偽りの真竜のせいで人間たちに勘違いされている本物の真竜は誤解を解けない 作:アラパスタ(塩茹で風味)
恵みの体現にして災害の化身たる存在『竜』。
通常生物として存在する『
…それは人間達に対しても例外ではない。
その竜達を超える存在こそが真竜。
星の脈、『龍脈』から力を得る竜達の中でも特別な存在で、龍脈の力をそのまま振るえる事から
────というのが概ねの人間達の認識だと思う。
割と良い所までいってるのだが、まあ致命的に間違ってるところがある。
まずは人間達の中で私とバーブ・イ・リオン種が混同されている。
我らカディンギル種とは骨格から違うじゃないか。
寧ろバーブ・イ・リオン種は亜竜に多い骨格してるだろう。
先ずは骨格で判断して欲しいのだが、人間からすればどちらも凄いものといった認識が強過ぎて、分かり易い骨格の違いにも気が付けないのかも知れない。
川で言えば源流と、支流が合わさって出来た下流くらいには違うのだが、それを人間達は気にしないようだ。
まあ、私達も大したものじゃないし、何なら本来の竜の役割としては普通に劣等生だ。
竜とは本来、地にあっては地脈、海にあっては海脈、とどの詰まりは龍脈を自然に変換して放出する為に生まれた星造生命体であり、龍脈を純粋な龍脈として放出する事しか出来ないカディンギル原種たる私は、人間達のいう竜の中の竜というよりは、竜の落第生まである。
星の願いにより造られた事だけは確かだ。
…成功作ではなかっただけで。
対してバーブ・イ・リオンは龍脈の力を直接得る器官を持たない代わりに、竜を捕食する事で二次的に龍脈の力を得た爬虫類でしかない。
ただ、竜を倒す事が出来る程に純粋に強い生物であるというだけだ。
そう、恐ろしく強い生物であり、多くの竜を食べている内に龍脈を竜の捕食を介して得る事が出来るようになった。
我が父とも呼べる先達の同種を捕食したバーブ・イ・リオン目マアル・ドゥーク科の爬虫類は、捕食により得た龍脈寄生器官により、龍脈そのものでもある真竜や星から龍脈を与えられる竜にこそなれなかったが、星に寄生して龍脈を無理矢理奪う能力を得た。
挙げ句、爬虫類故に子孫繁栄には事欠かない。
この辺りに問題がある。
人間から見れば、自分達に被害を生む竜達を打ち倒して、在るだけで新たな竜の発生や成長を阻害するという、分かり易い守護者となる。
実際は星に寄生する事で、本来星自身の生命運営に廻される力を
そもそも、マアル・ドゥークと古代に集団性知的生命体のプロトタイプとして生まれた存在達が名付けた理由に気が付けないのも愚かだ。
マアル(偽装・寄生・増殖からなる悪意の
何ならマアル・ドゥークは地裂の奥底にいる事が多いのだが、それも人間達には関係ないようだ。
そもそもバーブ・イ・リオンが生物のバグの様なもので、マアル・ドゥークはそのバグの中の完成系なので、星のプログラムやバグを理解出来ぬ哺乳類程度には、難しい事を求め過ぎているのかも知れない。
竜に生殖能力さえあれば、マアル・ドゥークなど恐るるに足らずと安直に考える訳にもいかない。
星の一部でもある竜が発生し過ぎると、星の持つ龍脈の総和は変わらない以上、星の大元を廻すリソースが減少する。
沢山噴火を起こしました。沢山台風を起こしました。その結果は星の体力がボロボロですなんて、本当に笑えない話だろう。
人間だって病気の際に己の体温の二倍の熱を発生させてまで、病原菌を駆除したりはしないだろう。逆に体温の発生を停止させてまで
そんな事をすれば身体はボロボロになる。
本業を疎かにしてまで行う副業などあり得ない。
そういった理由で、ある程度の自由意志を持つ竜に対して、生殖能力まで持たせたりはしなかった。
私は生まれの関係で、星の考えは概ね理解している。
少なくとも私の中ではその認識だ。
私は、弱り切った竜の上に舞い降りる。
私にやや似た骨格と、
私の翼が分解されて彼女に降り注ぐ関係上、応急処置が終わった直後には、翼に幾つかの孔が空いてしまったが、それは仕方が無い。
「…セクハラ」
救命の為の応急処置をしただけなのに、セクハラと訴えられるとは全くもって解せない。
そもそもはと言えば、子孫を遺す
基本的には何をやってもオスが不憫だったりするからな。
消滅どころか存在の虜囚となるピンチを救っておいて、
まあ今に始まった事でもないから、それはどうでも良い。
私と彼女の前には、
それだけで、私の次の行動が決まるには十分過ぎる。
其処に一切の憐憫はなく、此処に一切の躊躇はない。
────
さあ、お前達の好きな龍脈の奔流だ。
ただ、その量と速度が桁違いなだけの。
マアル・ドュークはその性質上、今はとうに寿命が来ているだろう初代を除いて、普通の生物なら持ち得る龍脈の過剰流入に対する安全装置がない。
死んだり、死にかけて弱り切った結果、流れの停滞した竜内の龍脈や、地脈に定着して寄生する際に流れを抑える処理をした場合なら兎も角、そういったフィルターなしでの龍脈に耐えられる作りになっていない。
仮にそうなっていたら、竜以外の生物が龍脈の力を扱える事があり得ない。
それに、フィルターを準備出来ない場合、属性に変換されていない龍脈を受けられる生物なんて、
だからマアル・ドゥーク────ただただ無様に、
「いつか、いつか驕り高ぶった天の時代に終演を…」
幸いにして私には異種たるバーブ・イ・リオンの鳴き声の意味は分からないが、どうせ爬虫類の事だから大した意味がある訳でもないだろう。
私は
ただ、それだけで良い。
「一応御礼は言いますわ。王様」
サクヤの態度からして、王様というのは皮肉でしかないのだが、それでも身内からの褒め言葉は、特に綺麗なメスからの褒め言葉は悪いものではない。
「もっと褒めてくれても一向に構わないが? んん? 寧ろこれまで褒めてくれた事が無かった分、全力で褒めて欲しいんだけど? ん? どうかな? 是非聞きたいねえ」
「…そういうところね。…………セクハラは追及しないであげるから、それも含めてこれでこの話は終わり」
えっ、本気?
幾ら吹雪を起こす事も地震を起こす事も出来ない落ち零れだからって、酷くないか?
……。
…………。
……………………仕方無いか。
そもそも
我々竜にとっては、引き起こす現象こそが本質であり、その生命や意志などはオマケの様なものだからだ。
だからこそ、生命を助けた程度で恩着せがましくなるのは間違っていた。
せめて竜巻や雷の一つや二つ起こせれば、こんな扱い受けなかったのだろう。
その代わり、竜の再生なんてのは出来なかったが、そんな事よりも星に与えられた役割を持つ事が一番大切なのだから、
「この後どうする?」
「そうね、一度気が済むまで
そうか。
なら、今回のこの辺りの生き物は取り敢えずリセットだ。
サクヤ一体だけでは、星規模の大量絶滅は無理めだろうし、問題にはなりそうもない。
第十八大陸地表の生命がクリアになって、それと陸地が増える程度にしかならない。
それもまた星の理だ。
竜が為す事は星の意志であり、星が為す手段が竜なのだから。
サクヤに尻尾で叩かれるのも悪くはないが、流石にそれを口に出すのがいわゆるセクハラなのは分かっている。
だからこそ、私は新たな龍脈として星に潜り、その場を逃れる事にした。
セクハラは駄目、ゼッタイ。
✒✒✒✒第八史時代初期の書『新古史伝集・ソーリャ・カンティゲーダ著』から第二章乃一より、真竜と降焰竜.二
これは昔々の物語。
第四史時代の物語。
マグマキアート大陸にそれはそれは栄えた文明があった。
現在二十五ある大陸があるが、当時はマグマキアートを含めて十八か十九しか大陸が無かったとされている。
当時、マグマキアート大陸は今の三分の一の大きさしか無かったが、降焰竜プラマプルヴィアが引き起こした噴火により大陸が拡大された。
偶々火山活動が休止した途中で文明が発達して、火山活動の再開と共に滅びたという説もあるが、当時洞窟に逃げて生き延びたアツイゲラウェイ王族という旧王朝の遺した伝承により、プラマプルヴィアの所業と確定した。
余りにも身勝手な竜の振る舞いにより、一度この地に在った高度な人の営みは封じられた。
ただ、何の救いも無かった訳では無い。
人を護る為に神が創った真竜が降焰竜を追い詰めた。
多くの人々の生命がそこで救われる────ハズだった。
降焰竜は真竜に一度負けたが、不意を突いて真竜を打ち倒した。
そしてそのまま真竜を封印した降焰竜は、只々この地を灼き尽くした。
真竜は神の命に従い、人に仇なす竜を打ち倒す正義の竜だが、正義故に卑怯な不意討ちには弱かった。
だが、封印が解けたならば、今度こそ真竜は降焰竜に容赦をしないであろう。
そして正義は為されるのだ。
ソーリャ・カンティゲーダ
第八史 四五五〜五一三頃
第八史を代表する大賢者であり、現代にも続く古史だけを唯一の学部とする名門カンティゲーダ大学の名前の由来になった人物。
子孫に初代学長であるンナアホナ・カンティゲーダや、真打元祖本家神聖教の十代目教主トンチーカ・カンティゲーダ、同じく十一代目教主マジムノー・カンティゲーダがいる。