大学生探偵福来あざみ 作:あざジャス派の猫
私と毛利蘭さん、江戸川コナン君の三人は、
女子高生の蘭さんは、地図を確認しながら進んでいた。
その途中で道が二つに分かれていたので、足を止める。
「分かれ道だわ。ええと、地図によると──」
蘭さんが地図を広げて確認している。
私は少し考えたあとに眼鏡をかけ、注意深く念視を行った。
「どうやら、右に進むようですね」
「確かに右の道の先に、別荘があるわ!
地図も見ないで言い当てるなんて、凄いですね!」
蘭さんが感心しているが、別にそこまで凄いことはしていない。
別荘までのルートは事前に地図を見て頭に入っているし、もし間違っていたらどうしようと不安に思ったので、念視を使って再確認したのだ。
「出発前に地図を見て、たまたま覚えていただけですよ」
褒められると照れてしまうが、別に念視がなくても誰でもできることだ。
とにかく
私たちも同じ道をしばらく歩くと、視界が開く。
そこは深い谷に吊橋がかけられ、向こうに立派な別荘が見えている。
「ついたわよ! あざみさん! コナン君! あそこがそうよ!」
蘭さんが無事に目的地に到着したので、嬉しそうにはしゃいでいる。
だが私は正直、気が気ではなかった。
「誰か歩いてる。あの人も別荘に行くのかな?」
誰かが吊橋の上を歩いていて、こっちに気づいたのか振り向いた。
顔は包帯がグルグル巻きになっており、マントを羽織って体格は良くわからない。
私たち三人がギョッとして体が硬直している間に、その人は別荘に向かって走り出す。
「あっ、あの人も別荘に行くのかな?」
「ちっ、違うんじゃない?」
「別荘とは関係ないことを願います」
別荘と全身包帯の怪人とくれば、どう考えても殺人事件が起こるフラグにしか思えない。
なので私はせめて何事もなく過ごせますようにと、心の中で半泣きになりながら切に願うのだった。
その後は
なお包帯を巻いた怪我人は別荘には居ないから、きっと近くに住んでいる人だろう。
とにかく皆は、自室ではなく居間に集まる。
和気あいあいとした雰囲気で昔話に花を咲かせるが、途中で重い空気に変わった。
「……アツコも、アツコもあんなことがなきゃ。
きっとここに来てたのにね」
「……アツコ?」
私は映画サークルに所属しているが、入部したのは極最近でその頃には既に亡くなっていた。
もっと言えば話題に出すこと自体が珍しく、聞いて欲しくなさそうだったので、詳しいことは何も知らない。
とにかくその後は、先輩と一緒に皆の食事を作ることになる。
こう見えて家事は割と得意だし、他の面々と別れて一旦お開きになるのだった。
やがて、しばらくすると雨が降ってくる。
自分は台所で先輩と一緒に料理をしていたので気づかなかったが、森の中で蘭さんが包帯男に襲われたらしい。
玄関の前で皆が集まって互いに情報を話して、犯人の手がかりを得ようとしている。
当然のように自分も料理を中断して参加しているが、色々と教えてもらう立場だ。
「どうしたら良いかしら? あざみちゃん」
「それはもちろん警察に連絡を……って、何で私に聞くんですか?」
先程まで一緒に調理作業をしていた
なので、つい条件反射で答えてしまう。
「ほら、あざみちゃんは大学生探偵じゃない?
こういう事態に慣れていると思って」
「全然! 慣れてませんよ!」
確かに依頼を受けることもあるが、巻き込まれてやむを得なく推理することも多い。
昔よりも事件や事故に慣れてはいるけど、そんな不運に慣れているとは口が裂けても言いたくはなかった。
(コナン君と蘭さんが居るから、そんな気はしてたけど!)
私は若干泣き顔だったが、事件が起きてしまった以上は仕方がない。
気持ちを切り替えて
「なにっ! 電話が通じない!?」
「ええ、昼間はちゃんと通じてたのに、さっきの雷で電話線が切れたのかしら?」
こういう別荘事件で、お決まりの連絡不能になってなってしまう。
おまけに高橋さんが恐怖で震え上がり、大声で叫んで走り出した。
「あいつだ! あの包帯男が切ったんだ!
あいつが! あいつが! うわあああ!!!」
こんな状況で単独行動させるわけにもいかずに、慌てて彼を追う。
そのまま全員一緒に外に出ると、何故か吊橋が落ちていた。
私たちは、完全に閉じ込められてしまったのだった。
<コナン>
園子に山奥の別荘に招待された俺と蘭だったが、その途中で意外な人物に出会う。
彼女は大学生探偵と呼ばれている有名人で、自分の憧れの大先輩でもある。
俺より早く探偵として活躍し始め、数々の難事件や迷宮入りの事件を解決してきた実績もある凄い人だ。
なお、この情報は一般には公開されていない。
だがニュースや新聞で善意の協力者、またはHさんと表記されることがある。
なので顔も名前も知られていなくても、彼女の噂は何故か誰もが知っていた。
そんな福来あざみさんのことを、各方面に伝手がある親父から聞かせてもらうのは楽しかったし、実際に小説のネタとしても大いに活用している程だ。
それはともかく、俺は彼女のことを尊敬している。
報道でも事件や推理について解説することがあるので、昔から色々勉強させてもらっていた。
そもそも推理や探偵に興味のある人の殆どが、何かしらの影響を受けているのは間違いない。
今では世界中で知られるほどに有名人で、特に居住地である日本での知名度はかなりのものだ。
なお、当人は探偵業をする気はなさそうである。
それでも根っからのお人好しなので、巻き込まれたり頼まれたら断れない。
今回も包帯男の怪人が現れて、渋々ながら推理をすることになった。
俺にとっては憧れの名探偵を近くで見学できる、滅多にない機会だ。
まあ事件が起きているし、ありがたいと言う気はない。
それでもいつかは追いつき、並び立ちたいと思っている。
注意深く観察して、勉強させてもらう気満々なのだった。
前に月影島でも会ったが、あの時は
彼女が正体を隠すために良く使う偽名で、事件や事故には興味があっても一般人を装い、ヒントを与えて他の探偵や警察に任せている。
殺人現場でバッタリ会ったときは変装していたし、名前は口にしなかった。
なので俺は福来あざみさんとは気づかずに、正体不明の怪しい探偵と思っていたが、まさか彼女がそうだったとは迂闊だった。
今さら無理に聞き出そうとは思わない。
だがあの時は、俺が気づけなかった証拠を見つけ出し、十二年前の事件と今起きている殺人事件の繋がりも、あっさり見つけ出した。
きっと福来あざみさんは、あの時点で犯人が誰かわかっていたのだ。
しかし彼女は毛利のおっちゃんと違い、表に出て注目を浴びることを好まない。
他に探偵がいれば手柄を譲ることも多く、犯人逮捕までのヒントを与えて事件の解決を見届けたあとは、月影島から早々に去ってしまった。
おまけに
本土から来た警官に見張らせて、万が一の事態に備えていた。
おかげで一命を取り留めたが、全身に大火傷を負ってしまう。
俺はあのときの過ちを二度と繰り返さないと、心に決めることになったのだった。