大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
私が相変わらず自宅で書類の山に埋もれていると、コナン君から急ぎの電話がかかってきた。
犯人の二人が射殺された十億円強奪事件を追っているようだ。
広田まさみさんの車に発信機をつけて追跡しているが、彼女も真犯人に殺されるかも知れない。
なので私に助けて欲しいと連絡が来たのだが、ただの女子大生に無理を言ってくれる。
しかしどれだけ無茶振りされても、見捨てるわけにはいかない。
一先ず福来あざみの名前で警視庁に連絡を入れて、至急港の倉庫に人を向かわせるようにお願いする。
今の時点では納得のいく推理や説明ができなかったので、回せる人員は少ない。
おまけに敵戦力も不明のため、下手をすると返り討ちに遭う可能性もあった。
そこで私は困ったときに頼りになる都会の掃除屋に電話し、広田まさみさんの保護を依頼する。
だが、ただ助けただけでは今後も付け狙われる可能性もある。
なので、一芝居打つことにしたのだった。
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広田まさみは偽名で、本当の名前は
そんな私は妹と二人で、とある組織に所属していた。
銀行から十億円を盗み出したのも、上からの命令だ。
同時に、ある約束もしてくれた。
この仕事が終わったら、私と妹を組織から抜けさせてくれるのだ。
そもそも末端の私が、上からの命令に逆らえるはずもない。
しかし残念ながら、そう美味い話はなかったようだ。
妹は組織に必要な人材だから抜けるのは許さず、私は不要なので今ここで殺しても構わないと言い切った。
既に強奪計画のために雇い入れた二人は、彼らに始末されている。
それでも現時点で、十億円の隠し場所を知っているのは自分だけだ。
倉庫の中で黒ずくめの二人と対峙し、私は銃をつきつけられる。
「さあ、最後のチャンスだ。金の在処を言え」
こちらも、せめてもの抵抗で拳銃を構えた。
「甘いわね。私を殺せば、永遠にわからなくなるわよ」
「甘いのはお前の方だ。コインロッカーの鍵を持っていることぐらい、わかっている」
どうやら隠し場所はお見通しだった。
しかし、まだ時間稼ぎの策が残っている。
ただ自分が殺されたら、遅かれ早かれ見つけられてしまう。
コインロッカーに隠したことを知られてしまった以上、嫌がらせにしかならない。
「それに、言っただろう?
最後のチャンスだと」
もはや、どう足掻いても逃げられない。
そう悟ったとき、大倉庫に銃声が響き渡る。
私は思わず目を閉じて死を覚悟したが、弾丸に撃たれた痛みはない。
不思議に思い、恐る恐る目を開ける。
すると黒ずくめの衣服を着た銀髪の男が、腕を押さえていた。
そして彼が持っていた拳銃は、地面に落ちている。
怒りの表情で私ではなく倉庫の外を、真っ直ぐに睨みつける。
「シティーハンターか!」
「御名答!」
銀髪の男がそう言うと、倉庫の影からゆっくりと大男が姿を見せる。
「貴様! 何故ここにいる!」
「もちろん、お前さん方を掃除するためさ!」
「ちいっ! ウォッカ! 援護しろ!」
「わっ、わかった! 兄貴!」
銀髪の男は落とした拳銃を素早く拾い、転がるように物陰に飛び込む。
さらにサングラスの男が援護射撃をして、シティハンターと名乗った大男と激しい銃撃戦を繰り広げる。
私はあまりにも自分の理解を越えた事態に驚き、一時的にその場から動くことができなくなってしまう。
そんなときに、何処かに隠れている乱入者の声が聞こえてくる。
「女性は殺さない主義だが、これも仕事でね。
悪いがキミには、ここで死んでもらう」
何処からか飛んできた弾丸が数発、私のカラダを貫いた。
激しい痛みで立っていることができなくなり、成す術もなく地面に倒れる。
傷口から漏れ出た赤い血が服を染めるだけでなく、少しずつ周りに広がっていく。
「何処までも目障りな男だ! だが今やり合うには分が悪い!
ウォッカ! 退くぞ!」
「でも兄貴!」
「十億円は手に入らなかったが、裏切り者は始末した!」
確かに彼の言う通りだ。
あまりの痛みで意識が遠のき、全身の感覚がなくなり、冷たくなっていく。
「だが! 念には念を入れないとなあ!」
どうやら倉庫に爆弾を仕掛けていたようだ。
シティハンターの近くで爆発が起こり、彼は咄嗟に飛び退いた。
そうして生まれた隙に二人に距離を稼がれてしまうが、逃がすつもりはないようで追跡を開始する。
だが当然のように倉庫は炎上し、他にも爆弾を仕掛けていたのか爆発音が途切れることなく聞こえてきた。
私は怪我で動くことができずに、黙って火が回るのを見ていることしかできない。
火が燃え移るのが早いか、倉庫が倒壊するのが早いかで、もうすぐ死ぬことだけは理解できる。
だがそんなときに、子供の声が聞こえてきた。
「お姉さん! しっかりして!」
「……コナン君」
私を助け起こそうとしたコナン君の手が赤く染まるが、それでも彼は離れようとはしなかった。
なので死ぬ前に最後の遺言として、黒の組織のことを話そうとしたら、彼とは別の女性の声が聞こえてくる。
「ううー! 誰がここまでやれって言ったんですかあ! 私!? 私が悪いの!?」
半泣きになりながら私に近づいてくる若い女性を、自分は良く知っていた。
黒の組織がもっとも警戒している要注意人物。平成のミス・マープルだ。
「もう、済んでしまったことは仕方ありません! 後始末が大変ですけど!
とにかくジャスミンさん、急いで彼女を運びましょう!」
「あいよー!」
そう言って彼女の隣に居た女性が、怪我人の私を手早く消毒して薬を塗って包帯を巻きつける。
そして何故か持っていた担架に慎重に乗せた。
「あの! あのねっ! あざみお姉さん!」
「コナン君、貴方が何を聞きたいかはわかります。
でも、今ここで全ては答えられないので、一つだけ」
福来さんは肩を落として溜息を吐いたあと、コナン君にはっきりと告げる。
今も断続的な爆発音が響いて火も回りつつあるし、この倉庫もいつまで原形を保っていられるかわからない。
そんな状況で、彼女は随分とのんびりしているように感じられた。
「この人は、すぐには死にません。
意識は遠のくし、死ぬほど痛いですけど。
これは、そういう怪我です」
福来さんはそう言うが、私としては絶対助からないと思っている。
はっきり言って、いつ意識が途切れて永眠してもおかしくない。
そう言って彼女は二人で担架を持って走り出すが、すぐに辛そうな声が漏れる。
「えっほっえっほっ! あっ、でも、思った以上にキツイ!
救急車まで保たないかも!」
「おっおい! あざみー! しっかりしてくれよ!」
担架に寝かされた私を、福来さんとジャスミンさんが前後で持って運んでいく。
だが噂の名探偵は非力なようで、しばらく進むと棒を掴んでいる両手が、プルプル震え始める。
私はそんな状態で、最後に黒の組織のことをコナン君たちに教えていた。
だが火が回りつつある倉庫の外に出たところで、辛うじて繋ぎ止めていた意識が痛みに耐えられなくなったようだ。
プッツリ途切れて、闇に沈んでしまうのだった。
その後、私は病院のベッドで目を覚ます。
どうやら、ここはあの世ではなく、自分は生きているようだ。
監視カメラでも仕掛けていたのか、自分が起きたことを知って医者や警察と思われる人たちがやって来た。
親切なのかはわからないが、今後の私の境遇を教えてくれる。
簡単にまとめると、黒の組織の情報を洗いざらい話して、
そして警察関係者に事情を聞くと、私を助けてくれたのは福来あざみさんのようだ。
その際に、黒の組織の追手を振り切るには前の私を殺して、別人になるのが手っ取り早い。
だからこのような手段を取ったらしく、死ぬほど痛かったが自分が今生きていられることに感謝する。
だが、一人残された妹が心配だ。
今まで二人で支え合って黒の組織で生きてきたのに、自分が死んだとわかったらショックを受けて、最悪自殺してしまうかも知れない。
しかし、自分はもう黒の組織とは関われない。
これからは全くの別人として生きていくしかなく、もし契約が守れないようならこの場で命を絶たれても文句は言えない。
結論として、私は契約を結んで、自分が知っている情報の全てを洗いざらい話した。
その際に自分だけでなく妹も黒の組織から助けて欲しいと、泣きながら懇願する。
けれど公安や警察も黒の組織を追っているが、残念ながら尻尾もろくに掴めていない。
そして唯一追い詰められる可能性がある人物は、世界的な名探偵、平成のミス・マープルだけだった。
彼女の手にかかれば、黒の組織が得意とする完全犯罪も一日足らずで解決するし、尻尾を掴むことも十分に可能だ。
だがそう簡単に彼女の前に姿を晒すことはない。
とにかく黒の組織がもっとも警戒する人物である。
今回の事件も裏で彼女が動いていることに感づいて、倉庫を丸ごと爆破して証拠隠滅を図ったらしい。
つまり現状では妹の保護は不可能で、私は情報を全て吐き出したあとは、田舎の一軒家で暮らし始めることになった。
始終監視されながらの生活だが、それでも新しい人生を始めることができたのだ。
けれど妹が心配なのは変わりなく、周囲に誰もいないときは心の中で妹の無事を祈るのだった。