推しの子 カミキヒカル原作再現RTA   作:雑穀ライス

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裏 カミキヒカル19 『AV業界の一番星』

 

 

 B小町が解散してから、4年の月日が流れた。

 現在の苺プロにはアイドル部門は無く、ネットタレントのマネジメントに手を広げて細々と運営を行っている。アイという稼ぎ頭を失ってなお事務所が存続しているのは、後を引き継いだ人が優秀だったのだろう。

 B小町の元メンバーは全員が芸能界から身を引いて他業種に転職していった。元々アイドルの定年退職は30歳と言われていて、卒業後も業界で生き残る人はごく僅か。引退したアイドルの末路としてはありふれた結末である。

 

 生き残りをかけて、次々と新しい流行が生み出されては消えていき、そして忘れ去られていく。

 世界は止まることを知らずに目まぐるしく変化を続けているが、僕は4年前から何も変わっていなかった。

 相変わらずリョースケの名前を使ってホストを続けて、偽りの愛と引き換えに女性から金銭を受け取る毎日を送っている。昔と変わったことはと言えば、いつの間にか僕の年収が1000万円を越えていたことぐらいだろうか。25歳の若造が稼ぐ収入だと考えればかなりの高給取りと言えるだろう。

 

 勿論、裏で泣いている女性も多い。

 甘い(かお)で近づいて、嫉妬を煽って貢がせて、時には女性に借金を背負わせて搾り取る。それが僕達(ホスト)の仕事だ。ホストの客を借金返済のために風俗業で働かせるといった話は日常茶飯事だし、僕もそれに加担したことがある。欲望に負けて身を崩して出荷される家畜にいちいち同情しているようではホストなんて続けていられない。

 

 もっとも、そんなアコギなやり方にはリスクもある。

 ホストクラブの客が店で作った借金(ツケ)は、その客に付いている専属ホストが連帯保証人となる。借金が回収出来なければそのホストの給料から天引きだ。女性を風呂屋(ソープランド)に売り飛ばして終わり、という簡単なものではない。

 女性に執着される魅力が(ホスト)になければ、女に逃げられてそこで終わり。男にしろ女にしろ、愚か者が痛い目に遭うという話である。

 

「すぴゅぅ・・・ZzZz・・・・・・」

 そして今、僕の隣で眠っている女性もそんな愚かな人間の一人だ。

 

 彼女の名前は西野瞳。彼女は僕とは別のホストの客引き(キャッチセールス)でこの店に入って、途中から僕に「推し変」した女性だ。

 ホストクラブでは基本的に専属ホストの変更はない。女に振られるホストのプライドの問題もあるが、一番の理由は客の借金まで一緒についてくることだ。

 現金払いで精算してくれる優良顧客(金ヅル)を奪った場合は同僚から恨みを買うし、逆に別のホストに貢いだ借金を押し付けられるのは誰でも嫌がる。そんな理由で専属ホストは変更出来ないのが普通なのだが、僕の場合は借金持ちの客を同僚から引き受けたパターンだ。

 

 わざわざ僕が借金持ちの客を引き受けた理由は、馬鹿みたいな理由だ。

 知り合い(ニノとアイ)に名前が似ていた。本当に、ただそれだけの理由だった。

 

 

「アイ・・・」

「んあ?呼んだ?」

 

 瞳→EYE→アイ。

 

 彼女は友人から「アイ」と呼ばれていて、本人もそのニックネームを好んで使っていた。

 よりにもよって、彼女は僕の前で「アイ」を名乗った。だから彼女が僕に「推し変」したいと言ったとき、僕は彼女に()()()を刺してやるつもりで同僚から彼女のことを引き受けた。

 しかし事態は僕の想像していない方向に進んでいくことになる。

 

 借金返済の手段として彼女をAV(セクシー)女優として身売り(デビュー)させてやったのだが、この子は「リョースケくん(ぼく)が相手じゃないとヤダ」と言い張ったため僕まで巻き添えでAVデビューをする羽目になってしまった。

 女性が彼氏同伴でセクシー女優としてデビューするのは別に珍しい話ではない。女優のメンタルにも優しいし、視聴者ウケする過激なプレイ・・・有り体に言えば避妊(ゴム)無しプレイ等をOKしてくれる可能性も上がるので事務所としてもかなりの益を見込める。僕は絶対に御免なので、そういうのが撮りたいのなら女性の中に牛乳でも詰め込んで撮影して欲しい。

 僕もここまでやっておいて今更デジタルタトゥーが云々とか言うつもりもなかったので彼女と一緒に撮影現場に行ったのだが、そこでAV撮影当日に西野瞳が処女だったというとんでもない隠し玉が飛び出した。

 撮影する側にとっては嬉しい誤算。想定外の事態は発生したものの撮影は無事終了し、処女喪失(レアな)映像が撮れたと喜んだ撮影スタッフたちが気合を入れて彼女を売り出し始める流れとなった。

 

 

 『この業界に処女を捧げたアイドル、西野アイ!』

 

 

 そんなキャッチコピーと芸名で彼女を大々的に売り出した結果、西野(アイ)の映像は売れに売れていつの間にか彼女は人気のセクシー女優になってしまっていた。こんな業界で有名になってしまっても困るという女性も多いと思うが、彼女はそんなことは全く気にせずのほほんとしている。なんとも図太い性格だ。

 

 そういうところは、少しだけアイに似ているかもしれない。

 

 もっとも彼女がアイに似ているところはその程度であり、星野アイのような人を惹きつけるような才能はない。カメラの前で裸になっても身じろぎ一つせずむしろ自信満々の様子で撮影されるぐらいしか能のない凡庸な女性だ。

 

 西野瞳は、星野アイの代わりにはなれない。

 しかしそれは、僕達にとって幸運だったのかもしれない。

 

 もしも彼女が、星野アイに匹敵する才能を持ち得ていたならば。

 

 

 

――僕はきっと彼女のことを、殺してやりたいと思うほどに憎悪していただろう。

 

 

 

 

「んふふー、夢の中まで私のことを想ってくれているなんて嬉しいねー。このこの」

 

 僕が今何を考えどんな気持ちを抱えているのかを全く理解していない西野瞳は、自分の都合のいい解釈をして僕にすり寄ってくる。

 彼女はAV撮影で稼いだ金を惜しげもなく僕に貢ぐので、店に借金を作ってはまたAVに出演してツケを支払うという自堕落ともいえる生活を繰り返している。宵越しの金を持たない生活をしていれば来年以降の税金や社会保険料に泣く羽目になると思うのだが、彼女からむしり取っている僕が言っていい言葉ではない気がしたので黙っていた。

 むしろ彼女はAV撮影を僕を抱く理由にしているフシすらあるので、金が足りなくなればまたカメラの前で僕を抱けばいいと軽く考えているのだろう。

 

 なんだかんだ言って、僕達はこんな関係を1年近くも続けている。今となってはニノよりも一緒にいる時間が長いぐらいだ。

 偽りの愛を囁いて、偽りの恋人を侍らせて。心は干上がっていくくせに金銭だけは腐るほどに貯まっていく。

 

 愛梨さんと清十郎さん、そしてアイとリョースケを喪って早6年。何か空しく物足りない渇いた日常を過ごしている僕だったが、それでも生きていくことは出来ている。

 生きること自体に、夢も愛も必要ない。それがこの世界の真理だ。

 

 生きる目的すら見失ったまま惰性で女性を食い物にする仕事を続けていた僕だったが、そんな生活もすぐそばまで終わりが近づいていたのだった。

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