大学生探偵福来あざみ   作:あざジャス派の猫

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ホームズ・フリーク殺人事件2

 次の日になり、予定通りに起きて食事を済ませたものの、オーナーが全く姿を見せない。

 妙に思ったものの、そのうち現れるだろうと皆で待っているうちに、いつの間にかすっかり日が暮れてしまう。

 

 それでもオーナーが姿を見せることなかった。

 とうとう日付が変わってしまう。

 

 実は初版本を譲る気はなくて、ただ自慢するだけのツアーという噂が流れ、一人また一人と不満を口にしながら自室に戻っていく。

 

 私はオーナーの噂は知らないし、別に何とも思っていない。

 けれど、今すぐ布団に入って眠りたい欲求には勝てなかった。

 

 半分ほどに人数が減り、自分もそろそろお暇しようと思い始める。

 

「ねえねえ、あざみお姉さん」

「何? コナン君」

「あざみお姉さんは、何で探偵をしているの?」

「私は探偵が本職じゃなくて、……まあ、それは知ってるか」

 

 コナン君は私の大ファンのようで、めっちゃ懐かれているようだ。

 まあ別に詳しい理由を知りたいとは思わないし、大体合っていれば良い。

 

 そして隣の服部君も、興味津々という表情で私たちのやり取りを眺めている。

 

「困っている人を、放っておけないのが理由かな」

 

 私が探偵を続けることで、事件や事故で亡くなったり不幸になる人は減っているはずだ。

 少なくとも未解決事件ではなくなるし、無実の罪で捕まる人も減らせる。

 

 それに真犯人も逮捕されるのだ。

 全てが丸く収まりはしないけど、怖くて震えながらも推理を頑張ったかいはあると信じたい。

 

「他に理由はないの?」

 

 コナン君がもう一度同じ質問をしてきたので、私は少し考える。

 

「バイト代のためとか?」

 

 警察や各関係機関からの依頼を受けることがあり、その場合は賃金が発生する。

 大金を持つと怖いので銀行に振り込んでもらい、お財布には月々のお小遣い程度しか入れていない。

 

「それはまた、俗っぽい理由やなあ」

「別に危険に飛び込みたいわけじゃないしね」

 

 大きく息を吐きながら口にした服部君に、探偵業に魅力は感じていないことをはっきりと告げる。

 困っている人を助けられて、お金も手に入るから続けているだけだ。

 

 好き好んで危険に飛び込む趣味はなく、今まで関わった事件や事故も殆どが成り行きや、やむを得ない事情があったからである。

 

「探偵は嫌いじゃないけど、できれば事件とは無縁に暮らしたいなあ」

「そういうとこが、ミス・マープルと呼ばれとる理由やないか?」

「うんうん」

 

 服部君の鋭いツッコミに、コナン君が同意する。

 蘭さんは困ったような表情をして成り行きを見守っているが、一理ありと思っているようだ。

 

 その後はコナン君と服部君が、私が過去に関わった事件や事故について聞かせて欲しいとお願いされたので、公表しても問題ない範囲を話していく。

 

 その際に犯人や動機や推理について、互いに意見を口にしながら、オーナーが姿を見せるまでのんびり時間を潰すのだった。

 

 

 

 

 

 

<服部平次>

 工藤新一に会えるかも知れないと参加したシャーロック・フリークツアーだが、そこで予想外の人物と出会うことになる。

 

 平成のミス・マープルと呼ばれている、福来あざみさんだ。

 探偵に対する最大限の賞賛を、彼女は過大評価だと照れていた。だがオレは、そうは思わない。

 

 何しろ福来さんは現場に行くことなく、事件や事故の書類を読むだけで完全に理解して解決に導くからだ。

 

 大阪府警も、難事件の調査協力を依頼したことがある。

 膨大な資料や数少ない証拠品を彼女に届けたあと、たったの数時間で返却された。

 

 今は夏休みの宿題で忙しいから、調査に手を抜いたのではないかと、機密漏洩防止のために大阪から派遣された大滝悟郎は訝しがる。

 

 だが渡された資料の確認をしていくたびに、みるみる顔色が変わっていく。

 彼女はたった数時間で資料や証拠品の全てに目を通して、重要もしくは不自然な箇所を補足したり、さらなる調査を要求したのだ。

 

 ちなみに福来さんは、本当に夏休みの宿題が終わっていないようだった。

 

 不甲斐ない大人の尻拭いをさせられ、長期休みなのに旅行どころか外出も満足にできない。

 家に籠もりきりで、各方面からひっきりなしに送られて来る調査資料を、手早く処理し続けているのだ。

 

 大阪府警もその一つで、夏休み終了の三日前のことだった。

 宿題は殆ど白紙であり、説明を求められれば答えるけど、あとは警察にお任せしたいですと半泣きになりながら言われてしまう。

 

 日本を代表する名探偵とは思えない切実さだ。

 同時に、年相応の子供らしさを感じられる。

 

 なので忙しいときに依頼をして申し訳ないと、重ね重ね謝罪する。

 今度、手土産を持ってお礼に伺うからと感謝を伝えると、二度と来なくていいですと言われた。

 

 どうやら福来さんの頭の中には、予期せぬ来客イコール、面倒な仕事を頼みにくる人という図式ができているようだ。

 確かに一理あるし、学校生活と探偵業の二足の草鞋である。

 

 殆どは断っているが、それでも何かしらの対応をしないといけない。

 現に長期休みなのに宿題を片付ける時間どころか、外出や休息さえもままならずに長期休みが殆ど終わってしまう。

 今も半泣きになっている。

 

 そこまで嫌なら全部断れば良いのに、困っている人を見捨てられないお人好しだし、どうにも押しに弱い。

 何なら国家権力で課題免除も可能なのに、本人は探偵ではなく一般的な生活を求めているようで、そういうのには頼りたくないと意地を張っている。

 

 どうにも、ままならないものだ。

 

 とにかくその後は、急ぎ大阪府警にとんぼ返りする。

 部下に携帯で連絡を入れさせて、速やかに再調査を行う。

 

 すると、あれだけ行き詰まっていてお手上げな事件だったのに、呆れるほどトントン拍子に捜査が進んでいく。

 やがて、あっという間に真相に辿り着き、真犯人も逮捕される。

 

 大阪府警が捜査本部を立てて総力をあげて捜査しても、手がかりや証拠品が殆ど見つからなかった事件が、福来さんの協力を得たら一日かからずに解決したのだ。

 

 ミス・マープルは、人物に対する観察力と長年の経験に裏付けられた洞察力を持っている。

 福来さんはまさに、その二つ名が相応しかった。

 

 とにかく彼女は日本の宝なので失うわけにはいかず、監視や護衛がつけられている。

 

 彼女にバレなければ問題ないので、近くのマンションやアパートに住み込んで近隣住民として接したりと、公安や警察の関係者だとわからないように気をつけて守っていた。

 なおこれは自分の推理であり、表向きの情報は一切告知していない。

 

 何しろ当人は探偵を続ける気も、国家公安や警察庁に所属する気も全くない。

 平穏な暮らしを求めているところもミス・マープルっぽいが、彼女を必要としている人や組織が多すぎる。

 

 当分は、安楽椅子に座れなさそうだ。

 

 ちなみに大滝悟郎から聞き出した情報なので、誰にも話さずに心のうちに留めている。

 

 だが和葉がファンなのは本当だ。同時にオレも密かに憧れていた。

 今回も直接会えて話す機会に恵まれたので内心では大喜びしていたが、高校生探偵として表面上は平静を装うのに、かなり苦労していたのだった。

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