推しの子 カミキヒカル原作再現RTA   作:雑穀ライス

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執筆の参考になりそうな動画や競走馬転生モノの小説を探して読みまくっていたせいで大幅に遅刻しました。


裏 カミキヒカル22 『アイドルホース』

 

 事務所も無事に完成し、「株式会社メディアEYES」は経営を開始した。

 古巣の職場から待遇に不満を持っていたベテランをごっそり引き抜いてきた甲斐もあって、経営は順調。かつて僕達にパワハラを行ってきた元上司の怨嗟の声を無視してなかったことにすれば今のところ何も問題はなかった。やられたらやり返す、倍返しだ。

 

 …ただ1つ、問題があるとすれば。

 

「やあやあ、今日はちょっと私に付き合ってくれないかい?」

 フェレス(ああああ)が、何かと僕に付き纏ってくるということぐらいだろうか。

 

 

 

「…君は僕をどこに連れて行くつもりなんだい?」

 保護者同伴で僕の住むマンションに押しかけてきた銀髪の少女の言うままに僕は最寄りの駅まで移動する。一体この子はどうやって僕の住所を割り出したのか少し気になったが、それを聞いてもまともに答えてくれる気がしなかったので黙っていた。

 

「府中」

「府中?競馬でも見に行くのかい?」

「そうだよ。今日はジャパンカップが開催される日だからね」

 

 電車が到着したので、僕と少女と少女の保護者の女性の3人で電車に乗り込む。まさか僕の人生の中で見た目が3歳ぐらいの幼女に競馬場デートに誘われる日が来るとは思いもしなかったが、それ以上に推定年齢3歳の少女が競馬に興味を持つような状況が僕には想像がつかなかった。本当にこの子はどういう家庭環境で育ったのだろうか。

 母親というよりも従者のように少女の傍らに立つ女性を見なからそんな益体もないことをぼんやりと考えていると、電車が揺れてバランスを崩した隣の乗客から体当たりを食らった。会釈もせずに新聞を読み続ける相手を見て、この電車に乗っている人の大半がこんな人たちの同類かと思うとなんだかうんざりした気分になった。

 

「…今の時代ならインターネットで馬券を買ってレースはテレビ中継で見ればいいのに、どうしてわざわざこんなに多くの人が競馬場に集まるんだろうね」

「テレビで見るのと生で見るのとでは全くの別物さ。アイドルのライブと同じだよ」

「アイドルのライブ、ねぇ…」

 

 少女の言葉を聞いて周りを見回すが、乗客の中に僕と話が合いそうな感じの人はあまりいなかった。

 逆に言えば、ほんの少しぐらいならいる。その乗客が競馬場に行くとは限らないのだろうが、近くにいる人たちを見回すと性別も年齢層も(まば)らで髪の毛が白くなった老人から若い女性まで様々な人がひしめき合いながら電車に乗っていた。流石に僕の隣でニコニコしている幼女より若い子は見当たらなかったが、思っていたよりは老若男女問わず色んな人が競馬を見に来るんだなというのが僕の感想だった。

 匿名掲示板を覗いてみた印象だと金の恨みが渦巻くギャンブル関係の界隈の空気なんてだいたいどこも荒れ果てて殺気立っている雰囲気だったし、出来ることなら関わりになりたくないというのが僕の本音だった。まあ逆の立場なら「元ホストに金の恨みの話でドン引きされる筋合いはねぇよ!?」と言ってると思うが、そこはお互い様だということで勘弁して欲しい。

 

「特に今日のジャパンカップには競馬界の新しいスターが出走するからね。観客も気合も入るってものさ」

「新しいスター?」

「アーモンドアイ。2012年のジェンティルドンナ以来6年ぶり5頭目となる牝馬三冠を達成したアイドルホースだよ」

 

 

 …少女と競馬の話をしているうちに電車は駅に到着し、僕達は人混みに押し流されるように下車した。この駅で下車する人の目的地はほぼ全員が同じ場所なので、そのまま人の流れに任せて前を歩く人たちの後をついて行く。

 

「ほら、行くぞ『ああああ』。はぐれるなよ」

「『ああああ』って言うなって言っただろ!」

「うるさい。君の名前は『ああああ』で十分だ」

 

 ぷりぷりと怒りながら僕の尻をぺちぺち叩いてくるああああを適当にあしらいながら歩く。

 ふん、絶対に君のことをフェレス(アイ)となんて呼んでやるもんか。君にその名は相応しくない。

 

「いや、『ああああ』っていうからアホっぽく感じるだけでむしろ4Aと言えばニーアオートマタみたいでカッコいいかも・・・」

「むしろA5のほうがいいんじゃないかな。牛肉みたいで」

「私をどこに出荷するつもりなんだお前は。あとどさくさに紛れて『あ』を一つ増やすな」

 

 馬鹿なことを呟くあああああを揶揄いながら歩いているうちに僕達は東京競馬場に辿り着いた。

 馬が走り回る会場だけあって、流石に広い。確か東京ドーム100個分ぐらいの面積があったような気がする。それだけ敷地面積があっても収容しきれるか不安なぐらい人が集まっているのだが、今日はこの競馬場に何万人の人が集まるのだろうか。

 

「で、無事競馬場にたどり着いたわけだけど次はどこに行けばいいのかな?」

「パドックだね。そこでレースに出走する馬の様子が見れるよ」

 

 競馬に然したる興味もなかった僕は少女に言われるままにパドックの位置を確認した後、そこに向かって移動する。

 僕の隣を歩いている少女とその保護者の女性の姿を見て一瞬「まるで休日に家族サービスをしている親子のようだ」という考えが頭に過ぎったが、僕は首を振ってその考えを振り払った。流石にこんな変な意味で手のかかる子供が娘になったら僕の手に余る。勘弁してくれ。

 

「…うわ、思った以上に人が多いな」

 

 1着馬に3億円もの賞金が出るレースだけあって、まだ馬が登場する前だというのにパドックには大勢の人が集まっていた。少女は競馬のレースをアイドルのライブに例えていたが、確かにこの熱気はアイドルライブに通じるものがあると僕は思った。

 この少女の言うことに賛同するのは少し癪ではあるが、こういう雰囲気は僕は嫌いじゃない。

 

「ほらほら、早くアーモンドアイを見に行こう」

「そんなに凄いのかい?アーモンドアイっていう馬は」

「単勝のオッズが1.4倍だから、大雑把に計算するとだいたい観客の半分以上がアーモンドアイを応援している感じだね。馬もアイドルになれる時代なんだよ、今は」

「ふぅん。馬がアイドル、ねぇ…」

 

 少女と話をしながら時間を潰すこと10数分、ようやくパドックに競走馬が現れた。

 競走馬を見た瞬間、ざわついていた観客の声が急に静かになる。

 

「ここでは大きな音を出して馬を驚かすのは厳禁だから、喋るときは小さな声でね」

 少女がひそひそと僕に耳打ちしてくる。

 

「…しかし、これだと人が邪魔でアーモンドアイが見えないな」

 

 少女は最前列に集まって人垣を作っている観客の背中を見てため息をついた。僕の身長だと辛うじてパドックの様子は見えているが、身長が1mにも満たない彼女の身長ではパドックの中を周回している競走馬を見るのは難しいだろう。

 

「仕方ないな。ミッキー、ちょっと肩車して」

「…そのミッキーというのは、もしかして僕のことかな?」

「そうだけど?」

 

 「なんか変なこと言ったかな?」といった感じの表情で少女が返事をしてくる。まさか彼女のことを「ああああ」と呼んだことに対する仕返しのつもりなのだろうか?というかなんで君は僕に対して同級生のような態度で接してくるんだ少しは大人に対して敬意を持ってくれ調子が狂う。

 

「もし僕が肩車を断ったら?」

「この場で全力で泣き叫びながら駄々をこねて愚図る。大声禁止の場所だからさぞ白い目で見られるだろうね。君が」

「悪魔か、君は…」

 

 抵抗したらより状況が悪化しそうな感じだったので、僕はしぶしぶ少女を肩に乗せて人垣の後ろに並ぶ。肩車をしてから「子供が馬を見たがっているので通していただけませんか?」と周りの人にお願いしてみればよかったと後悔したが、こうなってしまえばもう後の祭りだ。

 

「ありがとー♪ぱぱー♪」

 心の中で頭を抱えている僕の頭上から少女が気持ちの悪い猫撫声を出してくる。やめろ僕は君のパパじゃない名誉棄損で訴えるぞ?

 

「お嬢ちゃんかわいいね。パパに連れてきてもらったの?お名前はいえるかな?」

「あたし星野ルビー!4ちゃい!!!」

 競馬場に親子連れの客がいるのを珍しがって横から話しかけてきたお爺さんに対して少女は即座に他人の名前を騙って返事をする。しかもよりによってアイの娘の名前を名乗るところが本当に悪質だ。ああ、もう滅茶苦茶だよ。

 

 …もしもアイと結ばれる未来があったとすれば、こんな風に僕は彼女の子供たちと戯れていたのだろうか。

 そんな馬鹿らしい考えが思い浮かんだが、ありえない妄想だと自嘲してその幻想から目を背けるようにパドックの馬に目を向ける。

 

 パドックに視線を向けると、ゼッケンに「アーモンドアイ」と書かれた馬が丁度僕の目の前を通り過ぎようとしていた。

 あれが噂のアーモンドアイか、とその姿に注目していると、

 

 

 

 アーモンドアイが僕の前でピタリと止まって、僕と視線を合わせてきた。

 

 

 

 その名に負けぬ、くりくりとしたつぶらな瞳でアーモンドアイは僕の顔をじっと見つめてくる。最初は肩車をしている子供に興味を惹かれたのかと思っていたが、彼女の視線は完全に僕に向けられていた。

 アーモンドアイは微動だにせず、まるで僕に何かを伝えたいかのように僕を見つめてくる。馬引きをしている厩務員らしき人が困惑していたが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに悪びれる様子もなく堂々とした態度を取っていた。

 

 

 

 

「…後ろが渋滞しているから、そろそろ行ったほうがいいんじゃないかな」

 

 

 

 そう僕が呟くと、アーモンドアイはまるで失敗を誤魔化すあざとい女の子のように少し首を傾げるようなポーズを取って、僕にウインクをしてからパドックの周回に戻った。

 

 その仕草は、もういなくなってしまった彼女にとてもよく似ていて。

 

 

 

 

 

――いつの間にか、僕の目から涙が零れ堕ちていた。

 

 

 

 

 

「アーモンドアイから個レスを貰うとは君も中々やるねぇ」

 先ほどのアーモンドアイとの小さな騒動(ハプニング)を見て満足したのか、少女は僕の上から降りて話しかけてきた。

 

「五月蠅い。そのせいでパドックの周回の邪魔をしていたみたいだしいい迷惑だったよ。…君のほうこそ、満足出来たのかい?」

「ああ、いいものが見れたよ」

 少女は満足そうな笑顔を浮かべながらそう言った。ああそうかい、僕は最悪の気分だよ。

 

「…君は、転生というものを信じるかい?」

 頬に流れ落ちた涙の跡をハンカチで拭っていると、少女が突然そんな話題を振ってくる。

 

「不幸な最期を遂げた人間の魂が異世界に転生したり、あるいは同じ世界の人間や別の動物に生まれ変わる。そんな夢物語が本当にあるとしたら、素敵だと思わないかい?」

「ただの妄想だよ、それは」

 

 少女の語った夢物語を、僕は妄想(フィクション)だと切り捨てる。

 

「現実は漫画じゃない。魂なんていうたった21グラムの物体に人間の記憶なんて書き込めるものか。身体と記憶が別人なら、それはもう完全に他人だよ」

「奇跡も魔法もあると信じたほうが、人にとって優しい世界だと思うんだけどね」

 

 そういって少女は笑う。

 いつもの飄々とした生き足掻く人間をあざ笑うような笑顔ではない。自分の言う言葉を信じていない人間が見せるような、自嘲の籠ったどこかシニカルな笑顔だった。

 きっとこの子は自分の言った言葉とは裏腹に「この世は奇跡や魔法という妄想に頼らないと生きていけないほど苦しい世界」だと思っているのだろう。その点に対しては僕も同意するが、人生経験もロクに重ねていない子供に言われるのは少々腹が立つ内容だ。

 

「…さて、アーモンドアイも見れたことだし移動するか。今から観客席に入っても満員だろうし、レースは中継で見よう」

 

 そう言って少女はパドックの観客席から移動する。

 移動し始めた少女の後ろをついて歩いていると、彼女は突然振り返って、

 

 

 

 

「君はあの馬に会って、君が愛したあの子のことを思い出せたかい?」

 

 

 

 

 そんなことを、僕に聞いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――僕は、アイと居る時だけ生きてる気がした。

 

 

 

 

 

 

 だけど、年を取るたびに。

 

 

 

 

 アイの記憶が。

 

 

 

 アイの存在が。

 

 

 

 

 どんどん希薄になっていく。

 

 

 

 

 まるで僕の(きおく)ごと、アイの命が消えていく気がして怖かった。

 

 

 

 感じていたかった。

 

 

 

 たとえそれが僕が背負った罪の重さだとしても。

 

 

 

 

彼女(アーモンドアイ)は君の味方だよ。君の思い出(きおく)を。君の(あい)を。

――彼女は、決して塗りつぶそうとなんてしないさ」

 

 僕の想いを知ってか知らずか、フェレス(アイ)は僕にそう語り掛けてくる。

 

「…余計なお世話だよ」

 僕は立ち止まったフェレスを追い抜いて、ずんずんと前を歩く。

 

 僕の(きおく)は僕のものだ。君にも、アーモンドアイにも頼るつもりは全くない。

 それでも、たとえ一瞬でも僕にアイを思い出させたあの馬(アーモンドアイ)から、僕は目を離せなくなってしまった。

 

 

「アーモンドアイ…競馬界のアイドルホース……」

 業界どころか種族も異なる相手にアイドルの片鱗を見せつけられた僕は、久しく忘れていた情熱を燃え上がらせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――アーモンドアイだぁ!!!アーモンドアイ交わした交わしたぁ交わしたぁ!!!そして2番手キセキ!勝った勝ったアーモンドアイ!!!!」

 

 

 そしてレースの結果は、皆の期待通りにアーモンドアイの勝利で終わった。

 レースの内容も凄まじいものだった。世界レコードを叩き出した2着のキセキをそれを上回る世界レコードで抜き去るというドラマチックな勝利であり、アーモンドアイを応援していた観客は大熱狂。世紀の瞬間に立ち会えたとみんな大喜びだった。

 

「どうだった?この熱狂、悪くないだろう?」

「そうだね。認めるのは悔しいけど、この情熱は本物だ」

 

 どこか勝ち誇るかように言ってくる少女の言葉を僕は素直に肯定した。

 手段は違えども、結果は同じだ。イベントに集まった観客が一丸となって情熱の炎に身を委ねる。その旗振り役が、アイドルか馬とジョッキーかの違いだけだ。

 それを僕が素直に認めたのは、それを成し遂げたのがアーモンドアイだったからだろう。

 

 やはりこの少女は悪魔だ。こんな奇跡のようなレースを目の前で実際に見せつけられてしまったのならば。

 

 

 

 

――転生というものを、信じたくなってしまうじゃないか。

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