トレーナー君が欲しいシンボリルドルフ VS サブトレ時代のトレーナー君の相棒スピードシンボリ VS ダークライ 作:St. One is Stoned
ビゼンニシキは史実では青森産まれですが、ウマ娘世界だと(タマモクロスのように)岡山産まれになっている可能性もありますね。
ジャパンカップ、同日。最早シンボリルドルフの実力はオープン戦のそれではなく、これを快勝。以降、翌年3月の皐月賞に向けて、調整に入る。
よってこの話はレースではなく、その後に起こった、全くの偶然の話である。
シンボリルドルフが出走したのは11時スタートの3
6Rは13時10分から始まるさざんか賞である。4R、5Rは何れもダートなので、喫緊の課題ではない。無論ダートの不遇さを思えば、是非とも見ておくべき内容だが、まずは芝を盤石にして、立場を安定させてからでも遅くない。そういう理由で見なかった。その間何をしていたかというと、昼食にしていた。『ウマそば深大寺』の「イカゲソ天そば」を頂いていたのである。
さざんか賞は芝だから見ておきたい。混雑のせいで遅れたくない。そういう理由で早めに昼食にした。それが偶然を産んだ。
「飲み物を買ってくる」と言った本田と分かれ、席へ戻ろうと歩いていた時である。ばったりと、お互い不意打ちに、とあるウマ娘と出会った。
ビゼンニシキである。鹿毛で、170cmほどだろうか。シンボリルドルフより若干背が高い。それに合わせて体つきも幾分かボリューミーである。シンボリルドルフより筋肉ががっしりしていて、瞬発力がある。代わりに体重が重めで、長距離で不利。そういう肉体をしている。多分これから更衣室に行くのだろう。
シンボリルドルフ側は、ビゼンニシキをクラシック一番の強敵と見ている。とはいえ、果たして逆もそうなのか? ハーディービジョンとかの方が警戒されてるんじゃないか? これがお互いにライバル視しているなら、むしろ宣戦布告でもするべきだろうが、そうでなかったらただの恥ずかしいヤツである。かといってライバル視されているなら、「はじめまして」とか上品にするのは却って皮肉である。さてどうしたものか。
結局、沈黙を終わらせたのはビゼンニシキの方であった。とはいっても、彼女も距離を掴みかねている様子ではある。
「すみませんが、急いでいるので。失礼……」
何割本当かは知らないが、上手く言葉を選んだものである。シンボリルドルフは内心感心した。
「どうした、ぼうっとして」
本田が帰ってきた。手に握っているのはやはりブラックコーヒーだ。そんなに無糖のカフェオレがいいなら、マイボトルで持ってくれば良い気もするが、本田曰くそれは「風情がない」らしい。
「いや、さっきここでビゼンニシキと出会ってね」
「それは驚いた」
「お互い、距離感が分からないんだ。初めましてと言うべきか、戦うときはよろしくと言うべきか」
「それは悩ましい」
「こういう時、場を和ませるジョークがあると便利だと思わないかい?」
「それは思わない」
「……随分辛辣じゃないか」
「嫌な予感というやつがひしひしとするんだ。せめて、まず身内でテストしてくれ」
「それは勿論。結果や実力というものは第三者に見てもらってこそ客観的に評価できるというものだ。それに出来の悪いジョークを披露するのは失礼にあたる」
ジョークに対しての心構えというやつに、深刻な誤解をしている気がするが、本田は面倒くさくなったので切り上げた。後にエアグルーヴのトレーナーに恨まれたり、本田自身痛切に後悔したりするのだが、当時の本田はちっとも気にしていなかった。後に本田はこれを人生最大の失敗と語る。
とはいえ、未来の話を一旦さておいて、話を戻す。
「ビゼンニシキの調子は、君の目にはどう見えた?」
「かなり良さそうに見えました」
「やはりか」
ビゼンニシキは後方からのレースをするタイプである。デビュー戦では追い込みで後続に6バ身差をつけるほどの実力を持つ。それが調子よく進んでくると、目下の強敵はやはり彼女に他ならない。
「さざんか賞、見ておいて正解だったな」
実際、ビゼンニシキはさざんか賞を快勝した。バ場の差もあるとは言え、デビュー戦からタイムを2.1秒縮める*1という快調を見せた。
ジャパンカップもさざんか賞も11月だから、12月の幾つかのレースは残っている。とはいえシンボリルドルフの適正を考えると、クラシック──具体的には、皐月賞トライアルレースである弥生賞──に直行が妥当であった。
弥生賞は(皐月賞と違って、ややこしいことに)、名前の通り3月に行われる。そういうわけで、シンボリルドルフは冬一杯を休養とトレーニングに充てることになる(あと生徒会)。
とはいえ、当然ながらそればっかりやっているわけでもない。むしろシンボリルドルフは同年代の友人を大切にしたいと思っている。
「ほら、さっさと寝たらどうだい」
「ねねね寝てますわ」
「起きてるじゃないか」
「ねねねね寝言ですわわわ」
「痙攣しながら寝言を言うなら、病院に言ったほうが良い」
現にこうして、レースを明日に控えた同室の緊張を解そうとしている。
彼女の名前はマリキータと言って、ティアラ路線を志望しているウマ娘だ。身長は150cm前後で、体重は彼女曰く「もう少し欲しい」とのこと。深い黒鹿毛の長髪と、体重相応の薄っぺらい体つきが、何とも日本人形とか大和撫子とかいう言葉を似合わせる。現に勝負服は扇子を持った和装である。
とはいえ性格も淑女然としているかといえば、全く持ってそんなことはなく、大層愉快な性格の持ち主である。
「安心し給え、マリキータ。こういう時に場を和ませリラックスできるよう、このシンボリルドルフ隠れて努力していたのだ」
「全く以て安心できませんが、却って気は逸れますね」
「辛辣だが、それでこそ己を磨くことができるというものだ。か──」
「『神隠れしていては成長の予知ははい』とかほざくんじゃねーでしょうね」
シンボリルドルフはビクッと毛を逆立てた。
「ふ、ふふっ。一本取られたね。しかしそれでこそ、実力を更新する──」
「『行進を続けられる』とでも言うんですか?」
シンボリルドルフはとてもションボリした。
「そんなに言葉遊びがしたいのなら、火焔太鼓*2でも聞いたらどうです? ああいうのをうまいジョークというのです」
「しかしああいうのは、サゲ*3だけ聞いてもクスッとはしないだろう?」
「そういう伏線をこっそり仕込むことが技術なんです! あるマジシャンは友人の家に招かれた時、必ずマジックのタネを仕掛けたと言います。そのタネの殆どは誰にも気付かれぬまま朽ちていくでしょうが、百個のうち、千個のうち一つ二つは活躍の場が来るかもしれない。もう一度その家に招かれた際、出来得る限りのショウをするために、そのマジシャンはひたすらにタネを仕掛けたのです! エンターテイメントに捧げる覚悟とは、そういうものなんです!」
熱弁だった。同室のシンボリルドルフもこれまで知らなかったことだが、彼女のギャグとジョークとエンターテイメントに対するこだわりは相当なものだった。彼女の前で「始めって言ったら始めるんだよキミ達」なんて言おうものなら、絶対にブッ飛ばされてしまう。考えてみれば、マリキータの私物には落語やら和歌やら浄瑠璃やら、言葉遊びの混じった類の本が多かった。シンボリルドルフはこれを教養豊かで勉強熱心なのだとしか思っていなかったが、よくよく見ればラップ(エミネムとか)とかも混じっていた。
この気迫にはさしものシンボリルドルフもたじろいだようで、これ以上ジョークを言うのは藪蛇と悟ったようである。
「大丈夫だ、マリキータ。ほら、天気予報を見たまえ」
そう言ってシンボリルドルフはスマホを差し出す。それによると明日の船橋*4は一日中曇りとある。
「前回、君の成績が振るわなかったのは、不良バ場だったからだ。君はパワーよりスピードに秀でるタイプの脚だから、バ場は良いほど好都合だ。そして明日のバ場は、まず間違いなく良バ場だ」
客観的な話をすると、シンボリルドルフが振るわないと言った前走でも、マリキータは2着につけていた。しかしデビューから2連勝、しかもどちらもレコード勝ち、しかも2戦目に更新したレコードは1戦目の自分のもの、という快進撃を遂げていた彼女からすれば、2着というのは途轍もないショックだったのだ。
それと、これはシンボリルドルフは知らないことだが、マリキータにはもう一つ事情があった。同室のシンボリルドルフがクラシック三冠を目指しているのは知られていることだが、割と負けず嫌いで、一年早く三冠を達成したミスターシービーに複雑な思いを抱いていることはあまり知られていない。しかしシンボリルドルフの本性を知る者からしてみれば、まず間違いなく対抗心を抱いており、まず間違いなくミスターシービーを超える快挙の一つや二つは達成しないと気が済まないというのは疑いようのない事実であった。
そしてその快挙のうち、一番すぐできるものといえば「無敗三冠」である。確実にこのライオン丸は無敗三冠を狙っている。
同室がそんな快挙を狙っているのだ、負けてはいられない。それどころか「史上初にして無敗のトリプルティアラ」を達成してやろう。この傲慢ちきで、背負い込み過ぎで、とても優しい良き同室の鼻を明かしてやろう──マリキータの野望はこんなものであった。そしてこれは驕りではない。不運さえなければ、達成できる天賦の才が彼女にはあった。
彼女の2着とは、それほどに大きな傷だった。思えばこれまで順風満帆だった人生に、いきなり現れた障害である。しかもそれはすでに過去ゆえに変えられず、しかもそれは自分の無力でも他者の才覚でもないのである。ただ単純な不運。
しかしシンボリルドルフにしてみれば、友人が燻っているのは耐えられるものではない。それが己に並ぶ才能、しかも己の届かぬ領域で輝く才能の持ち主である彼女ならば尚更である。マリキータの野望も心中もシンボリルドルフは知らなかったが、例え知っていても対応はきっと変わらなかったであろう。
「元気を出せ。力まずに、火照らずにやれば、きっと勝てる。デビュー戦のときのようにやるんだ。風の吹くままにリラックスすれば良い。君には
マリキータは目をぱちくりさせた。
「貴方、本当に覚えが早いですわね。いまのはちょっとうまかったですよ……」
「本当か!? だが、マリキータのアドバイスのお陰だ。マリキータの教養深さと機転には敵わない」
「そう言ってくださると有り難いですね」
するとマリキータは両腕を上げて、「ふあぁぁあ」と大口の欠伸をした。
「はしたないぞ、マリキータ」
「いいじゃないですか、ようやくリラックスできたんですから」
「まあ、それなら」
「では、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
そうしてこの部屋の電気は消えた。
そうしてもマリキータは寝付けなかった。
シンボリルドルフは、マリキータの才能を──具体的には、そのキレのある脚を──極めて高く評価している。そしてその眼は大抵正しい。
しかしそれが正しいのは、飽くまでも脚を見たときだけである。シンボリルドルフは強靭な精神力を持っている。現状を識って、いかなる苦境でも確実に最善手を選ぶ強さがある。
だがそれはシンボリルドルフにとって、物凄く当然のことだった。彼女に言わせれば、やらないよりやったほうがましになる、というだけなのだが、これができる者はそう居ない。自分に欠点があれば修正できる者は居る。しかし自分には何一つミスがないのに、ただ単に運が悪い故の失敗でも、揺らがない者は、それどころか不運にすらも現実的な改善策を講じれる者は殆ど居ない。
「運も実力のうち」と言う者は多い。しかし「不運も実力のうち」と言えるほど強いものは、殆ど居ない。
シンボリルドルフは言える側で、マリキータは言えない側だった。ただそれだけのことなのだが、この日マリキータの運命は決まったのだ。
翌日、朝日杯ジュニアステークス*5に挑むマリキータであったが、調子は芳しくなかった。スタート前から集中力を欠いていたマリキータは、スタート時に躓き、結果はハーディービジョンの6着。加えて足首の骨膜炎を発症し、長期療養が求められる……要するに、桜花賞への出走は絶望的と相成った。
ハーメルンの自動保存は偉大
一話に丁度いい文字数は……
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5000字未満
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5000〜1万字
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1万〜5万字
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5万字より多く
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どうでもいい