大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
色々あって世界経済が大混乱して後処理に奔走したけど、何とか落ち着きを取り戻せた。
あとはジャスミンさんの他に、助手が一人増えた。
未来予知の能力者、一色まりやさんだ。
彼女も福来家に住むことになったが、家族を失い今まで一人で頑張ってきたらしい。
ジャスミンさんも家族が居ないようだし、色んな意味で重い子ばっかり同居人になるしで、どういうことだってばよだ。
まあ、まりやさんは良い人だし、ジャスミンさんや父母との仲も悪くはない。
それと普段は雑誌記者の仕事をしていて、その合間に助手の勉強をしていた。
なのでずっと家に居るわけではなく、クニトー出版の仕事をしている時間のほうが多い。
最初は私の助手、もしくは探偵を志していたが、自分が断固反対して今の形に落ち着いたのだ。
それでも弟子入りを止める気はなかったようだ。
危険と隣り合わせの探偵になりたがるなんて、変わってるなと思った。
ジャスミンさんにどうしてだろうと尋ねると、そういうとこだぞと返ってくる。
何がそういうとこなのかさっぱりわからないが、彼女が探偵に憧れているのは自分が原因の一つなのは、何となく理解できるが納得はできなかった。
そんなある日、私は失踪した有名な小説家を探す依頼を引き受ける。
依頼者は
二ヶ月前から家から消えてしまったようで、母親も一緒に行方不明とは穏やかではない。
おまけに、ちょうどその時期から新しい小説の連載が始まったりと、どうにも奇妙なことが起きている。
警察にも相談したが、脅迫電話も来ていない。
原稿を書いてファックスで送っているので問題ないと判断して、捜査を行う気配がない。
それに他の探偵事務所にも相談してみたが、皆同じような答えだった。
ただ毛利探偵事務所だけは両親の捜索を受けてくれるようで、それでも不安なら私に相談したらどうかと、コナン君に言われたらしい。
依頼人によっては複数の探偵を雇うことはあるし、行方不明の捜索は雲を掴むような事件なので、人手は多いほうが良い。
私も執務室で書類とにらめっこしているのに飽きたし、人探しのために外出するのも良いかなと考えて受けた。
一先ず、蘭さんの携帯に電話をかけて待ち合わせ場所を決める。
そこで合流して、お互いの情報を交換することにした。
幸いと言えるかどうかはわからないが、ジャスミンさんに車を出してもらえば、毛利探偵事務所までは片道三十分もかからない。
まあ米花町に近いから治安が悪いとも言えるし、やっぱり素直には喜べないのだった。
毛利探偵事務所で会って情報交換をする。
私も電話で依頼内容を聞いただけなので、大したことは知らない。
何なら毛利さんのほうが詳しいほどだ。
なのでまずは新名先生が定期的にファックスを送ってくるという、出版社に向かう。
タクシーを捕まえるのではなくジャスミンさんに車を出してもらって、全員で乗り込んで移動するのだった。
やがて出版社に到着したので、受付で手続きを済ませて中に入らせてもらう。
「ええ、新名先生の原稿は毎週送られてきますよ。
ちょうど今夜はその日、そろそろ送られて来るはずなんですが」
担当の人が言うには、ちょうど今夜のようだ。
「その原稿、本当に新名先生が書かれたものなんですか?」
「ええ、ワープロの文字ですが、文体はまさしく先生のもの。
毎回タイトルの横に直筆のサインが入ってますし、何ならお見せしましょうか?
ファックスの原稿」
今は少しでも手がかりが欲しいので、大変ありがたかった。
私たちは、これまで送られてきたファックスの原稿を受け取る。
毛利さんが念の為に確認し、サインは先生のもので間違いないらしい。
だがそれを見た私は不自然に思い、原稿用紙を重ねて筆跡を光に透かして確認する。
「毛利さん、見てください。
サインは一話から六話まで少しずつズレています。
ですが、六話と七話は全く同じです」
「コピーでもしたんですかね?」
私は毛利さんの指摘に静かに頷き、頭の中で整理しながら続きを説明していく。
「何故サインをコピーをしたのか。
考えられる理由としては、新名先生が書きたくなくなったか、もしくは書けなくなった。
もし次の八話も筆跡が同じなら、最悪の事態を覚悟したほうが良いかも知れません」
「それはまさか!」
私の推理を聞いて毛利探偵が言いかけたが、その先は口に出さなくてもわかる。
この場の全員が緊張で顔が強張った。
だがまだ次の原稿は届いていないようで、一先ず他の違和感を探すために担当の人に色々と話を聞かせてもらう。
そうすると、いくつか明らかになる。
まず、当初は主人公が死んだので、連載を再開するつもりは一切なかった。
だが急に電話がかかってきて、やる気になった。
それに全国の名探偵に先生の頭脳を越えたければ、この謎を解明してみたまえと
さらには作中で、新名先生が登場したのでとても変わっている。
シリーズは四十本もあるのに、こんなことは初めてらしい。
「そのシーン、見せてくれませんか?」
「ええ、もちろん構いませんよ」
担当の人の許可を取って、私は新名先生が登場する場面が書かれた紙を受け取る。
眼鏡をかけて念視すると、重要な文字が浮き出る。
これがあるので、小説を読むときは裸眼でないと、すぐにネタがバレてしまうのだ。
とにかく、この場に集まった人たちも一緒になって覗き込んでいるので、ちょっと落ち着かない。
「あざみお姉さん、何かわかった?」
「誤植でないなら、ここには新名先生が助けを求めるメッセージが隠されています」
私が皆に説明しようとしたところで、ちょうど新名先生の八話目の原稿が届いたようだ。
一気持ちを落ち着かせるために深呼吸しながら、先にサインを重ねてみる。
「……全く一緒ですね」
「そっ、そんな!?」
依頼人が、ショックのあまり膝から崩れ落ちそうになる。
あくまで最悪そうなる可能性があるだけで、まだ新名先生が殺されたと決まったわけではない。
もちろん早く見つけないと事態は悪化する一方なので、ジャスミンさんに
だがそれだけでは終わらず、私は八話目の原稿をチェックしたあと、ジャスミンさんに大きな声で呼びかける。
「ジャスミンさん! ハイドシティホテルの2407号室です!
新名先生はそこにいます! 急いで! もう時間がありません!」
「わっ、わかった!」
本当は暗号の解読に関して詳しく説明したいが、八話目にもう時間がないことが暗号で記されていた。
なのでそこは後回しにして、急ぎ新名先生が監禁されていると思われるハイドシティホテルに向かうのだった。
その後、急いで2407号室に踏み込んだ私たちは、危篤状態の新名先生と会う。
暗号は全て彼が仕組んだことで、原作者が答えを出す前に解いた得意満面な顔を見たいという理由だったようだ。
それは別に良いが、残念ながら自分には当てはまらない。
平成のミス・マープルは過大評価で、念視頼みで答えを解いた一般人なのだ。
ただ娘さんは親の死に目に会えて良かったし、お別れを言う時間もあった。
「それにしてもまさか、福来探偵も読んでくれていたとは、作家として鼻が高いよ」
「今回は偶然ですけどね。でも私は、新名先生の小説は好きですよ」
流石に40巻の小説全部を読むほどの熱心なファンではないが、初期の数冊程度なら目を通している。
だが私は、広く浅くのライトオタクだ。
途中で別のモノに興味を持って、以降は積んでしまっていた。
「それでもキミが読者の一人であったことは、私にとっては何よりも嬉しいよ。
おかげで娘にも会えたし、最後にあの世の良い土産話ができた」
末期癌で死にかけなのに流暢に喋っているように見えたが、どうやら最後の気力を振り絞っていたようだ。
そこから先は激しく咳き込んで、体調が急激に悪化する。
彼はそのまま眠るように、息を引き取ったのだった。