大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
急ぎマイケル鈴木を調べている私は、現在超多忙である。
しかも昨日から寝ていないので、飲食しながらの長時間労働は流石にしんどい。
それでも何とか一区切りつけて、仮眠室を使わせてもらう。
だがついつい寝すぎてしまい、気づけば夕方になっていた。
ジャスミンさんに何で起こしてくれなかったのかと聞くと、働き過ぎなのでこの機会に少しでも休んだほうが良いと正論を返されてしまう。
確かに私は寝ずに頑張ってるし、今回の事件調査は本来なら自分の役目ではない。
それに全て私が処理する必要はなく、警察に任せられるところは任せるべきだ。
現在は対策本部を立てて、極秘に調べている。
マイケル鈴木や繋がりのある企業や人物の不正や裏金。
さらにはアクアポリスの地下に遺伝子工学の施設があって、遺伝子操作をした兵士を開発して売り出そうとしていることも突き止めた。
金や資材や人の流れを追えば、何処で何をしているかは大体わかる。
ただ調査資料からの推理が多分に含まれているので、信憑性は少し怪しくて細かいところまで追えていない。
それでも総合的に分析するとアクアポリスに地下施設があって、非人道的な実験をしている。
さらに密かに軍需産業に参入しようとしているのは、ほぼ間違いなかった。
取りあえず私は仮眠を取って少し体調が良くなったので、警視庁の留置所に向かう。
何でもアクアポリスで知人が逮捕され、ここに送られてきたらしい。
「昨日ぶりですね。銭形警部。
それとルパンさんは、久しぶりでしょうか?」
何故か二人共、壁を一枚隔てた牢屋に入れられていた。
話がしやすくて何よりだが、聞かれると不味いので看守さんには席を外してもらい、監視兼護衛はジャスミンさんが担当する。
「福来探偵か。
マイケル鈴木が裏で何をしているかは、もう掴んでるのか?」
「はい、明確な証拠はありませんが、極秘に遺伝子操作をした兵士を開発し、戦争国家に売りつけようとしているのはわかりました」
途中から寝ていて、起きたのはついさっきだ。
その間に明らかになった資料に、改めて目を通して判明したことも多い。
「流石は平成のミス・マープルちゃん!
オレたちが現地で見たことを、ぜ~んぶ調べ上げてやんの!」
「私だけではありません。皆の協力と頑張りがあってこそです」
「相変わらず、謙虚でいらっしゃること! いやー、オレも見習いたいね!」
ルパンさんはそう言うが、実際に自分一人でできることなど、たかが知れている。
警察組織が多くの人員と時間を使って、ここまで調べてくれたのだ。
もちろんそのことには感謝しているけれど、あることが気になった私は銭形警部に声をかける。
「銭形警部、まりやさんは一緒ではないのですか?」
「まりやか? まりやは先に釈放された」
「彼女が先に? ……妙ですね」
ジャスミンさんが言うには、彼らが警視庁に送られてきて、まだあまり経っていない。
それなのにろくに取り調べをされることなく、まりやさんだけが釈放されたのだ。
「あの子は何か、でっかい秘密を握ってるのさ」
「そのようですね。それもマイケル鈴木が、大喜びしそうな秘密を」
マイケル鈴木は、世界中の政財界と繋がっている。
日本の警察に圧力をかけて、彼女を釈放してもおかしくはない。
ならば、まりやさんに何かしらの利用価値があるのだろう。
トラック輸送の物を守るために、市民にどれだけ損害が出ようが一切躊躇いのない男である。
完全に己の損得で行動していた。
とにかく、こうしてはいられない。
「何処に行こうってんだ?」
「決まっています。まりやさんを助けに行きます。
もうマイケル鈴木に、誘拐されているかも知れませんが、……それでも助けます!」
短い付き合いだが、まりやさんは良い人だと知った。
友人かどうかは微妙な関係でも、邪悪な企みに利用されて良いはずがない。
ルパンさんはそんな私を見て、ケタケタ笑いながら声をかける。
「確かにあざみちゃんは頭が良いけど、人手は少しでも多いほうが良いんじゃない?
警察はアクアポリスの警備に駆り出されて、大忙しだろー?」
明日は世界中から著名人が集まるので、アクアポリスの警備に多くの警察が動員される。
いくら私の頼みでも、使える人手は限られるだろう。
それに、あくまでお願いしているだけで、直接命令を出せるわけではない。
「確かに今は警察組織全体は非常に忙しく、マイケル鈴木と各関係者の一斉検挙はかなり遅れそうです。
超法規的措置を行えば別だけど、……でも」
平成のミス・マープルの名前を公表して、私個人が前面に出て日本政府に働きかければ、特例としてマイケル鈴木を即逮捕できなくもない。
だがそれは、一般人の福来あざみではなくなってしまう。
前にそれをしたら大騒ぎになり、後処理に相当苦労した。
平穏な日常を取り戻すのにとても時間がかかったので、本当に最終手段でしかやりたくはない。
そして今はまだ、その時ではなかった。
幸い目の前に居るルパンさんとは利害が一致していて、一時的だが協力してくれるらしい。
「ジャスミンさん」
「おいおい、盗人を信用するのかよ」
「どうせルパンさんは脱走しますよ。それに今この瞬間に限って言えば、互いの利害は一致しています」
「それはそうだけどよ」
ジャスミンさんは警察関係者なので、理屈でわかっていても渋い顔だ。
だが、敵の敵は味方とも言う。
まあ探偵が泥棒を助けるのはどうかと思うが、これまで何度も共闘したこともあるし、今回も偶然が重なってそうなっただけだ。
何より今優先すべきことは、マイケル鈴木に拉致されたと思われる、まりやさんを助け出すことだ。
私は気持ちを切り替えてコホンと咳払いをし、真面目な表情で話し出す。
「では、こちらからは情報を出しましょう。
マイケル鈴木は、子飼いの傭兵部隊を持っています。
彼らは、オープン記念式典を襲撃し──」
先ほど明らかになったマイケル鈴木の情報を、ルパンさんと銭形警部に教える。
傭兵部隊の人数や武装は調べられたが、当日の配置など不明な点は多い。
だが、その辺りは探偵らしく推理で補った。
「おじさんに任せときなさいって!」
「恩に着る! 必ずまりやを助け出そう!」
「はい、まりやさんのこと、よろしくお願いしますね」
これ以上二人と話すことはないので、私は背を向けて歩き出す。
自分の役目は傭兵部隊との戦闘ではないし、まだまだやるべきことが山積みなのだ。
「しかし、相変わらず見事な推理だこと!
とっつぁんや他の警察より話が通じるし、探偵を辞めて泥棒になったほうがいいんじゃなーい?」
「今回失敗したら追われる立場になるでしょうし、それも良いかも知れませんね」
マイケル鈴木を敵に回しては、評判が地に落ちて探偵を続けるどころか、普通に生きていくのも難しくなる。
今までも狙われることはあったが、日本の公安や警察が目を光らせているので、そういう輩は速やかに片付けられてきた。
しかし信用が失墜すれば、警護してくれる人が居なくなる。
以降は自分の身は、自分で守らなければいけなくなる。
彼と繋がりのある政財界の著名人たちの罪を明らかにして、そのまま逮捕できれば良いが、今回は時間的な猶予は殆どないので割と切羽詰まっていた。
「たとえ泥棒になっても、困っている人を助けることはできますしね」
「かー! 義賊とは今どき流行らないよー! おじさんの仲間になれば、あざみちゃんに手取り足取り……ぐへへ!」
「ルパーン! 福来探偵を仲間にする気かー!」
「やれやれ! とっつぁんはおかたいねー!
何ならとっつぁんもどうだい? 今は休職中だろ?」
私は少しだけ足を止めると、ルパンと銭形警部がいつもの言い争いを始めた。
何だか懐かしいノリだなと眺めていると、あることを思い出す。
「そうだ。当日は貴方たち以外にも協力者を呼ぶので、よろしくお願いします」
「協力者ー?」
「他にも、増援のあてがあるのか?」
「はい、時間がないので本当に少人数ですが、腕は確かなので頼りになりますよ。
貴方たちのことは伝えておきますので、上手く使ってくださいね」
私は微笑みながらそう説明すると、再び前を向いて歩き出す。
先程の泥棒の仲間になる云々は、どうせルパンさんの冗談だ。
本気で誘っているわけではない。
それに私はまだ探偵で、明日の事件の手を打たないといけなかった。
せっかく仮眠を取ったのにまた徹夜になるのは確定で、この若さで生活リズムがガタガタすぎて、泣きたくなってくる。
しかし現状、マイケル鈴木と真っ向から渡り合うのは、平成のミス・マープルと呼ばれる自分が適任だ。
それに警察組織は今は警備に駆り出されているし、敵の手も伸びている。
情報を外に漏らさないことを考えると、使える人員も限られてくるのだ。
やることは山積みなのに、まるで時間が足りない。
この件が終わったら休暇を取って今度こそゆっくり休みたいと、心の底からそう思ったのだった。