トレーナー君が欲しいシンボリルドルフ VS サブトレ時代のトレーナー君の相棒スピードシンボリ VS ダークライ   作:St. One is Stoned

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レース映像の画質が悪くて判別しがたいことがままあります。
ゼッケンが二桁だともう読めない。16と18とかだとホントに読めない。向こう正面になると、もう、ね。

いい時代になったものです。



思ったより菊花賞があっさり終わってしまいましたが、まあ話の軸はJC・有馬ということで……


かくて皇帝は戴冠す

「京都の3000mはただでさえ長い距離に加え、高低差4.3mの坂を二回登らなくてはならない。何よりもスタミナ、そして冷静なペース配分が要求される」

「どうした急に」

「加えてコーナーを六回回るため、如何に内側をロスなく立ち回れるかも重要だ。小回りとレース運びも求められる。それに歓声を受ける下り坂でのペース維持、稍重の坂を登るパワー、初体験の距離でのスパートのタイミング、とにかく要求される能力が多岐に渡る」

「つまり、ほんとうに強いやつを決めるってことだな」

 どっかの二人組の解説の通り、菊花賞はこれまでとはその性質を大きく異にする。

 3000mは紛うことなくステイヤーの距離だ。更に二度の坂と、とにかく長丁場を耐えきる強さが求められる。だから格言でも「最も強いウマ娘が勝つ」のである。

 このレースにおいても、1番人気はやはりシンボリルドルフだった。ゲートは3枠5番。これも都合がいい。

 というのも、菊花賞は第1コーナーまでの距離が短い。この間に、消耗を抑えようと熾烈な内側争いが行われる。よってあくまでも傾向だが、菊花賞は外側不利の傾向がある。そこに来て、3枠5番は上々だ。

 2番人気は、前哨戦の京都新聞杯を見事に勝ち、その後のインタビューで菊花賞決戦を宣言したニシノライデン。勝負服は、白シャツの上から学ランを羽織ったもの。学ランに施された黄や紫の雷の意匠と、やけに高い白シャツの襟が特徴的だ。

 シンボリルドルフは、本田が先日話していたことを思い出す。

「聞いたところだと、あの襟は彼女の悪癖を矯正するための工夫らしい」

 曰くニシノライデンは斜行グセがあり、それは無我夢中で走る際の視線のブレに起因する。そこで高い襟で下方向の視野を意図的に狭め、目線が前を向くようにする。同時に、喉あたりの襟のない部分をスリットにすることで、どこが正面かを感覚的に教え込む。このタテとヨコの補正によって、ニシノライデンは目線のブレを最小限に抑え込むことができる。

 とても合理的だ。ある物を使って、できる範囲で、できるだけのことをやっている。

 まさに、執念。

 そういう者は、強い。

 ニシノライデンは6枠11番。今年の菊花賞は18名立てだから、やや外寄りのスタート。とはいえ最初の直線がゴチャつくので、チャンスはある。

 そこで今回の作戦だが、今回は中団でレースを進める予定である。というのも、確実にシンボリルドルフはマークされるからである。逆にそのマークを引き連れたまま前のレースをやって、磨り潰すという案もあったが、没になった。それはシンボリルドルフへの負担も大きい。ジャパンカップを二週間後に控える以上、なるべく負荷のない詰将棋のような勝ち方をするべきだ、というのが本田の意見である。

 シンボリルドルフのレース勘ははっきり言って驚異的だ。だったら、それを活かした方が良い。シンボリルドルフなら、ゴチャつく中団の中でも、うまく消耗を抑えながらレースをできる。それにいざ抜け出す際に、塞がれている心配もない。

 賭けもない。意表もない。派手さもない。勝つべくして勝つ横綱の勝ち方。シンボリルドルフには、それしかなかった。

 それ以外のやり方を、彼女は知らなかった。

「どれだけ退屈な走りだろうと、強ければ──勝ち続けさえすれば、結果に夢は見られる筈だ」

 例え、走りという過程で、何も為せなかったとしても。

 

 

『スタートしました。さあ18名、これから一周目の3コーナーの坂を登りに向かいます』

 最初に先頭に立ったのは、内側を突いたロングハヤブサ。そこにスズマッハが続く。

 ウマ娘のスピードなら、スタートから最初の坂まではあっという間である。そのあっという間の間に、リキサンパワーが上がってきた。スズマッハを抜いて2位につける。彼女は8枠16番とかなり外側なので、先頭争いには出遅れた。にも拘らず競り合ったのは、如何に菊花賞で内側をとることが重要かの証明である。

 坂を登り終わって下り坂。菊花賞は向こう正面からのスタートであり、スタート直後は比較的受ける歓声が少ない。しかし第1コーナーを回るあたりから、G1の歓声がウマ娘を包みに来る。しかもこの辺りは下り坂なので、油断しているとハイペースになりやすい。

 無論菊花賞に出走するウマ娘は、それくらい承知している。よって彼女らは対策を取る。それは単純、この辺りでは意識的にペースを落とす。もとより第1コーナーを回る頃にはおおよその配置が決まっていて、それを変えるには明確に「仕掛ける」必要がある。しかし菊花賞は3000m、早仕掛けは即刻命取りである。

 そういった事情から、例え下り坂と言えどそこまでペースは上がらない。第1コーナーを抜けるあたりでの配置は、先述の通りロングハヤブサ、リキサンパワー、スズマッハ。そこに続くのは4番手に内側のカルストンイーデン。更にラッシュアンドゴー、大外枠から大回りでサウンドパーソ、その内側のミスタールマンと続く。先頭集団はこのあたりである。

 では、シンボリルドルフは何処か。スタンド前に入る辺りで、シンボリルドルフは中団、12番手か13番手あたり。とはいえ菊花賞は長丁場、下手に仕掛けるのは悪手だし、こうも長ければ自ずとチャンスもやって来る。

 先頭に話を戻すと、1番手ロングハヤブサが内ラチ沿いを攻めて距離の削減を狙っている。彼女は本質的にマイラーなので、こういう努力をして距離を少しでも削減しなければ、そもそも勝ちの目がない。1枠2番という恵まれた枠順で、どこまで粘れるか。ニシノライデンは10番手と丁度真ん中あたりにつけている。

 第3コーナーに入ると、観客席からは徐々に遠くなる。しかし、これで安心だとギアを上げることはしない。寧ろ第3から第4コーナーにかけて、ますますペースを下げていく。それには2つの理由がある。

 一つには、二回目の向正面からは仕掛ける者が現れ始めるということがある。自身が仕掛けるならいざ知らず、そうでなくとも仕掛けに対応するには余力があった方が良い。とはいえもう一つの事情から、ここで向こう正面で仕掛ける者は余り居ない。

 もう一つには、向こう正面の先、第5コーナーに待ち構える、高低差4.3mの上りが挙げられる。この坂の攻略方法は「ゆっくり上ってゆっくり下る」*1ことだ。スタミナを回復させておき、上りに入った際の負荷を下げる。そのためには、このあたりはスローペースが望ましい。

 その中でも減速の極みシンボリルドルフを行った。それは望ましいことである。歓声や一部の仕掛けに引っ張られる中、ゆうゆう自分のペースで進むシンボリルドルフは後方から4番手。その後に続くのは2バ身下がって内側コガイチマル、更に後ろ外側マチカネホンドーリ、そして最高峰、5枠8番ゴールドウェイ。

 それとは対象的に、向こう正面で仕掛けたのは、かのニシノライデンである。ロングハヤブサ、リキサンパワー、ラッシュアンドゴーに続く3番手まで上がってきた。更にハーバークラウンも位置を上げ、先頭集団の最後尾に喰らいつく。

 第5コーナーの上りに入る辺りで、幾名かが一斉に仕掛けた。まずリキサンパワーが先頭に立つ。それを更に抜き去って、ニシノライデンが先頭に立つ。フォスターソロンも負けじと並び、二名が並んで下りに入る。

 残り800。

 後方では、シンボリルドルフが体勢を整える。最終直線での抜け出しに丁度いい、中団だいたい10番手までするするっと順位を上げる

 残り600。

 下り坂が終わって、今度はスズマッハが突っ込んでいく。一気に切り込んで、ニシノライデンに並ぶ。或いは、抜かす。

 残り400。

 外側から、黄色の勝負服が先頭に迫る。ゴールドウェイだ。一時は最後方に立ったゴールドウェイが、大外から強烈な強襲をかける。

 残り200。

 ここでシンボリルドルフが前に出る。突っ込むゴールドウェイより内側の影から、シンボリルドルフが進出する。ニシノライデンは粘る。脚をぶっ叩いて喝を入れる。疲れ切って伸び切った筋肉を叩いて、緊張を与える。懸命に、懸命に。

 残り100。

 ここで先頭が変わる。シンボリルドルフが先頭に立つ。続いてゴールドウェイも追いすがる。一気に二名がニシノライデンを抜き去っていく。

 残り50。

 ゴールドウェイが迫る。ゴールドウェイが迫る。終盤のやり方はかのシンボリルドルフに近しい策を取ったのだ。余力はある。2バ身から1バ身、1バ身から半バ身。

 迫る。迫る。しかし、迫るが、迫るが。

 ──届かない。

 半バ身が4分の3バ身まで開いたとき、シンボリルドルフはゴール板を通過した。

『シンボリルドルフ、8連勝無敗の三冠ウマ娘達成であります。大歓声だ京都レース場!赤い大輪が薄曇りの京都レース場に大きく咲いた!』

 無敗で、三本指。皆──ここに居る誰もが認めた。シンボリルドルフが、この世代では最強だ。

 しかし、シンボリルドルフは止まってはならなかった。

 

11月25日 ─ジャパンカップ─

*1
最近はそうでもない。池添騎手曰く「それが正解だったのは20年近く前」とのこと




ニシノライデン
 得意なこと:方程式のグラフを綺麗に描くこと
 苦手なこと:流行りの言葉(ただしマルゼンスキーの言語も苦手である)

シャドーロールが勝負服に全然落とし込めませんでした。ナリブのデザイン描いた人はすごいよ。
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