推しの子 カミキヒカル原作再現RTA   作:雑穀ライス

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2025/10/9 アクアとルビーの母親バレイベントの発生を2022年(アイの死後14年後)にしないと映画のタイトルが「15年の嘘」にならないことに気づいたので急遽修正。
おかげでアーモンドアイの誕生日が史実より一年後ろにズレるという大事故に・・・


豆知識:
 東京ブレイドの上演期間は漫画版だと11月~12月中旬までだがアニメ版だと12月~1月中旬まで。漫画版はアイの命日(12月21日前後?)に合わせて墓参りイベントをするために上演期間を逆算して設定していますが、アニメ版は元ネタ(刀剣乱舞)の上演期間に合わせているっぽいです。
 あと漫画もアニメもアクアの部屋のカレンダーが2025年の日付になっていることは突っ込んではいけない。いいね?



裏 カミキヒカル24 『墓参り/墓暴き』

 

 2021年が終わりを迎え、年が明けて1月になった。

 12月から1月にかけて上演されていた「舞台版・東京ブレイド」は概ね好評で、目立った瑕疵もなく無事に千秋楽を迎えた。「舞台版・東京ブレイド」の成功は決して大輝くん一人の力だけではなく、他の若い役者の活躍も目を見張るものがあった。

 匁役の鴨志田朔夜、つるぎ役の有馬かな、鞘姫役の黒川あかね。

 

 …そして、刀鬼役の星野アクア。

 

 このような若い才能が開花して羽ばたいていくところを見ると、世代交代の波をひしひしと感じてどこか哀愁を感じてしまう。

 僕らの世代とは、すなわち星野アイの世代だ。

 アイが死んでから13年。干支が一回りして、彼女の存在がだんだんと世間の記憶から薄れていくことに僕はひどく空虚な気持ちを抱えていた。

 

 そして12月はアイの命日でもあった。僕は彼女を偲ぶため、アイの命日に彼女の墓参り――はせず、フェレス(ああああ)と一緒にアーモンドアイの引退式を見物していた。

 

 

「今日はアイの墓参りをする予定だったんだけどね」

「よく言うよ。12月はアイの墓参りを避けているくせに」

 

 僕の嫌味を名無しの少女はさらりと躱す。

 彼女の言う通り、僕はアイの子供たちと顔を合わせないようにお盆のシーズンと12月はアイの墓参りをすることを避けている。その甲斐あってか僕は今までアイの眠る墓地で彼女の子供たちと鉢合わせしたことはない。

 今頃アクア達はアイの墓前で手を合わせてたりするのだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、僕はアーモンドアイの騎手のスピーチを適当に聞き流していた。

 

「…思ったより退屈なセレモニーだね」

「競走馬の引退式なんて大体こんなものだよ。引退式で爆笑が起こるのはゴールドシップぐらいのものさ」

「…何をしたんだ、その馬は」

「引退式でゴールドシップが調教師を蹴りやすいポジションを探してうろうろ歩き回ったり、騎手がスピーチで『開幕1秒で合計120億円分の馬券を紙クズにしてごめんなさい』と謝ったりしてたよ」

「凄い馬だなぁ…って、なんだその顔は」

 

 隣の少女の顔を見ると、まるでレモンをリンゴだと思って丸かじりしたようななんとも形容しがたい複雑な表情をしていた。

 

「いや…ゴールドシップが出場するレースだけは1度も勝ったことがないんだ……」

「君がか?珍しい」

「ゴールドシップの馬券を買って負けたら『なんでゴールドシップなんか買ったんだよ…』って呆れられて、ゴールドシップの馬券を買わずに負けたら『なんでゴールドシップ買わないんだよ…』って煽られるのがアイツのレースだからな……」

 

 ゴールドシップという馬に翻弄された記憶を思い出した少女はいつも薄ら笑いを浮かべている表情を渋面に変え、更にその小さな身体に不釣り合いな慇懃な口調までも崩れ去ってなんだかぐにゃぐにゃな感じになっていた。なるほど、この子の「嘘」の仮面の裏側はこんな感じなのか。

 

「なんでループするたびアイツだけ着順が変わるんだよ…」

 少女は何かを呟いていたようだが、スピーチを終えたアーモンドアイの騎手への拍手にかき消されて彼女が何を言ったのかは聞こえなかった。

 

 

 その後は特にハプニングもなく、アーモンドアイの引退式は恙なく終了した。

 彼女の現役期間は2018年から2021年の3年間。2歳で競走馬としてデビューして5歳で引退している。

 …馬の5歳は人間の約28歳に相当すると聞いて、僕はまたアイドルとアーモンドアイの共通点を見つけてしまったような気分になった。

 

 

 そして話は戻って2022年の1月のこと。僕はアイの命日から一か月ずらして彼女の墓参りをした。

 愛梨さん達の墓前にも供えた真っ白な花束を準備し、念のためサングラスと帽子を被ってアイの遺骨が納められた墓地へと向かう。

 そして僕が墓地にたどり着くと、アイの墓前の前にはすでに先客がいた。

 

「…でね。今度宮崎にロケ行くんだよ。懐かしいよね。私達が生まれて以来ずっと東京だったし」

 

 墓前にしゃがみ込んで手を合わせている、アイによく似た美しい少女。

 間違いない。彼女はアイが産んだ子供、星野ルビーだ。

 …ああ、ついに出会ってしまったか。

 

「あとね、お兄ちゃん最近ちょっと明るくなったっていうか、憑き物が落ちたみたいな…やっと立ち直ってきたのかな?でもそれはママを忘れるって事じゃなくて、きっと……」

 

 ルビーは墓の下に眠るアイに近況報告をしているようだった。その様子を見た僕は一旦引き返し、彼女に僕の存在を気づかれないように少し離れたところに移動して彼女を観察する。

 そうやって遠くからしばらくルビーの様子を伺っていると、ルビーに注意を促すように木の上でカラスが一鳴きした。

 

「また来るね」

 カラスの鳴き声を聞いて集中が途切れたルビーは立ち上がり、帰り支度を始める。

 鼻歌を歌いながら帰ろうとするルビーとすれ違ったが、彼女は僕に一瞥もくれることなく立ち去っていった。

 

「星野ルビー。美人に育ったね」

 僕とルビーの間に、冷たい冬の風が吹き抜けていく。

 

「流石僕と君との子だ」

 僕はルビーの背中が見えなくなるまで離れたことを確認した後、アイの墓前に花束を捧げて先ほどまでルビーがやっていたように手を合わせた。

 

 

 …星野ルビーと遭遇しても、何も起こらなかった。

 当然だ。彼女にとって僕は親ではなく顔も見たこともない赤の他人。何かが起こると期待するほうが間違っている。

 ここで下手に正体を明かすよりも、このまま何も知らず交わらないまま人生を過ごすほうがお互いにとって幸せなのだろうと結論づけて僕は未練を捨て去り、このまま死ぬまで一人で生きていく決意をして墓地を後にした。

 

 

 

 

 そう思っていたのに。

 どこまでも性根が腐っているこの世界の神様は、僕達に平穏を与える気は一切なかったらしい。

 

 

 9か月後、「14年前に殺害されたB小町の『アイ』には当時3歳の双子がいて、その子供こそが星野アクアと星野ルビーである」という死者の名誉を穢しかねない特大のスキャンダルが報道されて世間を震撼させる事件が発生した。

 しかもその情報をリークをしたのはアイの子供である星野アクア自身であるというニュースを見て僕は更に混乱が深まってしまった。すでにSNSではこの件に対して炎上する気配が漂っている。

 

「アクア…なんでこんなことを……?」

 僕はこの状況を全く理解出来ていなかったが、何か不味い方向に転んでいることだけは感じ取っていた。

 

 僕が運命から必死に逃げようとしても、運命は僕を逃がしてくれない。

 賽は投げられた。

 もう、この流れを止めることは誰にも出来ない。

 

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