B小町が解散してから、4年の月日が流れた。
現在の苺プロにはアイドル部門は無く、ネットタレントのマネジメントに手を広げて細々と運営を行っている。アイという稼ぎ頭を失ってなお事務所が存続しているのは、後を引き継いだ人が優秀だったのだろう。
B小町の元メンバーは全員が芸能界から身を引いて他業種に転職していった。元々アイドルの定年退職は30歳と言われていて、卒業後も業界で生き残る人はごく僅か。引退したアイドルの末路としてはありふれた結末である。
生き残りをかけて、次々と新しい流行が生み出されては消えていき、そして忘れ去られていく。
世界は止まることを知らずに目まぐるしく変化を続けているが、僕は4年前から何も変わっていなかった。
相変わらずリョースケの名前を使ってホストを続けて、偽りの愛と引き換えに女性から金銭を受け取る毎日を送っている。昔と変わったことはと言えば、いつの間にか僕の年収が1000万円を越えていたことぐらいだろうか。25歳の若造が稼ぐ収入だと考えればかなりの高給取りと言えるだろう。
勿論、裏で泣いている女性も多い。
甘い
もっとも、そんなアコギなやり方にはリスクもある。
ホストクラブの客が店で作った
女性に執着される魅力が
「すぴゅぅ・・・ZzZz・・・・・・」
そして今、僕の隣で眠っている女性もそんな愚かな人間の一人だ。
彼女の名前は西野瞳。彼女は僕とは別のホストの
ホストクラブでは基本的に専属ホストの変更はない。女に振られるホストのプライドの問題もあるが、一番の理由は客の借金まで一緒についてくることだ。
現金払いで精算してくれる
わざわざ僕が借金持ちの客を引き受けた理由は、馬鹿みたいな理由だ。
「アイ・・・」
「んあ?呼んだ?」
瞳→EYE→アイ。
彼女は友人から「アイ」と呼ばれていて、本人もそのニックネームを好んで使っていた。
よりにもよって、彼女は僕の前で「アイ」を名乗った。だから彼女が僕に「推し変」したいと言ったとき、僕は彼女に
しかし事態は僕の想像していない方向に進んでいくことになる。
借金返済の手段として彼女を
女性が彼氏同伴でセクシー女優としてデビューするのは別に珍しい話ではない。女優のメンタルにも優しいし、視聴者ウケする過激なプレイ・・・有り体に言えば
僕もここまでやっておいて今更デジタルタトゥーが云々とか言うつもりもなかったので彼女と一緒に撮影現場に行ったのだが、そこでAV撮影当日に西野瞳が処女だったというとんでもない隠し玉が飛び出した。
撮影する側にとっては嬉しい誤算。想定外の事態は発生したものの撮影は無事終了し、
『この業界に処女を捧げたアイドル、西野アイ!』
そんなキャッチコピーと芸名で彼女を大々的に売り出した結果、西野
そういうところは、少しだけアイに似ているかもしれない。
もっとも彼女がアイに似ているところはその程度であり、星野アイのような人を惹きつけるような才能はない。カメラの前で裸になっても身じろぎ一つせずむしろ自信満々の様子で撮影されるぐらいしか能のない凡庸な女性だ。
西野瞳は、星野アイの代わりにはなれない。
しかしそれは、僕達にとって幸運だったのかもしれない。
もしも彼女が、星野アイに匹敵する才能を持ち得ていたならば。
――僕はきっと彼女のことを、殺してやりたいと思うほどに憎悪していただろう。
「んふふー、夢の中まで私のことを想ってくれているなんて嬉しいねー。このこの」
僕が今何を考えどんな気持ちを抱えているのかを全く理解していない西野瞳は、自分の都合のいい解釈をして僕にすり寄ってくる。
彼女はAV撮影で稼いだ金を惜しげもなく僕に貢ぐので、店に借金を作ってはまたAVに出演してツケを支払うという自堕落ともいえる生活を繰り返している。宵越しの金を持たない生活をしていれば来年以降の税金や社会保険料に泣く羽目になると思うのだが、彼女からむしり取っている僕が言っていい言葉ではない気がしたので黙っていた。
むしろ彼女はAV撮影を僕を抱く理由にしているフシすらあるので、金が足りなくなればまたカメラの前で僕を抱けばいいと軽く考えているのだろう。
なんだかんだ言って、僕達はこんな関係を1年近くも続けている。今となってはニノよりも一緒にいる時間が長いぐらいだ。
偽りの愛を囁いて、偽りの恋人を侍らせて。心は干上がっていくくせに金銭だけは腐るほどに貯まっていく。
愛梨さんと清十郎さん、そしてアイとリョースケを喪って早6年。何か空しく物足りない渇いた日常を過ごしている僕だったが、それでも生きていくことは出来ている。
生きること自体に、夢も愛も必要ない。それがこの世界の真理だ。
生きる目的すら見失ったまま惰性で女性を食い物にする仕事を続けていた僕だったが、そんな生活もすぐそばまで終わりが近づいていたのだった。