大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
<ルパン三世>
彼女の名前を初めて聞いたのは、今から十年以上も前になる。
その頃はオレも若くて血気盛んな泥棒で、自分よりも小さな子供が、いっちょ前に探偵の真似事をしているのだ。
興味を惹かれて変装して会いに行くと、何故か一発で見破られてしまう。
どうやら彼女は良い目を持っているようで、さらに観察力にも優れている。
頭の回転や突然の閃きはなくても、物事を順序良く組み立てて正解に導くのも得意なようだ。
ただ自分の推理に確証がなければ、変装したオレにルパン三世かどうかと尋ねても、否定したらすんなり引き下がってしまう。
謙虚というか自己評価が低いと言うか、そんな彼女が平成のミス・マープルと呼ばれているのだから、世の中はわからないものだ。
あとは根っからの善人のようで、誰かを助けたり守ったりするときに真価を発揮する。
普段は歳相応の少女にしか見えず、本人もそんな生活を心の底から求めていた。
しかし稀有な才能を持った彼女を、周囲は放っておかない。
さらには目の前の悪を見過ごせず、人を助けるためなら自分から危険に飛び込むのだ。
探偵などやりたくないのに、成り行きで続けている優しい少女だ。
そんな彼女にオレたちは何度も追い詰められ、時には共闘したりと、一言では語れない関係になるとは、当時は全く考えてもいなかった。
それに泥棒のオレたちを気遣い、命を奪うのを良しとしない。
心優しい性格をしているが、だからこそ余計な苦労を背負い込んでしまう。
体力もないしで、お世辞にも荒事に向いているとは言えなかった。
なのでキッカケさえあれば、隠している素がヒョッコリ出てくる。
半泣きや驚き、恐怖に震える姿などだ。
世界的な名探偵は、本当は見た目通りの可愛らしい少女である。
それでいて自分の立場に執着がなく、いざという時には開き直っていつでも探偵を辞めてやると、人を助けたり守ったりするときにはかなりタフになる。
ただし、平成のミス・マープルが引退したら世界各国は非常に困るので、決して辞めさせはしない。
ちなみに今回も共闘することになった。
久しぶりに会った彼女は、昔よりも成長しているのがわかる。
その辺りのアイドルにも引けを取らず、とても綺麗になっていた。
それに隣にいる女は表の人間ではなく、オレのような裏の者だろう。
何処かで会った気もするが、ジャスミンという相棒を完璧に演じていたので、牢屋の中からではわからない。
だがジャスミンの正体に興味はあっても、今は他にやるべきことがある。
一先ずそっちを優先して片付け、彼女に関してはその後だ。
ただそれを突き止めたところで、何かが変わるわけではない。
美術品や盗むべき財宝に比べたら価値は低いので、多分この件が終わったら忘れているだろうが、それはそれだ。
その後、オレはマイケル鈴木の情報を教えられたが、彼女が味方で良かった。
傭兵部隊の武器や人数、施設や計画などその他諸々が、例外なく丸裸にされる。
これで負けたら道化以外の何者でもなく、大泥棒の名がすたる。
しかし望む望まざるに関わらず、彼女が探偵の才能を持って生まれたのは間違いないと、あらためてそう確信した。
とにかくお膳立てはしてもらったので、あとはオレたちの仕事だ。
依頼人の望み通りに、念入りに準備を整えてまりやちゃんを盗み出してやる。
ただ気になったのは、他にも客を招待すると言っていたことだ。
警察組織は動かせなさそうだし、そもそもオレたちの敵である。
それにマイケル鈴木の息がかかっている可能性もあるので、今回は出番はないだろう。
そうなると彼女の知り合いになるが、平成のミス・マープルと呼ばれるだけはあって、頼りになる味方は大勢いる。
だが今回は本当に時間がないので、使える手札は限られていた。
何にせよ、オレはオレのすべきことをやるだけだ。
銭形のとっつぁんと警視庁の牢屋から脱走し、仲間と合流する。
やはり、まりやちゃんは一足遅く、既に攫われてしまっていたようだ。
それに、徳川の秘宝もマイケル鈴木に奪われたようだが、本番はこれからだ。
盗まれたら、盗み返せばいい。何しろオレたちは、大泥棒だ。
そのために入念に準備をして、反撃の時を待つ。
やがて世界中の有名人がアクアポリスに集まり、オープン記念式典が始まる。
ニュースや新聞などでも大々的に取り上げられて、観光客も大勢詰めかけて非常に賑わっていた。
時間が経って夜になると、アクアタワーで記念パーティーが行われる。
彼女の推理通りに事が進み、謎のテロリストが襲撃してきた。
普通なら精鋭の警備員や有名人の専属SPを突破するのは不可能だが、マイケル鈴木が裏で情報を流していれば別だ。
増援は期待できずに何処を突けば崩れるかがわかっていて、一番の味方が裏切り者なので勝ち目がない。
そして日本政府に身代金や逃走のための飛行機を要求し、武装グループが皆の身代わりになったマイケル鈴木を拉致して、研究データなどを持って国外に高跳びする。
……そのはずだった。
だが奴には残念だが、現実はそうはならない。
彼女が悪の計画を阻止するべく、入念に手を打っていたからだ。
犯人グループが自衛隊のジェット輸送機に乗り込み、離陸しようとする。
しかしそれを読んで、もう一つの警備隊が密かに動き始めた。
武装グループが襲撃してくることや、マイケル鈴木が情報を流していることはとっくに気づいていた。
なので彼女は急ぎ独自の警備隊を組織し、密かに紛れ込ませていたのだ。
本来ならちゃんと調べればすぐにわかるが、アクアポリスは人が大勢集まっている。
多少増えたぐらいでは、誰も不自然さに気づかない。
だから警備に扮して、テロリストが紛れ込んでもバレなかったのだが、逆もあるということだ。
特に計画の成功を確信したときが、もっとも大きな隙になる。
彼女はそう指示を出していたようで、ジェット輸送機が離陸準備に入ったとき、信頼できる対テロリスト部隊が一斉に行動を開始した。
情報漏洩を防ぐために数は少ないが皆が精鋭で、入口の敵を速やかに片付けて次々と乗り込んでいく。
ただ敵もさるもので、明らかに人間離れをした身体能力を持っている。
抵抗も激しく、ジェット輸送機を離陸させる囮になる気なのか、そう簡単には先に進めなかった。
そんなときに銭形のとっつぁんが乗ったバイクが乱入して、ジェット機に猛スピードで近づく。
さらに後ろから、赤いミニクーパーとランドクルーザーが現れて、武装グループが乗っている機体に急接近していった。
「お前さんが銭形警部か!」
「確かにワシが銭形だが! お前さんたちは!」
「都会の掃除屋さ! あざみちゃんの依頼で加勢に来たが! 必要なかったか!」
「いや、協力に感謝する! 都会の掃除屋殿!」
話している間に、丸坊主の大男が無言でロケットランチャーを撃ちこむ。
狙いは正確なようで、非常口を破壊した。
バイク一台と自動車二台から人が飛び移り、こじ開けた別の入口から一斉に乗り込む。
そこから先は、一方的な展開だった。
テロリストたちは逃げ道を失い、いくら強くても全員が彼らと渡り合えるわけではない。
さらには次元や五ェ門まで参戦してきたのだ。
慌てて飛んで逃げようとマイケル鈴木が操縦室に来たが、そんな彼には引っこ抜いた操縦桿をプレゼントしてやった。
それが爆発したときの間抜け面は笑わせてもらった。
とにかく囚われのお姫様は無事に助けたし、いつまでもこの場に留まっていては逮捕されてしまう。
あざみちゃんの依頼も達成したし、目的の物も盗み出せた。
この辺りが潮時というやつだ。
部下に化けて逮捕を逃れようとしていたマイケル鈴木も、彼女には丸っとお見通しであった。
あらかじめ外に警官隊を手配して包囲していたのもそうだが、怪我人や負傷者を速やかに搬送し治療が行えるように、各機関に通達済みだったし流石の手腕だ。
しかし、それでも何もかもわかっているわけではない。
推理できないこともある。
一色まりやが福来あざみの新しい助手になることは、世界的な名探偵も予想不可能だったらしい。
驚きのあまり、とても面白い顔でしばらく固まっていたが、特殊能力の件もあるので結局断らずに採用する。
その後は未来予知を完全に制御して世の中の役に立てるために、彼女の下で探偵の勉強を始めたようだ。
それでオレはと言えば、目的は果たしても徳川のお宝は手に入らなかった。
だが自分の遺伝子は取り戻して廃棄できたので良しとして、また次のお宝を探しに行くのだった。