせがまなくても教えてあげるから、服の袖を引っ張らないで欲しい。

 ピアノの下は狭くて動き難いので、バランスを崩してうっかり押し倒してしまったら、事案待ったなしだ。

 

 私は勿体ぶることなく、先程聞いたことを話し始める。

 

「平田さんと川島さんは、人目を忍んで夜な夜な公民館で密会したんだって」

「それって! 呪いのピアノの噂で人払いをして!」

「多分、このピアノの隠し扉を、麻薬の取引に使ってたんじゃないかな」

 

 それが、たった今わかったことだ。

 けれど、今回の殺人事件が麻薬取引に関係があるかは、まだわからない。

 そのことを少年にも伝えておく。

 

「でも、この部屋は麻薬の取引現場だから、ここで殺人事件を起こしたりはしないだろうね」

「うん! ボクもそう思うよ!」

 

 一通りの説明を終えて証拠品も確保した。

 

 ならば、いつまでも狭いピアノの下に引き籠もっているわけにはいかない。

 いい加減に外に出ようと、少年とは別方向に四つん這いで歩き出す。

 

「ねえねえ! お姉さん! 他には何か、わかったことはないの?」

「あのね? お姉さんは、たった今調べ始めたばかりなの。

 それに、いつまでもピアノの下に居たくないし、袖を掴むの止めてくれない?」

 

 そんな簡単に犯人がわかったら苦労はしない。

 ついでに四つん這いで狭い場所にずっと居るのは、窮屈極まりない。

 しかし少年は、お前だけは逃さないと言わんばかりに、袖を強く掴んだまま離す気配がなかった。

 

「じゃあ、もう一つだけ教えてあげる。

 ピアノの鍵盤の左から順にアルファベットを当てはめて、事件現場にあった楽譜を読んでみて。

 楽譜は駐在さんが預かってるから」

 

 念視のおかげで判明したことだが、今の発言は殆ど答えを言っているようなものだ。

 けれど少年は、問題の楽譜は駐在さんが預かっていると聞いて、ようやく私の袖を掴むのを止めてくれた。

 

 取りあえずこの場に居るとまた捕まりそうなので、公民館に戻ってきて先程のやり取りを一部始終聞いていた毛利探偵に、愛想笑いで軽く頭を下げておく。

 

「では、私はこれで失礼しますね」

 

 そう告げて早足で立ち去る。

 その後は夜が遅かったので誰とも出会わずに、宿泊先の旅館に戻ってきた。

 取りあえず今日はたくさん歩いたので疲れたので、お風呂にゆっくり入浴して強張った体を揉みほぐすのだった。

 

 

 

 次の日の朝、駐在さんに頼んでおいた十二年前の楽譜は毛利探偵が解読したようだ。

 さらに十二年前の事件や麻薬の取引、そして今回の殺人事件の謎を全て解いた。

 

 ただ浅井成実(あさいなるみ)さんが実は男で、成実(せいじ)と読んで、公民館に火を放って自殺しようとした。

 

 だが私も長年探偵を続けていれば、こういうことにも慣れている。

 

 復讐を目的に生きてきた人が、自分のしてきたことが間違っていたと知ったり、親しい人に全否定されたら、ショックのあまり自殺しようとしてもおかしくない。

 

 東京から目暮警部が来ていたので、こっそり連絡する。

 十二年前を模倣して、形見のピアノを奏でながら火を放ってもおかしくはない。

 なので現場に警察を待機させ、もしもに備えていたのだ。

 

 

 

 おかげで浅井成実(あさいせいじ)さんが死ぬことはなかったが、全身に火傷を負って長期入院を余儀なくされる。

 

 それでも命は助かって、事件も解決したのだ。

 私がこれ以上月影島に留まる意味はない。

 

 何より、あの変な子供に付きまとわれるのは面倒だ。

 毛利探偵よりも早く定期船に乗って、さっさと本土に帰るのだった。

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